第78話 黒幕からの宣戦布告! 闇に包まれた王宮
第78話 黒幕からの宣戦布告! 闇に包まれた王宮
◆◆◆空を覆う闇と、恐ろしい宣言
ゴゴゴゴゴゴ……!
法廷の揺れは、いつまでたっても収まらなかった。
床が激しく震え、壁には細かな亀裂が走り始めている。
兵士たちは倒れそうになりながらも、必死に体勢を保っていた。
「陛下、このままでは危険です!」
兵士の声を聞いた皇帝アレクは、すぐさま決断した。
「全員、法廷から避難せよ! 負傷者がいないか確認し、速やかに外へ出るのだ!」
「はっ!」
兵士たちは傍聴人たちを誘導し、医師たちも急いで避難を始めた。
アレク自身も、最後まで法廷に残っている者がいないか確認しながら、外へ向かった。
やがて、法廷にいた全員が建物の外へ避難した。
しかし――。
外へ出た人々が空を見上げた瞬間、誰もが言葉を失った。
「な、何だ……あれは……」
空が、暗くなり始めていた。
昼間のはずなのに、太陽の光が少しずつ失われていく。
青かった空は、まるで何かに塗りつぶされるように、黒い闇に覆われていった。
雲が渦を巻き、風が吹き荒れる。
鳥たちは一斉に飛び立ち、遠くから不気味な音が響いてきた。
「天変地異だ……!」
「神々がお怒りになったのか!?」
「いったい、この国に何が起きているんだ!」
人々は恐怖に震え、互いに身を寄せ合った。
アレクも空を見上げていた。
皇帝として数々の困難を乗り越えてきた彼でさえ、目の前の光景には説明がつかなかった。
これは、普通の自然現象ではない。
何者かが、恐ろしい力を使っている。
そう考えざるを得なかった。
そのときだった。
真っ暗になった空の奥から、地上のすべてを震わせるような声が響き渡った。
『聞け、人間どもよ!』
人々は一斉に空を見上げた。
その声は、どこから聞こえてくるのか分からない。
それなのに、王宮にいる誰の耳にも、はっきりと届いていた。
『お前たちの国は、私が滅ぼす!』
「……っ!」
アレクは息をのんだ。
『そして、私がこの国の王となる!』
恐ろしい声が、再び響いた。
『ローレンもヴィクトリアも、私が送り込んだスパイだ。だが、あの者たちは役に立たなかった』
その言葉を聞いた瞬間、アレクの表情が変わった。
ローレン医師。
そして、第二夫人ヴィクトリア。
二人は、それぞれの欲望だけで動いていたのではなかった。
背後に、すべてを操っていた存在がいたのだ。
『私は、すべてを私が決める世界を作る! この国も、その民も、すべて私の支配下に置いてやろう!』
人々は恐怖に震えた。
兵士たちでさえ、剣を握る手に力が入らない。
相手の姿は見えない。
どこにいるのかも分からない。
それなのに、空を覆う闇だけで、その力が人間の理解を超えていることが伝わってきた。
『よく覚えておけ! お前たちの国に、安らぎの日々はもう訪れない!』
そして――。
『はははははははっ!』
恐ろしい笑い声が、空いっぱいに響き渡った。
黒い雲が渦を巻き、風が激しく吹き抜ける。
やがて、その声は遠ざかっていった。
闇は少しずつ薄れ、空には再び光が戻り始めた。
しかし、そこにいた誰一人として、すぐには動けなかった。
空が元に戻っても、恐怖だけは消えなかったのだ。
アレクは、しばらく空を見つめていた。
ローレン医師も、ヴィクトリアも、すでに命を落としている。
それなのに、二人を送り込んだという黒幕は、今もどこかで生きている。
そして、その者はこの国を滅ぼすと宣言した。
「……そういうことだったのか」
アレクは低くつぶやいた。
これまで王宮で起きた事件。
リリアを狙った暗殺計画。
家族旅行中の襲撃。
町を襲った盗賊たち。
それらの背後には、恐ろしい黒幕が存在していたのだ。
アレクは、拳を強く握りしめた。
恐怖がなかったわけではない。
相手がどこにいるのかも、どれほどの力を持っているのかも分からない。
それでも――。
「私は、この国の皇帝だ」
アレクは、周囲にいる兵士たちと民を見渡した。
「この国を、そして民を守らなければならない」
その声には、強い決意が込められていた。
「相手が何者であろうと、私は決して屈しない」
空には、もう黒い影は残っていなかった。
だが、アレクの胸には、これまでとは比べものにならないほど大きな脅威が刻み込まれていた。
本当の戦いは、これから始まるのだった。
◆◆◆天界の決断! 新たな守護者たち
同じころ、天界では――。
水晶の鏡に映っていた黒い空が消え、神々は深刻な表情で顔を見合わせていた。
創造神ゼノは、腕を組んだまま、しばらく何も言わなかった。
やがて、低い声でつぶやいた。
「……ついに、表立って動き始めたか」
知恵と魔法の女神アテナは、水晶の鏡を見つめていた。
「ローレン医師もヴィクトリアも、黒幕に送り込まれたスパイだった……。これまでの事件は、すべてこの者の計画の一部だったのね」
運命と予言の神オルフェが、険しい表情で続けた。
「だが、正体はまだ分からない。あの声だけでは、どのような存在なのか判断できぬ」
生命と動物の女神フィオナは、心配そうにリリアの姿を探した。
