第41話 ローレル医師の不審な経歴! 皇帝陛下の秘密調査
第41話 ローレル医師の不審な経歴! 皇帝陛下の秘密調査
神界から戻ったリリアは、ふかふかのベッドの上で、神様たちからもらった水晶のペンダントをぎゅっと抱きしめていた。
「ぽぽぉ、ぴぴぃ……。ぱぱ、だいじょぶかなぁ?」
ポポが小さな丸い体を揺らした。
「ポポにおまかせなのだ! パパの様子を見てくるのだ!」
「ポポ、しーっ! みつかったら、だめなのぉ!」
ピピがポポの口をふさいだ。
「ピピもいっしょにやる〜! でも、こっそりねぇ!」
リリアは水晶を両手で包み込んだ。
すると、淡い光がふわりと広がり、水晶の中に宮殿の一室が映し出された。
そこでは、皇帝アレクが指揮官と向かい合っていた。
「陛下。4人の宮廷医師について、経歴の確認を進めております」
指揮官が声を落として報告した。
アレクは机の上に置かれた資料に目を通していた。
「そのうち、ローレル医師の経歴には不自然な空白がある。そこを詳しく調べたい」
「はい。過去の勤務先や、王宮に採用されるまでの経緯を確認しております」
「出身地についても、記録と本人の申告が一致しているか確かめてくれ。過去に誰と関わっていたのかも重要だ」
アレクは資料を閉じ、指揮官を見つめた。
「ただし、本人には調査を悟らせるな。ほかの医師にも、特別に誰かを疑っていると思わせないようにしてほしい」
「承知いたしました」
リリアは水晶の向こうのパパを、じっと見つめた。
「ろーれゆ……せんせぇ?」
もちろん、リリアには資料に書かれた文字は読めない。
けれど、パパの真剣なお顔と、指揮官が何度も同じ名前を確認している様子は分かった。
「ぱぱ、いっしょうけんめぇ……」
リリアは小さな手でペンダントをなでた。
そのとき、アレクが別の資料を取り出した。
「もう一つ、確認したいことがある」
指揮官の表情が引き締まる。
「盗賊たちが殺された事件ですね」
「ああ。あの牢は厳重に警備されていた。にもかかわらず、盗賊たちは命を奪われた。刃物の傷も、通常の毒物の痕跡も見つかっていない」
「現場に残っていた魔力の痕跡についても、まだ詳しいことは分かっておりません」
「だからこそ、可能性を一つずつ確かめる必要がある。医師たちが事件に関わったと決めつけるつもりはない。だが、事件当時の行動や、牢に近づく機会があった者は確認しておきたい」
アレクの声には、焦りよりも慎重さがあった。
盗賊たちが残した証言は、今も重要な手がかりだ。
彼らは、町の襲撃と皇帝一家の馬車襲撃を、ヴィクトリア側の使者から依頼されたと話していた。
しかし、使者は顔を隠していた。
証言だけで、その人物の正体まで明らかにすることはできない。
「陛下。ローレル医師については、経歴と事件当日の行動を並行して調べます」
「頼む。小さな違和感でも、見逃さないでくれ」
水晶の光を見つめながら、リリアは頬をふくらませた。
「ぱぱ、がんばれぇ……。リリちゃんも、おてちゅだいしゅるぅ!」
ポポが胸を張った。
「ポポにおまかせなのだ!」
「ポポ、なにしゅるのぉ?」
「えっ……それは、これから考えるのだ!」
「ぽぽ、まだかんがえてないのぉ?」
ピピがくすくす笑う。
リリアも、つられてにこにこした。
けれど、水晶の中のパパは、まだ難しいお顔をしていた。
リリアはもう一度、ペンダントをぎゅっと抱きしめた。
「ぱぱを、まもりゅの……」
小さな決意を胸に、リリアは水晶の光が消えるまで、じっとパパの姿を見守っていた。
翌朝。
リリアはエレナの腕の中で、いつものようにご機嫌だった。
「ままぁ、だいしゅきぃ!」
「まあ、リリア。今日も甘えん坊さんね」
