第43話 パパに教えたい! ピピとポポの作戦会議
第43話 パパに教えたい! ピピとポポの作戦会議
王宮の庭。
リリアはベンチにちょこんと座り、神様からもらったペンダントを両手で握っていた。
「う〜ん……。ぱぱに、どうやっておちえるのぉ?」
ローレル医師が恐ろしい魔術を使っていたこと。
盗賊たちの暗殺にも関わっているように見えたこと。
リリアは早くパパに教えてあげたかった。
でも、リリアが魔法を使えることは、誰にも知られてはいけない。
「リリちゃん、そんなに悩まなくてもいいんじゃない?」
ピピが、リリアの隣にぴょこんと座った。
「ピピ、いいこと思いついたよぉ!」
「ほんとぉ?」
リリアの目が、ぱあっと輝いた。
「うん! パパに、夢で教えてあげたらどうかなぁ?」
「ゆめぇ?」
「そう! パパが眠っているときに、リリちゃんが見たものを夢の中で見せてあげるの。そうしたら、リリちゃんが魔法を使ったって気づかれないでしょ?」
ピピは得意げに胸を張った。
「パパは夢を見ただけだと思うかもしれないけど、ローレル医師のことが気になって、もっと調べてくれるかもしれないよぉ!」
「ゆめで……ぱぱに、おちえるのぉ!」
リリアは両手をぱちぱち叩いた。
「ぴぴ、あちゃまいいねぇ!」
「えへへぇ! ピピにおまかせ〜!」
ところが、話を聞いていたポポが、ふわふわの体を揺らしながら割り込んできた。
「待つのだ! それより、もっと早い方法があるのだ!」
「ぽぽぉ?」
「リリアがまた預言者に変身するのだ! そして、パパに『宮殿に恐ろしい魔術師がいる』と教えるのだ!」
ポポは前足をぴんと立てた。
「そうすれば、パパはすぐに調査を進められるのだ! 夢なんか待つ必要はないのだ!」
「えぇ〜?」
ピピが首をかしげた。
「でもぉ、前に預言者としてパパに会ったときみたいに、また急に現れたら怪しまれないかなぁ?」
「大丈夫なのだ! 預言者は謎めいているものなのだ!」
「ぽぽ、ほんとぉ?」
「……たぶん、なのだ!」
「たぶんなんだぁ……」
ピピがじとっとした目でポポを見た。
リリアは二匹の顔を交互に見つめた。
「ゆめで、おちえるのぉ……?」
「そうだよぉ!」
「預言者になって教えるのだ!」
「ゆめぇ……?」
「預言者なのだ!」
「ゆめぇ……?」
「預言者なのだ!」
「うにゅにゅにゅ〜!」
リリアはとうとう頭を抱えた。
「わかんにゃいよぉ〜!」
ポポとピピは、はっと顔を見合わせた。
「リリちゃんを困らせちゃったねぇ」
「うむ……作戦会議が失敗なのだ……」
二匹がしょんぼりした、そのとき。
リリアは、ぱっと顔を上げた。
「わかったぁ!」
「「えっ!?」」
ポポとピピが同時に声を上げる。
リリアは満面の笑みで宣言した。
「どっちも、しゅるぅ!」
「ど、どっちも!?」
「うんっ! ゆめで、おちえるのぉ! それから、よげんしゃしゃんにも、なるのぉ!」
ポポは目を丸くし、ピピは口をぽかんと開けた。
「リリちゃん……両方やるの?」
「うんっ! ぱぱ、いっぱいおちえてあげりゅの!」
リリアは得意げに胸を張った。
「えへへぇ! リリちゃん、あちゃまいいのぉ!」
「リリちゃん、それは頭がいいというより……」
ピピが言いかけたところで、ポポが大きくうなずいた。
「さすがリリアなのだ! ポポの作戦もピピの作戦も、両方採用なのだ!」
「ポポ、すぐ調子にのりゅのぉ!」
「な、なんなのだ!?」
三人の笑い声が、庭に響いた。
しかし、リリアは一つ大事なことを忘れていた。
神様たちから、どうやってパパに伝えるかは、相談してから決めるように言われていたのだ。
けれど、今のリリアの頭の中は、パパに教えてあげることでいっぱいだった。
「よぉし! まずは、ゆめのじゅんびぃ!」
リリアは、両手をぱんっと叩いた。
「ぱぱがねんねしゅるの、まちゅのぉ!」
ポポとピピは顔を見合わせた。
「……神様に相談するの、忘れてない?」
ピピが小声で尋ねた。
「……リリアは、もう忘れている気がするのだ」
ポポも小声で答えた。
その予想は、見事に当たっていた。
リリアはもう、パパが眠る時間を考え始めていたのだった。
その日の夕方。
リリアはエレナと一緒に夕食をとり、ミレに着替えを手伝ってもらっていた。
「リリちゃん、今日はもうお休みしましょうね」