「それよりも、リリアは大丈夫かしら……。あんな恐ろしい存在が人間の世界にいるなんて」
水晶の鏡には、王宮の一室が映し出されていた。
そこでは、リリアがペンダントを握りしめていた。
「ぱぱぁ……」
空を覆った闇と、恐ろしい声。
リリアは、まだその意味をすべて理解できているわけではない。
それでも、パパが危険な目に遭うかもしれないことは感じ取っていた。
「ぱぱ、まもりゅの……」
小さな手が、ぎゅっとペンダントを握った。
ゼノは、その姿を見て眉を寄せた。
「リリアは、まだ一歳だ。神の力を持っているとはいえ、今のあの子だけで転生した黒幕に立ち向かうのは危険すぎる」
「転生した黒幕……」
アテナが、はっと顔を上げた。
「まさか……人間に転生した破滅神ではないでしょうね?」
その言葉に、神々の表情が一斉に変わった。
「破滅神だと!?」
ゼノの声が天界に響いた。
オルフェは慎重に答えた。
「まだ断定はできない。だが、あの魔術の規模と、人間の国を滅ぼして支配しようとする目的を考えると、その可能性も否定できない」
「もし、本当に破滅神が人間に転生しているのなら……」
フィオナは、リリアを見つめながらつぶやいた。
「ポポとピピだけで、リリアを守りきれるかしら?」
ポポとピピは、リリアの大切な仲間だ。
二匹とも魔法を使えるし、リリアを守ろうと一生懸命に頑張っている。
けれど、相手が破滅神ほどの存在なら、今の守りだけでは足りない可能性があった。
ゼノは、しばらく考え込んでいた。
そして、決意したように顔を上げた。
「……新たな守護者を送り込もう」
「新たな守護者?」
アテナが尋ねた。
「ああ。リリアを守るために、リュリュとノクスを人間の世界へ送るのじゃ」
その名を聞き、フィオナの表情が少し明るくなった。
「リュリュとノクスなら、力になってくれるかもしれないわね」
ゼノはうなずき、二匹の能力について説明を始めた。
「まず、リュリュじゃ」
水晶の鏡に、虹色に輝く小さなドラゴンの姿が映し出された。
全身がニジイロに輝き、光の角度によって、さまざまな色がきらめいている。
「リュリュは、小さな体に強大な力を秘めておる。魔法障壁を破壊することができ、さらには空間すら歪める能力を持っておるのじゃ」
「それは頼もしいわね!」
アテナが感心したように言った。
しかし、ゼノは少しだけ困った顔をした。
「ただし……性格はポポとピピに負けず劣らずの食いしん坊じゃ」
「えっ?」
フィオナが目を丸くした。
ゼノは遠い目をした。
「食べ物を見つけると、周りが見えなくなることがある。じゃが、いざというときには役に立つはずじゃ!」
「……本当に大丈夫かしら」
アテナが小さくつぶやいた。
「次は、ノクスじゃ」
水晶の鏡には、黒い毛並みの猫が現れた。
大きな瞳を持ち、静かにこちらを見つめている。
普段は、どこにでもいるような黒猫に見える。
しかし、その正体は――エンシェントシャドウ。
古く強大な力を秘めた種族だった。
「ノクスは、敵の魔術も物理的な攻撃も無効化することができる。リリアを守るうえで、非常に頼もしい存在じゃ」
「攻撃を無効化できるなんて……!」
フィオナは、ほっと胸をなで下ろした。
「これなら、リリアを守る力も強くなるわね」
「うむ。ノクスも食いしん坊ではあるが、リュリュよりは少し落ち着いておる……と思いたい」
ゼノは、少しだけ言葉を濁した。
「それに、ノクスは少々ツンデレなところがある。口では素っ気ないことを言っても、いざとなればリリアを守ってくれるじゃろう」
オルフェは、静かにうなずいた。
「二匹を送り込むことで、リリアの守りは強くなる。だが、黒幕の正体が分からない以上、油断はできない」
「そのとおりじゃ」
ゼノは、水晶の鏡に映るリリアを見つめた。
小さな女の子は、ペンダントを握りしめながら、パパのことを心配している。
「リリアには、まだ普通の赤ちゃんとして過ごしてほしい。新たな守護者たちには、あの子を守るよう伝えるのじゃ」
アテナが微笑んだ。
「きっと、リリアも喜ぶわね」
フィオナも、優しい声で言った。
「新しい仲間が増えたら、リリアはきっと大喜びするでしょうね。でも……食いしん坊が四匹になったら、おやつがいくらあっても足りないかもしれないわ」
その言葉に、ゼノは顔を引きつらせた。
「……そ、それは考えておらんかった!」
天界に、ほんの少しだけ笑いが戻った。
しかし、神々はすぐに表情を引き締めた。
王宮には、これまでとは比べものにならない危険が迫っている。
黒幕の正体は、まだ分からない。
それが本当に転生した破滅神なのかも、確かなことは言えなかった。
それでも、リリアを守るために、できることはすべてしなければならない。
ゼノは、二匹の新たな守護者に向けて命じた。
「リュリュ、ノクス。人間の世界へ向かい、リリアを守るのじゃ!」
こうして、リリアのもとへ、新たな仲間たちが送り込まれることになった。
ポポとピピに加わる、虹色の小さなドラゴンと、謎めいた黒猫。
彼らとの出会いが、リリアの運命をどのように変えていくのか。
そして、闇の中で笑う黒幕の正体とは――。
王宮を守るための、新たな戦いが始まろうとしていた。