エレナが頬に口づけると、リリアは嬉しそうに笑った。
「きゃははぁ!」
その姿からは、昨夜、水晶を通して皇帝の秘密調査を見守っていたことなど、誰にも想像できなかった。
一方、皇帝の執務室では、アレクが指揮官から新たな報告を受けていた。
「ローレル医師の過去について、分かったことは?」
「現在、以前の勤務先とされる場所に確認を取っております。ただ、一部の期間については、記録を裏づける資料が不足しております」
「本人の説明だけで済ませるわけにはいかないな」
「はい。過去に仕えていた人物や、採用を推薦した者についても調べております」
アレクは椅子の背にもたれ、しばらく考えた。
「ローレル医師は、アリア王女の体調についても報告していた医師の一人だ」
「はい。アリア王女が池の事件以降、リリア王女を怖がっているという説明にも関わっております」
「その報告が正しかったのかも、慎重に確認したい。アリア王女はまだ幼い。大人の都合で、あの子の気持ちを決めつけてはならない」
アレクの表情が曇った。
リリアとアリア王女は、仲良く遊んでいた。
それなのに、池の事件のあと、二人は離されてしまった。
ヴィクトリアはアリア王女の体調を理由に、実家の城で休ませることを進めた。だが、その判断に至るまでの経緯には、まだ確認できていないことが多い。
「ローレル医師がヴィクトリアとどのような関係にあるのかも、証拠をもって確かめる必要がある」
「承知いたしました。決めつけず、事実を集めます」
「それから、盗賊暗殺事件についても忘れないでくれ。ローレル医師だけでなく、当時、牢への出入りが可能だった者を確認する。魔力の痕跡についても、専門家の意見を集めてほしい」
「かしこまりました」
指揮官が退出すると、アレクは一人、窓の外を見つめた。
町の襲撃、馬車襲撃、毒入りミルク、池の事件、そして盗賊たちの死。
それぞれの事件が、本当にどこかでつながっているのか。
ヴィクトリアがどこまで関わっているのか。
まだ、答えは出ていない。
「証拠を見つけるまでは、誰も断罪できない……」
アレクは小さくつぶやいた。
そのころ、王宮の庭では――。
「ぽぽぉ! おはな、きれぇ!」
リリアは花壇の前で、ポポとピピに花を見せていた。
「リリちゃん、お花を摘んでパパにあげる?」
「うんっ! ぱぱ、よろこぶぅ!」
リリアが小さな手を伸ばした、そのとき。
胸元の水晶が、ほんのりと温かくなった。
リリアは手を止めた。
「……あれぇ?」
水晶には、執務室で考え込むアレクの姿が一瞬だけ映った。
机の上には、いくつもの資料。
その中で、アレクは一枚を手に取り、険しい表情を浮かべていた。
リリアには文字は読めない。
けれど、その紙を見つめるパパのお顔が、いつもよりずっと心配そうなのは分かった。
「ぱぱ……かなちいの?」
リリアの大きな瞳が揺れた。
ピピがそっと寄り添う。
「リリちゃん、パパのことが心配なの?」
「うん……。ぱぱ、にこにこしてほちい……」
ポポも珍しく、ふざけずにうなずいた。
「パパが困っているなら、ポポたちも力になるのだ!」
リリアは水晶を胸に抱き、花壇から小さな花を一輪選んだ。
「これ、ぱぱにあげりゅ!」
そして、にっこり笑う。
「ぱぱ、がんばれぇ! リリちゃん、ここにいりゅよぉ!」
その小さな声は、執務室のアレクには届かない。
それでもリリアは、パパを守ると決めていた。
ローレル医師の過去に隠されたものは何なのか。
盗賊たちを暗殺した人物は誰なのか。
そして、ヴィクトリアは過去の事件にどこまで関わっているのか。
まだ、真実は闇の中。
けれど、その闇を照らすための調査は、静かに動き始めていた。




