↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/109

第6話▪湖畔の別荘で大はしゃぎ! リリア姫と動物たちのふわふわ大作戦!

第6話▪湖畔の別荘で大はしゃぎ! リリア姫と動物たちのふわふわ大作戦!


皇帝一家が別荘に到着した、翌朝。


窓から差し込む柔らかな朝日が、リリアの小さな頬を照らしていた。


別荘は、王宮から少し離れた、美しい湖のほとりに建っている。


透き通った湖面には青空と白い雲が映り、湖畔には色とりどりの花が咲いていた。木々の間を小鳥たちが飛び交い、遠くからは水のせせらぎが聞こえてくる。


風が吹くたび、草花が優しく揺れた。


まるで絵本の中のような、穏やかな場所だった。


「あぅ……?」


ふかふかのベッドで眠っていたリリアが、ゆっくりと目を開けた。


「んにゃぁ……」


小さな手で目をこしこし。


そして――。


「まんまーっ!」


元気いっぱいの声が響いた。


侍女のミレが、笑顔で駆け寄ってくる。


「はいはい、リリア姫。お目覚めですね」


リリアは両手を伸ばした。


「あー! だっこぉ!」


「ふふっ。今日もお元気ですね」


ミレが抱き上げると、リリアは窓の外を見つめた。


湖がきらきらと輝いている。


「あーっ!」


リリアの目が、ぱあっと輝いた。


(おみじゅ、きらきらぁ! おはなも、いっぱい! おそと、いきたぁい!)


リリアは窓に向かって、両手をぱたぱた振った。


「うー! あー!」


「ふふっ。朝ごはんを食べたら、お庭に行きましょうね」


「まんま!」


リリアは大きくうなずいた。


◆ ◆ ◆


朝食の時間。


食堂の大きな窓からは、美しい湖と緑豊かな森が見渡せた。


アレクとエレナは、リリアを囲んで食卓についていた。


一歳になったリリアの前には、小さな食器が並んでいる。


温めたミルク。


柔らかく煮てつぶした野菜。


そして、リンゴや桃、洋梨をすりつぶして作った、甘い果物の離乳食だった。


「リリア、今日は桃とリンゴよ。おいしいわよ」


エレナが小さなスプーンですくい、リリアの口元へ運ぶ。


「あーん」


リリアは大きく口を開けた。


ぱくっ。


もぐもぐ、もぐもぐ。


「あう〜!」


リリアは満面の笑みを浮かべた。


(あまーい! ももしゃん、りんごしゃん、おいちぃ!)


「まあ、いいお顔!」


エレナが嬉しそうに笑う。


「気に入ったみたいだね」


アレクも目を細めた。


リリアは、もう一口を待ちきれない様子で、スプーンを見つめている。


「あー! あー!」


「はいはい、もう一口ね」


ぱくっ。


もぐもぐ。


ごっくん。


さらに、もう一口。


ぱくっ。


もぐもぐ。


ごっくん。


リリアは夢中で果物の離乳食を食べた。


ミレが驚いたように目を丸くする。


「リリア姫、今日もたくさん召し上がりますね!」


「うむ。元気に育ってくれるのは嬉しいことだ」


アレクは満足そうにうなずいた。


やがて、果物の離乳食を食べ終えると、リリアは両手をぱたぱた振った。


「まんまー!」


「まだミルクも飲みたいの?」


エレナが笑いながら哺乳瓶を渡す。


リリアは両手でしっかり持ち、こくこくと飲み始めた。


ごくごく、ごくごく。


その勢いに、アレクは思わず目を丸くした。


「おお……! もうそんなに飲んだのか!?」


リリアは哺乳瓶を抱えたまま、にっこり。


「あー!」


(おいちかったぁ! おなか、いっぱいぃ!)


そのとき、テーブルの下から小さな声が聞こえた。


「リリちゃん……」


ポポだった。


「ポポのおなかも、そろそろ朝ごはんなのだ……」


ピピが隣でため息をつく。


「ポポはさっき、クッキーを食べたでしょ〜?」


「クッキーはおやつなのだ! 朝ごはんとは別なのだ!」


「ぽぽぉ!」


リリアはテーブルの下をのぞき込んだ。


「あしょぼぉ!」


ポポが嬉しそうに飛び出そうとする。


ところが――。


ぽすんっ!


