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第30話 「届いた友情の花! リリア姫に見えた第二夫人の心」

第30話

「届いた友情の花! リリア姫に見えた第二夫人の心」


王宮から遠く離れた、ヴィクトリアの実家の城。


その一室で、アリア王女は窓辺に座っていた。


小さな手には、リリアから届いた花が大切そうに握られている。


「リリちゃん……」


アリアは、花びらをそっと撫でた。


「リリちゃん、あいたいよぉ……。いっしょに、あしょびたいのぉ……」


目に涙が浮かぶ。


アリアは悪いことをしたいわけではなかった。ただ、大好きなリリアと遊びたかっただけなのだ。


けれど、お母様のヴィクトリアからは、何度も言われていた。


――あなたは今、心が不安定なの。

――リリア王女とは、しばらく会わないほうがいいわ。


アリアには、その意味がよくわからなかった。


リリアと遊ぶと、どうしていけないのだろう。


リリアは、いつも優しく笑ってくれる。

お花をくれて、一緒におやつを食べて、手をつないでくれる。


「リリちゃん……しゅきぃ……」


アリアは花を胸に抱きしめた。


そのころ、王宮では――。


「ぽぽに、おまかせなのだ!」


ポポは小さな胸を張り、リリアの寝室の床に立っていた。


「ポポ、しーっ! おっきなこえ、だめぇ!」


リリアは人差し指を口元に当てた。


「ぴぴも、いっしょにやる〜!」


ピピも小さな声で答える。


二匹の前には、リリアが描いた絵と、小さな花が用意されていた。


絵には、リリアとアリアが手をつないでいる姿が描かれている。二人の間には大きなお花。端っこには、リリアが頑張って描いた丸い手形もあった。


もちろん、絵は少し歪んでいる。


リリアの顔は丸く、アリアの顔はなぜか四角い。花びらは数えきれないほど多く、空には謎の黄色い丸が浮かんでいた。


「これは太陽なのだ?」


ポポが尋ねた。


「うー!」


「なるほど、リリアの特製おやつなのだな!」


「ちがうでしょ〜! おひしゃま、だよぉ!」


リリアはほっぺをぷくっと膨らませた。


ピピは絵を覗き込み、にこにこ笑った。


「アリアちゃん、きっとよろこぶよ〜!」


「ありあ……にこにこ?」


「うん! きっと、にこにこ〜!」


リリアの顔がぱっと明るくなる。


「えへへぇ……!」


しかし、次の瞬間。


リリアの胸の奥が、きゅうっと痛んだ。


アリアが泣いている。


目の前にいるわけではないのに、リリアには、アリアの悲しい気持ちが伝わってきた。


(あうぅ……ありあ、かなちぃのぉ?)


今までも、リリアは人の気持ちを感じ取ることがあった。


誰かが悲しんでいれば、胸がちくちくした。

誰かが怒っていれば、空気がぴりぴりした。

誰かが嬉しければ、自分までぽかぽかした。


けれど、今日は違った。


胸の奥で、小さな光がぱっと弾けたのだ。


そして――。


リリアの目の前に、見たことのない景色が浮かび上がった。


◇ ◇ ◇


そこは、王宮の庭だった。


池のそばに、リリアとアリアがいる。


アリアがリリアの手を引いていた。


『リリちゃん、こっちぃ!』


『いやぁ……おみじゅ、こわいぃ!』


次の瞬間、二人の体が池へ傾いた。


水が跳ねる。


小さな手が、水面に伸びる。


リリアは息をのんだ。


(あうっ……これぇ……!)


あの日の池の事件。


けれど、映像はそこで終わらなかった。


景色がぐにゃりと揺れ、別の場所へと変わる。


ヴィクトリアが、アリアの前に立っていた。


『アリア。リリア王女を池に連れていって、びっくりさせてあげなさい』


『びっくりぃ?』


『ええ。あの子はきっと喜ぶわ。これは二人だけの秘密よ』


アリアは、嬉しそうに頷いていた。


『リリちゃん、よろこぶのぉ?』


『そうよ。だから、誰にも言ってはいけないわ』


映像の中のアリアは、悪いことをしようとしているようには見えなかった。


ただ、お母様の言葉を信じていた。


リリアの小さな胸が、きゅっと縮む。


(ありあ……わるいこと、したかったんじゃ、ないのぉ……?)


