第72話 召し使いたちの証言! 第二夫人とセドリックの密会
第72話 召し使いたちの証言! 第二夫人とセドリックの密会
◆◆◆天界に広がる不安
天界では、ゼノ、アテナ、オルフェ、フィオナの四人の神々が、水晶の鏡を囲んでいた。
鏡には、アレク皇帝の裁判の様子が映し出されている。
アリア王女とアレクの血液は混ざらず、セドリックの血液とは混ざった。
その結果、アリア王女がセドリックの娘であることが明らかになったのだ。
しかし、神々の表情は晴れなかった。
「アリア王女の出生については、これで明らかになった。だが、ヴィクトリアがローレン医師に脅されていたという主張は、まだ崩れていないな」
ゼノが難しい顔で言った。
アテナも水晶の鏡を見つめながらうなずいた。
「そうね。ローレン医師の日記に記された金銭の受け渡しと事件の日付が重なっている。それは疑わしいけれど、それだけでヴィクトリアが事件を指示したと証明するのは難しいわ」
「このままでは、ヴィクトリアが脅されて仕方なく金を渡していたという話が、真実のように受け取られてしまうかもしれない」
オルフェの言葉に、フィオナは心配そうに眉を寄せた。
「でも、あの召し使いたちは何も知らないのかしら……。ヴィクトリアの近くにいた人たちなら、何か見たり聞いたりしているかもしれないわ」
ゼノは静かにうなずいた。
「アレクが、どこまで真実にたどり着けるかだな」
神々は再び、水晶の鏡に視線を戻した。
ヴィクトリアの嘘を暴くには、まだ足りないものがあった。
それは、事件の記録だけでは分からない、彼女自身の行動を知る者の証言だった。
◆◆◆皇帝が呼び出した証人
そのころ、法廷では裁判が続いていた。
アレクは、ヴィクトリアとセドリックを見据えていた。
二人は、自分たちの行為を正当化しようとし、互いに責任を押しつけていた。
しかし、アレクは二人の言葉だけで判断するつもりはなかった。
「次の証人を呼べ」
皇帝の命令に、裁判官が顔を上げた。
「証人、でございますか?」
「そうだ。ヴィクトリアに仕えている召し使いを二人、ここへ連れてきなさい」
騎士たちはすぐに法廷を出ていった。
ヴィクトリアの顔から、わずかに血の気が引いた。
彼女は、自分の召し使いたちが呼ばれた理由を考えた。
まさか、何かを知っているのだろうか。
いや、そんなはずはない。
そう思おうとしても、不安は消えなかった。
やがて、二人の召し使いが法廷へ入ってきた。
二人とも緊張した面持ちで、皇帝の前に進み出る。
そして、ヴィクトリアの姿を見た瞬間、明らかに怯えた様子を見せた。
ヴィクトリアは二人を鋭い目でにらんだ。
その視線を感じた召し使いたちは、うつむいてしまった。
アレクは、二人の様子を注意深く見ていた。
「これから、お前たちに質問する。知っていることを正直に話せ」
「は、はい……」
二人は震える声で答えた。
アレクは、落ち着いた声で続けた。
「もし、事実を隠したり、嘘の証言をしたりすれば、お前たち自身も事件に関与していたと判断され、罰を受けることになる。よく考えて答えなさい」
召し使いたちは顔を見合わせた。
正直に話せば、ヴィクトリアから何をされるか分からない。
しかし、皇帝の前で嘘をつけば、自分たちまで罪に問われるかもしれない。
二人は迷った末、ゆっくりと顔を上げた。
アレクは、まず一つ目の質問をした。
「ヴィクトリアとセドリックの関係について、お前たちが知っていることを話しなさい」
法廷が静まり返った。
ヴィクトリアは、二人をにらみつけたまま、唇を固く結んでいた。
第72話 召し使いたちの証言! 第二夫人とセドリックの密会
◆◆)夜ごとの密会
二人の召し使いは、しばらく口を開けなかった。
ヴィクトリアの視線が、突き刺さるように感じられたからだ。
