第56話 パパが倒れた! リリアの怒りが神界を揺るがす!
第56話 パパが倒れた! リリアの怒りが神界を揺るがす!
「小娘ぇぇぇっ! その光ごと、消し去ってやる!」
黒いドラゴンと化したローレン医師が、巨大な翼を広げた。
黒い魔力が天井を覆い、寝室の壁に不気味な紋様が浮かび上がる。
リリアは両手を前に突き出し、金色の魔法障壁を保っていた。
「そんなの、きかないもん!」
「ならば、これはどうだ!」
ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。
口の奥に、黒い炎とは違う紫黒色の光が集まっていく。
アテナが神界で叫んだ。
「いけません! あれは魔力を一点に集中させる攻撃です!」
ゼノも水晶に身を乗り出した。
「リリア、避けろ! 正面から受けるな!」
しかし、リリアはまだ気づいていなかった。
ローレン医師が狙っているのは、自分だけではないということに。
ドラゴンの黄色い目が、床に倒れているアレクを捉えた。
「陛下を守りながら、私と戦うつもりか? それならば……先に陛下を始末すればよい!」
「えっ!?」
リリアが振り返った瞬間、ドラゴンの口から紫黒色の光が放たれた。
その光は、リリアの魔法障壁を避けるように大きく弧を描き、アレクへと襲いかかった。
「ぱぱぁっ!!」
リリアは手を伸ばした。
「光の盾ぇっ!」
金色の光がアレクの前に生まれた。
だが、間に合わなかった。
紫黒色の光が盾の端をかすめ、アレクの身体に直撃した。
ドォォォンッ!!
寝室全体が激しく揺れた。
「ぐあああっ!」
アレクの身体が宙に浮き、床へと叩きつけられた。
「陛下!!」
リリアは叫んだ。
アレクは床に倒れたまま、動かなかった。
「ぱぱ……?」
リリアの声が震える。
「ぱぱぁ……おきてぇ……」
返事はない。
さっきまで聞こえていたアレクの呼吸も、今はわからなかった。
リリアは急いで駆け寄ろうとした。
しかし、ローレン医師が立ちはだかった。
「フハハハハ! これで邪魔者は一人減った!」
「……どいて」
リリアの声が、かすかに響いた。
「何だ?」
「どいてぇ……! ぱぱのところに、いかせて!」
ドラゴンは嘲笑した。
「嫌だと言ったらどうする? その小さな力で、私を倒せるとでも思っているのか?」
リリアは答えなかった。
ただ、床に倒れているアレクを見つめていた。
アレクは、いつも優しかった。
リリアがいたずらをしても、困ったように笑いながら抱き上げてくれた。
転びそうになれば手を差し伸べ、泣けば優しく頬を撫でてくれた。
「リリアは、私の大切な娘だよ」
そう言ってくれたこともあった。
その大好きなパパが、今、目の前で倒れている。
「……ぱぱ」
リリアの頬を、一筋の涙が流れた。
「ぱぱぁ……おめめ、あけてぇ……」
返事はない。
「やぁ……」
小さな声が漏れた。
「ぱぱ、いなくなっちゃ、やぁ……」
その瞬間。
リリアの身体から、金色の光があふれ出した。
最初は小さな輝きだった。
だが、次の瞬間には、寝室全体を包み込むほどの光になった。
ゴォォォォォッ!!
窓の外の雲が渦を巻き、皇宮の庭園に植えられた木々が一斉に揺れた。
床に散らばっていた破片が浮き上がり、金色の粒子へと変わっていく。
ローレン医師は、思わず後ずさった。
「な……何だ、この力は!?」
リリアはゆっくりと顔を上げた。
その瞳から、涙が消えたわけではない。
むしろ、涙を流したまま、瞳の奥で金色の炎が燃え上がっていた。
「……ぱぱを」
声が響く。
「ぱぱを、きずつけたの……だれ?」
ローレン医師は一瞬、言葉に詰まった。
「私だ。だからどうした?」
その答えを聞いた瞬間――。
リリアの表情が変わった。
いつものいたずらっ子の笑顔は、もうなかった。
「……ゆるさない」
金色の魔力が、爆発した。
バァァァァァン!!
