第55話 黒いドラゴン襲来! 大人になったリリア、パパを守るために立ち上がる!
第55話 黒いドラゴン襲来! 大人になったリリア、パパを守るために立ち上がる!
深夜。
皇宮は静まり返り、窓の外では月が淡い光を放っていた。
アレクは一日の仕事を終え、寝室で深い眠りについていた。
寝室の外には護衛の兵士が立っている。廊下にも異常はなく、誰もがいつもどおりの夜だと思っていた。
しかし――。
皇宮の屋根よりも高い夜空に、黒い霧が渦巻いていた。
霧の中心で、一人の男が不気味な笑みを浮かべる。
ローレン医師だった。
「魔術が効かない。薬を使っても、あの金色の守りは消えなかった……」
彼の声は、夜の闇に吸い込まれていく。
「だが、私はまだ負けていない。陛下を直接仕留めればいいだけのことだ」
ローレン医師が両腕を広げた。
すると、周囲の空気が震え始めた。
ゴゴゴゴゴ……!
黒い魔力が彼の身体を包み込む。
「闇に眠る古き力よ! 我が身体に宿り、その真の姿を現せ!」
バキバキッ!
彼の背中から巨大な黒い翼が生え、腕は鋭い爪を持つ前脚へと変化していく。
身体はみるみる膨れ上がり、硬い黒い鱗が全身を覆った。
長い尾が空を薙ぎ、鋭い牙が月明かりに光る。
やがてそこに現れたのは、皇宮を丸ごと踏み潰せそうなほど巨大な黒いドラゴンだった。
「グオオオオオオッ!」
咆哮が夜空を震わせた。
ローレン医師は、もう人間の姿ではなかった。
彼は黒いドラゴンへと変身し、皇宮の屋根へ音もなく降り立った。
その爪が瓦を砕く。
だが、彼は気にしなかった。
狙いはただ一人。
皇帝アレク。
「今夜こそ、終わりにしてやる……!」
黒いドラゴンは翼を広げ、アレクの寝室へと向かった。
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その頃、リリアの寝室。
リリアは小さなベッドで眠っていた。
ポポは枕元で丸くなり、ピピはふわふわの毛布にくるまっている。
「むにゃ……おやちゅ……」
リリアが寝言をつぶやいた。
ポポも寝ぼけた声を出す。
「ポポの……おやつなのだ……」
「ピピも……たべりゅぅ……」
三人は、なんとも平和な夢を見ていた。
ところが――。
リリアの胸元にあるペンダントが、突然、強い光を放った。
ピカッ!
「……んぅ?」
リリアは目をこすった。
ペンダントの表面には、黒い翼を広げた巨大な影が映っていた。
そして、その影の向こうには、眠っているアレクの姿が見えた。
「……ぱぱ?」
リリアの眠気が一瞬で吹き飛んだ。
ペンダントが熱を帯びる。
次の瞬間、頭の中に恐ろしい光景が流れ込んできた。
黒いドラゴンが、アレクの寝室の窓を破ろうとしている。
アレクは眠ったまま、迫り来る危険に気づいていない。
「……ぱぱぁっ!」
リリアはベッドから飛び起きた。
その声に、ポポとピピも目を覚ました。
「な、なんなのだ!?」
「リリちゃん、どうしたのぉ?」
リリアは震える小さな指で、ペンダントを指した。
「ぱぱ、あぶないのぉ! くろいの、くるの!」
ポポとピピの表情が変わった。
二匹は、いつものふざけた様子を消した。
「……本当なのだな?」
リリアは何度も頷いた。
「ぱぱ、まもりゅの! いかなきゃ!」
その瞬間、ペンダントから神界の声が響いた。
『リリア! 聞こえるか!』
ゼノの声だった。
リリアは顔を上げた。
「ぜのしゃま!」
『黒い魔力が皇宮に近づいている。アレクの寝室が狙われているぞ!』
アテナの声が続く。
『相手は強力な魔術を使っています。決して油断してはいけません!』
オルフェが苦しそうに告げた。
『未来が乱れている……このままでは、アレクの命が危ない!』
フィオナの声は震えていた。
『リリアちゃん、お願い……パパを守って! でも、あなた自身も絶対に無茶をしないで!』
リリアは小さな拳を握りしめた。
いつものいたずらっ子の顔ではなかった。
「リリちゃん……ぱぱ、まもりゅ」
その声には、幼いながらも揺るぎない決意があった。
「ぜったい、まもりゅの!」
ゼノは一瞬、言葉を失った。
アテナは心配そうに目を伏せる。
「リリア……あなたはまだ幼いのに……」
だが、止めることはできなかった。
リリアがどれほどアレクを大切に思っているのか、神々は誰よりも知っていたからだ。
---
リリアはベッドから降り、部屋の中央に立った。
「ポポ、ピピ……おねがい」
ポポが立ち上がる。
「もちろん、リリちゃんを守るのだ!」
ピピも毛布を脱ぎ捨てた。
「ピピもいっしょ! リリちゃんとパパを守るのぉ!」
二匹の身体から、柔らかな光があふれ始めた。
ポポの身体が大きくなり、白い毛並みが月明かりのように輝く。
額には一本の美しい角が現れ、長い脚が床を踏みしめた。
