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第35話 捕らえられた盗賊たち! リリア姫の秘密の魔法と第二夫人の焦り

第35話 捕らえられた盗賊たち! リリア姫の秘密の魔法と第二夫人の焦り


◆◆◆パパの悩みが聞こえちゃった!


王宮の地下牢。


町を襲ったあと逃亡していた盗賊たちは、騎士たちに捕らえられ、厳重に監視されていました。


ところが――。


「だから、誰に頼まれたのかと聞いている!」


騎士団長が問いかけても、盗賊たちは口を閉ざしたまま。


「知らねえと言っているだろ!」


「金を受け取った相手も覚えていないのか?」


「知らねえ!」


何度問いただしても、答えは同じでした。


盗賊たちは互いに目配せをしながら、決して依頼主の名前を口にしません。


やがて騎士団長は、深いため息をつきました。


「……陛下にご報告するしかないか」


そのころ、皇帝アレクは執務室で報告を受けていました。


「盗賊たちは、いまだに依頼主を明かさないのか」


「はい。町を襲った理由についても、金目当てだったと繰り返すばかりです。誰から金を受け取ったのかは、頑として話そうとしません」


「家族旅行中の襲撃との関係は?」


「今のところ、本人たちの口からは確認できておりません」


アレクは椅子の背にもたれ、目を閉じました。


町の人々を傷つけ、店や倉庫を荒らした盗賊たち。


そして、自分とエレナ、リリアを狙った家族旅行中の襲撃事件。


別々の事件に見えても、裏で誰かが糸を引いている可能性がある。


しかし、肝心の盗賊たちが何も話さないのでは、先へ進めません。


「……どうすれば、口を開くのだ」


アレクは小さくつぶやきました。


「無理に責め立てても、黙り込むだけだろう。だが、このままでは次の被害を防げない……」


報告を終えた騎士団長が退室すると、アレクは机に積まれた書類を見つめました。


そのとき、扉の向こうから、かわいらしい声が聞こえてきました。


「ぱぱぁ!」


扉が開き、エレナに連れられたリリアが、よちよちと入ってきます。


「アレク、少し休憩したらどうかしら。リリアがパパに会いたがっていたのよ」


「そうか。リリア、おいで」


アレクは表情を和らげ、両手を広げました。


「ぱぱぁ!」


リリアはうれしそうに両手を伸ばします。


アレクは小さな体を抱き上げ、頬を寄せました。


「おお、かわいいリリア。パパは少し困ったことがあってな」


「ぱぱ、こまっちゃったぁ?」


「そうなんだ。困ったものだな」


アレクは、リリアの小さな背中を優しくなでました。


その瞬間――。


リリアの耳に、アレクの声とは別の声が聞こえてきました。


(盗賊たちが話してくれれば、手がかりがつかめるのだが……。誰が町を襲わせ、誰が私たちを狙ったのか。何も分からないままでは、家族を守りきれない)


リリアは、ぱちぱちと目を瞬かせました。


(あうぅ……ぱぱ、こまってりゅのぉ……)


アレクは、ただリリアを抱いているだけです。


もちろん、娘が自分の心の声を聞いているなど、夢にも思っていません。


(ぱぱ、かなちぃ……。りりちゃん、たすけたいのぉ)


リリアは、アレクの服をぎゅっと握りました。


「ぱぱぁ……だいじょぶぅ!」


「ありがとう、リリア。お前の笑顔を見ると、元気が出るよ」


アレクは微笑みました。


しかし、リリアの小さな頭の中では、もう作戦が動き始めていました。


(そうだぁ! りりちゃん、まほう、つかうの!)


盗賊たちが本当のことを話せば、パパはきっと喜びます。


でも、リリアが魔法を使ったと知られてはいけません。


(こっそり……こっそりなのぉ!)


