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第31話 「リリア姫の新しい能力! 見えてしまった第二夫人の秘密!?」

第31話

「リリア姫の新しい能力! 見えてしまった第二夫人の秘密!?」


朝の王宮。


窓から差し込む柔らかな日差しの中、リリアはお気に入りのぬいぐるみを抱えていた。


「うー! あしょぼぉ!」


ベッドの上で、ぬいぐるみをぽんぽんと跳ねさせる。


その隣では、ポポが朝のおやつを頬張っていた。


「うむ! 朝のおやつは格別なのだ!」


「ポポ、もうたべてるの〜? さっきも食べたでしょ〜!」


ピピが呆れた声を出す。


「朝ごはんとおやつは別腹なのだ!」


「ポポのおなか、いくつあるの〜?」


「無限なのだ!」


「うそばっかり〜!」


いつもの賑やかなやり取りに、リリアはけらけらと笑った。


「きゃはははっ!」


しかし、笑い声が止まった。


リリアの視線が、ふと窓の外へ向いたのだ。


庭の花が風に揺れている。


その向こうにいる人々の気持ちが、いつもよりはっきりと伝わってきた。


庭師は、花が元気に咲いたことを喜んでいる。


侍女は、今日の仕事がうまく進むか心配している。


騎士は、皇帝陛下を守るために気を引き締めている。


これまでも、リリアには人の気持ちがなんとなくわかることがあった。


けれど、今日は違う。


喜びは明るい光に。

悲しみは青い影に。

怒りは赤い揺らめきに。


まるで、心の中が色になって見えるようだった。


「……あう?」


リリアは、自分の小さな手を見つめた。


(あれぇ……?)


すると、廊下を歩いていた侍女の姿が、目の前で一瞬だけ二重に見えた。


実際の侍女は廊下を歩いている。


けれど、もうひとつの映像では、侍女が誰かに叱られ、悲しそうに頭を下げていた。


リリアが瞬きをすると、映像は消えた。


「うー……?」


「リリア、どうしたのだ?」


ポポがクッキーを持ったまま近づく。


リリアはポポの顔をじっと見つめた。


すると――。


ポポの心の中が、映像になって浮かび上がった。


大きなお皿いっぱいのクッキー。


山盛りのケーキ。


果物の山。


そして、それらをすべて自分のおなかに入れようとしているポポの姿。


(……あうぅ)


リリアは、ぽかんとした。


「ぽぽ……」


「なんなのだ?」


「おやちゅ、いっぱい……」


ポポの耳がぴくりと動いた。


「な、なぜわかったのだ!?」


「ぽぽ、かくちてるの〜?」


ピピが目を輝かせる。


「違うのだ! これは心の中で考えただけなのだ!」


「心の中ぁ?」


リリアは首を傾げた。


ポポとピピは顔を見合わせる。


「もしかして、リリア……」


「心の中が見えるようになったの〜?」


二匹の声が重なった。


リリアは、まだよくわかっていない様子で、こくんと頷いた。


「うー?」


ポポはごくりと唾を飲み込んだ。


「……これは大変なのだ」


ピピも真剣な顔になる。


「ポポのおやつの秘密が、全部ばれちゃうね〜!」


「そこなのだ!?」


ポポの叫びに、リリアはまた笑った。


「きゃはははっ!」


だが、その笑顔は長く続かなかった。


ふいに、胸の奥が冷たくなったのだ。


遠くから、誰かの強い感情が流れ込んでくる。


苛立ち。

焦り。

隠しきれない嫉妬。


そして、アリアを思い浮かべたときの、冷たい決意。


リリアの目の前に、黒い影が揺れた。


(あうぅ……)


次の瞬間、部屋の景色が消えた。


◇ ◇ ◇


リリアの目の前に現れたのは、ヴィクトリアの実家の城だった。


窓辺に立つヴィクトリア。


その手には、アリアが大切にしている花があった。


『あの子は、まだリリア王女のことばかり……』


ヴィクトリアは花を見下ろし、苛立たしげに呟いた。


『いつまであの子を、あの王女に執着させておくつもりなのかしら』


映像の中のヴィクトリアは、花を机の上に置いた。


その表情には、普段の優しい笑顔はなかった。


『アリアがリリア王女に会えば、また余計なことを話すかもしれない』


『池のことも、私が何を言ったのかも……』


リリアの小さな肩が震えた。


(いけ……?)


