第42話 ローレル医師の秘密! リリアが見た恐ろしい魔術
第42話 ローレル医師の秘密! リリアが見た恐ろしい魔術
王宮の庭で、パパにあげるお花を選んでいたリリア。
胸元には、神様たちからもらった不思議なペンダントが揺れていた。
「ぽぽぉ、ぴぴぃ……。ぱぱ、まだおちごとちてりゅかなぁ?」
「きっと、まだ調べものをしているのだ!」
ポポがふわふわの胸を張る。
「パパ、ずっと難しいお顔してるもんねぇ。リリちゃん、心配だよねぇ」
ピピも心配そうに耳をぴくぴくさせた。
リリアはペンダントを両手で包み込んだ。
「ろーれゆせんせぇ……どんなひとぉ?」
パパが詳しく調べているローレル医師。
どうして経歴に不審な点があるのか。
どうして、あの牢で盗賊たちが殺されてしまったのか。
リリアは、もっと知りたいと思った。
「ちょっとだけ、のぞいてみりゅ……」
リリアがペンダントに小さな手を添えると、淡い光がふわりと広がった。
水晶の表面に映ったのは、王宮の一室。
ローレル医師の部屋だった。
机には薬草や薬瓶が並び、壁際には見慣れない道具が置かれている。
ローレル医師は周囲を確かめると、扉に鍵をかけた。
そして、誰もいないことを確認してから、部屋の奥へ歩いていった。
「……これで、邪魔者はいなくなった」
低い声が部屋に響く。
リリアは、きょとんと目を丸くした。
「ふぇ……?」
ローレル医師は机の下から黒い布に包まれた道具を取り出した。
床に置かれた道具の周りに、暗い光がにじみ始める。
その光は、普通の魔法とは違っていた。
どんよりと重く、まるで生き物のように床を這っている。
ローレル医師が小さく呪文を唱えると、黒い光が渦を巻いた。
「牢の中にいる者たちが、これ以上しゃべることはない」
その瞬間、リリアの顔から笑みが消えた。
水晶の中の景色が切り替わる。
そこには、牢の中で倒れている盗賊たちの姿が映った。
そして、ローレル医師の手元から伸びた黒い光が、遠く離れた牢へ向かっているように見えた。
リリアは息をのんだ。
「……あのひと、わるいまほう、ちてりゅ……?」
ローレル医師は、ただの宮廷医師ではなかった。
人を傷つけるための、邪悪な魔術を使う魔術師だったのだ。
しかも、盗賊たちが暗殺された事件と、ローレル医師の魔術がつながっているように見える。
リリアの小さな手が、ぎゅっとペンダントを握った。
「ふぇぇ……。あのひとが、とうじょくしゃんを……?」
もう一度、水晶の中を見る。
ローレル医師は魔術を終えると、何事もなかったかのように道具を片づけた。
そして、穏やかな医師の顔に戻り、部屋の扉を開けた。
その姿を見て、リリアはますますびっくりした。
いつも王宮で見かける医師と、今の恐ろしい魔術師が、同じ人だなんて。
「ぱぱ……しらないの……」
リリアの瞳に涙が浮かんだ。
パパはローレル医師の経歴を調べている。
でも、まさか本人が恐ろしい魔術を使い、盗賊たちの暗殺に関わっているかもしれないなんて、まだ知らないのだ。
「ぱぱに、おちえてあげなきゃ……」
けれど、どうやって?