テーブルの脚にぶつかり、ポポは床をころころ転がった。


「ポポォォォ!?」


ピピは思わず笑い出す。


「もう、ポポったら〜!」


リリアも、きゃははっと声を上げた。


その様子を見たアレクは、首をかしげた。


「リリア、何がそんなに面白いんだい?」


「あー!」


リリアは何も知らない赤ちゃんの顔で、にこーっと笑った。


(ぽぽ、ころころぉ! おもしろぉい!)


◆ ◆ ◆


朝食のあと。


ミレに抱っこされてお庭へ出たリリアは、湖畔から吹く心地よい風に頬をなでられた。


湖の水面は、太陽の光を受けてきらきら輝いている。


岸辺には白い小石が並び、その向こうには背の高い木々が広がっていた。


「あーっ!」


リリアは湖を指さした。


(きらきら、おみじゅ! きれぇなのぉ!)


そのとき――。


ちゅん、ちゅん!


一羽の小鳥がリリアの肩に止まった。


「ぴぃ!」


『リリア様、おはようございます!』


「あい! おはよぉ!」


リリアは小鳥に向かって、にっこり笑った。


すると、白い猫が花壇の向こうからやってきた。


その後ろから、茶色い犬と小さなウサギも現れる。


「わんっ!」


「にゃあ」


「ぴょん!」


リリアは大喜び。


「あーっ! みんにゃ、きたぁ!」


(ねこしゃん! わんわんしゃん! うしゃぎしゃん! いっぱいぃ!)


ミレは周囲を見回し、驚いた。


「あらあら……。こんなに動物たちが集まるなんて!」


白い猫はリリアの足元にすり寄り、犬はしっぽをぶんぶん振る。


ウサギはリリアの小さな靴に鼻を寄せた。


リリアは手を伸ばして、猫の頭をなでなでした。


「よちよちぃ!」


猫は気持ちよさそうに目を細めた。


そこへ、茂みからポポとピピが飛び出してきた。


「ポポにおまかせなのだ! 今日は動物たちとお茶会なのだ!」


「ピピもいっしょにやる〜! おいしいものをいっぱい用意しようね!」


「あちゃかい!」


リリアはぱちぱちと手を叩いた。


ピピが魔法を使うと、小さなテーブルと椅子がぽんっと現れた。


テーブルの上には、果物と小さなクッキー、それにリリア用の飲み物が並んでいる。


「わあ〜! かわいいね〜!」


ピピが嬉しそうに声を上げた。


「さすがポポの作戦なのだ!」


「えっ? テーブルを出したのはピピだよ〜?」


「細かいことは気にしないのだ!」


ポポは胸を張った。


リリアは小さなクッキーを一つ手に取り、白い猫の前に差し出した。


「どーじょ!」


猫はくんくんと匂いを嗅いだ。


『ありがとうございます、リリア様!』


「あはっ!」


動物たちが次々と集まり、お庭は小さなお茶会の会場になった。


小鳥たちは木の枝で歌い、ウサギたちは草の上をぴょんぴょん跳ねる。


犬はポポを追いかけ、ポポは必死に逃げ回った。


「ま、待つのだ! ポポはおやつじゃないのだーっ!」


「わんわん!」


ぽよん、ぽよん、ころころころ!


ポポは草むらに転がり、頭に葉っぱを乗せたまま起き上がった。


「ポポ、葉っぱのお帽子だね〜!」


ピピが笑う。


リリアも、きゃははっと声を上げた。


(ぽぽ、ころころぉ! おもちしゃんみたいぃ!)

◆ ◆ ◆


ところが、お茶会が楽しくなってきたころ。


リリアは花壇に咲く色とりどりの花を見つめた。


赤い花、黄色い花、青い花。


風に揺れる花びらが、とてもきれいだった。


「あー!」


(おはな、きれぇ! もっと、きれぇにちゅるぅ!)


リリアが小さな指を振ると、淡い光が花壇を包み込んだ。


ぽわわわんっ!