池の事件。


アリアがリリアを池へ連れていった、あの日。


あのときの映像が、再び目の前に浮かんだ。


『リリちゃん、こっちぃ!』


アリアの声。


水しぶき。


驚いた顔。


そして、水の中で必死に手を伸ばす二人。


映像は、そこで止まった。


今度は、池の事件の後の光景が現れる。


ヴィクトリアが、泣いているアリアの前にしゃがみ込んでいた。


『アリア。池のことは、誰にも話してはいけないわ』


『どうちてぇ……?』


『あなたが悪い子だと思われてしまうからよ』


『アリア……わるいこぉ?』


『そうならないためにも、秘密にしておくの』


幼いアリアは、涙を浮かべながら頷いていた。


『……うん』


その映像を見たリリアは、胸がぎゅっと苦しくなった。


(ありあ……わるいこ、ないない……)


アリアは、お母様の言葉を信じていただけなのだ。


リリアを傷つけようと考えていたわけではない。


けれど、ヴィクトリアはそのことを知りながら、アリアに秘密を守らせていた。


さらに映像が切り替わる。


ヴィクトリアがローレン医師と向かい合っていた。


『陛下には、アリアがリリア王女を怖がっていると伝えてください』


『しかし、実際にアリア王女がそう申したわけでは……』


『池の事件のあと、心が不安定になった。そう説明すればよいのです』


ヴィクトリアは、冷ややかに微笑んだ。


『リリア王女を傷つけたくなかったから、私が報告を控えていた。そういうことにしてください』


映像の中のローレン医師は、しばらく黙ったあと、頷いた。


『……承知しました』


リリアは、息をのんだ。


(あうっ……!)


アリアはリリアを怖がっていない。


本当は、会いたがっている。


それなのに、ヴィクトリアはアリアがリリアを怖がっていると、パパに伝えさせたのだ。


(うそ……なのぉ?)


リリアの目から、ぽろりと涙が落ちた。


映像が消える。


気づけば、リリアはベッドの上で、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめていた。


「ありあ……」


小さな声が震える。


「ありあ、こわく、ないない……」


ポポが、そっとリリアの肩に触れた。


「リリア……見えたものは、アリアの気持ちだったのだ?」


「うー……」


リリアは涙を拭いた。


「ありあ……リリちゃん、しゅきぃ……」


ピピは、リリアを優しく抱きしめた。


「うん。アリアちゃんは、リリちゃんが大好きなんだよぉ」


「ありあ……わるく、ないのぉ……」


「そうだねぇ」


ピピは頷いた。


「だから、アリアちゃんが悲しいままなのは、いやだねぇ」


リリアは、何度もこくこくと頷いた。


けれど、心の中には、まだ大きな疑問が残っていた。


どうしてヴィクトリアは、アリアを悲しませるのだろう。


どうしてパパに嘘を伝えるのだろう。


どうして、みんなが笑って暮らせるようにしないのだろう。


リリアには、まだその答えがわからなかった。


ただ、見えた映像の中で、ヴィクトリアは何度もパパとママを困らせていた。


そして、アリアも泣いていた。


(おばしゃま……どうちてぇ……)


