第8話 湖畔で水遊び!? リリア姫、びしょぬれ大作戦!
第8話 湖畔で水遊び!? リリア姫、びしょぬれ大作戦!
###きらきら湖畔で水遊び!
別荘に滞在して数日目。
朝の湖は、太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
湖畔には色とりどりの花が咲き、木々の間を爽やかな風が吹き抜けていく。
そんな美しい景色の中、リリアはエレナに抱っこされながら、湖の浅瀬を眺めていた。
「ちゃぷちゃぷ!」
小さな手をぱたぱたさせるリリア。
「まあ、リリア。お水で遊びたいの?」
エレナが優しく尋ねた。
「あー! ちゃぷちゃぷぅ!」
リリアは両足をばたばたさせる。
その様子を見たアレクが、楽しそうに笑った。
「よし。それなら、安全な浅瀬で少し遊ぼう。ただし、護衛たちの目が届くところだけだぞ」
「あなた、リリアはまだ小さいのですから、気をつけてくださいね」
「もちろんだ」
ミレがリリア用の小さな水着と、つばの広い帽子を用意した。
着替えを済ませたリリアは、湖畔に敷かれた柔らかな敷物の上に座らせてもらう。
目の前には、足首ほどの深さに整えられた安全な水遊び場。
リリアは水面にそっと手を伸ばした。
ちゃぷっ。
「……!」
もう一度。
ちゃぷちゃぷっ!
「きゃあっ!」
水が小さく跳ねた。
リリアは目を輝かせ、両手で水面を叩いた。
ぱしゃんっ!
「ちゃぷちゃぷ! たのちぃ!」
エレナもアレクも、思わず笑顔になる。
「こんなに喜ぶなんてね」
「元気なのはいいことだ」
そのとき、リリアの背後から、丸い影がそろそろと近づいてきた。
ポポである。
「ふふふ……水遊びなら、ポポも得意なのだ!」
「ポポ、あなた泳げるの?」
ピピが疑わしそうに尋ねる。
「もちろん! ポポにおまかせなのだ!」
ポポは胸を張り、勢いよく水面へ飛び込んだ。
ぽちゃんっ!
「……ぷはっ!」
丸い体が水に浮かんだと思った次の瞬間。
ぽよんっ!
ポポは水面で弾み、浅瀬の端へころころ転がっていった。
「ポポーーー!?」
ピピが叫ぶ。
「な、なんなのだ!? 水がポポを押し返したのだ!」
「ただ転がっただけでしょ!」
リリアは二匹を見て、きゃっきゃっと笑った。
「ぽぽ、ぽよんぽよん!」
「リリアまで笑うのだ!?」
ポポはしょんぼりした。
しかし、リリアの笑顔を見た途端、すぐに胸を張り直す。
「よし! もう一度なのだ!」
「やめておきなさい!」
ピピが止めるより早く、ポポは水面に向かって跳び込んだ。
ぱしゃーーーんっ!
今度は、盛大な水しぶきが上がった。
その水しぶきは、ちょうど近くにいたミレの顔に直撃した。
「…………」
ミレは、びしょぬれになった前髪をそっと押さえた。
ポポは固まった。
ピピも固まった。
リリアは――。
「きゃははははっ!」
大爆笑だった。
「ポポ! あとでお説教ですよ!」
「ポポは悪くないのだーーーっ!」
湖畔に、にぎやかな声が響き渡った。
## リリア姫のいたずら大作戦!
水遊びにすっかり夢中になったリリア。
小さな手で水をすくい、ちゃぷちゃぷと遊んでいる。
すると、リリアの目に、敷物のそばに置かれたミレの帽子が映った。
(……あれぇ?)
リリアは帽子をじっと見つめる。
(ぽぽ、ぴぴ、みじゅ、いっぱい!)
リリアの小さな頭に、いたずらの名案が浮かんだ。
こっそり指を動かす。
ぽわんっ。
水面から小さな水の玉が、ふわふわと浮かび上がった。
一つ、二つ、三つ。
水の玉は空中に並び、太陽の光を受けて、まるで小さなガラス玉のように輝いた。
「おおっ! リリア、魔法を使ったのか?」
アレクが驚いた声を上げる。
エレナも目を丸くした。
「まあ、きれい……!」
リリアは得意げに笑った。
「あー!」
そして――。
ぽんっ!
水の玉が、ミレの帽子の上に落ちた。
ぽちゃん!
ぽちゃん!
ぽちゃん!
「……あら?」
ミレが帽子を手に取ると、帽子の中には水がたっぷり。
「リリア様……?」
リリアは、にっこり。
「あー!」
「まさか……リリア様のいたずらですか?」
「うー!」
リリアは首をかしげ、何も知らない赤ちゃんの顔をする。
その後ろでは、ポポとピピが肩を震わせていた。
「リリアちゃん、やるね……!」
「さすがなのだ……!」
しかし、リリアのいたずらは、まだ終わらなかった。
今度はアレクの靴のそばに、小さな水の玉を浮かべる。
ぽんっ!
