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第77話 暴かれた第二夫人の本心! 黒幕の魔術

第77話 暴かれた第二夫人の本心! 黒幕の魔術


◆◆◆リリアの魔法で暴かれる嘘


法廷は、重苦しい空気に包まれていた。


ヴィクトリアは、その場に崩れ落ちたまま、うつむいていた。


皇帝アレクも、兵士たちも、誰も口を開かない。


長い沈黙が続いた。


やがて、ヴィクトリアがゆっくりと顔を上げた。


「……陛下」


かすれた声が、静まり返った法廷に響いた。


「何もかも、すべてお話しいたします」


アレクは、厳しい目で彼女を見つめた。


「話せ」


ヴィクトリアは震える手を胸元に当て、涙を浮かべながら語り始めた。


「私は……ローレン医師に脅されていたのです。あの者は私の弱みを握り、逆らえば秘密を暴露すると言って、何度もお金を要求してきました」


そして、彼女は顔を伏せた。


「リリア王女に毒を飲ませるようにと、毒入りのミルクまで渡されたのです……。私は逆らえませんでした。ローレン医師に脅されていたのですから……」


法廷の人々は、互いに顔を見合わせた。


しかし、アレクは少しも納得していなかった。


「ヴィクトリア」


「は、はい……」


「それならば、なぜローレン医師はリリアを暗殺しようとしたのだ?」


ヴィクトリアの顔がこわばった。


「そ、それは……」


アレクは、静かだが鋭い声で続けた。


「ローレン医師は宮殿に仕える医師だった。リリアが暗殺されて、あの男に何の得がある?」


ヴィクトリアは口を開きかけたが、言葉が出なかった。


「リリアがいなくなれば、誰が最も得をする?」


アレクの視線が、彼女を射抜いた。


「第一夫人とリリアを目障りに思い、アリア王女を後継ぎにしたいと考えていたお前ではないのか?」


「ち、違います……!」


ヴィクトリアは首を横に振った。


「ローレン医師は、私を脅し続けてお金をむしり取ろうとしていたのです! 私が言うことを聞かなければ、もっと恐ろしいことをすると……!」


またしても、ローレン医師に罪を押しつける言い訳だった。


アレクは、もはや彼女の言葉を信じていなかった。


そのころ、王宮の一室では、リリアがペンダントを通して法廷の様子を見ていた。


天界では、ゼノたちも水晶の鏡を囲んでいる。


リリアは、さっきまで神々の顔に落書きをしたり、飴を降らせたりして遊んでいた。


けれど、ペンダントに映るパパの顔を見て、小さな首を傾げた。


「……ぱぱ、こまってりゅの?」


アテナが優しく答えた。


「そうね。ヴィクトリアは、まだ本当のことを話していないのよ」


「うしょ?」


「ええ。ローレン医師に脅されたと言っているけれど、本当はどうだったのか、まだ分からないの」


リリアは、じっとペンダントを見つめた。


「うーん……」


小さな頭で、一生懸命に考える。


そして、ぽんっと両手を合わせた。


「そうだぁ!」


神々が一斉に振り向いた。


「リリア、何を思いついたのだ?」


ゼノが尋ねると、リリアはにっこり笑った。


「まほう、つかうのぉ!」


「魔法?」


「ヴィクトリアおばしゃまに、うしょ、つけないまほう!」


リリアは得意げに胸を張った。


「うしょは、だめだめよぉ! よいこになぁれ〜!」


小さな手をぱたぱたと振り、リリアは魔法を唱えた。


「うしょは、だめだめ! ほんとのこと、いっちゃえ〜!」


金色の光が、ペンダントを通じて法廷のヴィクトリアへと伸びていった。


もちろん、法廷の人々には何が起きたのか分からない。


ただ、ヴィクトリアの体が一瞬、淡い光に包まれたように見えただけだった。


「……え?」


ヴィクトリアが顔を上げた。


その次の瞬間――。


「……ふふっ」


彼女の口から、奇妙な笑い声が漏れた。


「ふふふ……あははははっ!」


突然の高笑いに、法廷中が凍りついた。


アレクは眉をひそめた。


「ヴィクトリア?」


しかし、彼女は笑い続けた。


その顔からは、先ほどまでの怯えも、悲しげな表情も消えていた。


代わりに浮かんでいたのは、冷酷で、歪んだ笑みだった。


そしてヴィクトリアは、まるで何かに操られるように、ゆっくりと口を開いた。


「陛下……もう、隠す必要なんてありませんわね」


その声を聞いた瞬間、アレクの表情が変わった。


ヴィクトリアは、楽しそうに笑いながら言った。


「すべて、お話しして差し上げますわ!」




◆◆◆黒幕の名を口にする直前に


ヴィクトリアの笑い声が、法廷に響き渡った。


「陛下、私は第一夫人とリリア王女が目障りだったのです!」


その言葉に、法廷中がざわめいた。


「何だと……?」


アレクの声が低く響く。


しかし、ヴィクトリアは止まらなかった。


「リリア王女さえいなければ、アリアがこの王宮の後継ぎになれる。そして、私が女帝になれるのですわ!」


彼女は、まるで長年の不満を吐き出すように言い放った。