ミレが寝室のカーテンを整える。
「やぁ〜! まだ、ねんねしにゃいのぉ!」
リリアはぷくっと頬をふくらませた。
「まあ、どうしたの? いつもなら、もう眠そうなのに」
「リリちゃん、まだあしょぶぅ!」
もちろん、本当の理由は別にあった。
パパが眠るのを待って、夢の中でローレル医師の秘密を教えるつもりだったのだ。
「困ったお姫様ですね」
ミレはくすくす笑いながら、リリアをベッドに寝かせた。
「では、眠くなるまで絵本を読みましょうか?」
「えほん、みりゅぅ!」
リリアは元気よく答えた。
もちろん、絵本の文字を読むことはできない。
ミレがページをめくるたび、描かれた動物を指さして楽しんでいた。
「うしゃしゃん!」
「そうね。うさぎさんね」
「くましゃん!」
「こちらは、くまさんですよ」
「ぽぽみたぁい!」
ベッドの陰で聞いていたポポが、ぴくっと動いた。
「ポポは、くまではないのだ!」
ピピが慌ててポポを押さえた。
「しーっ! ミレさんに聞こえちゃうよぉ!」
二匹は、リリアの寝室にこっそり隠れていた。
ミレが部屋を出ていくと、リリアはすぐに二匹を呼んだ。
「ぽぽ、ぴぴぃ! ぱぱ、まだぁ?」
「まだ夕食の後の仕事をしているみたいなのだ」
ポポが扉の隙間から廊下を確認する。
「じゃあ、リリちゃんもねんねしないで待つの?」
ピピが尋ねた。
「うんっ! ぱぱがねんねしゅるまで、まちゅのぉ!」
「でも、リリちゃんが先に眠っちゃったらどうするの?」
「ねむくないもん!」
そう言った直後、リリアは大きなあくびをした。
「ふぁぁ〜……」
ポポとピピは、じっとリリアを見つめた。
「……眠そうなのだ」
「ぜんぜん、ねむくにゃいもん……」
リリアのまぶたが、とろんと下がる。
「リリちゃん、無理しないでねぇ」
ピピが毛布をかけてあげた。
リリアは、はっと目を開いた。
「だめぇ! ぱぱに、おちえるのぉ!」
そのころ、皇帝の執務室では、アレクが最後の報告書を確認していた。
「ローレル医師の過去の勤務先について、引き続き照会を進めてくれ。記録が途切れている期間を、別の資料でも確認したい」
「承知いたしました」
指揮官が一礼する。
「それから、盗賊たちが暗殺された夜の記録も、もう一度確認してほしい。医師たちがどこにいたのか、出入りの記録と照らし合わせるんだ」
「かしこまりました」
指揮官が退室すると、アレクは椅子に深く腰かけた。
「ローレル医師……お前は何を隠している?」
もちろん、まだ確かな証拠はない。
それでも、経歴の不自然な空白と、盗賊たちの不可解な死。
アレクは、その二つを結びつける手がかりを探し続けていた。
やがて夜が更け、アレクはようやく執務室を出た。
寝室へ向かう廊下で、侍従が声をかける。
「陛下、本日はもうお休みになられますか?」
「ああ。明日も早いからな」
その知らせがリリアに届くはずもなかったが、リリアはなぜか急に目を輝かせた。
胸元のペンダントを、きゅっと握る。
「ぱぱ、ねんねしゅるぅ?」
ポポがこっそり廊下の様子をうかがった。
「どうやら、そろそろなのだ!」
「やったぁ!」
リリアはベッドの上で、小さく跳ねた。
「ゆめで、おちえるのぉ! ろーれゆせんせぇの、こわいまほう!」
ピピは少し不安そうにリリアを見た。
「リリちゃん、神様に相談するって約束は……?」
「……あっ!」
リリアは一瞬だけ固まった。
けれど、すぐににこっと笑った。
「あとで、おはなししゅるぅ!」
「リリちゃん、それ、絶対あとで忘れるやつなのだ……」
ポポが頭を抱えた。
ピピも困ったようにため息をついた。
「もう……。夢で教えるのはいいけど、怖がらせすぎないようにしようねぇ」
「うんっ!」
リリアは元気よくうなずいた。
そして、ベッドにごろんと横になる。
「ぱぱぁ……。はやく、ねんねちてねぇ……」
小さな王女は、目を閉じたまま、パパが眠るのを待ち続けた。
その胸元では、ペンダントが静かに光っている。
神様たちが知ったら、きっとまた大騒ぎになるだろう。
けれど今のリリアには、パパに真実を伝えたいという気持ちしかなかった。
「リリちゃん、がんばりゅのぉ……」
そうつぶやいたリリアのまぶたは、少しずつ重くなっていく。
パパに夢を見せる前に、自分が眠ってしまいそうになっていることにも気づかずに――。




