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第29話 リリア姫の秘密のお手紙! 友情の花をアリア王女へ

第29話

リリア姫の秘密のお手紙! 友情の花をアリア王女へ


王宮の庭園。


リリアは、ポポとピピを前にして、小さな花を両手で大切そうに持っていた。


「ありあに、おはな、とどけりゅのぉ……」


その声は、いつもより少しだけ真剣だった。


大好きなアリアが、遠いお城で泣いている。


そう知ってから、リリアはずっと考えていた。


どうすれば、アリアを元気づけられるだろう。


どうすれば、アリアに「ひとりじゃないよ」と伝えられるだろう。


「リリちゃん、手紙も一緒に届けたらどうかな?」


ピピが提案した。


「おてがみぃ?」


「そう。リリちゃんからの花だってわかるように、絵を描くの!」


「おえかき!」


リリアの顔がぱっと明るくなった。


「かきかき、ちゅるぅ!」


「よし、ではポポが手紙の運搬係を務めるのだ!」


ポポが胸を張る。


「ポポ、ちゃんと届けられる?」


「もちろん! ポポにおまかせなのだ!」


「前におやつを運んだとき、途中で全部食べちゃったよね?」


「今回は食べ物ではないのだ! だから大丈夫なのだ!」


「ほんとかなぁ……」


ピピはじっとポポを見た。


リリアは二人のやり取りに、くすくす笑った。


それから、ミレに見つからないように、庭園の隅にある小さなテーブルへ向かった。


もちろん、人間たちの前では、いつもの赤ちゃんらしい言葉しか話さない。


「あー! おはなぁ!」


リリアは花をテーブルに置くと、紙とクレヨンを手に取った。


そして、一生懸命に絵を描き始めた。


丸い顔。


ちょこんとした目。


その横には、もうひとつ丸い顔。


二人の間には、大きな花が描かれている。


最後に、紙の端へ、小さな手形をぺたり。


「できちゃぁ!」


リリアは満足そうに紙を持ち上げた。


ポポとピピがのぞき込む。


「これは……リリアとアリアなのだな!」


「うん! リリちゃんとありあ!」


リリアは自分の胸を指さし、次に、もうひとつの丸い顔を指さした。


「あっち、ありあ!」


そして、二人の間の花を指さす。


「おはな、いっちょ!」


ピピは、じんと胸が温かくなった。


「うん。きっとアリアも喜ぶよ」


「ありあ、えがお、なるぅ?」


「なると思うのだ!」


ポポが大きくうなずいた。


「アリアはリリアのことが大好きなのだ。こんな手紙をもらったら、きっと笑顔になるのだ!」


リリアは、紙をぎゅっと胸に抱きしめた。


「ありあ、だいしゅきぃ……」


そのとき、廊下からミレの声が聞こえた。


「リリア様? どちらにいらっしゃいますか?」


リリアは、はっと顔を上げた。


ポポとピピは、すぐにテーブルの下へ隠れる。


リリアは描いた紙を両手で持ち、にこっと笑った。


「まんま!」


ミレが庭園の隅へやってくる。


「あら、リリア様。お絵描きですか?」


「かきかきぃ!」


リリアは紙を差し出した。


ミレは絵をのぞき込み、微笑んだ。


「まあ、かわいらしい絵ですね。こちらはリリア様で、こちらは……アリア王女でしょうか?」


「あー!」


リリアは嬉しそうに手を叩いた。


「アリア王女に会えなくて、寂しいのですね」


ミレは、リリアをそっと抱き上げた。


「でも、きっとまたお会いできますよ。それまで、元気に過ごしましょうね」


「……うん!」


リリアは、紙を大切に抱きしめた。


ミレはその絵を見て、優しく微笑んだ。


まさか、その絵を使って、リリアが秘密の作戦を立てているとは夢にも思わなかった。


---


そのころ、王宮から遠く離れた城では。


アリアが窓辺に座り、リリアからもらった花を見つめていた。


「リリちゃん……」


花びらをそっとなでる。


「ありあ、あいたいぃ……」


そこへ、城の召し使いが入ってきた。