「だから、ローレン医師に頼んだのよ! リリアを暗殺するために、毒入りのミルクを作るようにね!」


法廷が大きくどよめいた。


「な……!」


「第二夫人が、自分の口で……!」


アレクは怒りを押し殺しながら、ヴィクトリアを見据えた。


「では、家族旅行の途中で馬車を襲わせたのも、お前なのか?」


ヴィクトリアは、さらに大きな声で笑った。


「そうよ! 盗賊たちにお金を渡して、襲わせたの! 町を襲わせたのも私よ!」


兵士たちが息をのんだ。


これまで疑われていた事件が、ヴィクトリア自身の口から次々と語られていく。


アレクは、机に置いた手を強く握りしめた。


怒りはあった。


しかし、それ以上に、愛する娘と妻が危険にさらされていた事実が胸をえぐっていた。


「……すべて、お前一人の計画だったのか?」


アレクは、声を荒らげることなく尋ねた。


「ほかに協力者はいないのか。すべて正直に答えよ」


すると、ヴィクトリアはぴたりと笑うのをやめた。


そして、アレクを見つめ、不思議そうに首を傾げた。


「陛下は……何もご存じないのね」


「何だと?」


「本当に、平和なお方ですわね」


ヴィクトリアの唇が、ゆっくりとつり上がった。


「あなたを暗殺し、リリア王女を暗殺し、この国そのものを崩壊させようと考えているお方が――」


その瞬間だった。


ヴィクトリアの言葉が、突然途切れた。


「……っ」


彼女の笑みが消えた。


目を見開いたまま、体がぴたりと動かなくなる。


「ヴィクトリア?」


アレクが呼びかけた。


返事はなかった。


次の瞬間、ヴィクトリアの体がぐらりと傾いた。


「第二夫人が!」


兵士が駆け寄ろうとしたが、間に合わなかった。


ヴィクトリアは、その場に立ったまま、息絶えていた。


「きゃああああっ!」


法廷に悲鳴が上がった。


「医師を呼べ!」


「兵士たちは、誰も近づくな! 周囲を確認しろ!」


アレクの命令が飛ぶ。


法廷は一瞬にして混乱に包まれた。


兵士たちはヴィクトリアの周囲を取り囲み、医師が急いで駆け寄った。


アレクは、怒りと驚きを押し殺しながら命じた。


「死因を調べよ。何が起きたのか、必ず突き止めるのだ」


医師はヴィクトリアの体を慎重に調べた。


やがて、その顔が青ざめた。


「陛下……」


「何が分かった?」


医師は緊張した声で答えた。


「これは……魔術による暗殺と思われます」


「魔術だと?」


「はい。突然命を奪われたことから、外部から何らかの魔術が作用した可能性がございます」


アレクは、ヴィクトリアの遺体を見つめた。


彼女は、黒幕の存在を口にしかけた。


そして、その直後に命を奪われた。


偶然とは思えなかった。


「……口封じか」


アレクのつぶやきに、周囲の兵士たちは息をのんだ。


ヴィクトリアの背後には、彼女さえ逆らえない何者かがいる。


その存在は、王宮の中で起きた事件を、ずっと見ていたのかもしれない。


そのころ、天界では――。


リリアが、ペンダントの向こうで突然倒れたヴィクトリアを見て、目を丸くしていた。


「……おばしゃま?」


さっきまで笑っていたのに、どうして倒れてしまったのだろう。


リリアには分からなかった。


ゼノたちも、言葉を失っていた。


「まさか……」


アテナが青ざめた顔でつぶやいた。


「黒幕の存在を口にした途端に、命を奪われた……?」


オルフェは、水晶の鏡を見つめながら険しい表情を浮かべた。


「ヴィクトリアは、誰かに監視されていたのかもしれない。あるいは、秘密を漏らせば命を奪われるような魔術をかけられていたのか……」


「リリアの魔法が原因なのではないか?」


ゼノが心配そうに尋ねた。


アテナは首を横に振った。


「リリアの魔法は、嘘をつけなくするためのものよ。命を奪う魔法ではないわ」


神々は、さらに不安を募らせた。


そのとき――。


ゴゴゴゴゴゴ……!


突然、法廷が大きく揺れ始めた。


「な、何だ!?」


兵士たちがよろめき、傍聴人たちから悲鳴が上がる。


机の上の書類が床に落ち、燭台が激しく揺れた。


「全員、落ち着け! 壁から離れろ!」


アレクが叫んだ。


しかし、揺れは収まらない。


ゴゴゴゴゴ……!


床が震え、柱がきしむ。


まるで、王宮そのものが何者かの怒りに震えているかのようだった。


天界でも、神々が一斉に水晶の鏡へ身を乗り出した。


「これは、ただの地震ではない……!」


ゼノの声が響いた。


オルフェは、揺れる法廷を見つめながらつぶやいた。


「黒幕が……動き始めたのか?」


リリアは、ペンダントをぎゅっと握りしめた。


「ぱぱぁ……!」


アレクは、揺れの中で兵士たちに指示を出し続けていた。


ヴィクトリアは命を落とした。


だが、事件は終わっていなかった。


むしろ、今この瞬間から――。


王宮を揺るがす、本当の危機が始まろうとしていた。

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