すると、花々がふわりと宙に浮かび、くるくると回り始めた。


「わあっ!?」


ミレが目を丸くする。


花びらは風に乗って舞い上がり、お庭いっぱいに広がっていく。


やがて花びらがリリアの頭の上に集まり、小さな花冠になった。


「あー! きゃあ!」


リリアは花冠をぺたぺた触り、大喜び。


「リリちゃん、すごいのだ!」


ポポも花冠をかぶせてもらい、胸を張った。


「ポポは花の王様なのだ!」


「ピピもお姫様みたい〜!」


ピピも嬉しそうにくるりと回る。


しかし、花びらの魔法は止まらない。


犬の頭にも、猫の頭にも、ウサギの耳にも、次々に花冠が乗ってしまった。


「わんっ!」


「にゃあ?」


「ぴょん!」


みんな、花冠をつけたまま楽しそうに走り回る。


そこへ、庭師がやってきた。


「な、なんと……! 花壇の花が空を舞っている!?」


庭師は目を丸くした。


ミレは慌ててリリアを抱き上げる。


「リリア姫、魔法はここまでにしましょうね。お花さんたちも、土のおうちに帰りたいでしょう?」


「うー?」


リリアは首をかしげた。


(あうぅ……。もう、おしまい?)


リリアは花壇をじっと見つめた。


「あい!」


小さな手をぱちんと合わせる。


すると、花びらたちはふわふわと元の花壇へ戻り、花々も元どおりになった。


庭師はぽかんと口を開けた。


「……いったい何が起こったんだ?」


ミレはにっこり笑った。


「きっと、風のいたずらですね」


その横で、ポポが小声でつぶやいた。


「リリちゃんのいたずらなのだ……」


「でも、みんな楽しそうだったね〜!」


ピピが笑った。


リリアは二匹をぎゅっと抱きしめる。


「ぽぽぉ! ぴぴぃ!」


(たのちかったぁ! また、あしょぼぉ!)


◆ ◆ ◆


### ふわふわ雲のお昼寝大作戦!


花壇のいたずらを終えたリリアは、湖のそばの芝生に座っていた。


白い猫をなでなでしながら、空を見上げる。


そこには、真っ白でふわふわな雲がぽっかり浮かんでいた。


(あのくもしゃん……ふわふわぁ。のってみたいのぉ!)


リリアは小さな手を、えいっと空へ伸ばした。


ぽわんっ!


すると、お庭の上に、真っ白でふわふわな雲が一つ現れた。


「ぽぽぽっ!?」


ポポが目を丸くする。


「リリちゃん! お空の雲を呼んだのだ!?」


「わぁ〜! ふかふかそう〜!」


ピピが雲の上にちょこんと乗ると、体がぽよんっと沈んだ。


「わあっ! 気持ちいい〜!」


リリアは大喜び。


「あーっ! あしょぶぅ!」


リリアが手をぱたぱた振ると、雲はゆっくり地面から浮かび上がった。


白い猫も、ウサギも、鳥たちも、みんな雲の上へ。


犬も勢いよく飛び乗った。


ポポは雲の上で、ころころ転がり始める。


「ポポにおまかせなのだ! 空のお散歩なのだー!」


ところが――。


ぽよんっ、ぽよんっ!


雲が大きく弾んだ拍子に、ポポはくるくる回りながら空中へ飛び出した。


「ポポォォォ! 落ちるのだーっ!」


ピピが慌てて魔法を使い、ポポをふわりと雲の上へ戻す。


「もう、ポポったら〜!」


リリアは、きゃははっと笑った。


(ぽぽ、ころころぉ! おもしろぉい!)


雲は湖の上をゆっくり漂った。


湖面に映った白い雲が、もう一つの雲のように見える。


動物たちは気持ちよさそうに寝転がった。


白い猫は丸くなり、ウサギは耳をぴくぴくさせ、鳥たちは雲の縁に並んで歌い始めた。


「にゃあ〜」


「ぴょん!」


「ちゅんちゅん!」


まるで、空に浮かぶ小さなお昼寝広場だった。


そこへ、リリアを探していたミレがやってきた。


「リリア姫ー? あら? お庭にいらっしゃらない……」


ミレが湖のほうを見た、その瞬間。


ふわふわの雲が、目の前にゆっくり降りてきた。


その上には、花冠をかぶったリリアと、動物たち、そして丸いポポとピピが乗っている。


「あー! みれぇ!」


リリアは雲の上から、元気いっぱいに手を振った。


ミレはしばらく固まった。


「……リ、リリア姫が……雲の上に!?」


雲はふわふわと揺れながら、ミレの頭のすぐ上を通り過ぎた。


すると、リリアが小さな手を振る。


ぽふっ!