そこに立っていたのは、神界から遣わされた白い馬だった。
「ヒヒィィン!」
一方、ピピの身体も大きく膨らんでいく。
ふわふわの毛並みは鮮やかなピンク色に輝き、長い耳がぴんと立った。
やがて、ピピはリリアを背中に乗せられるほどの、巨大なピンク色のウサギへと変身した。
「ピピ、準備できたよぉ!」
二匹は、神様の使いとしての本来の姿を現したのだ。
リリアは二匹を見上げた。
「ぽぽ、ぴぴ……かっこいぃ……!」
けれど、今は見とれている場合ではない。
リリアは両手を胸の前で合わせた。
「かみしゃまのちからよ……リリちゃんに、ちからをくだしゃい!」
まばゆい光が部屋いっぱいに広がった。
小さな身体が光に包まれ、髪がふわりと舞い上がる。
幼い手足がすらりと伸び、身体を包む衣服も、金色の刺繍が輝く白い戦闘用のドレスへと変わっていった。
背中には光の粒が集まり、透明な羽のような魔力の翼が現れる。
光が消えたとき、そこに立っていたのは――。
神の力を宿した、大人の姿のリリアだった。
長い髪が肩から流れ落ち、瞳には金色の光が宿っている。
その姿は美しく、そして、恐ろしいほどの力を感じさせた。
リリアは両手を握りしめた。
「……ぱぱを、まもる」
その声は、いつもの赤ちゃんの声ではなかった。
しかし、瞳の奥には、パパが大好きな小さなリリアの心が変わらず宿っていた。
神界では、ゼノが思わず立ち上がった。
「おお……リリアの神力が、これほどまでに……!」
アテナは驚きながらも、すぐに表情を引き締めた。
「力は十分です。でも、相手の魔術は未知の部分が多い。力任せに戦えば危険です」
オルフェは水晶を見つめ、震える声で告げた。
「二つの強大な力が、まもなくぶつかる……!」
フィオナは祈るように両手を握った。
「リリアちゃん……どうか、無事に帰ってきて……」
大人の姿になったリリアは、白い馬のポポと、巨大なピンク色のウサギのピピを従え、寝室の扉へと向かった。
そして、静かに顔を上げる。
「いくよ……!」
三人は夜の皇宮へと飛び出した。
その先では、黒いドラゴンがアレクの寝室へ迫っていた。
決戦の幕が、今まさに上がろうとしていた。
黒いドラゴンは、アレクの寝室の窓の前に降り立った。
巨大な爪が石造りの壁を引っかき、鋭い音を立てる。
「グルルル……」
黄色く光る目が、窓の向こうをのぞき込んだ。
ベッドでは、アレクが眠っていた。
ローレン医師は、ドラゴンの姿のまま口元を歪めた。
「陛下……お別れです」
黒い魔力が、ドラゴンの口元へ集まっていく。
次の瞬間、窓が吹き飛んだ。
ガシャァァァン!
破片が寝室の床に散らばる。
「グオオオオオオッ!」
黒いドラゴンが寝室へ侵入した。
その咆哮に、アレクが目を覚ます。
「なっ……何だ!?」
目の前にいたのは、巨大な黒い竜だった。
アレクはすぐにベッドから起き上がろうとした。
しかし、ドラゴンが尾を振り、床を叩きつけた。
ドゴォォン!
衝撃で家具が倒れ、アレクの身体が壁際へと吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
アレクは床に倒れた。
ドラゴンはゆっくりと近づいていく。
「終わりだ、陛下!」
その声を聞いたアレクは、目を見開いた。
「その声……ローレン医師か!?」
「そうです。もっとも、今の私を医師と呼ぶのは間違いですがね」
ドラゴンは大きな口を開いた。
黒い炎が喉の奥で燃え上がる。
「陛下には、ここで消えていただく!」
黒い炎が放たれた。
その瞬間――。
「させないっ!」
まばゆい光が寝室へ飛び込んだ。
ドォォォン!
黒い炎は、金色の魔法障壁にぶつかり、天井へと弾き返された。
寝室の中央に立っていたのは、大人の姿になったリリアだった。
その左右には、白い馬のポポと、巨大なピンク色のウサギのピピがいる。
リリアは片手を前に伸ばし、ドラゴンを睨みつけた。
「もう、やめて!」
ドラゴンは驚いたように頭をもたげた。
「何者だ、小娘!」
「リリア……」
床に倒れていたアレクが、かすれた声でつぶやいた。
だが、目の前の女性が自分の娘だとは、まだ気づいていない。
リリアは一瞬だけ、アレクを振り返った。
(ぱぱ……まっててね)
そして、再びドラゴンへ向き直る。
「あなたの、わるいこと……もう、おしまい!」
ローレン医師は、喉の奥で笑った。
「小娘が、私を止めるだと?」
黒い翼が大きく広がる。
「ならば、その身で思い知るがいい! 人間の魔法など、我が魔術の前では無力だ!」
「人間の魔法じゃないよ」
リリアの瞳が、金色に輝いた。
「これは、神様のちから!」
彼女が手を振り下ろすと、床に金色の魔法陣が広がった。
光の鎖が何本も飛び出し、ドラゴンの四肢へと絡みつく。
「なっ……!?」
ドラゴンは翼を羽ばたかせた。
バキバキバキッ!