「アリア王女、お昼のおやつをお持ちしました」


「おやちゅ……?」


アリアは顔を上げた。


小さな皿には、柔らかな焼き菓子と果物が並んでいる。


「おいしそうですね。召し上がりますか?」


「……うん」


アリアはひとつ食べた。


けれど、すぐに手を止めてしまう。


「リリちゃんも……おやちゅ、たべてりゅかなぁ……」


召し使いは困ったように微笑んだ。


「リリア王女も、きっとお元気に過ごされていますよ」


「リリちゃん……げんきぃ?」


「はい、きっと」


アリアは、手の中の花を見つめた。


「ありあも、げんき、なるぅ……。そしたら、リリちゃん、あえるぅ?」


「……そうですね。お元気でいらっしゃることが、何より大切ですから」


召し使いは、アリアの頭を優しくなでた。


その言葉を聞いて、アリアは小さくうなずいた。


「ありあ、いいこ、ちゅるぅ……」


しかし、アリアはまだ知らなかった。


リリアが、自分に花と手紙を届ける方法を考えていることを。


そして、王宮では、皇帝が別の秘密を追い始めていることも。


---


天界。


四柱の神々は、神鏡に映るリリアの様子を見守っていた。


「今回は、花と絵を届ける作戦ね」


アテナが、少し安心したように言った。


「リリアも、相手を思いやる方法を考えるようになったのだな」


ゼノがうなずく。


フィオナは、嬉しそうに微笑んだ。


「リリアの力は大きいけれど、こういう小さな優しさも大切なのよね」


その横で、オルフェは別の神鏡を見ていた。


そこには、アレク皇帝が騎士団長と向き合っている姿が映っていた。


「……地上でも、動きがありそうだ」


オルフェが静かに告げる。


アテナの表情が引き締まった。


「皇帝が、ようやく本格的に調べ始めたのね」


ゼノは、二つの神鏡を見比べた。


片方では、小さな王女が友達のために絵を描いている。


もう片方では、皇帝が隠された真実へ近づこうとしている。


「どちらも、急がせるわけにはいかんな」


ゼノはそう言って、神鏡から目を離さなかった。


そのころ、リリアはポポとピピに向かって、小さな手を差し出していた。


「ぽぽ、ぴぴ……おねがい、ちましゅ!」


「任せるのだ!」


「ピピもいっしょにやる〜!」


友情の花と、小さな手紙。


それが、遠く離れた二人の王女を再び結びつける、最初の一歩になろうとしていた。



◆◆◆皇帝陛下の秘密調査! 第二夫人を疑う理由


王宮、皇帝の執務室。


アレクは、机の上に広げられた複数の報告書を、ひとつずつ読み比べていた。


馬車への襲撃事件。


リリアに贈られた危険なミルク。


池に落ちた二人の王女。


そして、アリアが突然、第二夫人の実家の城へ静養に出されたこと。


ひとつひとつを見れば、偶然や行き違いで説明できるものもある。


しかし、すべてを並べてみると、どうしても見過ごせない違和感があった。


「……騎士団長」


「はっ」


「これまでの調査で、第二夫人ヴィクトリアの行動に不自然な点がいくつも見つかっている。だが、まだ決定的な証拠はない。そうだな?」


「そのとおりでございます。第二夫人が直接関与したと断定できる証拠は、現時点では見つかっておりません」


「ならば、さらに詳しく調べる必要がある」


アレクは、ミルクの贈り物に関する記録を手に取った。


「危険な成分が見つかったにもかかわらず、誰が混入したのかはわかっていない。贈り物の受け渡し記録にも不自然な点があった。だが、調べようとすると、必要な記録がそろわなかったり、話を聞こうとした人物がすでに別の場所へ移っていたりする」


騎士団長は真剣な表情でうなずいた。


「はい。いずれも単独では不十分ですが、調査を進めるうえで気になる点ではあります」


「池の事件についても同じだ。アリアは、何かを話そうとして口を閉ざしているように見えると報告されている。ところが、事件のあと、突然心が不安定になったという理由で、今度は王宮から遠ざけられた」


