第80話 おやつ大作戦! リリアの部屋は大さわぎ
第80話 おやつ大作戦! リリアの部屋は大さわぎ
◆◆◆朝から元気いっぱい!
翌朝。
王宮の朝は、いつもどおり穏やかだった。
……リリアの部屋を除いては。
「おやちゅぅ! おやちゅ、たべりゅぅ!」
ベッドの上で、2歳になったリリアが元気いっぱいに両手を上げていた。
その周りには、ポポ、ピピ、リュリュ、ノクスが集まっている。
ポポは胸を張った。
「ポポにおまかせなのだ! 今日はリリちゃんのために、おいしいおやつを用意するのだ!」
「ポポ、どこから持ってくるの?」
ピピが首をかしげる。
「それは……これから考えるのだ!」
「まだ考えてなかったのぉ!?」
ピピが大きな声を出した。
リュリュは、二匹のやり取りが面白いのか、きゅるきゅると鳴いている。
「きゅるるっ!」
「りゅりゅも、おやちゅ、たべりゅ?」
リリアが尋ねると、リュリュは元気よくうなずくように頭を動かした。
「きゅるっ!」
「わぁい! いっちょに、たべよぉ!」
リリアはリュリュを抱きしめた。
その横で、ノクスは尻尾をゆらりと揺らしていた。
「……朝から騒がしいやつらだな」
「のくしゅも、おやちゅ、いるぅ?」
「べ、別にいらない!」
ノクスはそっぽを向いた。
しかし、そのお腹から――。
きゅるるる。
小さな音が聞こえた。
「……」
「……」
ポポとピピがノクスを見つめた。
リリアも、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「のくしゅ、おなか、ないたぁ!」
「お腹は鳴いていない! これは、その……朝の挨拶だ!」
「おなかの、ごあいしゃちゅ?」
リリアは不思議そうに首をかしげた。
ポポは大きくうなずいた。
「そうなのだ! お腹もおやつを食べたいと挨拶しているのだ!」
「ポポ! 変なこと教えないの!」
ピピの声が部屋に響いた。
リリアは、きゃっきゃっと笑った。
「おやちゅ! おやちゅぅ!」
こうして、リリアの部屋で、おやつ大作戦が始まった。
こっそり作戦のはずが……
ポポは部屋の扉を見つめた。
「よし! おやつを手に入れるため、作戦を立てるのだ!」
「作戦って、どうするの?」
ピピが尋ねる。
「まずは、誰かにおやつを持ってきてもらうのだ!」
「それ、普通にお願いすればいいんじゃない?」
「むむっ……!」
ポポは腕を組んだ。
「では、普通にお願いする作戦なのだ!」
「最初からそうすればよかったのにぃ!」
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「リリア王女、朝食のあとにおやつをお持ちしますね」
侍女の声だった。
リリアはすぐに返事をした。
「はぁい! おやちゅ、まってりゅぅ!」
侍女が部屋を出ていくと、ポポは満足そうにうなずいた。
「作戦成功なのだ!」
「ポポ、何もしてないよぉ!」
ピピが呆れる。
だが、ポポは気にしなかった。
「では、おやつが来るまで、みんなで遊ぶのだ!」
「あしょぶぅ!」
リリアは両手を上げた。
リュリュはベッドの上をころころと転がり、ピピはリリアの隣でぴょんぴょん跳ねた。
ノクスは窓辺に座り、みんなを見守っていた。
……そのつもりだった。
ところが、リュリュが勢いよく転がってきて、ノクスの尻尾にぽふんとぶつかった。
「むっ! こら、リュリュ!」
「きゅるるっ!」
リュリュは楽しそうに鳴いた。
「のくしゅ、あしょぼぉ!」
リリアがノクスの前足をつかむ。
「ぼ、僕は遊ばないぞ!」
そう言いながらも、ノクスはリリアの手を振りほどかなかった。
ピピがにっこり笑う。
「ノクスも、もう仲間だもんねぇ!」
「そ、そういう意味ではない!」
「じゃあ、どういう意味なのだ?」
ポポが尋ねた。
「……うるさい!」
ノクスの尻尾が、ぱたぱたと動いた。
その様子を見て、リリアは大喜びだった。
「みんな、なかよちぃ!」
そして、ベッドの上で両手を広げた。
「ぎゅーっ!」
ポポ、ピピ、リュリュが一斉にリリアに集まった。
ノクスも巻き込まれ、四匹とリリアがひと塊になってしまった。
「むぎゅっ……! お、おもいぞ!」
「えへへぇ!」
リリアは笑い声を上げた。
その瞬間、リュリュの体から虹色の光が、ほんの少しだけこぼれた。
光は誰にも気づかれないほど小さく、部屋の隅へと流れていく。
そして、窓の外へ抜けようとしたところで、ふわりと消えた。
リュリュは一瞬だけ窓の方を見た。
ノクスも、その動きに気づいたようだった。
二匹は目を合わせた。
けれど、リリアが二匹を抱きしめて笑っているのを見て、すぐにいつもの様子に戻った。
今はまだ、楽しい朝の時間。
二匹の本当の力を、人間たちに知られるわけにはいかないのだから。
◆◆◆おやつが来た!
