第37話 魔力の痕跡を追え! 皇帝陛下と宮廷医師の新たな調査
第37話 魔力の痕跡を追え! 皇帝陛下と宮廷医師の新たな調査
◆◆◆地下牢に残された謎の魔力
王宮の朝。
皇帝アレクは、執務室に宮廷医師たちと騎士団長を呼び集めていました。
机の上には、盗賊たちの暗殺事件に関する報告書が並んでいます。
「もう一度確認する。盗賊たちの身体には、刃物による傷も、明確な毒物の痕跡もなかったのだな?」
「はい、陛下。四人の医師で調べましたが、通常の方法で命を落としたとは考えにくい状況です」
年長の宮廷医師が答えました。
「そして、現場には魔力の痕跡が残っていたと?」
「はい。ただし、非常に薄いものでした。魔法が使われた可能性は高いのですが、どのような術だったのか、誰が使ったのかまでは特定できておりません」
アレクは報告書を見つめました。
「厳重な警備を敷いていた。牢の扉が開けられた形跡もなく、見張りも侵入者を見ていない。それなのに、盗賊たちは殺された……」
騎士団長がうなずきました。
「はい。魔法ならば、人が直接牢に入らずに攻撃することも考えられます。ただ、現時点では推測にすぎません」
「分かった。推測と事実を混同するな。確かなことから調べていこう」
アレクは、医師たちへ視線を向けました。
「魔力の痕跡を、もう一度詳しく調べてほしい。何か特徴はないか? 魔力の強さ、残り方、複数の術が使われた形跡など、分かることはすべて報告してくれ」
「承知いたしました」
医師たちは頭を下げました。
アレクは続けます。
「騎士団長、地下牢の警備記録も再確認するのだ。見張りの交代時間、食事の受け渡し、医師や看守の出入り……どんな小さなことでも見落とすな」
「はっ!」
会議が終わると、医師たちは再び地下牢へ向かいました。
現場はすでに調べられていましたが、今回は魔力の痕跡を中心に、慎重に確認を進めます。
医師の一人が、牢の床に手をかざしました。
「……ここにも、かすかな反応があります」
「こちらの牢にも残っています」
「亡くなった者たちの近くに、共通した痕跡があるようです」
ローレン医師も、慎重に周囲を調べていました。
彼はヴィクトリアから金を受け取り、アリア王女の健康について虚偽の報告をしていた人物です。
もし今回の調査が進めば、ヴィクトリアにとって不都合な事実が明らかになるかもしれません。
「この魔力が、同じ術者によるものだとすれば……」
ローレン医師は、わざとらしく首をかしげました。
「何か分かったのか?」
別の医師が尋ねます。
「いえ。まだ断定できることはありません」
ローレン医師は、すぐに口を閉ざしました。
しかし、内心では焦りが募っていました。
盗賊たちが何を話したのか。
彼らがどこまで証言したのか。
そして、ヴィクトリアが次に何をしようとしているのか。
彼には、それらを確かめる必要がありました。
一方、宮廷医師たちの調査は、少しずつ進んでいきます。
やがて、年長の医師が慎重に口を開きました。
「陛下にお伝えすべきことがございます」
その報告を受けたアレクは、医師たちを再び執務室に呼びました。
「何が分かった?」
「魔力の痕跡は、亡くなった盗賊たちの周囲に集中しておりました。少なくとも、地下牢全体に無差別な魔法がかけられたわけではないようです」
「つまり、狙いを定めて魔法が使われた可能性があるということか」
「はい。ただし、どのような術で命を奪ったのか、術者がどこにいたのかまでは分かりません」
アレクは目を細めました。
「盗賊たちだけを狙ったのなら、口封じの可能性があるな」
「私どもも、その可能性を考えております」
医師は慎重に答えました。
アレクは立ち上がり、窓の外を見つめました。
「盗賊たちは、第二夫人の使いから依頼を受けたと証言した。その直後に、証言者だけが命を落とした……」
彼は振り返りました。
「偶然で片づけるわけにはいかない。だが、ヴィクトリアが命じたと決めつけるのも早い。魔法を使った者と、盗賊たちを殺した者が同一人物かどうかも含めて調べるのだ」
「承知いたしました」
アレクは、静かに拳を握りました。
「どれほど時間がかかっても、真実を明らかにする」
その決意は、揺らぎませんでした。
リリア姫の大発見? ポポのふわふわ大事件!