リリアは小さな手を胸に当てた。


その瞬間、胸の奥で、再び光が輝いた。


今度は、ヴィクトリアの心の中にある、もっと深い感情へつながろうとしていた。


しかし――。


そこには、リリアにもはっきり見えない、黒い扉のようなものがあった。


扉の向こうから、冷たい風が吹きつける。


リリアは思わず目を閉じた。


「……いやぁ」


その扉の向こうに何があるのか。


今のリリアには、まだ知ることができなかった。


◇ ◇ ◇


そのころ、神界では。


神鏡を覗き込んでいたアテナが、驚いた表情を浮かべていた。


「これは……!」


ゼノが振り返る。


「どうした、アテナ?」


「リリアの精神感応能力が、さらに強くなっています。感情に結びついた記憶を、本人の意思とは関係なく映像として捉え始めているようです」


オルフェが眉を寄せた。


「記憶の断片まで見えるということか」


「ええ。ただし、完全な記録ではありません。感情の強い場面や、本人の記憶に残っている光景が断片的に映っているようです」


フィオナは心配そうに神鏡を見つめた。


「リリアは、まだ赤ちゃんよ。怖いものを見たら、きっと心まで痛くなってしまうわ」


ゼノは腕を組み、難しい顔をした。


「強い能力には、強い責任が伴う。人の心を知ることは、相手の秘密をすべて暴いてよいという意味ではない」


「そのとおりです」


アテナは頷いた。


「今後、リリアには見えた映像をどう受け止めるか、少しずつ学んでもらう必要があります」


神鏡の中では、リリアがぬいぐるみを抱きしめていた。


「……あの子は、アリアを助けたいのね」


フィオナが優しく呟いた。


ゼノは小さく頷く。


「まずは見守ろう。あの子が、見えたものだけで誰かを決めつけないように」


その言葉に、三柱の神々も静かに頷いた。


しかし、神々にもわからないことがあった。


ヴィクトリアの心の奥にある、黒い扉。


あれは、単なる隠し事の象徴なのか。


それとも、リリアの能力をもってしても容易には触れられない、何か別の理由があるのか。


その答えは、まだ誰にもわからなかった。


午後。


リリアは、エレナの膝の上で絵本を読んでもらっていた。


「むかしむかし、森の奥に、小さなうさぎが住んでいました……」


エレナが優しく読み進める。


リリアは絵本のうさぎを指さした。


「うしゃぎしゃん!」


「そうね。かわいいうさぎさんね」


「ぽぽみたい!」


「ポポは、うさぎさんだったの?」


「ちがうのだ!」


部屋の隅から、ポポの声が飛んできた。


「ポポは、立派な伝説のふわふわなのだ!」


ピピがすかさず突っ込む。


「でも、さっきクッキーを食べすぎて転がってたよね〜?」


「それは秘密なのだ!」


「ひみちゅ〜?」


リリアは、きょとんとした。


そして、ポポをじっと見つめた。


すると、また心の中の映像が見えた。


クッキーを抱えたポポが、こっそり棚の陰に隠れている。


その後ろには、空っぽのクッキー缶。


「……ぽぽ」


「な、なんなのだ?」


「おやちゅ……ないない?」


「なぜわかったのだーーーーっ!?」


エレナは不思議そうに笑った。


「ふふっ。リリアはポポのことをよく見ているのね」


人間たちは、リリアが心を読んでいるとは思っていない。


ポポは慌ててクッキー缶を隠し、ピピはお腹を抱えて笑った。


「ポポ、ばれちゃったね〜!」


「くううっ……! 次からは、もっと巧妙に隠すのだ!」


「そこ、反省するとこじゃないよ〜!」


リリアも、くすくす笑った。


けれど、笑いながらも、胸の奥にはアリアの悲しい気持ちが残っていた。


(ありあ……)


絵本を閉じたリリアは、エレナを見上げた。


「ままぁ……ありあ……?」


エレナは、少しだけ表情を曇らせた。


「アリア王女に会いたいのね」


「うん……ありあ、あいたいのぉ」


「そうね。ママも、アリア王女が元気にしているか心配だわ」


エレナはリリアの頭を撫でた。


「でも、今はヴィクトリア様のご実家のお城にいるから、すぐには会いに行けないの」


「……あうぅ」


リリアはしょんぼりした。


エレナは、リリアを抱きしめる。


「大丈夫。陛下もアリア王女のことを気にかけていらっしゃるわ。きっと、また会える日が来るからね」


「……うん」


リリアは頷いた。


けれど、そのとき。


また、胸の奥が光った。


今度は、遠く離れた城にいるアリアの心が、はっきりと伝わってきた。


◇ ◇ ◇


アリアは、部屋の中で一人、花を握りしめていた。


『リリちゃん……』


小さな唇が震える。


『リリちゃん、あいたいよぉ……』


その心の中に、リリアと遊んだ記憶が次々と浮かんでくる。


庭で花を見たこと。


一緒におやつを食べたこと。


リリアが笑いながら手を振ってくれたこと。


アリアの心には、リリアへの恐怖などなかった。


あるのは、友情と寂しさだけだった。


『リリちゃん、しゅきぃ……』


映像の中のアリアは、花を胸に抱きしめた。


『アリア、わるいこ、ないない……?』


その問いかけに、リリアの胸がぎゅっと締めつけられた。


(ありあ……わるく、ないのぉ!)


リリアは、思わず手を伸ばした。


もちろん、遠く離れたアリアに届くはずはない。


それでも、リリアは小さな声で伝えた。


「ありあ……だいしゅきぃ……」


映像はゆっくりと消えていった。


リリアの目から、涙がこぼれた。


「……ありあぁ」


エレナが驚いて、娘を抱きしめる。


「リリア? どうしたの?」


「ありあ……かなちぃ……」


「アリア王女が悲しんでいると思うのね」


「うん……」


リリアは、エレナの胸に顔を埋めた。


「ありあ、わるく、ないない……」


エレナは、少しだけ考えたあと、優しく答えた。


「そうね。アリア王女が何を思っているのか、私たちにはまだ全部わからないわ。でも、あの子を大切に思う気持ちは、きっとリリアと同じね」


「ありあ……しゅきぃ」


「ええ。大切なお友達だものね」


エレナはリリアの涙を拭った。


「いつかまた、二人が一緒に遊べるように、ママもできることを考えるわ」


「ままぁ……!」


リリアは、エレナにぎゅっと抱きついた。


(まま……やしゃしいのぉ)


