第45話 預言者に変身!……のはずが、神様になっちゃった!?
第45話 預言者に変身!……のはずが、神様になっちゃった!?
リリアの部屋。
リリアはベッドの上にちょこんと座り、ポポとピピを見上げていた。
「ぽぽ、ぴぴ! きょうは、おちごとなの!」
「お仕事なのだ?」
ポポは、口いっぱいにおやつを頬張りながら首をかしげた。
「おやちゅ、たべてからでもいい?」
「だめぇ!」
リリアは、ぷくっと頬を膨らませた。
「ぱぱに、おちえにいくの! おうきゅうに、まじゅちゅちがいるって!」
昨夜、リリアは魔法でパパに夢を見せた。
夢の中には、黒い魔法を使うローレン医師の姿があった。けれど、夢だけではパパも確信を持てないはずだ。
だから今度は、以前のように謎の預言者に変身して、直接伝えに行くことにしたのだ。
「なるほどなのだ!」
ポポは食べかけのおやつを置き、胸を張った。
「預言者に変身するなら、ポポとピピの変身魔法におまかせなのだ!」
「ピピもいっしょにやる〜!」
「じゃあ、へんしんしてぇ!」
リリアが両手をぱっと広げた。
ところが――。
「その前に、ちょっと練習するのだ!」
「れんしゅう?」
「そうなのだ! 魔法は練習が大事なのだ!」
ポポは、なぜか得意げだった。
「まずは、アリア王女に変身してみるのだ!」
「いいねぇ〜! ピピもやる〜!」
二匹が同時に魔法を唱えると、ぽんっ! と小さな煙が上がった。
煙が消えたあと、そこに立っていたのは――。
アリア王女そっくりの女の子が二人!
「わぁ! ありあおうじょが、ふたりぃ!」
リリアは目をきらきらさせた。
「リリちゃん、どっちがポポでしょう?」
「こっちなのだ!」
「ちがうよ〜! こっちがポポで、こっちがピピだよ〜!」
二人はアリア王女の姿のまま、互いを指さして言い合った。
「ふたりとも、ありあおうじょなのぉ?」
「そうなのだ!」
「そっくりでしょ〜!」
「すごぉい!」
リリアは大喜びで、二人の周りをよちよち歩いた。
「ありあ、おふたりぃ! いっしょに、あしょぼぉ!」
「わ〜い!」
「……いや、遊んでいる場合ではないのだ!」
ポポが、はっと我に返った。
「今日は預言者に変身するのだ!」
「そうだったぁ!」
二匹は慌てて魔法を解いた。
「今度こそ、預言者なのだ!」
「神秘的で、かっこいい預言者になるよ〜!」
二匹は目を閉じ、力いっぱい魔法を唱えた。
ぽわわわんっ!
部屋いっぱいに光が広がる。
そして、光が消えると――。
「ふはははは! 我こそは、神々の王ゼウスである!」
立派な髭を生やした神様が、二人並んで立っていた。
「…………ふにゃ?」
リリアは、ぽかんと口を開けた。
「ぽぽ……ぴぴ……?」
「な、なんなのだ、これは!?」
「預言者じゃないよ〜! ゼウス様になっちゃった〜!」
二匹は慌てて自分の姿を確かめた。
しかし、立派な髭を見たポポは、ちょっとうれしそうだった。
「ふむ……この髭、なかなか立派なのだ」
「ほんとだぁ! ふわふわ〜!」
ピピまで髭をなで始めた。
「ぽぽ、ぴぴ、じいじみたいぃ!」
「誰がじいじなのだ!?」
「ピピは、まだ若いよ〜!」
「ぴぴも、ぽぽも、ちがうのぉ!」
リリアは、けらけらと笑った。
そのまま三人は、しばらく変身魔法で遊んでしまった。
アリア王女が二人になったり、ゼウスが二人になったり。
しまいには、ポポが自分の長い髭を踏んで、転びそうになった。
「わわわっ! 危ないのだ!」
「ぽぽ、どんくしゃい〜!」
「ピピだって同じ姿なのだ!」
リリアは、お腹を抱えて笑った。
「きゃはははっ! おもちろぉい!」
けれど、ふと大事なことを思い出した。
「……あっ!」
リリアの笑顔が、ぴたりと止まった。
「ぱぱに、おちえにいくんだったぁ!」
「そうなのだ!」
「遊んでる場合じゃないよ〜!」
三人は、ようやく真面目な顔になった。
「今度こそ、絶対に成功させるのだ!」
「ピピも、集中する〜!」
二匹はもう一度、魔法を唱えた。
ぽわんっ!