映像がまた揺れた。


今度は、ヴィクトリアがひとりで立っている。


その顔から、優しい笑みが消えていた。


『これで、しばらく二人は会えないわね』


冷たい声。


『アリアには、まだ何もわからない。あの子には、私の言うとおりにしてもらわなくては』


その瞬間、映像は途切れた。


◇ ◇ ◇


「……あうぅ」


リリアは、その場にぺたんと座り込んだ。


ポポとピピが慌てて駆け寄る。


「リリア!? どうしたのだ!?」


「おなか、いたいのぉ? だいじょうぶぅ?」


リリアは首を横に振った。


けれど、いつものように笑うことができなかった。


(ありあ……かなちぃ……)


(おばしゃま……ありあに、うそ、いったのぉ?)


ヴィクトリアの笑顔が頭に浮かぶ。


いつも優しく話しかけてくる第二夫人。

ママに笑いかける第二夫人。

パパの前では、悲しそうな顔をする第二夫人。


その笑顔の向こうに、さっきの冷たい表情が重なった。


(あうぅ……)


リリアは、小さな手で胸元をぎゅっと握った。


(おばしゃま……パパとママ、こまらせてるのぉ?)


その考えが浮かんだ途端、胸の奥がまた光った。


今度は、別の映像が現れた。


王宮の廊下。


ヴィクトリアが侍女に何かを渡している。


『この贈り物を、第一夫人のところへ運びなさい』


場面が変わる。


豪華な箱に入ったミルク。


医師が瓶を調べ、険しい顔をしている。


『このミルクには、乳児に有害な成分が含まれています』


さらに、別の映像。


パパが机の前で難しい顔をしていた。


ママは心配そうに寄り添い、パパは書類を握りしめている。


『また、リリアを危険にさらすようなことが……』


パパの声が、リリアの耳に響いた。


『私は、家族を守らなければならない』


ママの悲しそうな顔。


パパの疲れた顔。


そして、遠くからそれを見つめるヴィクトリア。


映像の中のヴィクトリアは、誰も見ていないことを確かめると、唇をきゅっと結んだ。


『まだ、諦めるわけにはいかないわ』


映像が消えた。


「……ぱぱ……まま……」


リリアの瞳に涙が浮かんだ。


(ぱぱ、かなちぃ……)


(まま、こまっちゃうのぉ……)


小さなリリアには、映像のすべてを理解できたわけではない。


誰が何をしたのか。

なぜそんなことをするのか。

どうしてヴィクトリアが、優しい顔と冷たい顔を使い分けるのか。


まだ、わからないことばかりだった。


それでも、ひとつだけわかった。


アリアは、リリアに会いたいと思っている。


そして、ヴィクトリアは、アリアとリリアが会えないようにしている。


それだけではない。


パパとママも、何度も困っている。


(おばしゃま……いじわる、してるのぉ……?)


