↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/109

第26話 第二夫人の焦り! アリア王女を遠ざける秘密の計画

第26話

第二夫人の焦り! アリア王女を遠ざける秘密の計画


王宮の一室。


ヴィクトリアは、窓辺に立ったまま、落ち着かない様子で指先を握りしめていた。


先日、ローレン医師からアレク皇帝へ伝えられた話によって、アリア王女との面会は慎重に進められることになっていた。


しかし、それで安心できるわけではない。


皇帝は、アリアが池に落ちた事件のことを調べ続けている。そして、最近になってアリアの様子を自分の目で確かめたいと考え始めていた。


「……このままでは、まずいわ」


ヴィクトリアは小さくつぶやいた。


アリアを部屋に閉じ込めておける時間には限りがある。


いつまでも静養を理由に会わせないでいれば、アレクは必ず不審に思うだろう。


それに、アリアがリリアと再会してしまえば、あの池の事件について何かを話してしまうかもしれない。


もちろん、アリアはまだ幼い。


何が秘密なのか、なぜ母親が口止めするのかさえ、十分には理解していない。


だからこそ、ヴィクトリアは恐れていた。


「アリアを、王宮から遠ざけるしかないわね……」


そのとき、扉が静かに開いた。


「話があると聞いたが?」


入ってきたのは、セドリックだった。


ヴィクトリアはすぐに扉を閉めさせ、周囲に誰もいないことを確認してから、彼に向き直った。


「アレク陛下が、アリアと面会することを考えているそうなの」


「何だと?」


セドリックの表情が険しくなる。


「ローレン医師の説明で、しばらくは時間を稼げると思っていたのだけれど……。陛下は、アリアをこのまま部屋で休ませ続けることに疑問を持ち始めているわ」


「面会されたら、アリアが何を話すかわからない。あの子は、まだ幼いからな」


「ええ。だから、陛下に会わせる前に、別の場所へ移すのよ」


ヴィクトリアは声を潜めた。


「私の両親が暮らす城へ、アリアを静養に行かせるわ」


セドリックは少し考え込んだ。


「お前の両親の城か……。王宮から離れていれば、陛下がすぐにアリアと会うことも難しくなる」


「そうよ。池の事件以来、アリアは心が不安定になっている。だから、慣れ親しんだ母方の祖父母の城で、静かに休ませる必要がある。そう説明するの」


「だが、アレクに許可を求めれば、理由を詳しく調べられるかもしれないぞ」


「だから、時間がないのよ」


ヴィクトリアの声に焦りがにじんだ。


「陛下が正式に面会の日を決める前に、出発させるわ。静養の準備は以前から進めていたことにする。アリア付きの召し使いたちも一緒に連れていけば、世話に困ることもないでしょう」