しばらくすると、扉の向こうから足音が聞こえてきた。
「リリア王女、おやつをお持ちしましたよ」
侍女がトレイを持って入ってきた。
そこには、小さな焼き菓子と切り分けられた果物が並んでいた。
「おやちゅぅぅぅ!」
リリアは目を輝かせ、両手をぱたぱたさせた。
「まあまあ、そんなに喜んでくださるなんて」
侍女は微笑みながら、テーブルにトレイを置いた。
そのとき、リュリュがリリアの腕の中で、ぴくりと動いた。
「きゅるっ!」
「りゅりゅも、たべたいのぉ?」
リリアが尋ねる。
もちろん、侍女にはリュリュの鳴き声が普通の小さな竜の鳴き声にしか聞こえない。
「まあ、可愛らしいぬいぐるみですね。リリア王女のお気に入りですか?」
「うん! りゅりゅ、だいしゅき!」
リリアはリュリュをぎゅっと抱きしめた。
侍女はノクスにも目を向けた。
「こちらの黒猫も、新しいお友達でしょうか?」
「のくしゅ、ねこしゃん!」
リリアが答えると、ノクスはすぐに猫らしく丸くなった。
「ふふっ。お友達が増えてよかったですね」
侍女は何も疑わず、リリアのそばにおやつを並べた。
そして、食べ終わったら呼ぶように伝え、部屋を出ていった。
扉が閉まった瞬間――。
「おやつなのだぁぁぁ!」
ポポが勢いよく立ち上がった。
「ポポ、待ってぇ! これはリリちゃんのおやつだよ!」
「むむっ! ポポは味見をするだけなのだ!」
「味見が全部になっちゃうでしょ!」
ピピが慌ててポポを止める。
リリアは焼き菓子を一つ手に取り、にこにこと笑った。
「みんなで、はんぶんこぉ!」
その一言に、ポポの目がきらりと輝いた。
「リリちゃん……! なんて優しいのだ!」
「えへへぇ!」
リリアは焼き菓子を小さく分けてもらい、みんなと一緒におやつの時間を楽しんだ。
リュリュは果物を食べるたびに、嬉しそうに尻尾を振った。
ノクスも最初は遠慮していたが、リリアが小さな果物を差し出すと、そっと口にした。
「おいち?」
「……まあ、悪くはない」
「おいちいってことなのだ!」
ポポがすかさず言った。
「だから、うるさいぞ!」
ノクスの声に、リリアはまた笑った。
◆◆◆四匹の秘密のお仕事
おやつを食べ終えるころには、リリアはすっかりご機嫌になっていた。
「おいちかったぁ! もっかい!」
「リリちゃん、もうおしまいだよぉ」
ピピが優しく言う。
「えぇぇ……」
リリアは頬をふくらませた。
「またあとで食べようね」
ピピが頭をなでると、リリアはしぶしぶうなずいた。
「……はぁい」
その様子を見ていたリュリュが、リリアの膝から降りた。
小さな竜は、部屋の隅まで歩いていくと、床に前足をちょんと置いた。
ほんの一瞬、虹色の光が床を走った。
けれど、リリアはおもちゃを探していて気づかない。
ポポとピピも、リリアの相手をするのに夢中だった。
ただ一匹、ノクスだけは、その光を見逃さなかった。
「……リュリュ、始めるのか」
リュリュは小さく鳴いた。
「きゅるっ」
ノクスは静かにうなずき、部屋の反対側へ移動した。
そして、影の中に前足を置く。
黒い光が、床の隅から壁の端へと、音もなく広がっていった。
二匹が行っていたのは、リリアの部屋を守るための準備だった。
