第44話 パパの夢に潜入!? リリアの秘密のお知らせ
第44話 パパの夢に潜入!? リリアの秘密のお知らせ
夜もすっかり更けたころ。
リリアは自分のお部屋のベッドで、毛布をぎゅっと握りしめていた。
「ぱぱぁ……まだ、ねんねちないのぉ……?」
隣では、ポポとピピが小声で話している。
「さっき寝室に向かったのだから、もうすぐ眠るはずなのだ」
「リリちゃんも、もう眠くてふらふらだよぉ」
「ねむくにゃいもん……!」
そう言いながら、リリアはふぁぁっと大きなあくびをした。
「リリちゃん、目がとろとろなのだ」
「とろとろじゃにゃいもん……」
リリアはむにゃむにゃと答えた。
そのとき、胸元のペンダントが、ぽうっと優しく光った。
リリアはぱちっと目を開けた。
「……あっ! ぱぱ!」
水晶の中に、寝室へ入ったアレクの姿が映っていた。
アレクは侍従を下がらせ、上着を脱いでベッドに腰を下ろした。しばらく考えごとをしていたが、やがて横になり、静かに目を閉じた。
「ぱぱ、ねんねちたぁ!」
リリアは、思わずベッドから起き上がった。
「よぉし! ゆめで、おちえるのぉ!」
「リリちゃん、落ち着いてぇ。何を見せるか、ちゃんと考えようね」
ピピがそっと声をかける。
「ローレル医師が、お部屋で怖い魔術を使っていたところを見せるのだ!」
ポポも真剣な顔でうなずいた。
リリアはペンダントを両手で包んだ。
「ろーれゆせんせぇ、くろいまほう、ちてたのぉ……。ぱぱ、しらないのぉ……」
小さな胸が、きゅっと痛くなる。
パパは毎日、みんなを守るために一生懸命お仕事をしている。
そんなパパが、危険な魔術師の正体を知らずにいるなんて。
「リリちゃんが、おちえてあげりゅ!」
リリアは目を閉じ、ペンダントに魔力を込めた。
ふわり。
淡い光がリリアの周りに広がり、やがて細い光の糸となって、遠く離れたアレクの寝室へと伸びていった。
「わぁ……!」
ピピが息をのむ。
「パパの夢につながったのだ!」
ポポは声を上げそうになり、慌てて自分の口を押さえた。
リリアは小さな手をぎゅっと握る。
「ぱぱぁ……。リリのおはなし、きいてねぇ……」
そのころ、アレクは夢の中にいた。
見知らぬ部屋に立っている。
机の上には薬瓶が並び、床には不気味な道具が置かれていた。
「ここは……どこだ?」
アレクが周囲を見回すと、部屋の奥に一人の男がいた。
ローレル医師だった。
ローレル医師は扉に鍵をかけ、誰もいないことを確認してから、黒い布に包まれた道具を取り出した。
そして、床に置かれた道具の周囲に、黒い光がにじみ始めた。
「これは……!」
アレクは息をのんだ。
ローレル医師の口から、聞いたことのない呪文が漏れる。
黒い光が渦を巻き、部屋の空気が重くなる。
やがて、ローレル医師は低い声でつぶやいた。
「これで、あの盗賊たちも二度と口を開けまい……」
アレクの表情が凍りついた。
「盗賊たちだと!?」
ローレル医師の手元から黒い光が伸び、遠くの牢へ向かっていく。
その光景を見た瞬間、アレクは目を見開いた。
――盗賊たちが殺された夜。
牢には厳重な警備が敷かれていた。刃物も毒物も見つからず、説明できない魔力の痕跡だけが残されていた。
もし、この夢が何かを示しているのなら……。
「ローレル医師、お前はいったい何者なのだ……?」
アレクが一歩踏み出した、その瞬間。
夢の景色が、さらに深い闇へと変わった。
夢の中。
アレクは、ローレル医師の姿を見つめていた。
黒い光は、まるで生き物のように床を這い、暗闇の中へと消えていく。
「これが……盗賊たちを殺した魔術なのか?」
