↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
76/105

第76話 スズランの証言! 追い詰められた第二夫人

第76話 スズランの証言! 追い詰められた第二夫人


◆◆◆法廷に響く医師の証言


翌朝。


王宮の一室では、リリアがペンダントをじっと見つめていた。


ペンダントの表面には、法廷にいるパパ、皇帝アレクの姿が映っている。


「ぱぱぁ……」


リリアは小さな指でペンダントをつんつんと触った。


「ぱぱ、きょうもがんばりぇ〜!」


アレクが何をしているのか、リリアにはすべて分かるわけではない。


それでも、パパが真剣な顔をしていることは伝わってきた。


「りりあ、ぱぱ、まもりゅの!」


リリアは小さな胸を張った。


そのころ、法廷では二日目の裁判が始まろうとしていた。


被告席に座るヴィクトリアは、以前よりもずいぶんやつれていた。


顔色は悪く、目の下には疲れがにじんでいる。


昨夜、小瓶の中身が何だったのかを考え続けていたのだろう。


彼女は落ち着かない様子で指を握りしめていた。


やがて、皇帝アレクが法廷に姿を現した。


「これより、裁判を再開する」


その声が響くと、法廷内は静まり返った。


アレクは兵士に命じた。


「宮廷医師を証人として呼べ」


「はっ!」


兵士が医師たちを案内してきた。


ヴィクトリアは医師たちの姿を見た瞬間、肩をびくりと震わせた。


アレクは医師に視線を向けた。


「昨日、発見された小瓶について報告せよ。中身は何だったのだ?」


医師は一歩前に進み、はっきりと答えた。


「陛下。小瓶から、スズランの粉末が検出されました」


「スズランの粉末……」


法廷内にざわめきが広がった。


アレクは表情を変えず、続きを促した。


「詳しく説明せよ」


「はい。スズランは白く可憐な花ですが、猛毒成分を含んでおります。口にすれば、命に関わる危険がございます」


医師の声が、静かな法廷に響き渡る。


「とりわけ、リリア王女のように幼いお子様が口にされていたらと思うと……。私どもも、恐ろしいことだと感じております」


アレクの手が、机の上でぎゅっと握られた。


愛する娘が、そんな危険にさらされていたかもしれない。


その事実は、皇帝としての怒りだけでなく、父親としての苦しみをもたらしていた。


しかし、アレクは冷静さを失わなかった。


「小瓶が発見された場所は、すでに報告を受けている。ほかに分かったことはあるか?」


医師は一瞬ためらったあと、口を開いた。


「陛下。実は、もう一つご報告がございます」


「何だ?」


医師は隣に立つ同僚たちと目を合わせた。


そして、慎重に言葉を選びながら話し始めた。


「私どもは以前、ローレン医師がスズランの粉末を作っているところを見たことがございます」


ヴィクトリアの顔から、さらに血の気が引いた。


「……!」


アレクは医師を見つめた。


「ローレン医師が?」


「はい。ローレン医師は薬草を使って薬を作ることが得意でした。そのため、私どもは特に不審には思いませんでした」


別の医師も続けた。


「当時、王宮ではネズミ駆除の話が出ておりました。ですから、私どもはローレン医師がネズミ駆除のために何かを準備しているのだろうと考えていたのです」


「なるほど……」


アレクは静かにうなずいた。


ローレン医師がスズランの粉末を作っていた。


そして、その粉末が入った小瓶が、アリア王女のぬいぐるみの中から見つかった。


さらに、その小瓶は毒入りのミルクに関する調査の中で発見されたものだった。


一つひとつの事実が、少しずつつながり始めていた。


アレクは医師たちに告げた。


「よく報告してくれた。感謝する。もう下がってよい」


「ありがとうございます、陛下」


医師たちは一礼し、法廷を後にした。


その間、ヴィクトリアはずっと震えていた。


膝の上で握りしめた手は、白くなるほど力が入っている。


アレクは、そんな彼女を冷たい目で見つめた。


「ヴィクトリア」


「は、はい……」


「さて、お次はどんな言い訳をする?」


その言葉に、ヴィクトリアは息をのんだ。


法廷の視線が、一斉に彼女へと集まった。


◆◆◆崩れ落ちるヴィクトリアと、天界のいたずらっ子


「ち、違いますわ……!」


ヴィクトリアは震える声で叫んだ。


「私には何のことだか分かりません! 私はローレン医師に脅されていたのです!」


アレクは黙って彼女を見つめた。


ヴィクトリアは必死に言葉を続けた。


「ローレン医師が、私に罪をなすりつけるために小瓶をアリアのぬいぐるみの中へ入れたのです! そうに決まっていますわ!」


「ほう……」


アレクの声は、ひどく冷たかった。


「ローレン医師は、もうこの世にはいない。そのローレン医師に、すべての罪を押しつけるつもりか?」


「そ、それは……!」


ヴィクトリアの声が詰まった。


アレクは椅子から立ち上がり、彼女をまっすぐ見据えた。


「いつまで見苦しい言い逃れを続けるつもりだ」


「……っ!」