リュリュの力が、部屋の周囲にある空間を整える。
ノクスの力が、その内側に入り込もうとする魔法を打ち消すための守りを作る。
それは、外から見ても分からないほど自然なものだった。
リリアがいつもどおり遊び、眠り、笑って過ごせるように。
そして、危険が近づいても、すぐに対応できるように。
二匹は神々から託された役目を、静かに果たしていた。
「りゅりゅー! のくしゅー! なにちてるのぉ?」
リリアが振り返る。
リュリュはすぐに駆け寄り、リリアの足元にちょこんと座った。
「きゅるるっ!」
ノクスも、何事もなかったように窓辺へ戻った。
「……何もしていない」
「ほんとぉ?」
リリアは二匹を交互に見つめた。
そして、にっこり笑った。
「じゃあ、いっちょにあしょぼぉ!」
「きゅるっ!」
「……仕方ないな」
二匹はリリアのそばへ戻った。
◆◆◆天界からの見守り
そのころ、天界では――。
ゼノたちが水晶の鏡を囲み、リリアの様子を見守っていた。
水晶には、おやつを頬張るリリアと、周りで騒ぐポポ、ピピの姿が映っている。
「ふむ。リュリュとノクスは、さっそく守りの準備を始めたようじゃな」
ゼノが満足そうにうなずいた。
アテナは、二匹の力が部屋の周囲に広がる様子を確認していた。
「ええ。あの二匹なら、リリアの力を隠しながら守ることもできるはずよ」
「だが、油断は禁物だ」
オルフェが静かに告げた。
「黒幕は、まだ何も諦めていない。いつ、どのような方法で動き出すか分からぬ」
フィオナは、水晶に映るリリアの笑顔を見つめた。
「だからこそ、今はこの子に、普通の子どもらしい時間を過ごしてほしいわ」
水晶の中では、リリアがポポの頭に小さな布をかぶせていた。
「ぽぽ、ぼうち!」
「おおっ! ポポは王様なのだ!」
「じゃあ、ピピはおひめしゃま!」
「わぁい! ピピ、おひめさま〜!」
リュリュも楽しそうに跳ね、ノクスは呆れながらも、みんなのそばに座っていた。
ゼノは思わず笑った。
「……あの調子なら、しばらくは大丈夫そうじゃな」
「ゼノ様、それはどうかしら」
アテナが苦笑する。
「リリアが大人しくしている時間なんて、ほとんどないでしょう?」
「むむっ……それもそうじゃな!」
神々の間に笑い声が広がった。
そのころ、リリアはポポの頭にかぶせた布を取ると、ノクスにも差し出していた。
「のくしゅも、ぼうちぃ!」
「いらない!」
「えぇぇ!」
「……いや、その、猫に帽子は必要ないだろう」
「ねこしゃん、ぼうち、かわいいよぉ?」
リリアが首をかしげる。
ノクスはしばらく黙っていたが、やがて小さくため息をついた。
「……一度だけだぞ」
「やったぁ!」
リリアはノクスの頭に布をちょこんとかぶせた。
ポポとピピが大笑いし、リュリュもきゅるきゅると鳴いた。
ノクスは恥ずかしそうに顔をそむけたが、布をすぐには取らなかった。
こうして、リリアの部屋には今日も笑い声が響いていた。
けれど、その部屋の周囲には、誰にも見えない守りが整えられていた。
リリアはまだ知らない。
自分が笑って遊んでいる間にも、仲間たちが大切な役目を果たしていることを。
そして、平和な日々の向こう側で、再び何かが動き始めようとしていることを――。




