第27話 アリア王女のいない王宮! 皇帝陛下が気づいた秘密
第27話
アリア王女のいない王宮! 皇帝陛下が気づいた秘密
朝の王宮。
アレク皇帝は、いつものように執務室で報告書に目を通していた。
しかし、どうにも気になることがある。
アリア王女の静養について、正式な報告がないのだ。
「騎士団長を呼んでくれ」
侍従が一礼して退室すると、ほどなくして騎士団長がやってきた。
「陛下、お呼びでしょうか」
「アリア王女の件だ。第二夫人の実家へ静養に行くという話を聞いた。出発の日程は確認できたか?」
騎士団長は、わずかに表情を曇らせた。
「……陛下。確認したところ、アリア王女は今朝早く、王宮を出発されたようです」
「何だと?」
アレクは思わず立ち上がった。
「私への正式な報告もなく、出発したというのか?」
「はい。第二夫人付きの召し使いたちとともに、馬車で出られたとのことです。行き先は、第二夫人のご両親が暮らす城と見られます」
アレクは深く息を吐いた。
アリアの心が不安定になっているという話は聞いていた。
だからこそ、無理に面会を迫るのではなく、本人の様子を慎重に確かめようと考えていたのだ。
それなのに、面会について考えていると知った途端、アリアが王宮からいなくなった。
偶然だと片づけるには、あまりにも不自然だった。
「……出発を急いだ理由は何だ?」
「まだわかっておりません」
「そうか」
アレクは窓の外を見つめた。
「アリアは、まだ幼い。静養が必要ならば、もちろん休ませてやりたい。だが、皇帝である私に何の報告もなく、王女を王宮の外へ移すことが当然だと思っているのなら、それは違う」
声は静かだったが、その目には強い疑念が浮かんでいた。
「騎士団長。出発の時刻、馬車に乗った者、道中の予定を調べてくれ。それから、第二夫人がいつから静養の準備を始めていたのかも確認するのだ」
「かしこまりました」
「ただし、アリアを怖がらせるようなことはするな。あの子は何も悪くない」
「承知いたしました」
騎士団長が退出したあと、アレクは机の上に置かれた報告書を見つめた。
池に落ちた事件。
その後、突然始まったアリアの静養。
ローレン医師からの説明。
そして、今回の急な出発。
それぞれが無関係な出来事なのか、それとも何かが隠されているのか。
まだ、はっきりとはわからない。
だが、アレクは確信し始めていた。
――アリアの周囲で、何かがおかしい。
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一方、第二夫人ヴィクトリアの部屋では。
「……陛下が、出発を知ったですって?」
報告を聞いたヴィクトリアの顔から、さっと血の気が引いた。
「はい。騎士団長が、出発の経緯を調べているようです」
「そんな……。まだ正式な報告が届く前だったはずよ」
ヴィクトリアは扇を握りしめた。
アリアを王宮から遠ざけることはできた。
けれど、アレクに気づかれないようにするという目的は、早くも崩れかけている。
「どうして、こんなに早く……!」
彼女はすぐに侍女たちを下がらせ、セドリックへ連絡を取るよう命じた。
しばらくして、二人は人目のない部屋で顔を合わせた。
「アレクが動き始めたわ」
ヴィクトリアは、挨拶もそこそこに切り出した。
「アリアの出発を知って、詳しく調べているそうよ」
セドリックは眉を寄せた。
「予想より早いな。だが、アリアはもう城へ向かっている。今さら引き返させるわけにもいかないだろう」
「ええ。あの子が王宮に戻れば、陛下と面会することになるかもしれないわ」
「ならば、静養が必要だという説明を崩すな。アリアが心の不調を抱えているという話を、ローレン医師にも改めて確認させろ」
「そうするわ」
ヴィクトリアはうなずいたものの、不安は消えなかった。
「でも……陛下がアリア本人に直接尋ねたら?」
「まだ幼い子どもだ。何をどこまで話せるかはわからない。だが、余計なことを話されるのは避けたいな」
セドリックの言葉に、ヴィクトリアは唇をかんだ。
アリアは素直な子だ。
そして、リリアのことが大好きだった。
だからこそ、母親から言われたことを守ろうとして苦しんでいる。
その心を利用していることに、ヴィクトリアは気づいていた。
それでも、計画を止めるつもりはなかった。
「アリアには、城で静かに休んでもらうわ。王宮のことも、リリアのことも、しばらく考えさせないようにする」
「余計な騒ぎを起こすなよ。アレクに疑われている今、慎重に動くべきだ」
「わかっているわ」
二人は、それ以上の言葉を交わさなかった。
だが、二人の知らないところで、アレクの調査はすでに始まっていた。
