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第33話 アリア王女の笑顔を守りたい! リリア姫と皇帝陛下の小さな一歩

第33話 アリア王女の笑顔を守りたい! リリア姫と皇帝陛下の小さな一歩


リリア姫、アリア王女に会いたいの!


王宮の朝。


柔らかな日差しが差し込む部屋で、リリアはお気に入りのぬいぐるみを抱きしめていた。


「ありあぁ……」


小さな唇から、寂しそうな声がこぼれる。


先日、小鳥に届けてもらったお手紙。


アリア王女が喜んでくれたと聞いてから、リリアは毎日、窓の外を気にしていた。


また会いたい。


一緒にお花を見たい。


おやつを食べて、いっぱい遊びたい。


リリアにとって、アリアは大切な友達だった。


「リリちゃん、今日もアリア王女のことを考えているの?」


侍女のミレが、優しく声をかけた。


「ありあ! あしょぶぅ!」


リリアは両手を伸ばした。


「そうね。アリア王女も、きっとリリちゃんに会いたいでしょうね」


ミレはそう言って、リリアを抱き上げた。


「でも、今は静養中だと聞いているから、もう少し待ちましょうね」


「うぅ……」


リリアは頬をふくらませた。


(ありあ、びょうき、ないないのにぃ……)


リリアにはわかっていた。


アリアは病気ではない。


本当は、リリアに会いたくて寂しがっている。


けれど、どうすればアリアに会えるのか、まだよくわからなかった。


そこへ、窓辺から小さな羽音が聞こえた。


ちゅん、ちゅん。


一羽の小鳥が、窓枠に降り立つ。


リリアは顔を輝かせた。


「とりしゃん!」


小鳥は、人間には聞こえない声で話しかけた。


『リリア姫、アリア王女は今日もお手紙の絵を大切にしていますよ』


「ありあぁ!」


リリアは嬉しそうに手をぱたぱたさせた。


『でも、少し寂しそうでした。窓の外を見て、何度もリリア姫の名前を呼んでいました』


その言葉を聞いたリリアの笑顔が、ほんの少しだけ曇った。


(ありあ、かなちぃのぉ……)


会いたいのに、会えない。


大好きなのに、そばにいられない。


小さな胸が、きゅっと締めつけられる。


「ありあ……だいしゅきぃ……」


リリアは、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。


その様子を見ていたポポが、ぴょこんと飛び上がった。


「こうなったら、ポポにおまかせなのだ!」


「また何か思いついたのぉ?」


ピピが首をかしげる。


「もちろん! リリアとアリア王女が会えるように、ポポが最高の作戦を考えるのだ!」


「どんな作戦?」


「まず、ポポが皇帝陛下に変身して――」


「だめぇ!」


ピピが即座に止めた。


「そんなことをしたら、大騒ぎになるでしょぉ!」


「むむむ……では、ピピが皇帝陛下に変身して――」


「なんでピピなのぉ!?」


「二人で皇帝陛下に変身すれば、もっと完璧なのだ!」


「完璧じゃないよぉ!」


二匹の言い合いが始まった。


リリアは二匹を見つめていたが、やがて小さな手を伸ばした。


「ぽぽ、ぴぴ……」


「どうしたのだ、リリア!」


「ありあ、あいたいのぉ……」


その言葉を聞いたポポとピピは、ぴたりと動きを止めた。


「……わかったのだ」


ポポが、いつになく真面目な顔をした。


「変身作戦は中止なのだ。今度は、リリアが安心してアリア王女に会える方法を考えるのだ!」


「うん! ピピもいっしょに考えるぅ!」


リリアは、にっこり笑った。


(ありあ、まっててねぇ……)


そのとき、リリアの目の前に、一瞬だけ不思議な光景が浮かんだ。


薄暗い部屋。


泣いているアリア。


そのそばに立つヴィクトリア。


そして、アリアに向かって何かを告げているヴィクトリアの姿。


『今はリリア王女に会ってはいけません』


光景は、そこで消えた。


「あぅ……?」


リリアは目をぱちぱちさせた。


(いまの、なぁに……?)


最近、リリアには人の気持ちや記憶の一部が、映像のように見えることがあった。


けれど、いつもは断片的で、すべてがわかるわけではない。


今の光景も、どうしてヴィクトリアがアリアに会うなと言っているのかまではわからなかった。


「リリちゃん?」


ピピが心配そうに顔をのぞき込む。


「うー……」


リリアは首を横に振った。


今は、まだわからない。


でも、一つだけはっきりしていた。


アリアは悪い子ではない。


リリアを怖がっているわけでもない。


それなのに、二人は会えずにいる。


(ありあ、まもりゅの……!)