衝撃波が寝室を駆け抜け、黒いドラゴンの巨体を壁際まで吹き飛ばした。
「ぐおおおっ!?」
ドラゴンの爪が床をえぐり、黒い鱗が何枚も剥がれ落ちた。
リリアはアレクの前に立ち、両腕を広げた。
その背中から、まばゆい光の翼が大きく広がる。
「もう……ぱぱには、さわらせない!」
その声は、幼い少女の声でありながら、神界の神々さえ震わせるほどの力を帯びていた。
神界では、ゼノが息をのんだ。
「こ、これは……リリアの神力が、限界を超えている!」
アテナは水晶に手をかざした。
「怒りによって、封じられていた力まで目覚めています……!」
オルフェの予言の水晶が、激しく揺れた。
「未来が……見えぬ! あまりにも大きな力が、運命そのものを覆い始めている!」
フィオナは涙を浮かべた。
「リリアちゃん……そんなに悲しまないで……!」
ゼノは唇を噛んだ。
「リリア……力に飲み込まれるな。お前の心まで、怒りに奪われてはいけない!」
だが、リリアには神様たちの声が届いているのかどうかもわからなかった。
彼女の目には、倒れたアレクと、目の前の黒いドラゴンしか映っていなかった。
「ぱぱを……かえして」
金色の光が、さらに強くなる。
「リリちゃんの、ぱぱを……かえしてぇぇぇっ!!」
神界一のいたずらっ子が、初めて本当の怒りを爆発させた。
そして、その怒りは、まだ始まったばかりだった。
第56話 パパが倒れた! リリアの怒りが神界を揺るがす!
「グオオオオオッ!!」
黒いドラゴンが、床を蹴って立ち上がった。
身体には金色の光によって刻まれた傷が残っている。
だが、ローレン医師はまだ倒れてはいなかった。
「小娘……よくも、この私に傷をつけたな!」
ドラゴンが翼を広げると、黒い魔力が天井いっぱいに広がった。
「貴様の力がどれほど強くとも、魔術のすべてを知っているわけではあるまい!」
床に黒い紋様が浮かび上がる。
その紋様から、何本もの黒い鎖が飛び出した。
「闇の拘束術!」
鎖が空を切り、リリアの手足へと襲いかかる。
リリアは避けなかった。
「じゃま……!」
両手を握りしめる。
パァァァッ!
金色の光が一気に広がり、黒い鎖を粉々に砕いた。
「なっ……!?」
ローレン医師は目を見開いた。
「私の拘束術を、一瞬で破壊しただと!?」
リリアは一歩、前へ進んだ。
その足が床につくたび、金色の光が波紋のように広がっていく。
「ぱぱを、きずつけた……」
もう一歩。
「ぱぱを、ころそうとした……」
さらに一歩。
「ぜったい……ゆるさない!」
リリアが手を振ると、空中に巨大な魔法陣が出現した。
幾重にも重なった金色の紋様が回転し、無数の光の剣を生み出す。
「神聖なる光よ! 悪しき魔術を打ち砕いて!」
光の剣が、一斉にドラゴンへ向かった。
「くっ! 防御魔術!」
ローレン医師は黒い鱗の前に魔法障壁を作り出した。
ドドドドドドッ!!
光の剣が次々と障壁へ突き刺さる。
一撃。
二撃。
三撃。
障壁に亀裂が走った。
「馬鹿な……! この防御は、並みの魔術では破れぬはずだ!」
「まだまだだよ!」
リリアが手を広げると、光の剣がさらに増えた。
ドラゴンの防御が、ついに砕け散る。
ガシャァァァン!!
「ぐおおおおっ!」
黒い巨体が吹き飛ばされた。
しかし、ローレン医師は空中で翼を羽ばたかせ、姿勢を立て直した。
「ならば、こちらも本気を出すまでだ!」
ドラゴンの口元に、再び黒い炎が集まった。
今度は先ほどよりも大きい。
炎の中心には、紫色の稲妻が走っていた。
「すべてを焼き尽くせ! 深淵の黒炎!」
黒い炎が放たれた。
リリアは両腕を交差させた。
「神聖結界!」
金色の障壁が生まれる。
だが、黒炎は障壁にぶつかると、表面を這うように広がり、光を飲み込もうとした。
ギギギギギ……!