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そのころ、王宮の庭園では――。
「ありあぁ……」
リリアは、いつもの遊び場で小さな花を握りしめていた。
昨日も、その前の日も、アリアは来なかった。
いつもなら、リリアが庭園に出ると、アリアも小さな足取りでやってきてくれた。
一緒に花を見たり、柔らかい草の上を歩いたり、おやつを食べたり。
リリアにとって、アリアと過ごす時間は、とても楽しいものだった。
「リリちゃん、元気を出すのだ!」
ポポが、リリアの前でくるりと一回転した。
「ポポのすごい踊りを見れば、きっと元気になるのだ!」
「……ぽぽぉ」
リリアはじっとポポを見た。
ポポは胸を張る。
「どうなのだ! 感動したのだ?」
「……へんてこぉ」
「な、何なのだーーっ!?」
「ポポ、いつもへんてこだよぉ!」
ピピがあっさり言った。
「ピピまで!?」
リリアは、ほんの少しだけ笑った。
けれど、すぐに庭園の入口へ目を向ける。
「ありあ……こないのぉ?」
「リリちゃん……」
ピピがそっと寄り添った。
「きっと、何か事情があるんだよ。アリアも、リリちゃんに会いたいと思うよ」
「ありあ……リリちゃん、しゅきぃ?」
「うん。きっと大好きだよ」
リリアは花を胸にぎゅっと抱いた。
「リリちゃんも、ありあ、だいしゅきぃ……」
そのとき、庭の木に止まっていた小鳥が、リリアのそばへ降りてきた。
「ちゅん、ちゅん!」
リリアは顔を上げる。
「ことりしゃん?」
小鳥は、王宮の外へ続く道のほうを向いて鳴いた。
「ちゅちゅん!」
「……おそと?」
リリアは首を傾げた。
ポポとピピも、小鳥の様子を見つめる。
「ポポ、何か知っているのだ?」
「ピピにも、まだわからないよ。でも、アリアのことかもしれないね」
リリアは小鳥へ小さな手を伸ばした。
「ことりしゃん……ありあ、どこぉ?」
小鳥は、もう一度、王宮の外へ向かって羽ばたいた。
リリアの胸に、いつもとは違う小さな不安が広がっていく。
「……ありあに、あいたいぃ」
リリアは花を抱きしめたまま、友達が帰ってくるのを待ち続けた。
――しかし、アリアを乗せた馬車は、すでに遠い道を進んでいた。
◆◆◆遠いお城のアリア王女! リリア姫の小さな決意
王宮を出発してから、数時間後。
アリア王女を乗せた馬車は、緑豊かな丘を越え、ヴィクトリアの両親が暮らす城へと向かっていた。
窓の外には、見たことのない景色が広がっている。
アリアは、召し使いに抱かれながら、手の中の花を見つめていた。
「リリちゃん……」
小さな指で、花びらをそっとなでる。
「リリちゃん、どこぉ……?」
「アリア王女、もうすぐお城に着きますよ。おじい様とおばあ様がお待ちですからね」
召し使いが優しく声をかけると、アリアはこくんとうなずいた。
「おじいしゃま……おばあしゃま……?」
「はい。きっと、たくさんかわいがってくださいますよ」
「……うん」
アリアはうなずいたものの、笑顔にはならなかった。
お城へ行くことが嫌なわけではない。
ただ、大好きなリリアと会えないことが寂しかった。
「リリちゃん……いっしょ、ないのぉ……?」
アリアの目に涙が浮かんだ。
召し使いは困ったように微笑みながら、アリアの背中を優しくなでた。
「今は静養のためですからね。落ち着いたら、またお会いできるかもしれませんよ」
「……また、あしょべりゅ?」
「ええ。きっと」
その言葉を聞いて、アリアは花をぎゅっと抱きしめた。
「リリちゃん……まっててねぇ……」
幼いアリアは知らなかった。
自分がなぜ王宮から離されることになったのか。
そして、母親がどれほど必死に、自分とリリアを引き離そうとしているのかも。
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やがて、馬車はヴィクトリアの両親が暮らす城へ到着した。
城の門が開き、使用人たちが出迎える。
「アリア王女、お待ちしておりました」
召し使いに抱かれたアリアは、初めて見る大きな城をきょろきょろと見回した。
「おっきぃ……!」
「そうでしょう。こちらが、第二夫人のお父様とお母様がお住まいのお城ですよ」
「おしろぉ……」
アリアは少しだけ目を輝かせた。
城の中へ入ると、祖父母が待っていた。
「おお、アリア! よく来たね」
「まあまあ、ずいぶん大きくなったこと!」
祖母はアリアを抱きしめ、頬に優しく口づけた。
アリアは驚いたあと、ほっとしたように祖母の胸に顔を寄せた。
「おばあしゃま……」
「そうよ。ここではゆっくり過ごしていいのよ」
祖父も目を細めた。
「疲れただろう。部屋を用意してある。好きなおもちゃも、食べ物も、遠慮なく言いなさい」
「おやちゅ……?」
「ははは! もちろん、おやつもだよ」