リリアは震える唇をきゅっと結んだ。


「……やぁ」


ポポとピピは顔を見合わせた。


「リリア……?」


リリアは二匹を見上げた。


「ありあ……ないない、かなちぃ……」


「そうなのだ。アリアはずっと寂しそうなのだ」


ポポが、いつもより静かな声で答えた。


「アリアちゃん、リリちゃんに会いたいんだよぉ」


ピピも、そっとリリアの頬に寄り添った。


リリアは絵を胸に抱きしめた。


「ありあ……まもりゅ……」


小さな声だった。


けれど、その目には、いつものいたずらっ子の笑みとは違う、強い光が宿っていた。


「ぱぱも……ままも……まもりゅのぉ……!」


そのころ、神界では。


創造神ゼノが、神鏡を覗き込んでいた。


「……おい。今の光は何だ?」


知恵と魔法の女神アテナが、真剣な顔で神鏡を調べる。


「リリアの精神感応能力が、急激に成長しています。今までは感情を感じ取る程度でしたが……今は、感情に結びついた記憶の断片まで見え始めているようです」


運命と予言の神オルフェが、眉を寄せた。


「本人の意思とは関係なく、映像が流れ込んでいるのか」


「ええ。まだ断片的ですが、これが続けば、隠された感情や記憶を、より深く読み取れるようになるかもしれません」


生命と動物の女神フィオナは、心配そうにリリアを見つめた。


「でも、リリアはまだ小さな赤ちゃんよ。見たものの意味を、全部理解できるわけではないわ」


「それが問題だ」


ゼノは腕を組んだ。


「強い力を持つことと、その力を正しく使えることは別だ。リリアが誰かの悲しみや悪意を知ったとき、どう受け止めるか……」


神鏡の中では、リリアが絵をぎゅっと抱きしめていた。


「……あの子は、家族を守ろうとしているのね」


フィオナの声は優しかった。


アテナは静かに頷く。


「ええ。ただし、見えたものがすべてとは限りません。記憶は断片的です。状況を確かめずに決めつけてはいけないことも、いつか教えなければ」


ゼノは深く息を吐いた。


「まずは見守ろう。あの子が自分の力に振り回されないようにな」


そのころ、王宮の寝室では――。


リリアが、絵の中のアリアを指でなぞっていた。


「ありあ……まっててぇ」


そして、少しだけ顔を上げる。


「リリちゃん……いくのぉ」


もちろん、今すぐ遠くの城まで行けるわけではない。


けれど、リリアの心には、ひとつの決意が生まれていた。


大好きなアリアを、ひとりぼっちにしたくない。


パパとママを、悲しませたくない。


そのためなら、リリアはもっと頑張るのだ。


……ただし。


「ぽぽ……おやちゅ、もってくのぉ」


「おおっ! さすがリリアなのだ! 作戦には食料が必要なのだ!」


「ピピも、おやちゅ、もってく〜!」


神界のゼノが、神鏡の向こうで頭を抱えた。


「そこは変わらんのかーーーーっ!!」




◆◆◆「第二夫人の黒い心! リリア姫、パパとママを守る決意!」


翌朝。


リリアは、いつもより早く目を覚ました。


「ままぁ……」


隣で眠っていたエレナが、ゆっくりと目を開ける。


「おはよう、リリア。今日は早起きさんね」


「ままぁ……だいしゅきぃ」


リリアは、エレナの胸にぎゅっと抱きついた。


エレナは微笑み、小さな背中を優しく撫でる。


「私も大好きよ。どうしたの? 何か怖い夢でも見たのかしら?」


「うー……」


リリアは、答えようとした。


けれど、昨夜見えた映像を、どう説明すればいいのかわからない。


ヴィクトリアがアリアに秘密を命じる姿。

危険なミルク。

悲しそうなパパとママ。


それらを口にしようとしても、リリアの口から出てくるのは、いつもの赤ちゃん言葉だけだった。


「おばしゃま……いやぁ……」


エレナが、少し不思議そうに首を傾げる。


「ヴィクトリア様がどうかしたの?」


「……あうぅ」


リリアは、エレナの服をきゅっと握った。


エレナは、無理に聞き出そうとはしなかった。


「何か気になることがあるのね。でも、大丈夫よ。ママはここにいるわ」


「まま……」


「あなたが悲しいときは、いつでも抱きしめてあげるからね」


「まま、だいしゅきぃ!」


リリアはエレナの胸に顔を埋めた。


(まま……まもりゅのぉ)


心の中で、そう呟く。


すると――。


また、あの光が生まれた。


胸の奥から、淡い光が広がっていく。


リリアの目の前に、エレナの顔が映った。


優しい笑顔。

リリアを抱きしめる腕。

そして、ほんの少しだけ疲れた表情。


その奥には、いくつもの気持ちが重なっていた。


リリアを守りたい。

アリアも大切にしたい。

ヴィクトリアとも、できるなら穏やかに過ごしたい。


エレナは、誰かを傷つけたいとは思っていなかった。


(まま……やしゃしいのぉ)


リリアは、ほっとした。


けれど、その直後だった。


別の映像が、突然割り込んできた。


ヴィクトリアがエレナに微笑みかけている。


『あなたには、いつも感謝しているのよ』


優しい言葉。


しかし、場面が変わると、ヴィクトリアの表情が冷たくなる。


『第一夫人とリリア王女ばかりが大切にされている……』


ヴィクトリアの胸の中に、黒い雲のような感情が渦巻いていた。


嫉妬。

焦り。

そして、自分の計画が思いどおりにならないことへの苛立ち。


『このままでは、何も手に入らないわ』


映像の中のヴィクトリアは、誰にも聞こえない声で呟いていた。


『リリア王女がいる限り、私の望む未来は遠いまま……』


リリアは、はっと息をのんだ。


(あうっ……!)


