第48話 パパにお菓子を届けたい!
第48話 パパにお菓子を届けたい!
リリア、お薬を渡す作戦!
神様たちから、魔法による危害を防ぐ不思議なお薬をもらったリリア。
見た目は、かわいらしい小さなお菓子。
けれど、そのお菓子には、パパを魔法から守る大切な力が込められていた。
リリアは、お菓子を両手で大事そうに抱えながら、ポポとピピに話しかけた。
「ぽぽ、ぴぴ。これ、ぱぱにあげりゅの!」
ポポは胸を張った。
「ポポにおまかせなのだ! パパのところまで、ポポが運ぶのだ!」
「ぽぽ、たべちゃだめぇ!」
リリアがじっと見つめると、ポポは慌てて首を横に振った。
「た、食べないのだ! ポポは大事な任務を任された、立派な魔法の生き物なのだ!」
ピピが、じーっとポポを見た。
「さっきから、お菓子をじーっと見てるよねぇ?」
「み、見てないのだ!」
「みてたぁ!」
リリアまで指をさしたので、ポポはしょんぼりとうつむいた。
「……ちょっとだけ、おいしそうだと思ったのだ」
「めぇっ!」
リリアはお菓子を胸にぎゅっと抱きしめた。
「これ、ぱぱの! だいじ、だいじ!」
「わかったのだ! 絶対に食べないのだ!」
ポポは今度こそ真面目な顔で約束した。
ピピも、リリアの頭をそっとなでた。
「だいじょうぶだよ、リリちゃん。いっしょにパパに届けようねぇ!」
「うんっ!」
リリアは、にこっと笑った。
ところが、いざパパのところへ行こうとすると、なかなかうまくいかなかった。
アレクは皇帝としての仕事で忙しく、執務室には何人もの文官や護衛が出入りしている。
リリアが近づこうとすると、侍女のミレが優しく声をかけた。
「リリア王女、陛下は今、お仕事中でございますよ」
「ぱぱぁ……」
リリアは執務室の扉を見つめた。
パパに会いたい。
そして、この大切なお菓子を渡したい。
でも、お仕事の邪魔はしたくない。
リリアは小さな手で、お菓子をぎゅっと握った。
「ぱぱ、いそがちいの……?」
ピピがそっと答えた。
「うん。でも、パパもリリちゃんに会いたいと思ってるはずだよ」
「ぱぱ、あいたい?」
「もちろんだと思うのだ!」
ポポも大きくうなずいた。
そのころ、執務室の中では、アレクが側近から報告を受けていた。
ローレン医師についての調査は、まだ続いている。
不審な点はあるものの、決定的な証拠は見つかっていなかった。
アレクは報告を聞き終えると、静かに告げた。
「引き続き、慎重に調べてくれ。疑わしいというだけで、誰かを罰するつもりはない」
「承知いたしました、陛下」
側近が退出すると、アレクは一度、机の上の書類から目を離した。
ふと、幼い娘の顔が頭に浮かぶ。
「リリアは、今ごろ何をしているだろうな……」
その声を聞く者はいなかった。
けれど、執務室の外では、リリアが小さな手で扉を指さしていた。
「ぱぱに、あいたいのぉ……」
ポポとピピは顔を見合わせた。
どうすれば、パパのお仕事を邪魔せずに、お菓子を渡せるだろう?
二匹は一生懸命に考え始めた。
第48話 パパにお菓子を届けたい!
パパの手に渡った小さなお菓子
しばらくして、執務室の扉が開いた。
側近たちとの話を終えたアレクが、廊下へ出てきたのだ。
その姿を見つけたリリアの顔が、ぱあっと明るくなった。
「ぱぱぁ!」
小さな足で、とことこと駆け寄ろうとする。
「リリア!」
アレクはすぐに膝をつき、両腕を広げた。
リリアはその胸に飛び込んだ。
「ぱぱぁ! だいしゅきぃ!」
「ははっ、私もリリアが大好きだよ」
アレクは娘を抱き上げ、頬を寄せた。
リリアは嬉しそうに笑ったあと、思い出したように両手を差し出した。
その手の中には、小さなお菓子があった。
「ぱぱ、これぇ!」
「おや? これは何かな?」
「おかち! ぱぱに、あげりゅの!」
アレクは目を細めた。
「私にくれるのか?」
「うんっ! ぱぱ、たべてぇ!」
リリアは一生懸命にうなずいた。
アレクは、娘が自分のために何かを持ってきてくれたことが嬉しかった。
「ありがとう、リリア。大切にいただくよ」
アレクは小さなお菓子を受け取り、口にした。
リリアは、じーっとパパの顔を見つめていた。
「……おいち?」
「ああ、おいしいよ。リリアからの贈り物だからね」
その言葉を聞いた瞬間、リリアの顔がぱっと輝いた。
「えへへぇ!」
ポポとピピも、そばでほっと胸をなで下ろした。
「作戦成功なのだ!」
「よかったねぇ、リリちゃん!」
リリアはアレクの胸に頬をすり寄せた。
「ぱぱ、げんき、げんきぃ!」
「もちろんだ。リリアがいてくれるからな」
アレクは娘を抱きしめ、優しく頭をなでた。
リリアは安心した。
これで、パパを魔法から守るためのお薬を渡せた。
けれど、リリアはまだ知らない。
パパを狙う者たちの計画が、少しずつ進んでいることを。
そして、魔法を防ぐお薬だけでは、すべての危険を防げるわけではないことを。
そのころ、ヴィクトリアの部屋では、彼女が落ち着かない様子で窓の外を見ていた。
先日、仮面の男から伝えられた命令が、頭から離れない。
皇帝アレクの暗殺。
その実行時期は、まだ知らされていなかった。
ヴィクトリアは扇を握りしめた。
「……いったい、いつになれば次の知らせが来るの?」
彼女の問いに答える者はいない。
ヴィクトリアは、背後に控える侍女に気づかれないよう、表情を整えた。
今は、何事もないように振る舞わなければならない。
一方、皇帝の腕の中では、リリアが満足そうに笑っていた。
「ぱぱ、だいしゅきぃ……」
「私もだよ、リリア」
アレクは娘の額に優しく口づけた。
小さな赤ちゃんが渡した、ひとつのお菓子。
それが父親を守るためのものだとは、アレクは知らない。
そして、リリアもまだ、これから訪れる危機のすべてを知っているわけではなかった。
それでも――。
(リリちゃん、ぱぱ、まもりゅの!)
リリアは、パパの胸にぎゅっとしがみついた。
小さな王女の、誰にも知られていない戦いは続いていく。