靴の中に水が落ちた。
「……ん?」
アレクが片足を入れた瞬間。
「つ、冷たいっ!?」
アレクは思わず足を上げた。
エレナが目を丸くし、それから口元を押さえて笑い出す。
「あなた、靴の中にお水が……!」
「いったい誰が……?」
アレクは周囲を見回した。
リリアは両手をぱたぱたさせている。
「きゃっきゃっ!」
「……リリアか?」
アレクが尋ねると、リリアは満面の笑みで手を伸ばした。
「ぱぱぁ!」
「むむ……その笑顔には弱いな」
アレクはリリアを抱き上げ、頬に優しく口づけた。
「今回は許してやろう。ただし、次はほどほどにな」
「うー!」
返事だけは、とても元気だった。
ポポが小声でピピにささやく。
「リリアは反省しているのだろうか?」
「たぶん、してないね」
二匹の予想は、見事に当たっていた。
(もっと、ちゃぷちゃぷちゅるの!)
リリアは、心の中で次のいたずらを考えていたのだった。
## 3.おいしい離乳食と、たっぷりミルク!
たくさん遊んだあとは、お昼ごはんの時間。
リリアはミレに体を拭いてもらい、柔らかな服に着替えた。
食卓には、すりつぶした桃とリンゴ、洋梨を混ぜた離乳食が並んでいる。
柔らかく煮た野菜も添えられ、温かなミルクも用意されていた。
「リリア、お腹がすいたでしょう?」
エレナがスプーンを差し出す。
「あーん!」
ぱくっ。
「おいち!」
リリアは満足そうに笑い、次の一口を待つ。
ぱくぱく、もぐもぐ。
果物のペーストを食べ終えると、今度はミルクをごくごくと飲み始めた。
「今日もよく飲むなあ」
アレクが感心する。
「本当に。生まれたときから、ミルクを飲む量には驚かされてばかりです」
エレナも微笑んだ。
リリアは哺乳瓶を両手で抱え、夢中になって飲んでいる。
その足元では、ポポがこっそりお皿をのぞき込んでいた。
「桃のペースト……おいしそうなのだ」
「だめよ。リリアちゃんのごはん!」
「ちょっとだけなのだ!」
「さっきもそう言ったでしょ!」
二匹が言い合っていると、リリアは哺乳瓶をくわえたまま、ポポをちらりと見た。
(ぽぽ、またおなか、ぺこぺこ?)
リリアは小さな指を動かした。
ぽんっ!
ポポの頭に、桃の形をした小さな飾りが現れた。
「……ん?」
ポポが頭に手をやる。
「こ、これは……桃なのだ!?」
「リリアちゃん!」
ピピが笑いをこらえる。
リリアは、きゃっきゃっと笑った。
「えへへっ!」
別荘の昼下がりは、今日も平和でにぎやかだった。
――そのころ、王宮では。
リリアたちが知らないところで、新たな陰謀が動き始めていた。
## 王宮に残された第二夫人
皇帝一家が別荘で休暇を過ごしているころ、王宮では第二夫人ヴィクトリアが自室で静かに紅茶を飲んでいた。
侍女が一礼する。
「第二夫人様。皇帝陛下と第一夫人様は、まだ別荘に滞在されるご予定です」
「そう……」
ヴィクトリアはカップを置き、窓の外を見つめた。
「馬車の襲撃は失敗。盗賊たちも、いまだに何も話していない……」
彼女は扇を手に取り、ゆっくりと開いた。
「まったく、面倒なことになったわね」
表向きは、優しく穏やかな第二夫人。
しかし、その瞳の奥には冷たい光が宿っていた。
第一夫人エレナと、その娘リリア。
あの二人がいる限り、ヴィクトリアが望む立場は手に入らない。
「エレナは、陛下から信頼されている。リリアも、あの方にとって大切な娘……」
ヴィクトリアは唇をかみしめた。
「ならば、今度はエレナ自身の失敗に見せかければいい」
彼女は侍女を下がらせると、部屋の奥にある小さな扉を開いた。
そこには、信用できる使用人が一人、待っていた。
「お呼びでしょうか」
「ええ。新しい計画を進めます」
ヴィクトリアは机の引き出しから、上質なミルクの瓶を取り出した。
高級な乳牛から採れた、王族にもふさわしい特別なミルク。
見た目も香りも、普段のものと変わらない。
だが、その瓶のそばには、別の小瓶が置かれていた。
ヴィクトリアは、それを見つめながら声を落とした。
「これを、リリアのための特別なミルクとして用意するのです」
使用人の顔色が変わった。
「……本当によろしいのですか?」
「余計な質問はしないこと」
ヴィクトリアの声は静かだった。
「第一夫人に、私からの贈り物だと伝えなさい。リリアの健康を気遣って、特別に取り寄せた高級なミルクだと」