映像が消える。


「リリちゃん?」


エレナが、リリアの顔を覗き込んだ。


「どうしたの? お顔が真っ青よ」


「……おばしゃま」


リリアは、震える声で呟いた。


「おばしゃま……こわいのぉ……」


エレナは少し驚いたが、すぐにリリアを抱きしめ直した。


「大丈夫よ。ここにはママもパパもいるわ」


けれど、リリアの胸の中では、何かが変わり始めていた。


今までヴィクトリアに会うと、なんとなく胸がざわざわすることがあった。


それは、赤ちゃんだから気まぐれなのだと思っていた。


でも、違ったのかもしれない。


ヴィクトリアの笑顔の裏側には、リリアにはまだ理解しきれない、暗い気持ちが隠れていた。


そして、その気持ちは、パパとママを困らせていた。


(おばしゃま……いじわる、してるのぉ……)


リリアは、小さな手をぎゅっと握った。


(だめぇ……!)


その日の昼下がり。


アレクは執務室で、騎士団長から報告を受けていた。


「陛下。アリア王女がヴィクトリア様のご実家の城へ移られた件ですが、やはり通常の手続きと異なる点がいくつかございます」


「具体的には?」


「移動の手配が急だったこと、正式な報告が遅れていたこと。それから、アリア王女の体調について、報告書の内容と実際の様子が一致しているか、確認が必要です」


アレクは、机の上の書類に目を落とした。


「アリア王女は、本当に休養を必要としているのだろうか」


「現時点では断定できません。ローレン医師は、池の事件以降、アリア王女の心が不安定になったと説明しております」


「だが、アリア王女本人から直接話を聞いたわけではないのだな?」


「はい。医師の説明では、侍女たちから聞いた話をもとに判断した部分もあるとのことです」


アレクは、静かに目を閉じた。


池の事件。

毒物の混入したミルク。

贈り物に関する不自然な記録。

そして、アリア王女の突然の移動。


ひとつひとつは、まだ決定的な証拠ではない。


しかし、偶然として片づけるには、不自然な点が増えすぎていた。


「引き続き、慎重に調べてくれ。ヴィクトリアを疑っていると悟られてはならない」


「承知いたしました」


「そして、アリア王女を責めるようなことは絶対にするな。あの子はまだ幼い。何か事情があるなら、安心して話せる環境を整えることが先だ」


「かしこまりました」


騎士団長が退室すると、アレクは窓の外を見つめた。


「……リリア。お前の大切な友達に、何が起きているのだろうな」


その言葉を、廊下の向こうから来たリリアが聞いていた。


「……ぱぱ?」


アレクはすぐに振り返り、顔をほころばせた。


「おお、リリア! どうしたんだ?」


リリアは、よちよちと父のもとへ歩いていく。


「ぱぱ……だっこぉ」


「もちろんだ!」


アレクはリリアを抱き上げ、膝の上に座らせた。


「今日はどうした? 甘えん坊さんだな」


「ぱぱ……かなちぃ?」


アレクは目を丸くした。


「私が悲しそうに見えたのか?」


「うー……」


リリアは、父の頬を小さな手でぺたぺたと触った。


「ぱぱ、にこにこぉ」


「ははっ! そうか。リリアに心配をかけてはいけないな」


アレクは笑顔を作り、娘を抱きしめた。


「大丈夫だよ。パパは頑張るからな」


けれど、リリアにはわかっていた。


パパは笑っている。


それでも、心の奥には心配がある。


(ぱぱ……むり、しちゃ、だめぇ……)


リリアは、父の胸に顔を寄せた。


「ぱぱ、だいしゅきぃ」


「私も大好きだよ、リリア」


アレクは娘の頭を撫でた。


「お前がいてくれるだけで、私は強くなれる」


その言葉を聞いたリリアの胸に、また温かな光が灯った。


今度は、怖い映像ではなかった。


パパがリリアを抱きしめている姿。

ママが微笑んでいる姿。

アリアが花を抱きしめ、笑っている姿。


それらが、柔らかな光の中に浮かんでいた。


(ぱぱ……まま……ありあ……)


(みんな、にこにこぉ……)


