第69話 裁判再開! 第二夫人の涙の言い逃れ
第69話 裁判再開! 第二夫人の涙の言い逃れ
◆◆◆アリア王女のためという主張
裁判所では、いったん審理が中断され、休憩に入っていた。
ヴィクトリアは兵士たちに見張られながら、必死に考えていた。
(このままでは、私は本当に罪を問われてしまう……。どうにかして、陛下の同情を引かなければ)
アリアがリリアを池に突き落とすよう命じたことも、ローレン医師との金銭のやり取りも、簡単には否定できない。
ならば、別の説明をするしかなかった。
(そうよ……。アリアのためだと言えばいい。私は娘を守ろうとしていた母親。そう思わせれば、陛下も簡単には私を罰せられないはず……)
ヴィクトリアは涙を浮かべる練習をするように、そっと目元を押さえた。
やがて休憩が終わり、裁判が再開された。
アレクが席につくと、ヴィクトリアは突然、顔を上げた。
「陛下……。正直にお話しいたします」
裁判所の人々が、一斉に彼女へ視線を向けた。
アレクは静かに告げた。
「話してみろ」
ヴィクトリアは、悲しげな表情を浮かべながら語り始めた。
「アリアは……リリア王女に嫉妬していたのです」
裁判所がざわついた。
「アリアは陛下の娘です。それなのに、陛下はリリア王女をとても可愛がっていらっしゃる。アリアは寂しかったのだと思います」
ヴィクトリアは、涙をぬぐった。
「リリア王女ばかりが大切にされているように感じて、アリアは心を乱してしまったのでしょう。そして、あのようなことをしてしまったのです」
アレクの眉がわずかに動いた。
「それで、アリア王女がしたことは、私の責任でもあると?」
「はい……。もちろん、アリアがしたことを正当化するつもりはございません。私も親として、責任を負うべきだと思っております」
ヴィクトリアは、さらに声を震わせた。
「ですが、陛下。どうかアリアの未来もお考えくださいませ」
彼女は涙を流しながら、アレクを見上げた。
「もし私が厳しい罰を受ければ、アリアは一生、自分のせいで母親が罰せられたと思い続けるでしょう。幼いあの子が、その罪の意識を背負って生きていくことになるのです」
「……」
「私は、母親としてアリアを守りたいのです。あの子のしたことについて、私が罰を受けるのは当然かもしれません。それでも、どうかアリアの未来を考え、寛大なご判断をお願いいたします……!」
ヴィクトリアは、顔を覆って泣き始めた。
まるで、自分だけが苦しみを背負い、娘を守ろうとしている母親のようだった。
しかし、裁判所の人々は困惑していた。
アリア王女の証言を妄想だと言っていたヴィクトリアが、今度はアリアの行動を認めるような話を始めたからだ。
「いったい、どちらが本当なのだ……?」
「今度はアリア王女の嫉妬が原因だと言うのか?」
人々のざわめきが広がる。
アレクは、ヴィクトリアの涙に流されることなく、続きを促した。
「それで、ローレン医師との関係についてはどう説明する?」
ヴィクトリアは、涙をぬぐいながら顔を上げた。
「……そのことも、正直にお話しいたします」
◆◆◆悲劇のヒロインを演じるヴィクトリア
ヴィクトリアは、震える声で話し始めた。
「私は……陛下に愛していただけず、ずっと寂しかったのです」
裁判所が静まり返った。
「陛下はリリア王女を大切になさいます。でも、私は……。誰にも心の内を話せず、苦しんでおりました」
ヴィクトリアは目元を押さえた。
「そんなとき、セドリックが話を聞いてくれたのです。私はただ、寂しさを紛らわせるために話を聞いてもらっていただけでした……」
アレクの表情が厳しくなる。
ヴィクトリアは構わず続けた。
「ところが、ローレン医師は、私とセドリックの関係について、妙な疑いをかけてきたのです」
そして、声を震わせながら、次の言葉を口にした。
「アリアは、本当に陛下の娘なのか……。セドリックの娘ではないのか、と」
裁判所に大きなどよめきが起こった。
ヴィクトリアは顔を伏せ、涙を流した。
「私は恐ろしくなりました。もし陛下がその話を耳にしたら、どうなってしまうのでしょう……。私の説明を信じてくださるのでしょうか。それとも、ローレン医師の言葉を信じてしまうのでしょうか」
彼女は両手を握りしめた。
「もし陛下から、私もアリアも二度と愛していただけなくなったら……。そう考えると、怖くてたまらなかったのです」
アレクは、黙って話を聞いていた。
ヴィクトリアは、まるで自分が一方的な被害者であるかのように、さらに言葉を重ねた。
「ローレン医師は、私にお金を渡すよう要求しました。私は、あの人の言うとおりにするしかありませんでした」
「契約書については、どう説明する?」
アレクが尋ねた。
ヴィクトリアは、涙に濡れた顔を上げた。
「契約書も、ローレン医師の言うとおりに作らされたものです。皇帝陛下には何も話さないこと……。私があの人にお金を渡すこと……。そうした内容を記した契約でした」
彼女は首を横に振った。
「私は、陛下を裏切りたかったわけではございません。ただ、アリアと私が陛下から見放されることが怖かったのです……!」
ヴィクトリアは再び顔を覆い、泣き崩れた。
「どうか、お分かりくださいませ。私は寂しくて、怖くて、どうすればよいのか分からなかったのです……!」
裁判所は、再び大きくざわついた。
セドリックとの関係を疑われたことも、アリアの出生についてローレン医師から告げられたことも、ヴィクトリアはすべて、自分が脅される原因だったと説明した。
そして、金銭も契約書も、ローレン医師に従わされたものだと主張した。
だが、アレクはすぐには答えなかった。
ヴィクトリアの説明が真実なのか、それとも罪を逃れるための言い逃れなのか。
涙だけで判断することはできない。
アレクは、涙を流すヴィクトリアを厳しい表情で見つめていた。
ヴィクトリアは涙を拭いながら、悲しげに訴えた。
しかし、アレクはすぐには答えなかった。
「ヴィクトリア。お前の話は聞いた」
アレクは静かに告げた。
「だが、お前の説明だけで判断することはできない。ローレン医師の部屋から見つかった契約書と日記、そしてアリア王女の証言。それらと、お前の話に矛盾がないかを確かめる必要がある」
「陛下……私は、本当のことを申し上げております!」
ヴィクトリアは必死に訴えた。
「それならば、調べれば明らかになるはずだ」
アレクは、ヴィクトリアから目をそらさなかった。
「この裁判で明らかにするのは、お前が何をしたのかということだ。涙や訴えだけで罪の有無を決めるつもりはない」
裁判所は静まり返った。
ヴィクトリアは、それ以上何も言えず、うつむいた。
アレクは、彼女の主張を聞いたうえで、証拠に基づいて判断するつもりだった。
ヴィクトリアの言い分は、果たして証拠によって裏付けられるのか。それとも、これまでに見つかった事実と食い違うのか。
アレクは、ヴィクトリアの主張をどのように判断するのか――。
裁判は、引き続き審理されることになった。