「かしこまりました」
「そして、渡す前に……」
ヴィクトリアは、机の上の小瓶へ視線を向けた。
「私の指示どおりに準備するのです」
使用人は緊張した面持ちで頭を下げた。
ヴィクトリアは、にこやかな表情を作った。
「エレナは人を疑うことを知らない。親切な贈り物だと言えば、きっと受け取るでしょう」
彼女は窓の外へ目を向けた。
「リリアが戻ってきたら、すべてを始めるわ」
その声には、優しさの欠片もなかった。
## 高級ミルクという贈り物
翌日。
ヴィクトリアは、信頼している使用人を呼び、改めて指示を出した。
「ミルクの瓶は、きれいな箱に入れておきなさい。上質な布で包み、贈り物らしく見せるのです」
「はい、第二夫人様」
「第一夫人には、こう伝えるのよ。『リリア様の健やかな成長を願い、特別なミルクをご用意しました』と」
「承知いたしました」
ヴィクトリアは微笑んだ。
「私は、ただリリアのことを気遣っているだけ。そう見えるようにするのです」
使用人が部屋を出ていくと、ヴィクトリアは一人、静かに椅子へ腰を下ろした。
「これで、エレナがどうするか……見せてもらいましょう」
彼女はカップを持ち上げ、紅茶を一口飲んだ。
表情には、いつもの穏やかさが戻っていた。
だが、誰も知らない。
その贈り物が、どれほど危険な企みにつながっているのかを。
そして、ヴィクトリア自身もまた、より大きな計画の中で動いているにすぎないことを。
隣国の皇帝が何を考えているのか。
なぜヴィクトリアがこの国へ送り込まれたのか。
その真相を知る者は、まだ誰もいなかった。
## 別荘の帰り支度
数日後。
リリアたちは、王宮へ戻る準備を始めていた。
湖畔での休暇は、家族にとって楽しい思い出になった。
アレクは湖のほとりを歩きながら、エレナに微笑みかけた。
「いい休暇だったな」
「ええ。リリアも、たくさん遊べましたものね」
そのリリアは、ミレに抱っこされながら、窓の外を見つめていた。
「ちゃぷちゃぷ……!」
まだ水遊びのことを思い出しているらしい。
「リリア様、また今度、遊びに来ましょうね」
ミレが笑うと、リリアは元気に手を上げた。
「あー!」
ポポとピピは、荷物の隙間にちょこんと座っていた。
「別荘のおやつとも、しばらくお別れなのだ……」
ポポはしょんぼりとうなだれる。
「王宮にもおやつはあるでしょ?」
「そうだったのだ!」
ポポは、ぱっと顔を輝かせた。
「王宮に帰るのが楽しみなのだ!」
「おやつのためだけに帰るんじゃないの!」
ピピが突っ込む。
リリアは二匹を見て、くすくす笑った。
(おうきゅう、かえりゅの! ぱぱも、ままも、いっしょ!)
リリアにとって、王宮は大好きな家族がいる場所。
戻ったら、アリアとも会えるかもしれない。
そんなことを考えながら、リリアはアレクの腕の中でうとうとし始めた。
やがて馬車が出発する。
湖畔の美しい景色が、ゆっくりと遠ざかっていった。
## 王宮に待つ、見えない危険
そのころ、王宮の一室。
高級ミルクの瓶は、贈り物用の箱に丁寧に収められていた。
箱には、美しいリボンが結ばれている。
傍らに立つ使用人は、落ち着かない様子で箱を見つめていた。
ヴィクトリアは、箱のふたを閉じるよう命じた。
「これで準備は整いました」
「はい、第二夫人様」
「第一夫人が戻られたら、すぐに届けなさい」
「かしこまりました」
ヴィクトリアは微笑み、窓の外を眺めた。
「エレナ……あなたは、私の親切をどう受け取るのかしら?」
その笑顔の裏にある悪意を、まだ誰も知らない。
別荘から戻るリリアは、馬車の中で夢を見ていた。
きらきら輝く湖。
跳ねる水しぶき。
笑うお父様とお母様。
そして、仲良しの動物たち。
「……うー……」
リリアは眠ったまま、エレナの胸に頬を寄せた。
エレナは優しく娘を抱きしめる。
「もうすぐお家に帰れますよ、リリア」
けれど、王宮に戻れば、穏やかな日常が待っているとは限らない。
第二夫人が用意した高級ミルク。
その贈り物に隠された危険を、エレナもアレクもまだ知らなかった。
そして、リリアもまた、何も知らずに眠り続けていた。
小さな赤ちゃん姫が、再び家族を守るために力を使う日は、すぐそこまで迫っていた。