アリアは、ほんの少し笑顔になった。
「おやちゅ、たべりゅ!」
祖父母は顔を見合わせ、楽しそうに笑った。
二人は、孫娘が王宮で何を経験したのか、詳しい事情を知らされていなかった。
ヴィクトリアから聞いていたのは、池に落ちた事件のあと、アリアの心が不安定になり、静かな環境で休ませる必要があるという説明だけだった。
だからこそ、二人はアリアをゆっくり休ませてあげようと考えていた。
しかし、部屋へ案内される途中、アリアは何度も後ろを振り返った。
まるで、そこにリリアがいないか探しているかのように。
「リリちゃん……」
その小さな声は、誰にも聞き取られなかった。
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一方、王宮。
アレクは、騎士団長から新たな報告を受けていた。
「陛下。アリア王女は、予定どおり第二夫人のご実家の城へ到着したとのことです」
「そうか……。道中に問題はなかったか?」
「今のところ、問題は確認されておりません。同行した召し使いたちも、全員無事です」
アレクはうなずいた。
アリアが無事に到着したことには安堵した。
だが、疑念は消えなかった。
「ヴィクトリアは、私がアリアとの面会を考えていることを知っていたのだろうか」
「可能性はございます」
「……もし知っていたのなら、なぜ出発を急いだ?」
騎士団長は答えなかった。
アレクは椅子から立ち上がり、机のそばをゆっくり歩いた。
「私は、アリアを責めるつもりなどない。あの子はまだ幼い。池の事件についても、本人が話せることがあるなら、無理のない範囲で聞きたいと思っていただけだ」
「陛下のお考えは理解しております」
「それなのに、会う前に遠くへ移された……」
アレクは窓の外を見つめた。
「騎士団長。第二夫人のご実家へ、私から静養を気遣う手紙を送る。アリアの体調を尋ねるとともに、本人が落ち着いているなら、いずれ私も様子を見に行きたいと伝えてくれ」
「かしこまりました」
「それから、ローレン医師の説明についても、改めて確認しておいてほしい」
「承知いたしました」
アレクは、机に戻ると静かに腰を下ろした。
まだ証拠はない。
ヴィクトリアが何かを隠していると断定することもできない。
だが、アリアのためにも、このまま疑問を放置するわけにはいかなかった。
「アリア……どうか、元気でいてくれ」
皇帝の声は、誰もいない執務室に静かに響いた。
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その日の午後。
リリアは、庭園の隅で小さくしゃがみ込んでいた。
目の前には、ポポとピピ、そして数羽の小鳥たちが集まっている。
「ことりしゃん、ありあ、どこぉ?」
リリアが尋ねると、一羽の小鳥が羽を広げた。
「ちゅん! ちゅちゅん!」
小鳥は、王宮の外へ向かって飛び、少し離れた木の枝に止まった。
「……おそと?」
リリアは立ち上がり、そちらを見つめた。
ポポは腕を組んだ。
「ふむ……。アリアは王宮の外にいる可能性が高いのだ!」
「でも、どうして外にいるのかまでは、まだわからないよ」
ピピが慎重に言った。
「リリちゃん、勝手に出ていっちゃだめだからね。心配だからって、ひとりで探しに行くのは危ないよ」
「……うぅ」
リリアは、しょんぼりと肩を落とした。
「ありあ……さみちぃ?」
小鳥は小さく鳴いた。
リリアはそれを聞くと、胸の前で両手をぎゅっと握った。
「リリちゃんも……さみちぃ……」
ポポは、いつもの調子を少し抑えてリリアのそばへ寄った。
「ポポたちが一緒なのだ。アリアのこと、ちゃんと調べるのだ!」
「ピピもいっしょにやる〜!」
リリアは二人を見つめた。
そして、こくんとうなずいた。
「……うん!」
小さな顔に、少しずつ決意が浮かんでくる。
「ありあ、まもりゅの!」
「そうなのだ! ポポにおまかせなのだ!」
「でも、ポポが何かやらかさないように、ピピも見張るからね!」
「なぜポポだけなのだ!?」
いつもの言い合いが始まり、リリアはくすくす笑った。
けれど、手に持った花を見つめる目は真剣だった。
「ありあ……また、あしょぼぉねぇ」
リリアは花にそっと頬を寄せた。
「リリちゃん、まってりゅからねぇ……」
そのころ、遠く離れた城では、アリアもまた、リリアからもらった花を枕元に置いていた。
二人は離れた場所にいても、同じ友達のことを考えていた。
そして、王宮ではアレク皇帝の調査が進み始め、ヴィクトリアの計画には、少しずつ綻びが生まれようとしていた。
まだ誰も、真実のすべてを知らない。
けれど、小さな王女たちの絆が、この秘密を明らかにするきっかけになるかもしれなかった。