ミレの頭に、ふわふわの雲のかけらが乗った。


「あらっ!?」


雲のかけらは、ミレの髪をすっぽり包み込むように広がり、真っ白な帽子になった。


ポポが吹き出す。


「ミレも雲の仲間なのだー!」


ピピも笑った。


「ふわふわ帽子、かわいい〜!」


リリアは大喜びで手をぱちぱち叩いた。


「きゃははっ!」


(みれぇも、ふわふわぁ!)


ミレは困ったように笑いながら、リリアへ両手を伸ばした。


「リリア姫、そろそろ地上へ戻りましょうね。お父様とお母様が心配なさいますよ」


「うー?」


リリアは少し考え、それから小さくうなずいた。


「あい!」


リリアが手をぱちんと合わせると、雲はゆっくりと地面へ降りていった。


動物たちは一匹ずつ雲から降り、名残惜しそうにリリアを見つめる。


白い猫はリリアの足にすり寄り、ウサギはぴょんっと跳ねた。


『また遊びましょうね、リリア様!』


「またねぇ!」


リリアはにこにこしながら、小さな手を振った。


その日の夕方、別荘の使用人たちの間では、不思議な噂が広がった。


――庭で、花冠をかぶった動物たちが走り回っていた。


――湖の上に、動物たちを乗せた小さな雲が浮かんでいた。


――雲の帽子をかぶった侍女が、驚いた顔で空を見上げていた。


そして、その中心にいたリリアは、エレナの腕の中で何も知らない赤ちゃんの顔をしていた。


「あう〜!」


(えへへぇ……。また、ふわふわ、だしゅのぉ!)


◆ ◆ ◆


### 穏やかな湖畔の夕暮れ


夕方。


湖面は夕焼けに染まり、オレンジ色の光が水面をゆっくりと揺らしていた。


リリアはエレナの腕の中で、うとうとしていた。


「今日はたくさん遊んだわね、リリア」


エレナが優しく声をかける。


「うー……」


リリアは眠たそうに目をこすった。


(ねむねむぅ……。でも、まんま……)


「ふふっ。夕ごはんの前に、少しミルクを飲みましょうね」


エレナはリリアを抱き直し、哺乳瓶を手渡した。


リリアは両手でしっかり持ち、こくこくと飲み始める。


ごくごく、ごくごく。


アレクはその様子を見て、笑った。


「今日も元気だなあ。明日もたくさん遊ぶつもりだろう?」


「きゃっ!」


リリアは哺乳瓶を抱えたまま、にこっと笑った。


(あちたも、あしょぶぅ……。どうぶちゅしゃん、いっぱい……)