結界がきしむ。
リリアの足元が床を滑った。
「くっ……!」
ローレン医師が叫ぶ。
「どうした、小娘! 先ほどの勢いはどこへ行った!?」
リリアは歯を食いしばった。
「まだ……まけない!」
「ならば、焼き尽くしてやる!」
黒炎がさらに膨れ上がる。
そのとき、白い馬のポポが前へ飛び出した。
「リリちゃん! ポポが支えるのだ!」
ポポの額の角が輝き、白銀の光がリリアの結界へ注がれる。
結界が再び強さを取り戻した。
続いて、ピンク色の大きなウサギのピピが、長い耳を空へ向けた。
「ピピも、がんばるよぉ!」
ピピの周囲に、巨大なピンク色の魔法陣が現れた。
「ふわふわ守護結界!」
柔らかな光がリリアとポポを包み、黒炎の侵食を食い止める。
「二人とも……ありがとう!」
リリアは一瞬だけ振り返った。
しかし、すぐにドラゴンへ向き直る。
「今度は、リリちゃんの番!」
彼女が両手を大きく広げると、黒炎を押し返すように金色の光が噴き上がった。
ドォォォォン!!
黒炎が弾け飛び、寝室の天井近くまで光が駆け上がる。
ローレン医師は目を覆った。
「ぐっ……目が……!」
その隙を、リリアは見逃さなかった。
「光の鎖よ!」
金色の鎖が四方から伸び、ドラゴンの前脚と後脚、そして翼へと巻きついた。
「なっ、また拘束術か!」
「これは、さっきのとはちがうよ!」
鎖に刻まれた神聖な紋様が、ひとつずつ輝き始める。
「あなたの魔術を、とめる鎖なの!」
ローレン医師は、全身から魔力を放出した。
「ふざけるな! 人間ごときが、この私の魔術を封じられるものか!」
黒い魔力が鎖へ流れ込む。
だが、今度は鎖が壊れなかった。
黒い魔力は金色の紋様に触れるたび、浄化されるように消えていく。
「なぜだ……! なぜ、魔力が使えない!?」
ドラゴンの身体が、激しく揺れた。
リリアは涙を浮かべたまま、静かに告げた。
「もう、おしまいだよ……」
そのとき、彼女の背後から、かすかな音が聞こえた。
「……リ……リア……」
リリアの身体が凍りついた。
振り返ると、床に倒れていたアレクの指が、わずかに動いていた。
「……ぱぱ?」
アレクの唇がかすかに動く。
だが、再び力を失い、目を閉じてしまった。
「ぱぱぁっ!」
リリアは駆け寄りたかった。
今すぐ抱きしめて、目を開けてと叫びたかった。
しかし、光の鎖に拘束されたドラゴンが、最後の力を振り絞って暴れ出した。
「まだだ……まだ終わっていないぞ!」
鎖に亀裂が走る。
「陛下を殺せば、貴様の力も無意味になる!」
ドラゴンが首を振り、黒い魔力をアレクへ向けた。
「させないっ!」
リリアはすぐに手を振り上げた。
金色の盾がアレクの身体を包み込む。
黒い魔力は盾にぶつかり、弾き返された。
だが、その間にドラゴンの鎖が一本、砕け散った。
ローレン医師は大きく翼を広げる。
「次こそ、貴様も陛下も終わりだ!」
神界では、神々が一斉に立ち上がった。
「リリア、気をつけろ!」
ゼノの声が水晶を揺らす。
アテナは必死に戦況を見つめ、オルフェは未来を探り続けていた。
フィオナは涙をこらえながら、祈るようにつぶやいた。
「お願い……リリアちゃんとアレクを、守って……!」
リリアは、アレクを守る盾を背に、再びドラゴンへ向き直った。
金色の瞳には、もう迷いはなかった。
「ぱぱは……リリちゃんが、ぜったい、まもる!」
彼女の全身から、再び神の光が立ち上る。
黒いドラゴンも、残された魔力をすべて解き放とうとしていた。
次の一撃で、決着がつくかもしれない。
それでも、リリアは一歩も退かなかった。
大好きなパパを守るために。
神界一のいたずらっ子は、最後まで戦うことを決めていた。