リリアは、にこにこしながらアレクの頬に手を伸ばしました。


「ぱぱ、だいしゅきぃ!」


「パパも大好きだよ」


アレクが笑顔になったのを見て、リリアは満足そうにうなずきました。


その夜。


リリアの寝室では、ポポとピピがいつものようにおやつを食べていました。


「ポポ、もう一個ちょうだい!」


「これはポポの分なのだ!」


「さっき、三つも食べてたでしょぉ!」


二匹が言い合っていると、リリアがむくりと起き上がりました。


「ぽぽ、ぴぴ!」


「どうしたのだ、リリア?」


「りりちゃん、ぱぱ、たすけりゅの!」


ポポとピピは、ぴたりと動きを止めました。


リリアは、小さな手を胸の前でぎゅっと握ります。


「どろぼうしゃん、ほんとのこと、はなちぇるように、ちゅるの!」


「……つまり、盗賊たちに本当のことを話させる魔法を使うのだな?」


「うん!」


ポポは少し考えてから、うなずきました。


「リリアの魔法ならできるかもしれないのだ。でも、人間に魔法だと気づかれたら大変なのだ」


ピピも真剣な顔になります。


「そうだよぉ。リリちゃんがやったって、誰にも知られちゃダメだよぉ」


「ないちょ、なのぉ!」


リリアは口元に指を当てました。


「しーっ!」


ポポとピピは顔を見合わせます。


「……作戦開始なのだ」


「ピピもいっしょにやる〜!」


こうしてリリアは、パパのために、誰にも知られない秘密の魔法を使うことにしたのでした。


 ◆◆◆盗賊たちが語った真実! 第二夫人の恐ろしい決断


深夜。


王宮の地下牢は、ひっそりと静まり返っていました。


見張りの騎士たちが交代する時間。


そのわずかな隙に、地下牢の小さな窓辺へ、一羽の白い小鳥が舞い降りました。


もちろん、普通の小鳥ではありません。


リリアの魔法で姿を変えたポポです。


「ポポにおまかせなのだ……」


小鳥の姿のポポは、窓の隙間から中をのぞきました。


その少し離れた場所では、ピピが魔法で周囲の気配を探っています。


そして王宮の寝室では、リリアがベッドの上で目を閉じ、小さな手をぎゅっと握っていました。


(どろぼうしゃん……ほんとのこと、はなちぇるように……)