ミルクを飲み終えたリリアは、エレナの胸に頬を寄せた。


やがて、小さな寝息が聞こえ始める。


「すぅ……すぅ……」


別荘のお庭では、動物たちが静かにリリアの部屋の窓辺を見上げていた。


小鳥は枝で羽を休め、白い猫は窓の下で丸くなる。


まるで、リリアの眠りを守っているようだった。


ポポとピピも、ベッドのそばにちょこんと座った。


「今日は楽しかったのだ」


ポポが小さな声で言う。


「うん。リリちゃん、いっぱい笑ってたね〜」


ピピも微笑んだ。


「これからも、リリちゃんと一緒に、みんなを守ろうね」


二匹は眠るリリアを見つめた。


その小さな寝顔には、何の不安もない。


けれど、遠く離れた王宮では――。


リリアの家族を襲った盗賊たちが、厳しい尋問を受けようとしていた。


そして、ヴィクトリアは、自分の陰謀が明るみに出るのではないかと、静かに焦り始めていた。


湖畔の穏やかな夜と、王宮に迫る暗い影。


二つの時間は、ゆっくりと交差しようとしていた。


◆◆◆


口を閉ざす盗賊たち! 王宮の尋問と第二夫人の焦り


美しい湖畔の別荘で、リリアが動物たちと穏やかな時間を過ごしていたころ。


王宮の地下では、冷たい石壁に囲まれた尋問室に、重苦しい空気が漂っていた。


皇帝一家の馬車を襲った盗賊たちが、騎士たちに取り囲まれていたのだ。


「もう一度聞く。誰の命令で皇帝陛下の馬車を襲った?」


騎士団長が厳しい声で尋ねた。


しかし、盗賊たちはうつむいたまま、何も答えなかった。


「金で雇われたのだろう。依頼人の名前を言え!」


沈黙。


騎士団長は眉をひそめた。


「黙っていれば罪が軽くなると思うな。皇帝陛下とご家族を襲ったのだぞ!」


それでも、誰一人として口を開こうとしない。


やがて騎士団長は、机を強く叩いた。


「最後の機会だ。誰に命じられた?」


盗賊の一人が、ゆっくりと顔を上げた。


「……知らねえよ」


「何?」


「俺たちは仕事を請け負っただけだ。依頼人のことなんか知らねえ」


「ふざけるな! そんな説明で済むと思っているのか!」


騎士団長の声が、地下室に響き渡った。


それでも盗賊たちは口を閉ざしたままだった。


彼らの表情には、恐怖と緊張が浮かんでいた。


まるで、誰かの名前を口にすることを、何よりも恐れているかのように。


◆ ◆ ◆


### 明かされない依頼人


尋問は長時間に及んだ。


盗賊たちは厳しく問い詰められ、抵抗する者には規則に従った厳しい取り調べが行われた。


しかし、どれほど問いただしても、黒幕の名前は出てこなかった。


「依頼人の顔は見たのか?」


「……知らねえ」


「連絡は誰が取った?」


「覚えていない」


「報酬は誰から受け取った?」


「答える必要はねえ」


騎士団長は深く息を吐いた。


「まったく……。何としてでも口を割らせたいところだが」


そばにいた騎士が、心配そうに尋ねた。


「団長、このままでは黒幕を突き止めることができません」


「分かっている。だが、証拠もないまま誰かを疑うわけにはいかん」


騎士団長は、尋問室の扉を見つめた。


「引き続き調査を続ける。盗賊たちが誰と接触していたのか、金の流れも調べろ」


「はっ!」


その後も取り調べは続いた。


だが、盗賊たちは最後まで何も話さなかった。


やがて騎士団長は、これ以上の尋問をいったん打ち切ることにした。


「こいつらを地下牢へ入れろ。監視を怠るな」


「承知しました!」


重い足音が響き、盗賊たちは地下牢へと連れていかれた。


ガシャン――。


鉄格子が閉じられる。


薄暗い牢屋の中で、盗賊たちは互いに顔を見合わせた。


「……これでいいんだな」


一人が小さくつぶやく。


別の男が、低い声で答えた。


「ああ。余計なことは話すな。誰の名前も出すんじゃない」


「だが、このままじゃ俺たちは……」


「黙れ!」


その一言で、再び沈黙が落ちた。


盗賊たちは牢屋に閉じ込められた。


彼らが何を恐れ、誰をかばっているのか。


その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。


◆ ◆ ◆


### 第二夫人ヴィクトリアの焦り


一方、王宮の奥にあるヴィクトリアの部屋。


豪華な調度品が並ぶ室内で、ヴィクトリアは侍女から報告を受けていた。


「第二夫人様。盗賊たちへの尋問が終わったそうです」


「それで……?」


ヴィクトリアは、手にしていた扇子をゆっくりと閉じた。


「何か話したの?」


「いいえ。誰一人として、依頼人について話さなかったそうです。現在は全員、地下牢に入れられています」


その言葉を聞いた瞬間、ヴィクトリアの肩からわずかに力が抜けた。


「そう……」


(よかった……。まだ、私の名前は出ていないのね)


彼女は平静を装い、紅茶を口に運んだ。


しかし、カップを持つ指先は小さく震えていた。


盗賊たちが口を閉ざしているのは、彼女にとって幸運だった。


けれど、安心することはできない。


皇帝アレクは、家族を襲った犯人を決して許さない人物だ。


盗賊たちが黙秘を続けたとしても、調査が終わるとは限らない。


「……騎士団は、まだ調査を続けているのでしょう?」


「はい。街道周辺で目撃者を探し、盗賊たちの金の流れも調べているそうです」


ヴィクトリアの顔から、笑みが消えた。


「金の流れ……?」


(まさか、報酬の出どころを調べるつもり……?)