リリアは小さな手をぎゅっと握った。


大好きな友達のために、できることを探そう。


そう決めたのだった。


     ◇


同じころ、皇帝アレクの執務室では、騎士団長が新たな報告を行っていた。


「陛下。町の襲撃事件について、周辺地域の調査を進めております」


「盗賊たちの行方はわかったか?」


「まだ全員の所在は確認できておりません。ただ、襲撃後に町を離れた一団について、複数の目撃証言が集まり始めています」


アレクは報告書に目を落とした。


町の襲撃では、商店が荒らされ、食料の倉庫も被害を受けた。


住民たちは恐怖にさらされ、生活にも大きな影響が出ていた。


アレクは被害に遭った町を訪れ、必要な支援を命じている。


しかし、盗賊たちが誰の指示で動いたのかは、いまだにわかっていなかった。


「町を襲った理由が、単なる金品目当てなのか。それとも、別の目的があったのか……」


アレクは静かにつぶやいた。


「陛下、以前のご旅行中に起きた襲撃事件との関連も、調べる必要があるかと存じます」


騎士団長の言葉に、アレクの表情が変わった。


旅行中の馬車を襲った盗賊たち。


あのときも、エレナとリリアが危険にさらされた。


護衛たちの働きによって被害は防がれたものの、襲撃を企てた者の正体はわかっていない。


「確かに、偶然で片づけるべきではないな」


アレクはうなずいた。


「町の襲撃と旅行中の襲撃。犯人が同じかどうかも含めて調べてくれ。盗賊たちの行方を追い、見つけた者は確保すること」


「かしこまりました」


「ただし、住民や無関係の者を危険にさらすな。証拠を確かめながら慎重に進めてほしい」


「承知いたしました」


騎士団長が退室したあと、アレクは窓の外を見た。


庭には、エレナに抱かれたリリアの姿がある。


リリアは何かを話しているように、小さな手を動かしていた。


「……リリア」


アレクは、愛娘の姿を見つめた。


あの子が生まれてから、王宮の周囲では不審な事件が続いている。


それぞれの事件に関係があるのか。


誰かが意図的に、家族を危険にさらそうとしているのか。


まだ、何も断定はできない。


だが、これ以上、大切な家族を危険にさらすわけにはいかなかった。


「必ず、真相を突き止める」


アレクは、机の上の報告書を手に取った。


静かな調査の裏で、少しずつ何かが動き始めていた。


◆◆◆皇帝陛下の小さな疑念! 王宮に隠された秘密


午後。


リリアは、エレナと一緒に庭を散歩していた。


花壇には色とりどりの花が咲き、蝶がひらひらと舞っている。


「リリちゃん、今日はどのお花が好き?」


エレナが尋ねると、リリアは迷わず黄色い花を指さした。


「おはなぁ!」


「黄色いお花が好きなのね」


「うん! きれぇ!」


リリアは花に手を伸ばしかけた。


その瞬間、風が吹いた。


花びらが一枚、ふわりと舞い上がる。


続いて、二枚、三枚。


花びらはリリアの周りをくるくると回り、まるで小さな花の輪のようになった。


「まあ、きれい!」


エレナは目を細めた。


「風が花びらを運んできてくれたのね」


リリアはにこにこしながら、花びらを追いかけた。


「あはっ! おはなぁ!」


もちろん、花びらを動かしていたのは、リリアの小さな魔法だった。


けれど、エレナにはただの風に見えている。


リリアは、花びらがエレナの髪に一枚止まったのを見て、嬉しそうに手を伸ばした。


「まま、おはな!」


「本当ね。ありがとう、リリちゃん」


エレナは花びらを受け取り、リリアの額に優しく口づけた。


リリアは満足そうに笑った。


そのとき、庭の向こうからアレクが歩いてきた。


「二人とも、ここにいたのか」


「あなた。お仕事は終わったの?」


「いや、少し休憩だ。リリアの顔を見たくなってな」


アレクが手を伸ばすと、リリアはすぐに両手を広げた。


「ぱぱぁ!」


「おお、リリア!」


アレクは嬉しそうに娘を抱き上げた。


「今日は何をしていたんだ?」


「おはな! きれぇ!」


「そうか。お花を見ていたのか」


リリアは父親の頬をぺたぺたと触った。


「ぱぱ、だいしゅきぃ!」


「私もリリアが大好きだぞ」


アレクは笑い、リリアを抱きしめた。


エレナも二人を見て、幸せそうに微笑んだ。


穏やかな家族の時間。


けれど、リリアは父親の顔を見つめながら、ふと先ほどの映像を思い出していた。


ヴィクトリア。


泣いているアリア。


そして、会ってはいけないと言われているアリア。


(ぱぱ……ありあ、かなちぃの……)