リリアの指先から、目には見えないほど淡い金色の光が広がります。


光は夜の空気に溶け込み、地下牢にいる盗賊たちのもとへと届きました。


誰も気づきません。


見張りの騎士も、地下牢の盗賊たちも、まさか遠く離れた王宮の寝室から魔法が届いているとは思いもしませんでした。


翌朝。


騎士団長は、改めて盗賊たちの取り調べを始めました。


「もう一度聞く。町を襲うよう依頼したのは誰だ?」


盗賊の一人は、いつものように顔を背けようとしました。


「知らねえ……」


しかし、その言葉が途中で止まりました。


「……いや、知っている」


騎士団長は目を見開きました。


「何だと?」


盗賊自身も、驚いたように口元を押さえます。


「お、俺たちは……依頼を受けたんだ」


隣にいた盗賊も、思わず声を上げました。


「おい、何を話すつもりだ!」


「俺だって話したくねえ! だが……なぜか、もう嘘をつけねえんだ!」


彼らは困惑しながらも、次々と言葉を続けました。


「俺たちは、ある女の使いから金を受け取った」


「その使いは、第二夫人のヴィクトリア様の名前を出した。町を襲え、と依頼されたんだ」


騎士団長の表情が変わりました。


「第二夫人の使いだと? 確かなのか?」


「そう聞いたんだ! 俺たちは金を受け取って、言われたとおりに町を襲った!」


「では、皇帝陛下の家族旅行中に襲撃したのも、その依頼と関係があるのか?」


盗賊たちは顔を見合わせました。


やがて、先ほどの男がうなずきました。


「……それも同じ依頼主側からの話だった。町を襲って騒ぎを起こすことと、旅行中の一行を襲うこと。俺たちは、その両方を引き受けたんだ」


騎士団長は、すぐに記録を取るよう部下へ命じました。


「使いの顔を覚えているか?」


「いや……顔は布で隠していた。声も、わざと分かりにくくしていたと思う。男か女かも、はっきりとは分からなかった」


「ほかに、手がかりは?」


「金を渡された場所と、連絡に使った印なら覚えている。だが、使い本人の顔は知らねえ……」


証言は重要でした。


しかし、使いの顔も正体も分からず、ヴィクトリア本人が依頼したことを直接証明するものも、まだありません。


騎士団長は慎重に尋ねました。


「お前たちは、第二夫人本人に会ったことはないのだな?」


「ない。俺たちが会ったのは、顔を隠した使いだけだ」


騎士団長は記録をまとめると、アレクへの報告を急がせました。


一方、そのころ。


ヴィクトリアの部屋にも、思いがけない知らせが届いていました。


「第二夫人様、大変でございます」


侍女が青ざめた顔で告げます。


「町を襲った盗賊たちが、取り調べで証言を始めたそうです」


ヴィクトリアの手から、扇が滑り落ちました。


「……何ですって?」


「盗賊たちは、第二夫人様の使いから依頼を受けたと話しているそうでございます」


一瞬、部屋の空気が凍りつきました。


ヴィクトリアは侍女を下がらせると、震える手で扇を拾いました。


「そんな……。あの者たちは、何も話さないはずだったのに……!」


彼らが口を閉ざしていれば、依頼主を突き止めることは難しかったはずです。


それなのに、今になって証言を始めた。


しかも、町への襲撃だけでなく、家族旅行中の襲撃までつながっている。


ヴィクトリアは急いでセドリックを呼びました。


人目につかない部屋で、二人は向かい合いました。


「セドリック、大変なことになったわ。盗賊たちが話し始めたのよ」


セドリックの顔からも笑みが消えました。


「何を話した?」


「私の使いから依頼を受けたと……。町を襲ったことも、旅行中の襲撃も、同じ依頼だったと話しているそうよ」


「使いの顔は?」


「隠していたから分からないそうよ。でも、このまま調べられたら、金の流れや連絡の記録から私にたどり着くかもしれない」


セドリックはしばらく黙り込みました。


「……証言だけで、すぐにお前の罪が確定するわけではない。だが、他の事件とつながれば危険だ」


「分かっているわ!」


ヴィクトリアは声を荒らげました。


「これ以上、何も話させてはいけない。盗賊たちが詳しいことまで話したら、すべてが終わるわ」


セドリックは、彼女を見つめました。


「どうするつもりだ?」


ヴィクトリアの目から、迷いが消えました。


「口を封じるのよ。二度と話せないように」


その言葉を聞いたセドリックは、顔をこわばらせました。


「……本気か?」


「今さらためらっている場合ではないわ」


ヴィクトリアは冷たく言い放ちました。


「私たちが生き残るためには、必要なのよ」


その夜。


地下牢では、盗賊たちが別々の部屋に移されていました。


騎士団は証言を記録し、さらに詳しい取り調べを行う準備を進めていました。


ところが、夜更けに、牢番が異変に気づきました。


「おい、どうした!?」


一人の盗賊が、牢の中で倒れていたのです。


すぐに医師が呼ばれましたが、盗賊は息を引き取っていました。


さらに、別の牢でも異変が起きました。


証言した盗賊のうち、何人かが相次いで命を落としたのです。


牢番たちは騒然となりました。


「どういうことだ! 牢の警備はどうなっていた!?」


「すぐに陛下へ報告しろ!」


翌朝、アレクのもとへ緊急の報告が届きました。


「陛下……。盗賊たちが、昨夜、何者かの手によって暗殺された疑いがございます」


アレクは立ち上がりました。


「暗殺だと!?」


「はい。詳しい原因と侵入経路は調査中です。証言をしていた者たちが狙われた可能性がございます」


アレクは拳を握りしめました。


ようやく手に入った重要な証言。


それを知った何者かが、証言者たちを消そうとしたのかもしれません。


「警備に関わった者を調べろ。ただし、根拠なく誰かを犯人と決めつけるな。残された証言と記録を守り、何が起きたのか徹底的に調べるのだ!」


「はっ!」


騎士団長は深く頭を下げました。


アレクは窓の外を見つめます。


「……誰が、そこまでして真実を隠そうとしている?」


そのころ、ヴィクトリアは一人、部屋で報告を受けていました。


「証言した盗賊たちは、もう話せないのね?」


「はい。これ以上、新たな証言が増えることはないでしょう」


ヴィクトリアは、ようやく息を吐きました。


しかし、安堵したのはほんの一瞬でした。


盗賊たちが残した証言は、すでに騎士団によって記録されています。


使いの顔は分からなくても、金の流れや連絡の記録をたどられれば、まだ危険は残っています。


「……まだ終わっていないわ」


ヴィクトリアは、窓の外を睨みました。


そして、何も知らないふりをして、いつもの優しい第二夫人の顔を取り戻そうとしました。


一方、王宮の寝室では――。


リリアが、アレクに抱っこされていました。


「りりあ、今日はいい子にしていたか?」


「いいこぉ!」


「そうか。偉いな」


アレクはリリアを抱きしめましたが、その表情には疲れが残っていました。


リリアは、パパの心の声を聞きました。


(盗賊たちが話してくれたことは大きな手がかりだった。だが、証言者が殺された……。これでは、真実を隠そうとしている者がいることしか分からない)


リリアは、ぎゅっとアレクの服を握りました。


(ぱぱ……かなちぃ……)


「ぱぱぁ……」


「どうした、リリア?」


「ぱぱ、だいしゅきぃ!」


アレクは、少し驚いたあと、優しく笑いました。


「ありがとう。パパもリリアが大好きだよ」


リリアは、パパの胸に顔をうずめました。


(りりちゃん、もっと、がんばりゅの……!)


盗賊たちの証言は、ヴィクトリアへつながる大切な手がかりになりました。


けれど、その証言を消そうとする者が現れたことで、事件はさらに深い闇へと進んでいきます。


そしてリリアは、まだ知りません。


自分がパパを助けようと使った小さな魔法が、王宮に隠された大きな秘密を揺り動かし始めたことを――。




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