彼女はカップを机に置いた。


カチャン、と小さな音が響く。


「……余計なことを」


侍女は不安そうにヴィクトリアを見つめた。


「第二夫人様、何かご心配でも?」


「いいえ。何でもないわ」


ヴィクトリアは、すぐにいつもの優雅な笑顔を作った。


「陛下も、きっとお疲れでしょう。第一夫人とリリア姫が無事だったのですから、今はそれを喜ぶべきね」


「おっしゃるとおりです」


侍女が頭を下げる。


しかし、ヴィクトリアの心は穏やかではなかった。


(エレナ……。あなたは、どうしていつも私の邪魔になるの?)


彼女の脳裏に、アレクがエレナとリリアを大切そうに抱きしめる姿が浮かんだ。


皇帝の信頼を得ている第一夫人。


誰からも愛される幼い王女。


そして、自分の娘アリア。


ヴィクトリアは扇子を強く握りしめた。


(まだ終わっていないわ。盗賊たちが何も話さない限り、私の陰謀は明らかにならない……)


そう自分に言い聞かせる。


けれど、胸の奥に生まれた不安は消えなかった。


「……しばらくは、何も動かないほうがよさそうね」


ヴィクトリアは窓の外を見つめた。


「焦って失敗するわけにはいかないもの」


彼女は再び微笑んだ。


その笑顔の裏で、焦りだけが静かに膨らんでいた。


◆ ◆ ◆


### 皇帝の決意


その夜、皇帝アレクは執務室で報告書に目を通していた。


机の上には、盗賊たちの尋問結果が置かれている。


「……結局、何も話さなかったか」


アレクは眉を寄せた。


「はい、陛下。厳しく問いただしましたが、依頼人については何も明かしませんでした」


騎士団長が頭を下げる。


アレクは静かに考え込んだ。


「単なる盗賊の仕業とは思えない。私の家族を狙った以上、背後に何者かがいる可能性は高い」


「私もそう考えております」


「引き続き調べろ。ただし、確かな証拠がないうちに誰かを疑うことは許さん」


「はっ!」


騎士団長が退出すると、アレクは椅子から立ち上がり、窓辺へ歩いた。


夜空には、いくつもの星が輝いていた。


「エレナ……リリア……」


家族の顔を思い浮かべ、アレクは目を伏せる。


「必ず守ってみせる」


その声には、皇帝としての決意と、父親としての強い愛情が込められていた。


しかし、彼はまだ知らない。


自分のすぐそばに、家族を陥れようとしている者がいることを。


そして、黒幕の正体を知るための手がかりが、思いもよらない場所に隠れていることも。


◆ ◆ ◆


### 湖畔の夜、赤ちゃん姫の夢


そのころ、別荘。


湖面には月の光が映り、夜風が木々の葉を静かに揺らしていた。


リリアはエレナの腕の中で、すやすやと眠っていた。


「あう……」


小さな手は、エレナの服をぎゅっと握っている。


「すぅ……すぅ……」


エレナは娘の寝顔を見つめ、優しく微笑んだ。


「楽しい夢を見ているのかしら」


リリアの枕元では、ポポとピピが小さく座っていた。


「今日は楽しかったのだ。湖もきれいだったし、おやつもおいしかったのだ!」


「ポポはおやつのことばっかり〜!」


ピピが小声で笑う。


「でも、リリちゃん、本当に楽しそうだったね」


二匹は、リリアの寝顔を見つめた。


そのとき、窓の外から小さな鳥の声が聞こえた。


『リリア様、おやすみなさい。また明日、遊びましょうね』


リリアは眠ったまま、ほんの少し口元を緩めた。


(んにゃぁ……。また、あしょぶぅ……)


ポポとピピは顔を見合わせ、そっと笑った。


別荘には、穏やかな夜が流れていた。


けれど、王宮の地下牢では盗賊たちが沈黙を守り、ヴィクトリアは自分の秘密が暴かれることを恐れていた。


誰も黒幕の正体を知らない。


誰も、まだ真実にはたどり着いていない。


それでも、リリアの周りでは、少しずつ運命が動き始めていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。