リリアが魔法を使ったことを知られてはいけない。
水晶に映った光景をそのまま見せることができればいいけれど、どうしたらパパに伝えられるのか、リリアには分からなかった。
「うぅ……。どうちたらいいのぉ……」
ポポとピピも、水晶の中の光景を見て、ふわふわの毛を逆立てていた。
「ポポ、びっくりなのだ……! あの医師、本当に魔術師だったのだ!」
「でも、リリちゃん! 勝手に魔法でやっつけちゃダメだよぉ!」
リリアは、むっと頬をふくらませた。
「だってぇ……。ぱぱ、こまってりゅもん! わるいひと、やっちゅけたら、はやいでしょぉ?」
「は、早いけど、そういう問題じゃないのだ!」
ポポが慌てて飛び跳ねる。
「人間にリリちゃんの魔法が知られちゃったら、大変なのぉ!」
ピピも必死にリリアを止めた。
けれど、リリアは空を見上げた。
青い空の向こうには、神様たちのいる神界がある。
リリアは小さな両手を口元に添え、空に向かって大きな声で呼びかけた。
「かみちゃまぁーっ!」
ポポとピピが、同時に振り向く。
「リリちゃん!?」
リリアは、まじめなお顔で空を見上げた。
「ろーれゆせんせぇ、わるいまほうちてりゅのぉ! とうじょくしゃん、ころちたのぉ!」
そして、ぷくっと頬をふくらませる。
「かみちゃま! リリのまほうで、やっちゅけていいぃ?」
ポポとピピの顔が、さあっと青ざめた。
「だ、ダメなのだぁーっ!」
「リリちゃん! 人間に気づかれちゃうから、絶対ダメだよぉーっ!」
二匹がリリアに飛びついた、その瞬間――。
胸元のペンダントが、まばゆい光を放った。
「ぴかぁーっ!」
リリアの胸元で、ペンダントがきらきらと光り始めた。
「ふぇっ!? なぁにぃ?」
ポポとピピは、慌ててリリアから離れた。
すると、ペンダントの中から、聞き覚えのある声が響いてきた。
『リリア! 待ちなさい!』
「……かみちゃま?」
『そうじゃ! 創造神ゼノじゃ!』
続いて、別の声も聞こえてきた。
『リリアちゃん、お願いだから、魔法で人間を攻撃しようとしないで!』
知恵と魔法の女神アテナだった。
さらに、運命と予言の神オルフェ、生命と動物の女神フィオナの声まで続いた。
『リリア、まずは落ち着いて状況を整理するのじゃ』
『リリアちゃん、危ないことを一人で決めちゃダメよ!』
神界では、四柱の神々が大騒ぎになっていた。
ゼノは慌てて椅子から立ち上がり、アテナは水晶の映像を確かめ、オルフェは未来の分岐を探り、フィオナは心配そうに両手を組んでいる。
「リリアが人間を攻撃しようとしておるぞ!」
「ゼノ様、声が大きいです! リリアちゃんに聞こえています!」
「聞こえなかったら止められんじゃろう!」
「そういう問題ではありません!」
神様たちの言い争いが、ペンダントからそのまま聞こえてくる。
リリアは、きょとんとした。
「かみちゃま、みんないりゅのぉ?」
『おるぞ! 全員おる!』
ゼノが勢いよく答えた。
リリアは安心したように笑った。
「えへへぇ! じゃあ、ろーれゆせんせぇ、やっちゅけていいぃ?」
『ダメじゃーっ!』
四柱の神々の声が重なった。
リリアはびくっと肩を揺らした。
「ふぇぇ……」
ピピがすぐにリリアを抱きしめる。
「リリちゃん、びっくりしたねぇ。神様たちは、リリちゃんが心配なんだよぉ」
ポポも大きくうなずいた。
「そうなのだ! 人間の前で魔法を使ったら、リリちゃんが神界から来たことまで知られてしまうかもしれないのだ!」
『その通りじゃ、ポポ!』
ゼノが感心した声を出した。
『珍しく、よいことを言ったのう!』
「珍しくは余計なのだ!」
ポポがむっと頬をふくらませる。
リリアはペンダントを見つめた。