アレクは書類を机に置いた。


「しかも、私がアリアとの面会を考えている時期と重なっている」


「……偶然とは考えにくい、ということでしょうか」


「まだ断定はしない。だが、私はそうした不自然な点を、これ以上見逃したくない」


アレクの声には、皇帝としての厳しさと、幼い王女たちを心配する父親としての思いが込められていた。


「リリアもアリアも、まだ幼い子どもだ。大人の都合で傷つけられていいはずがない」


騎士団長は深く頭を下げた。


「陛下のお考え、確かに承りました」


アレクは一度、扉のほうへ目を向けた。


そして、声を落とした。


「ここからの調査は、第二夫人に知られないように進めてほしい」


「陛下……」


「関係者への聞き取りも、記録の確認も、必要最小限の人数で行うのだ。第二夫人の耳に入れば、証拠を隠されたり、関係者に口止めされたりする可能性がある」


騎士団長の表情が引き締まる。


「つまり、陛下は、誰かが調査の動きを把握している可能性もお考えなのですね」


「ああ」


アレクは、ゆっくりとうなずいた。


「私が何を調べようとしているのか、誰かが先回りして知っているように感じる。調査が進みそうになると、話が途切れたり、記録が不自然に欠けていたりする。単なる手違いで片づけるには、気になることが多すぎる」


彼は、しばらく黙ってから続けた。


「第二夫人だけが動いているとは限らない。誰かがこちらの動きを知り、秘密を隠蔽しようとしている可能性もある」


騎士団長は息をのんだ。


「陛下、それは……王宮の内部に、調査の情報を外へ漏らしている者がいる可能性もある、ということでしょうか」


「その可能性も含めて調べるのだ。だが、誰かを疑うだけで罪を決めつけてはならない。証拠を集め、事実を確かめる。それが我々の仕事だ」


「かしこまりました」


「それから、アリアのいる城についても調べてくれ。静養の準備がいつ始まったのか、誰が出発を手配したのか。そして、アリアが本当に静養を必要としているのかも、本人を怖がらせない方法で確認するのだ」