リリアはアレクの服をぎゅっと握った。


「ぱぱ……ありあ……」


「アリア王女か?」


「うん……ありあ、あいたいのぉ……」


アレクの表情が、わずかに曇った。


「そうだな。リリアはアリア王女に会いたいんだな」


「ありあ、だいしゅきぃ……」


「うん。大切なお友達だものな」


アレクはリリアの頭をなでた。


「お父様も、アリア王女が元気に過ごしているか、きちんと確かめるつもりだ。安心して待っていような」


「……うん!」


リリアは笑顔になった。


けれど、心の中では決意していた。


(ありあ、まもりゅの……!)


     ◇


その夜。


ヴィクトリアは自室で、侍女から報告を受けていた。


「皇帝陛下が、町の襲撃事件について調査を進めていらっしゃるようです」


「町の襲撃……?」


ヴィクトリアの指先が、ぴくりと動いた。


「はい。騎士団が周辺地域で聞き込みを行っているとのことです」


「……そう」


ヴィクトリアは、表情を変えずに答えた。


「報告ありがとう。下がっていいわ」


侍女が退出すると、部屋は静まり返った。


ヴィクトリアは椅子に座り、ゆっくりと息を吐いた。


町の襲撃事件。


その事件が、今になって再び調べられている。


さらに、皇帝の旅行中に起きた襲撃事件も調査対象になっているという。


二つの事件を結びつけられれば、都合が悪い。


「……余計なことに気づかないでちょうだい」


ヴィクトリアは小さくつぶやいた。


彼女は、まだ盗賊たちが何を話すつもりなのか知らない。


しかし、事件を調べる者が増えるほど、隠しておきたいことが表に出る可能性は高くなる。


そこへ、セドリックが訪ねてきた。


「ヴィクトリア。何かあったのか?」


「皇帝が町の襲撃事件を調べているわ。旅行中の襲撃との関連も調べるつもりらしいの」


セドリックの表情が険しくなった。


「二つの事件を結びつけるつもりか」


「まだわからない。でも、あまり時間をかけてほしくないわね」


「焦るな。今の段階では、証拠があるわけではない」


「そうね……」


ヴィクトリアは微笑んだ。


しかし、その目は笑っていなかった。


「ただ、リリアがいる限り、思いどおりにならないことが増えていく気がするのよ」


セドリックは、しばらく黙っていた。


「子ども一人に振り回されるな。こちらの動きが疑われないようにすることが先だ」


「わかっているわ」


ヴィクトリアは立ち上がり、窓の外を見つめた。


庭は暗く、風に揺れる木々の影だけが見える。


彼女は知らない。


リリアが人間には見えない力を持っていることも。


小さな赤ちゃん姫が、動物たちの声を聞き、人の心に浮かぶ光景を垣間見始めていることも。


そして、皇帝の調査が、やがて自分の過去の行いへとつながっていくことも。


     ◇


深夜。


リリアは、エレナの隣ですやすやと眠っていた。


枕元では、ポポとピピが小声で話している。


「リリア、今日は少し寂しそうだったのだ」


「うん……アリア王女に会いたいんだよねぇ」


ピピは、眠っているリリアの顔を見つめた。


「リリちゃん、いつもは元気いっぱいなのに……」


「ポポたちで、何かできないかな」


「もちろん、できるのだ!」


ポポは胸を張った。


「明日はアリア王女の好きなお菓子を探して――」


「また食べるつもりでしょぉ!」


「ち、違うのだ! 味見なのだ!」


ピピがため息をついた。


そのとき、眠っていたリリアが、小さく寝返りを打った。


「ありあ……だいしゅきぃ……」


二匹は、ぴたりと黙った。


「……ポポ」


「なんなのだ?」


「明日は、お菓子より先に、お手紙を考えようねぇ」


「……そうなのだな」


ポポは、珍しく素直にうなずいた。


リリアは夢の中で、アリアと手をつないでいた。


二人で花畑を走り、花冠を作り、笑いながらおやつを食べている。


その夢が、いつか現実になることを願いながら。


一方、王宮の別の場所では、皇帝アレクが新たな報告書に目を通していた。


町の襲撃事件。


旅行中の襲撃事件。


アリア王女の突然の移動。


まだ、それぞれの事件がどうつながるのかはわからない。


だが、アレクは調査を続けると決めていた。


小さな疑念は、やがて大きな真実へとつながっていく。


そして、リリアもまた、大切な友達を守るための小さな一歩を踏み出そうとしていた。



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