「でもぉ……。ぱぱ、ろーれゆせんせぇが、わるいひとって、しらないのぉ」
その声は、さっきまでの怒った声とは違っていた。
大好きなパパが、危険な人のそばにいるかもしれない。
それが心配でたまらなかったのだ。
フィオナの優しい声が、ペンダントから響いた。
『リリアちゃん。パパを守りたい気持ちは、とても大切よ。でも、今すぐ相手を攻撃しなくても、守る方法はあるわ』
「まもりゅ、ほうほう……?」
『そう。あなたが見たものを、どうすればパパに伝えられるか、一緒に考えましょう』
アテナも続けた。
『水晶に映った光景は、あなたが見た大切な手がかりよ。ただし、ローレル医師が何をしたのか、どこまで関わっているのかを、パパが確かめられるようにしなければならないわ』
リリアは一生懸命に考えた。
「ぱぱに、おちえる……。でも、リリがみたって、いえないのぉ……」
『ええ。あなたの魔法の秘密は守らなくてはならないわ』
アテナは慎重に答えた。
『それに、ローレル医師が盗賊たちの暗殺に関わっているとしても、ほかに誰が協力したのか、どうやって牢まで魔術を届かせたのか、まだ分からないことがあるの』
オルフェも静かに告げた。
『ここで早まれば、相手が警戒し、隠れてしまうかもしれぬ。アレクが自分で証拠をつかめるよう、道を作るのじゃ』
リリアはしばらく黙っていた。
そして、小さな拳をぎゅっと握った。
「……リリ、ぱぱ、まもりゅ」
『うむ。その気持ちは忘れるでないぞ』
ゼノの声が、いつもの威厳を取り戻す。
『じゃが、勝手に魔法で攻撃するのは禁止じゃ! 約束できるな?』
リリアは頬をぷくっとふくらませた。
「……やっちゅけないのぉ」
「リリちゃん、えらいねぇ!」
ピピがほっと胸をなでおろした。
ポポも大きく息を吐く。
「これで一安心なのだ……」
ところが、リリアは続けた。
「でもぉ、ぱぱにおちえるの、あきらめないもん!」
『もちろんじゃ! それは大いに結構じゃ!』
ゼノが慌てて答えた。
『ただし、方法は神々と相談してからにするのじゃぞ!』
「はぁい!」
リリアは元気よく返事をした。
その直後、ペンダントの光が少しずつ弱くなった。
『リリアちゃん、危険を感じたら、すぐにこのペンダントで呼びかけてね』
『わしらはいつでも見守っておるぞ』
『でも、無茶はしないでね』
『パパとママを大切にするのよ』
神様たちの声が、一つずつ遠ざかっていく。
最後に、ゼノが念を押した。
『それから、ローレル医師の部屋へ一人で近づくのも禁止じゃぞ!』
「はぁい!」
リリアはにっこり笑った。
……その返事が、どこまで本気なのか。
ポポとピピは顔を見合わせた。
「ピピ……リリちゃん、本当に分かってくれたかなぁ?」
「ポポにも、ちょっと自信がないのだ……」
二匹がこそこそ話していると、リリアは二匹をぎゅっと抱きしめた。
「ぽぽ、ぴぴぃ! いっしょに、ぱぱをまもろうねぇ!」
「も、もちろん!」
「ポポにおまかせなのだ!」
こうして、リリアはローレル医師が恐ろしい魔術を使っていることを知った。
けれど、その事実をパパにどう伝えるのかは、まだ決まっていない。
一方、皇帝アレクは、ローレル医師の経歴を調べ続けていた。
過去の勤務先。
王宮への採用経緯。
そして、盗賊たちが暗殺された夜の行動。
一つずつ証拠を集めていけば、いつか真実にたどり着けるかもしれない。
リリアはペンダントを胸に抱き、執務室のある方角を見つめた。
「ぱぱぁ……。もうちょっと、まっててねぇ。リリ、ぜったい、まもりゅからぁ!」
小さな王女の決意とともに、ローレル医師の秘密をめぐる調査は、新たな段階へと進み始めた。