「承知いたしました。第二夫人に気づかれないよう、慎重に進めます」


「頼んだぞ」


騎士団長が退出すると、アレクは椅子に深く腰を下ろした。


窓の外では、王宮の庭園に柔らかな午後の日差しが差し込んでいる。


「ヴィクトリア……。お前は、何を隠している?」


まだ答えは出ていない。


しかし、アレクはもう、ただ様子を見守るだけでは終わらせないと決めていた。


---


一方、第二夫人の部屋。


ヴィクトリアは、侍女から報告を受けていた。


「陛下が、騎士団長と長い時間お話しされていたようです」


「……どんな話を?」


「詳しい内容までは、わかりません」


ヴィクトリアは、扇を握る手に力を込めた。


アレクが何を調べているのか。


どこまで知っているのか。


それを確かめたかったが、うかつに動けば、かえって疑われてしまう。


「そう……。何かわかったら、すぐに知らせてちょうだい」


「かしこまりました」


侍女が退出すると、ヴィクトリアはひとりになった部屋で、深く息を吐いた。


「まさか、アリアを送り出したことまで疑われているの……?」


彼女は窓の外を見つめた。


アリアは、今ごろ両親の城にいるはずだ。


静養という名目で王宮から遠ざけた以上、しばらくは戻すつもりはない。


しかし、アレクが自ら様子を見に行くと言い出したらどうなるのか。


アリアがリリアに会いたいと訴えたら。


そして、池の事件について話し始めたら。


「……あの子には、何も話させてはいけないわ」


ヴィクトリアは小さくつぶやいた。


そのとき、扉がノックされた。


「誰?」


「セドリック様がお見えです」


ヴィクトリアは、すぐに表情を整えた。


「お通しして」


セドリックが入ってくると、ヴィクトリアは声を潜めた。


「陛下が、また調査を進めているようなの」


「何を調べている?」


「詳しくはわからないわ。ただ、騎士団長と長く話していたそうよ」


セドリックは険しい顔になった。


「アリアを遠ざけたことが、かえって疑いを強めたのかもしれないな」


「……どうすればいいの?」


「今は余計な動きをするな。アリアの静養が必要だという説明を変えれば、話に矛盾が生じる。これまでの説明を崩さず、陛下の出方を見よう」


ヴィクトリアは唇をかんだ。


「でも、陛下がアリアに会いに行ったら?」


「そのときは、そのときだ。今から慌てて動けば、もっと怪しまれる」


セドリックはそう言ったが、彼自身も不安を隠しきれなかった。


アレクが過去の事件をひとつずつ結びつければ、これまで隠してきた秘密に近づく可能性がある。


二人は、しばらく無言で顔を見合わせた。


誰もが、相手の次の動きを警戒していた。


そして、その様子を遠くから見ている者がいることを、二人はまだ知らなかった。


---


そのころ、王宮の庭園では――。


「ぽぽ、ぴぴ! おはな、もってきてぇ!」


リリアが、小さな紙を両手で差し出した。


そこには、リリアとアリア、そして二人の間に咲く花が描かれている。


「よし! このポポが責任を持って届けるのだ!」


ポポは紙を受け取ろうとした。


だが、勢い余って、くるりと一回転。


紙がひらひらと宙を舞った。


「あっ!」


リリアが手を伸ばす。


紙は風に乗り、ポポの頭にぺたりと貼りついた。


「……」


ピピが、じっとポポを見つめた。


「ポポ……」


「な、何なのだ!」


「お手紙を運ぶ前に、自分の頭に貼っちゃだめだよぉ!」


「これは、手紙を守るための新しい作戦なのだ!」


「ちがうでしょぉ!」


リリアは、きゃっきゃっと笑った。


「あはぁ! ぽぽ、おてがみ、ぼうしぃ!」


「ぼ、帽子ではないのだーーっ!」


ピピが紙をそっと取り、折れないように整えた。


そのあと、ポポは小鳥たちと一緒に、アリアのいる城へ向かう準備を始めた。


「今度こそ、ちゃんと届けるのだ!」


「お願いねぇ……」


リリアは小さな手を合わせた。


「ありあ、えがお、なってぇ……」


その願いを聞いた小鳥が、リリアの指先にちょこんと止まった。


「ちゅん!」


リリアは嬉しそうに微笑んだ。


---


天界。


神鏡の前で、フィオナがほっと息をついた。


「リリアの手紙、今度こそアリアちゃんに届くといいわね」


「そうだな。あの子たちにとっては、小さな花と絵でも、大切な贈り物だろう」


ゼノが答えた。


一方、アテナはもうひとつの神鏡に目を向けていた。


そこには、秘密裏に調査を命じるアレク皇帝の姿が映っている。


「アレク陛下も、ようやく本腰を入れ始めたようね」


「だが、相手も簡単には尻尾を出さないだろう」


オルフェが静かに告げた。


「誰かが調査の動きを知っている可能性……。その疑いが正しければ、これからは一層慎重に進める必要がある」


ゼノは神鏡を見つめたまま、低い声で言った。


「リリアも、アレクも、それぞれの方法で大切な者を守ろうとしている。だからこそ、焦ってはならない」


フィオナはうなずいた。


「リリアには、アリアちゃんを助ける優しさがあるわ。でも、その優しさが、あの子自身を危険にさらさないようにしなければ」


神鏡の中では、リリアがポポとピピに向かって、小さく手を振っていた。


「ぽぽぉ! ぴぴぃ! がんばってぇ!」


「ポポにおまかせなのだ!」


「ピピもいっしょにやる〜!」


二匹の姿が庭園の向こうへ消えていく。


リリアは、二人の姿が見えなくなっても、しばらくその場に立っていた。


大好きなアリアに、もう一度笑ってほしい。


一緒に遊びたい。


その願いは、とても小さく、まっすぐだった。


けれど、その小さな願いと、皇帝が追い始めた大きな秘密は、少しずつ同じ場所へと向かっていた。


アレクは、ヴィクトリアへの疑いを深めている。


ヴィクトリアは、秘密を守ろうと焦っている。


そしてリリアは、友達を助けるために、一歩を踏み出そうとしていた。






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