そのころ、王宮のお庭では――。
「ぺったん! ぺったん!」
リリアが、花壇の横で楽しそうに遊んでいました。
昨日、パパの悩みを少しでも軽くできたと思ったリリアは、すっかり元気になっていました。
「りりちゃん、きょうも、いいこぉ!」
その隣では、ポポが木の実を食べ、ピピが花を集めています。
「リリアはいい子なのだ。たまにポポを風船にするけれど、基本的にはいい子なのだ!」
「ポポ、自分で言っちゃうんだぁ?」
「当然なのだ!」
リリアは二匹を見て、にっこり笑いました。
「ぽぽ、ふうせん、もっかい!」
「な、何なのだ!? 今日はもう風船にならないのだ!」
「えぇ〜?」
リリアがほっぺをふくらませると、ピピが笑いました。
「ポポ、昨日は丸くてかわいかったよぉ!」
「ピピまで言うのだ!?」
リリアは、両手をぱたぱたさせました。
「ふわふわ、ぷくぷくぅ!」
すると、ポポの体が、ほんの少しだけ膨らみました。
「うわっ! 待つのだ! リリア、まだ魔法を使っていないのだろう!?」
リリアは、きょとんとしました。
「……あれぇ?」
ピピはポポのお腹をつんつんしました。
「ポポ、昨日のふわふわ魔法が残ってるんじゃない?」
「そんなことがあるわけ……ぽよんっ!」
ポポの体が、さらに大きく膨らみました。
「ポポォォォッ!」
ポポは、ぽよんぽよんと地面を跳ね始めました。
リリアは大喜びです。
「ぽぽ、ぴょんぴょん! おもしろぉい!」
「面白くないのだーっ! 誰か止めるのだーっ!」
ピピはお腹を抱えて笑っています。
「ポポにおまかせなのだ、じゃなかったのぉ?」
「今はおまかせできないのだーっ!」
そのとき、庭を通りかかったミレが、驚いた声を上げました。
「まあ! ポポちゃん、どうしたの!?」
ポポは、慌ててぴたりと動きを止めました。
「な、何でもないのだ! これは……その……運動なのだ!」
「運動で、そんなに跳ねるのですか?」
「そ、そうなのだ! 最新の健康法なのだ!」
ピピは必死に笑いをこらえました。
リリアは、何も知らない顔でミレに両手を伸ばします。
「みれぇ、だっこぉ!」
「はいはい、リリア姫」
ミレがリリアを抱き上げた瞬間、ポポの体は元の大きさに戻りました。
ぽすん!
ポポは地面に座り込み、大きく息を吐きました。
「……助かったのだ」
「ポポ、健康になったぁ?」
「リリアのせいなのだ!」
ミレは首をかしげましたが、リリアが楽しそうに笑っているので、深く気に留めませんでした。
そのころ、神界では四柱の神々が神鏡をのぞいていました。
「リリアは、今日も元気ですね」
フィオナが微笑みます。
「ええ。しかし、地下牢の魔力については気になります」
アテナは真剣な表情でした。
「人間界の調査で、魔力の痕跡がどこまで分かるか……」
オルフェが静かに答えました。
「術者の正体は、まだ見えません。未来もいくつもの可能性に分かれています」
ゼノは腕を組みました。
「アレクが真相に近づいているのは確かだ。だが、証言者が消された以上、慎重に進める必要がある」
そのとき、神鏡の中でリリアがポポの頭に花を乗せました。
「ぽぽ、おはなぁ!」
「ポポは花瓶ではないのだーっ!」
ゼノは額に手を当てました。
「……あちらは、いつもどおりだな」
アテナは小さく笑いました。
「リリアにとっては、パパを助けることも、お友達と遊ぶことも、どちらも大切なのです」
一方、夕方の執務室では、アレクが再び報告書を確認していました。
魔力の痕跡は、盗賊たちを狙った魔法が使われた可能性を示していました。
しかし、術者の名前も、依頼した人物の正体も分かっていません。
アレクは、別の書類を手に取りました。
そこには、毒入りのミルク、家族旅行中の襲撃、町の襲撃、池の事件、そしてアリア王女が遠くの城へ移された経緯が記されています。
一つ一つの事件には、まだ説明のつかない点が残っていました。
「ヴィクトリア……。お前は、本当に何も知らないのか?」
アレクは、まだ答えを持っていません。
だからこそ、証拠を集め続けるしかないのです。
そのころ、リリアはエレナの膝の上で、うとうとしていました。
「りりちゃん、今日はたくさん遊んだわね」
「うん……」
「楽しかった?」
「たのちかったぁ!」
リリアは、エレナの胸に顔をすり寄せました。
そして、小さな声でつぶやきます。
「ぱぱ……がんばってぇ……」
エレナは、その言葉を聞いて優しく微笑みました。
「そうね。パパは頑張っているわ。私たちも、そばで支えてあげましょうね」
「うん……まま、だいしゅきぃ……」
リリアは安心したように目を閉じました。
人間たちは、リリアが盗賊たちに魔法をかけたことも、パパの心の声を聞いていたことも知りません。
そして、地下牢に残った魔力が、リリアの魔法と同じものだとも気づいていません。
盗賊暗殺の調査は続きます。
第二夫人への疑いも、まだ消えてはいません。
王宮に隠された秘密は、少しずつ明らかになろうとしていました。