今度は失敗しなかった。
そこに現れたのは、以前アレクの前に姿を見せた、謎の預言者だった。
「できたぁ!」
リリアは満足そうに頷いた。
「これで、ぱぱに、おちえられりゅの!」
「よし、出発なのだ!」
「リリちゃん、今度はちゃんと預言者らしくするんだよ〜?」
「うん! リリ、いいこだもん!」
ポポとピピは、少し不安そうに顔を見合わせた。
こうしてリリアは、再び謎の預言者となり、パパのもとへ向かったのだった。
その頃、皇帝アレクは執務室で考え込んでいた。
頭から離れないのは、昨夜見た不思議な夢だった。
夢の中では、ローレン医師が黒い魔法を使っていた。
そして、その魔法は、牢の中で命を落とした盗賊たちに関係しているように見えた。
「……ローレン医師か」
アレクは、これまでの出来事を振り返った。
ローレン医師は、アリア王女の診断を担当していた。
だが、アリア王女の体調や心の状態についての報告には、以前から気になる点があった。
とくに、アリア王女がリリアを怖がっているという話だ。
アレクは、リリアとアリア王女が一緒に過ごしている様子を何度も見てきた。
アリア王女は、リリアに笑顔を向けていた。
それなのに、ローレン医師の報告では、アリア王女はリリアを怖がり、精神的にも不安定になっているという。
「どうにも、話が合わない……」
アレクは眉をひそめた。
もし、ローレン医師が意図的に事実と異なる診断をしていたのなら、何のためだろうか。
そして、もう一つ気になることがあった。
第二夫人ヴィクトリアとの関係だ。
「ローレン医師は、ヴィクトリアと何かつながりがあるのではないか……?」
まだ確かな証拠はない。
しかし、アリア王女に関する不自然な報告と、盗賊たちが魔法で口封じされた可能性。
それらが無関係だとは、どうしても思えなかった。
「だが、夢だけでは何の証拠にもならない」
アレクは静かに息を吐いた。
「ローレンが魔術師なのか、盗賊たちの死に関わっているのか。そして、ヴィクトリアとつながっているのか……。すべて、証拠をつかまなければ」
そのときだった。
部屋の中に、淡い光が現れた。
「……誰だ?」
アレクが顔を上げると、光の中から謎の預言者が姿を現した。
「また、あなたか」
アレクは驚きながらも、相手をまっすぐ見つめた。
「今度は何を伝えに来た?」
預言者は、静かに告げた。
「皇帝陛下。宮殿には、魔術を操る者が潜んでおります」
「やはり……宮殿に魔術師がいるのか」
「はい。その者が何を企んでいるのか、まだすべては分かりません。ですが、陛下の身近に危険が迫っている可能性がございます」
アレクの表情が引き締まった。
「その魔術師の正体を知っているのか?」
「確かなことを申し上げるには、さらなる調査が必要です」
預言者は、慎重に答えた。
アレクはしばらく考えたあと、口を開いた。
「ならば、あなたに頼みたいことがある」
「……何でしょうか?」
「宮殿に潜む魔術師について、証拠を集めてほしい。誰が魔法を使っているのか。盗賊たちの死と関係があるのか。そして、第二夫人とつながっているのか。それを確かめたい」
預言者は黙って耳を傾けた。
「私は、夢で見たことだけで誰かを罪人にするつもりはない。だが、もし宮殿に危険な魔術師がいるのなら、放置するわけにもいかない」
アレクの声には、皇帝としての強い決意が込められていた。
「どうか、真実をつかむ手助けをしてほしい」
預言者は静かに頷いた。
「……承知いたしました。必ず、真実につながる手がかりを探しましょう」
「頼んだぞ」
アレクは、預言者をじっと見つめた。
「あなたには、何度も助けられている。だが、なぜそこまで私たちを助けてくれるのだ?」
預言者は一瞬、言葉に詰まった。
その正体は、まだ一歳のリリアなのだ。
本当のことを話すわけにはいかない。
「……守るべき人々がいるからです」
預言者は、静かに答えた。
アレクはそれ以上、追及しなかった。
「分かった。くれぐれも気をつけてくれ」
「はい」
預言者は一礼すると、淡い光に包まれて姿を消した。
* * *
リリアの部屋に戻ると、ポポとピピが待っていた。
「リリちゃん、どうだった〜?」
「ぱぱに、おちえたの!」
リリアは、にこにこしながら両手を広げた。
「ぱぱ、まじゅちゅちの、しょうこを、あちゅめてって!」
「えっ!? 証拠を集めるように頼まれたのだ!?」
「そうなのぉ!」
ポポは、うれしそうに胸を張った。
「さすがリリちゃん! ポポたちの活躍が役に立ったのだ!」
「……でも、証拠を集めるって、どうするの〜?」
ピピが首をかしげた。
「うにゅ?」
リリアも首をかしげた。
パパに頼まれたのは、魔術師の証拠を集めること。
でも、勝手に魔法を使えば、また神様たちに叱られてしまう。
「……かみしゃまに、そうだんしゅるの」
リリアは、胸元のペンダントをぎゅっと握った。
すると、ペンダントが、ぴかりと光った。
『リリア。今度は、きちんと相談するつもりですね?』
ゼノの声が聞こえた。
「うん! リリ、ぱぱに、おねがいしゃれたの。まじゅちゅちの、しょうこを、あちゅめてって!」
『なるほど……。ですが、証拠を集める際にも、決して無理をしてはいけません』
アテナが念を押した。
『夢で見たことだけでは、ローレン医師が犯人だとは限りません。誰が盗賊たちを殺したのか、誰が命じたのかも、まだ分かっていないのです』
「うん……。リリ、ちゃんと、たしかめりゅの」
『よろしい。これからは、私たちと相談しながら進めましょう』
リリアは、ほっとしたように笑った。
「ぱぱも、ままも、みんな、まもりゅの!」
その言葉に、ポポとピピも頷いた。
「ポポにおまかせなのだ!」
「ピピもいっしょにやる〜!」
ただし、今度こそ変身魔法で遊び始めないようにしなければならない。
……もっとも、ポポとピピがそれを守れるかどうかは、まだ分からないのだった。
宮殿に潜む魔術師は誰なのか。
ローレン医師とヴィクトリアの間には、本当に秘密があるのか。
そして、盗賊たちを口封じした者は誰なのか。
リリアとアレクは、それぞれの方法で、少しずつ真実へ近づこうとしていた。