リリアは、にっこり笑った。


「みんな……だいしゅきぃ!」


アレクは嬉しそうに笑い、リリアの頬に口づけた。


「そうだな。みんなが笑っていられるようにしよう」


そのころ、ヴィクトリアの実家の城では――。


アリアが、窓辺で小さな花を眺めていた。


「リリちゃん……」


そこへヴィクトリアがやってきた。


「アリア、またその花を見ているの?」


「ままぁ……リリちゃん、あいたいのぉ」


ヴィクトリアの笑顔が、一瞬だけ固まった。


「今は、まだ会えないわ」


「どうちてぇ……?」


「あなたは、ゆっくり休まなければいけないのよ」


アリアは、悲しそうに花を抱きしめた。


「アリア……わるいこぉ?」


ヴィクトリアは、わずかに目を細めた。


「そんなことはないわ。ただ、今はお母様の言うことを聞いてちょうだい」


「……うん」


アリアは、小さく頷いた。


ヴィクトリアは優しく微笑んだまま、部屋を出ていった。


扉が閉まった瞬間、その笑顔は消えた。


「……いつまでも、こうしてはいられないわね」


アレクの調査は、少しずつ進んでいる。


そして、アリアをリリアから遠ざけ続けることにも、限界がある。


ヴィクトリアは、廊下の窓から外を見つめた。


「セドリックと、もう一度話さなければ……」


そのとき。


王宮のリリアは、胸元を押さえていた。


また、あの不思議な感覚が訪れたのだ。


遠く離れた場所にいるアリアの気持ちが、流れ込んでくる。


寂しい。

会いたい。

自分が悪い子なのかもしれない。


そんな小さな悲しみが、映像となってリリアの目の前に浮かんだ。


アリアが花を抱きしめ、涙をこぼしている。


『リリちゃん……ごめんねぇ……』


リリアは、思わず両手を伸ばした。


「ありあぁ……!」


けれど、手は空を掴むだけだった。


「ありあ……わるく、ないのぉ……!」


ポポとピピが駆け寄る。


「リリア、今のは……?」


「ありあ……かなちぃ……」


リリアは涙を浮かべながら、二匹に訴えた。


「ありあ、わるいこ、ないない!」


「そうなのだ! アリアは悪い子ではないのだ!」


ポポは力強く頷いた。


「ピピも、そう思うよぉ!」


ピピもリリアの手を握った。


リリアは涙を拭き、小さな顔を上げた。


(ありあ……たすけりゅ)


(ぱぱと、ままも……まもりゅ)


そして、最後にもう一度、はっきりと心の中で呟いた。


(リリちゃん……がんばるのぉ!)


小さな赤ちゃん姫の力は、少しずつ変わり始めている。


人の気持ちを感じ取るだけだった力は、やがて心に隠された記憶の断片まで映し出すようになった。


しかし、映像はまだ断片的で、すべての真実を教えてくれるわけではない。


リリアは、見えたものを少しずつ確かめていかなければならないのだ。


そして、ヴィクトリアの心の奥にある秘密も、まだすべてが明らかになったわけではなかった。


神界では、四柱の神々が神鏡を見つめていた。


ゼノは深いため息をつく。


「……リリアの力が、予想以上に早く成長しているな」


アテナが静かに答えた。


「感情と記憶が結びつき始めています。今後は、本人が望まなくても映像が見えてしまうことがあるかもしれません」


オルフェは、神鏡の向こうにいるリリアを見つめた。


「それでも、あの子は家族と友達を守ろうとしている」


フィオナは優しく微笑んだ。


「ええ。だからこそ、あの子が悲しいものばかりを見てしまわないよう、見守ってあげなくてはね」


一方、リリアはポポとピピに挟まれながら、おやつを食べていた。


「ぽぽ、おやちゅ、もっとぉ!」


「ポポにおまかせなのだ!」


ポポが勢いよくおやつの皿に飛びつく。


その瞬間、皿が傾き、クッキーが床にばらばらと散らばった。


「ぽぽぉぉ!」


「ポポ、なにやってるの〜!」


神界のゼノが、またしても頭を抱えた。


「リリアの成長を見守るだけでも大変なのに、なぜ毎回こうなるのだーーーーっ!!」


けれど、リリアは笑っていた。


泣いているアリアを助けたい。

パパとママを守りたい。


その気持ちは、もう揺らがない。


そして、リリアの新しい力は、少しずつ王宮に隠された秘密へと近づいていくのだった。


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