「今なら、何もかも正直に話せば、寛大な処罰で済ませることも考えよう」


その言葉に、ヴィクトリアは顔を上げた。


「寛大な……処罰……?」


「そうだ。隠し続けても、お前自身が苦しむだけだ。自分が何をしたのか、正直に話せ」


法廷は静まり返っていた。


誰も口を挟まない。


ヴィクトリアは唇を震わせた。


何かを言おうとしたが、声にならない。


ローレン医師のことも、小瓶のことも、もう簡単には言い逃れできない。


それでも、すべてを話すわけにはいかなかった。


彼女の頭の中には、まだ知られてはならない秘密が残っていた。


「わ、私は……」


ヴィクトリアは言葉を探した。


しかし、何も出てこなかった。


やがて、彼女の体から力が抜けた。


「……っ」


ヴィクトリアは、その場に崩れ落ちた。


法廷内に、ざわめきが広がる。


アレクは彼女を見下ろしたが、それ以上は何も言わなかった。


ヴィクトリアはうつむいたまま、黙り込んでいた。


その沈黙が、法廷の空気をいっそう重くしていた。


一方、その様子をペンダント越しに見ていたリリアは――。


「……?」


小さな首をこてんと傾けた。


「おはな……?」


リリアは、天界の神々に尋ねた。


「かみしゃま、おはな、どく、あるのぉ?」


天界では、ゼノたちが水晶の鏡を囲んでいた。


アテナが、リリアにも分かるように優しく説明した。


「そうよ、リリア。お花の中には、見た目はきれいでも、体に悪いものが含まれている花があるの」


「おはな、きれいきれいなのにぃ?」


「ええ。だから、知らないお花を勝手に食べてはいけないのよ」


フィオナも、そっと言葉を添えた。


「リリアは、ちゃんとパパやママの言うことを聞いてね」


「はぁい!」


リリアは元気よく返事をした。


ところが――。


しばらくして、リリアの目がきょろきょろと動き始めた。


法廷の話は難しい。


パパは真剣なお顔。


ヴィクトリアもずっと震えている。


大人たちは、ずーっと難しい話ばかり。


リリアは、ぷくっと頬をふくらませた。


「……つまんなぁい」


「リリア?」


ゼノが振り返ったときには、もう遅かった。


リリアは、いたずらを始めていたのだ。


まずは、ゼノの顔に魔法で落書き。


額には大きな丸。


頬にはくるくる模様。


そして、鼻の先には真っ赤なお花。


「……む?」


ゼノが自分の顔に手を当てた。


アテナが振り向いた瞬間、ぷっと吹き出した。


「ゼ、ゼノ……! その顔……!」


「な、何だと!?」


ゼノが水晶の鏡をのぞき込む。


「な、なんじゃこれはあああっ!」


リリアは大喜び。


「きゃははははっ! じぇの、かお、おもしろぉい!」


「リリア! またおぬしかあああ!」


しかし、いたずらはそれだけでは終わらなかった。


天界の壁に、次々と絵が現れた。


丸くてふわふわのポポ。


大きな耳のピピ。


ポポの横には、食べ物らしきものが山盛りに描かれている。


ピピの頭には、大きなリボン。


しかも、二匹の顔は妙にそっくりだった。


「ポポとピピなのだぁ!」


リリアは手をぱちぱち叩いた。


「ポポ、もぐもぐ! ピピ、にこにこ! えへへぇ!」


「おおっ! これはポポなのだ! なかなかよく描けているのだ!」


ポポは自分の似顔絵を見て、なぜか得意げに胸を張った。


「ピピもかわいい〜! リリちゃん、ありがと〜!」


ピピも大喜び。


だが、神々が壁の絵を消そうとした、そのときだった。


天井から、きらきらとしたものが降ってきた。


ひとつ。


ふたつ。


みっつ。


それは、色とりどりの甘い飴だった。


「……あ、あめ?」


ゼノが上を見上げた。


次の瞬間、飴の雨が天界いっぱいに降り注いだ。


「わぁぁぁぁっ! あめしゃん、いっぱいなのぉ!」


リリアは大はしゃぎで両手を広げた。


「おやちゅ! おやちゅ、いっぱいぃ!」


ポポは床に落ちた飴を見て、目を輝かせた。


「ポポにおまかせなのだ! この飴は、ポポが全部集めるのだ!」


「ポポ、ひとりじめしちゃだめ〜! ピピもいっしょにやる〜!」


「えへへぇ! みんなで、あめしゃん、たべりゅ〜!」


「待て待て待て! リリア、飴を降らせるのはやめなさーい!」


ゼノの叫び声が天界に響き渡った。


しかし、リリアは聞こえないふり。


「きゃははははっ!」


神々は慌てて飴を片づけ、壁の絵を消し、ゼノの顔を元に戻そうと大騒ぎになった。


そんな中でも、水晶の鏡には法廷の様子が映り続けていた。


ヴィクトリアは、まだ何も語っていない。


そして、彼女の背後に潜む真の黒幕も、依然として姿を現していなかった。


「……リリア」


アテナは、楽しそうに笑う小さな女の子を見つめた。


「どうか、この子がこれ以上危険な目に遭いませんように」


天界の騒がしさの奥で、神々は改めて決意していた。


リリアを守るために。


そして、王宮に潜む本当の脅威を見逃さないために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。