しかし、アレクは黙って二人の返答を待っていた。
やがて、一人の召し使いが震える声で話し始めた。
「……セドリック様は、夜になると、よく第二夫人のお部屋にいらっしゃっておりました」
法廷にざわめきが広がった。
ヴィクトリアの表情が一変した。
「何ですって……?」
召し使いは怯えながらも、言葉を続けた。
「私たちには、セドリック様がいらっしゃっている間は、お部屋に入ってはいけないと命じられておりました……」
もう一人の召し使いも、震えながらうなずいた。
「はい……。私たちは、お部屋の外で待つように言われておりました」
アレクは、セドリックへ視線を向けた。
セドリックは不機嫌そうに顔をしかめていたが、何も答えなかった。
そのとき、ヴィクトリアが突然声を荒らげた。
「なんて恩知らずなの! 私が今までどれだけお前たちを大切にしてきたと思っているの! 嘘をついて、私を陥れたいのね!」
召し使いたちは、びくっと肩を震わせた。
「も、申し訳ございません……!」
二人は思わず頭を下げた。
しかし、アレクの冷たい声が法廷に響いた。
「ヴィクトリア、黙りなさい」
「陛下……!」
「証人が話している最中だ。口を挟むことは許さない」
アレクの厳しい言葉に、ヴィクトリアは悔しそうに口を閉じた。
「続けなさい。セドリックが夜に訪れていたこと以外に、何か知っていることはあるか?」
アレクが尋ねると、二人の召し使いは再び顔を見合わせた。
そして、一人が小さく息を吸った。
◆◆◆ローレン医師を呼んだ理由
「……第二夫人から、ローレン医師を呼ぶように命じられたことが、何度かございます」
その言葉に、アレクの目が鋭くなった。
「ローレン医師を?」
「はい。第二夫人から、誰にも知られないように呼んでくるよう命じられました。私たちは言われたとおり、ローレン医師を呼びに行きました」
「その医師は、ヴィクトリアの部屋へ来ていたのか?」
「はい……。一度、夜遅くにローレン医師がお部屋へ入っていくところを見たことがございます」
法廷は静まり返った。
アレクは、これまでに見つかった契約書と日記を思い出していた。
ヴィクトリアの名前が記された契約書。
金銭の受け渡しを記したローレン医師の日記。
そして今、召し使いたちが証言した、セドリックの度重なる訪問と、ローレン医師との秘密の面会。
それぞれの事実が、少しずつつながり始めていた。
アレクは二人の召し使いを見つめた。
「お前たちは、ほかにも何か知っていることがあるのか?」
「私たちが直接見たことは、今お話ししたとおりでございます……」
召し使いたちは、怯えながらも正直に答えた。
アレクはうなずいた。
「分かった。証言を記録しなさい」
裁判官が指示を受け、二人の証言を記録した。
ヴィクトリアは、顔をこわばらせたまま座っていた。
彼女は召し使いたちをにらんでいたが、先ほどのように怒鳴ることはできなかった。
セドリックもまた、表情を険しくしていた。
アレクは二人を見据え、静かに告げた。
「契約書、日記、そして今の証言。すべてを照らし合わせ、真実を明らかにする」
ヴィクトリアは何も答えなかった。
だが、その胸の内では、焦りが膨らんでいた。
これまで自分のそばにいた召し使いたちまで、法廷で証言してしまったのだ。
彼女の言い逃れは、少しずつ追い詰められていた。
天界では、神々が水晶の鏡を見つめていた。
「ようやく、二人の関係を示す証言が出てきたな」とゼノ。
「でも、まだすべてが明らかになったわけではないわ」とアテナが答えた。
オルフェは、ヴィクトリアの姿を見つめながらつぶやいた。
「彼女は、次にどんな言い訳をするのだろうな……」
裁判は、まだ終わらない。
そして、ヴィクトリアの逃げ道は、確実に狭まり始めていた。