アレクが問いかけても、夢の中のローレル医師は答えない。
ただ、冷たい声でつぶやいた。
「余計なことを話す者は、消えてもらう」
その言葉とともに、景色が切り替わった。
牢の中で倒れている盗賊たち。
外には警備の兵士たち。
そして、誰も近づいていないはずの牢の中に、黒い光が差し込んでいた。
アレクは拳を握りしめた。
「やはり、普通の方法で殺されたのではなかったのか……!」
だが、次の瞬間、夢の映像は揺らぎ始めた。
ローレル医師の顔がぼやけ、黒い光も霧のように薄れていく。
アレクは手を伸ばした。
「待て! もっと見せろ!」
けれど、夢はそこで途切れた。
アレクは、はっと目を覚ました。
寝室は静まり返っている。
窓の外はまだ暗く、朝には早い時間だった。
「……夢、か」
アレクは額に手を当てた。
あまりにも鮮明な夢だった。
ローレル医師が黒い魔術を使っていたこと。
盗賊たちの死について口にしたこと。
そして、黒い光が牢へ伸びていったこと。
「なぜ、私はこんな夢を……?」
しばらく考えたあと、アレクはゆっくりと息を吐いた。
夢だけで誰かを犯人と決めつけることはできない。
だが、これまで調べてきた事実と、あまりにも気になる内容だった。
「……確認する価値はある」
アレクは寝台から起き上がると、そばの呼び鈴を鳴らした。
やがて、侍従が静かに入室する。
「陛下、いかがなさいましたか?」
「朝になったら、指揮官を呼んでくれ。ローレル医師の過去の勤務記録について、追加の確認を行う。それから、盗賊たちが殺された夜の記録をもう一度調べたい」
「承知いたしました」
「ただし、ローレル医師本人には悟らせないように。まだ、確かな証拠はないからな」
侍従が退室すると、アレクは窓の外を見つめた。
「もし、お前が本当に何かを隠しているのなら……必ず真実を明らかにする」
一方、そのころ。
リリアの寝室では、リリアが毛布の中で丸くなっていた。
「ふにゃぁ……。ぱぱ、みたぁ……?」
ポポが水晶をのぞき込む。
「パパは夢から覚めたようなのだ!」
ピピもほっと胸をなでおろした。
「リリちゃん、うまく伝わったかなぁ?」
リリアは眠そうな目をこすった。
「ぱぱ……ろーれゆせんせぇ、しらべりゅ……?」
二匹は顔を見合わせた。
「きっと、もう一度調べるのだ!」
「そうだといいねぇ」
リリアは安心したように、にこっと笑った。
「えへへぇ……。ぱぱ、がんばれぇ……」
そのまま、すうすうと寝息を立て始める。
ポポはリリアに毛布をかけ直した。
「まったく、リリアはパパのことになると一生懸命なのだ」
「でも、神様に相談するのを忘れちゃったよぉ……」
ピピが苦笑する。
その瞬間、リリアの胸元のペンダントが、ちかっと光った。
『……リリア?』
ゼノの声だった。
『まさか、もう何かしたのではあるまいな?』
ポポとピピは、同時にびくっと飛び上がった。
「か、神様!?」
「えっとぉ……そのぉ……」
二匹が言葉に詰まっていると、ゼノの声がさらに大きくなった。
『その反応は、何かしたのじゃなーっ!?』
けれど、リリアはもう夢の中。
「ぱぱぁ……だいしゅきぃ……」
幸せそうに寝言を言っている。
ポポとピピは、そっとペンダントを見つめた。
「……神様、明日の朝まで待ってほしいのだ」
「リリちゃんが起きたら、ちゃんとお話ししようねぇ……」
神界では、きっとまた大騒ぎになる。
そして王宮では、アレクがローレル医師について、さらに詳しい調査を始めようとしていた。
夢は証拠にはならない。
それでも、真実を探るための新たなきっかけにはなった。