黒い魔力が鎖を侵食し、光が砕け散る。
「フハハハハ! この程度か!」
ローレン医師が咆哮した。
黒い炎が、今度は四方八方へと放たれた。
「リリアちゃん、危ないのだ!」
ポポが前脚を踏み鳴らす。
白い光が床を走り、リリアの前に大きな盾を作り出した。
ドドドドドッ!
黒い炎が盾にぶつかり、激しい爆発が起きる。
ピピは長い耳を立て、魔力を集中させた。
「ピピの番だよぉ!」
巨大なピンク色の耳から、七色の光が放たれる。
光は空中で何十もの球体に分かれ、ドラゴンの周囲を取り囲んだ。
「いっくよぉ! ぴょんぴょん光弾!」
ピピが耳を振ると、光の球体が一斉にドラゴンへ飛んでいった。
ドドドドドォォン!
爆発が連続し、黒い鱗から煙が上がる。
「ぐおおおっ!」
ドラゴンが後退した。
「小動物ごときが……!」
「小動物じゃないのだ! 神様の使いなのだ!」
ポポは誇らしげに嘶いた。
「ポポにおまかせなのだ!」
「ピピもいるよぉ!」
二匹はリリアの左右を固めた。
しかし、ローレン医師も本気だった。
ドラゴンは大きく息を吸い込み、今度は黒い炎ではなく、漆黒の霧を吐き出した。
霧は床を這い、壁を伝い、寝室全体を包み込もうとする。
アテナの声が、リリアの心に響いた。
『リリア! その霧に触れてはいけません! 魔力を吸い取る性質があります!』
リリアはすぐに両手を広げた。
「光のかべ、ひろがれ!」
金色の光が床から立ち上がり、透明な壁となって霧を押し返す。
しかし、霧は壁に触れるたびに黒い紋様を浮かび上がらせ、じわじわと侵食していった。
「くっ……!」
リリアは歯を食いしばった。
「こんなの……ぜったい、通さない!」
彼女の足元から金色の光が広がり、魔法障壁がさらに厚くなる。
黒い霧と金色の光がぶつかり合い、寝室の空気が激しく震えた。
神界では、ゼノが水晶にかじりつくようにして叫んでいた。
「耐えろ、リリア! その霧に力を吸われるな!」
「ゼノ様、リリアの魔力が消耗しています!」
アテナが声を上げる。
オルフェは未来を見つめながら、顔を青ざめさせていた。
「このままでは……リリアの光が、黒い霧に飲み込まれる!」
フィオナは目に涙を浮かべた。
「お願い……リリアちゃん、負けないで……!」
寝室では、リリアが両手を震わせながら障壁を支えていた。
黒い霧が、少しずつ光を侵食している。
ドラゴンは勝ち誇ったように笑った。
「どうした、小娘! 神の力とやらも、この程度か!」
リリアは、倒れているアレクを見た。
アレクは苦しそうに息をしている。
その姿を見た瞬間、リリアの瞳に涙が浮かんだ。
(ぱぱ……)
小さな頃から、アレクはいつも優しく抱きしめてくれた。
転んだときには助けてくれた。
泣いたときには、何度も頭を撫でてくれた。
リリアがいたずらをしても、最後には笑って許してくれた。
そのパパが、今、目の前で倒れている。
「……ぱぱを、いじめないで」
リリアの声が、低く響いた。
「ぱぱは……リリちゃんの、だいしゅきな、ぱぱなの!」
金色の光が、彼女の身体からあふれ始めた。
障壁を侵食していた黒い霧が、押し戻されていく。
ドラゴンの笑みが消えた。
「何だ……この魔力は!?」
リリアは涙を拭った。
その瞳は、もはや揺らいでいなかった。
「ここからは……リリちゃんが、まもる!」
彼女が両手を広げると、金色の光が寝室全体を包み込んだ。
黒い霧が弾け飛び、ドラゴンの巨体が光に照らされる。
ポポとピピも、リリアの力に呼応して全身を輝かせた。
「リリちゃん、いくのだ!」
「一緒に戦うよぉ!」
ローレン医師は翼を広げ、怒りの咆哮を上げた。
「小娘ぇぇぇ! 貴様だけは、絶対に許さん!」
リリアは、金色の魔力を両手に集めた。
「わるいひとは……リリちゃんが、とめりゅ!」
黒いドラゴンと、神の力を宿した少女。
その二つの力が、再び激突しようとしていた。
神界の四柱の神々は、誰一人として水晶から目を離せなかった。
決戦は、まだ始まったばかりだった。