リリアの心に、温かな光が広がった。


しかし、その光の向こうには、まだヴィクトリアの冷たい表情が残っていた。


アリアを悲しませる言葉。


パパに伝えさせた嘘。


そして、誰にも見せない黒い感情。


リリアは、それらを忘れなかった。


けれど、今のリリアには、まだどうすればよいのかがわからない。


だからこそ、もっと確かめる必要があった。


アリアの本当の気持ちを。


ヴィクトリアが隠していることを。


そして、パパとママが困っている理由を。


◇ ◇ ◇


そのころ、皇帝の執務室では、新しい報告が届いていた。


「陛下。アリア王女の移動に関する記録を調べましたが、正式な手続きが行われた日時と、実際に出発した日時に食い違いがございます」


アレクは顔を上げた。


「食い違い?」


「はい。記録上は事前に準備されていたことになっていますが、関係者の証言では、出発の準備は急に進められたようです」


「つまり、後から記録を整えた可能性があるということか」


「可能性はございます。ただし、現時点では記入ミスなどの可能性も否定できません」


アレクは頷いた。


「よい。可能性だけで誰かを罪人扱いするつもりはない。ほかの記録とも照合しろ」


「承知いたしました」


騎士団長は続けて報告した。


「また、ローレン医師の報告についても、診察内容と伝聞が混在していることがわかりました。本人が直接確認した事実と、ほかの者から聞いた話を分けて調べております」


アレクは、机の上で指を組んだ。


「アリア王女が本当にリリアを怖がっているのなら、無理に会わせるべきではない。だが、誰かがそう言っているだけなら、本人の気持ちを確かめる必要がある」


「はい」


「アリア王女が安心して話せるよう、慎重に進めてくれ。ヴィクトリアにも、まだ何も伝えるな」


騎士団長が退出したあと、アレクは深いため息をついた。


「……一体、何を隠しているのだ」


その問いに答える者は、まだいなかった。


◇ ◇ ◇


夕方。


リリアは窓辺に座り、空を見上げていた。


ポポとピピは、その両脇に並んでいる。


「リリア。アリアにお手紙を送るのだ?」


「うー!」


リリアは、こくんと頷いた。


「ありあに、おはな……おくりゅのぉ!」


「いいねぇ! ピピもお手伝いする〜!」


ポポも胸を張った。


「ポポにおまかせなのだ! 今度こそ、完璧に届けるのだ!」


ピピが疑わしそうに目を細める。


「前に花を届けたとき、廊下で転がってたよね〜?」


「それは床が滑っただけなのだ!」


「ポポが花を踏みそうになったからでしょ〜!」


「むむむ……!」


二匹の言い合いを見て、リリアは笑った。


「きゃははっ!」


それから、リリアは小さな手を窓の外へ伸ばした。


庭の小鳥が一羽、枝から飛び立つ。


人間たちに気づかれないよう、リリアは小さな声で囁いた。


「ことりしゃん……ありあに、おはな……おねがいぃ」


小鳥は、ちゅん、と鳴いた。


そして、夕空へ飛び立っていった。


リリアは、その姿を見送りながら、小さな手を胸に当てた。


人の心を読む力は、これからもっと強くなるのかもしれない。


嬉しい気持ちも、悲しい気持ちも、隠された記憶も。


いつか、もっとはっきりと見えてしまう日が来るのだろう。


それでも――。


(ありあ……まもりゅのぉ)


(ぱぱも、ままも……まもりゅのぉ)


リリアは、まだ知らない。


自分が見たヴィクトリアの記憶のさらに奥に、誰にも明かされていない秘密が隠されていることを。


そして、アレクの調査が、その秘密へ少しずつ近づいていることを。


今はただ、大好きな友達を笑顔にしたい。


パパとママを守りたい。


その小さな願いが、王宮に渦巻く陰謀を変える第一歩になろうとしていた。


神界では、ゼノが神鏡を見ながら呟いた。


「……リリア。力が強くなっても、優しい心を失うなよ」


その隣で、アテナが頷く。


「そして、見えたものをすべて真実だと思い込まないこと。それも、学ばなければなりませんね」


フィオナは微笑んだ。


「でも、あの子なら大丈夫。誰かを守りたいという気持ちは、本物だもの」


オルフェは静かに未来を見つめた。


「ただし、その力が導く先には、まだ見えていない運命もある」


神鏡の中で、リリアはポポとピピに挟まれながら、最後のおやつを頬張っていた。


「おやちゅ、おいちぃ!」


「ポポも食べるのだ!」


「ポポはもう食べすぎ〜!」


いつもの賑やかな声が、部屋いっぱいに響く。


リリアの新しい能力は、まだ始まったばかり。


そして、ヴィクトリアの秘密も、まだすべては明らかになっていない。




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