「皇帝に気づかれずに、王女を王宮の外へ出すつもりか?」


「気づかれるわけにはいかないの」


ヴィクトリアはセドリックをまっすぐ見た。


「もし陛下が出発を止めたら、アリアを遠ざけることはできなくなる。そうなれば、私たちの計画にも影響が出るわ」


セドリックはしばらく黙っていたが、やがて低い声で答えた。


「……わかった。だが、急ぎすぎて不自然な動きをすれば、かえって疑われる。荷物や馬車の手配は慎重に進めろ」


「ええ。表向きは、アリアのための静養よ」


二人は、王宮の誰にも聞かれないよう、出発の時刻や同行する召し使いについて話し合った。


その目的は、ただひとつ。


アリアをアレク皇帝の目の届かない場所へ移すことだった。


一方、そのころ――。


アリアは自分の部屋で、リリアから届いた小さな花を大切そうに抱えていた。


「リリちゃん……あしょびたいなぁ……」


花びらをそっとなでながら、アリアは寂しそうにつぶやいた。


「リリちゃん、しゅきぃ……。また、あしょぼぉ……」


アリアにとって、リリアは大好きなお友達だった。


怖い存在などではない。


一緒に笑って、一緒に遊びたいだけなのだ。


けれど、母親がなぜ会わせてくれないのか、アリアにはわからなかった。


「ままぁ……リリちゃん、どこぉ……?」


小さな声は、静かな部屋に消えていった。


その様子を、少し離れたところから見ていたヴィクトリアは、胸の奥にわずかな痛みを感じた。


だが、すぐに表情を引き締める。


「……アリアのためなのよ」


自分にそう言い聞かせるように、彼女は部屋を出た。


その夜、王宮の裏門では、ひそかに馬車の準備が始まっていた。


誰にも気づかれないように。


誰にも止められないように。


ヴィクトリアは、アリアを王宮から連れ出す計画を急いでいた。


――しかし、彼女はまだ知らなかった。


王宮の小さな変化を、見逃さずに調べている人物がいることを。


そして、アリアを大切に思うリリアもまた、友達に会えない寂しさを募らせていたことを。



◆◆◆ひそかな出発! アリア王女が消えた朝


翌朝。


王宮がいつもどおり動き始めるよりも早く、裏門の近くに一台の馬車が止まっていた。


馬車の周囲には、アリア王女付きの召し使いたちが集まっている。


荷物はすでに積み込まれ、出発の準備は整っていた。


ヴィクトリアはアリアを抱き上げ、優しく頬をなでた。


「アリア、今日からおじい様とおばあ様のお城へ行くのよ」


「おしろぉ……?」


アリアは不思議そうに首を傾げた。


「そうよ。そこでゆっくり休みましょうね」


「ままも、いっちょ?」


「私は王宮に残らなければならないの。でも、あなたのために、ちゃんと準備してあるわ」


「……まま、いないのぉ?」


アリアの瞳が、みるみる潤んでいく。


ヴィクトリアは一瞬だけ言葉に詰まった。


しかし、ここで出発をためらうわけにはいかなかった。


「大丈夫よ。召し使いたちが一緒でしょう? おじい様もおばあ様も、あなたをかわいがってくださるわ」


「……うん」


アリアは小さくうなずいた。


けれど、その手にはリリアからもらった花が、ぎゅっと握られていた。


「リリちゃん……」


「その花も持っていっていいわ」


ヴィクトリアはそう言うと、アリアを召し使いに預けた。


「道中、くれぐれも王女に無理をさせないように。到着したら、静かな部屋で休ませてちょうだい」


「かしこまりました」


召し使いたちは深く頭を下げた。


馬車の扉が閉じられる。


やがて車輪がゆっくりと動き始め、アリアを乗せた馬車は裏門から王宮を出ていった。


ヴィクトリアは馬車が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。


「これで……少しは時間が稼げるわ」


そうつぶやいた彼女の顔には、安堵と不安が入り交じっていた。


アリアを王宮から遠ざけることはできた。


だが、アレクがこのことを知れば、必ず理由を尋ねるだろう。


「陛下に知られる前に、すべて整えなければ……」


ヴィクトリアは急いで自室へ戻った。


そのころ、セドリックもまた、何事もなかったかのように朝の執務へ向かっていた。


二人は、アリアの出発を秘密にしたまま、皇帝が気づかないことを願っていた。


しかし――。


---


同じころ、皇帝の執務室では、アレクが騎士団長から報告を受けていた。


「陛下。アリア王女のご静養についてですが、第二夫人のご実家から、王女を受け入れる準備が進められているとの情報が入りました」


「ヴィクトリアの実家だと?」


アレクは書類から顔を上げた。


「はい。詳しい日程までは、まだ確認できておりません」


「……静養の話は聞いていたが、実家の城へ移すとは聞いていないな」


アレクの表情が曇る。


アリアの心が不安定になっているというローレン医師の説明は、すでに聞いていた。


だからこそ、無理に面会を迫るつもりはなかった。


だが、アリアの様子を確かめることもできないまま、王宮の外へ移すというのは話が違う。


「騎士団長。アリア王女の出発について、正式な報告は届いているか?」


「いいえ。現時点では、陛下への正式な報告は確認できておりません」


「そうか……」


アレクは机の上に指を置き、静かに考え込んだ。


「アリアはまだ幼い。静養が必要ならば、それを否定するつもりはない。だが、なぜ私に報告もなく話が進んでいる?」


「私も、そこが気になっております」


騎士団長は慎重に答えた。


「まだ第二夫人が何かを企んでいると断定することはできません。ただ、出発の準備が急に進められた可能性があります」


「……引き続き調べてくれ。アリアを無理に連れ戻す必要はない。だが、どこへ、誰と、いつ出発したのかは確認するのだ」


「かしこまりました」


騎士団長が退出すると、アレクは窓の外へ目を向けた。


「アリア……お前に、何が起きているんだ?」


彼はまだ、ヴィクトリアの真の目的を知らない。


しかし、これまでの不自然な出来事が、少しずつひとつの疑念へとつながり始めていた。


---


そのころ、王宮の庭園では――。


リリアが、ポポとピピを相手に遊んでいた。


「ぽぽぉ! ぴぴぃ! あしょぼぉ!」


「ポポにおまかせなのだ! 今日はポポが最高に面白い遊びを考えてやるのだ!」


「ほんとぉ?」


リリアは目をきらきらさせた。


「もちろん……なのだ!」


ポポは胸を張った。


「で、どんな遊びなの?」


ピピが尋ねる。


「それは……これから考えるのだ!」


「まだ考えてないのぉ!?」


「ポポ、すごぉい!」


リリアはなぜかぱちぱちと手を叩いた。


「すごくないよぉ! リリちゃん、だまされちゃだめぇ!」


ピピが慌てて突っ込む。


そんなやり取りのあと、リリアはふと庭園の入口へ目を向けた。


いつもなら、アリアが小さな足取りでやってくる時間だった。


けれど、今日も姿が見えない。


「……ありあ?」


リリアはきょろきょろと辺りを見回した。


「ありあ、こないのぉ……?」


「リリちゃん……」


ピピが心配そうにそばへ寄る。


リリアは手に持っていた小さな花を見つめた。


「ありあ、あしょびたいのぉ……。リリちゃん、まってりゅのにぃ……」


「ポポも、アリアに会いたいのだ……」


ポポはいつもの調子を少しだけ抑えて答えた。


リリアは花を胸に抱きしめる。


「ありあ……だいじゅぶ?」


その小さな問いに、ポポもピピもすぐには答えられなかった。


二人は、アリアが王宮から出発したことをまだ知らない。


もちろん、リリアも知らなかった。


けれど、リリアの胸には、いつも一緒に遊んでいた友達に会えない寂しさが広がっていた。


「……ありあに、あいたいぃ」


リリアの瞳が潤む。


そのとき、庭園の枝に止まっていた小鳥が、ちいちいと鳴いた。


リリアは顔を上げた。


「ことりしゃん……?」


小鳥は、王宮の外へ続く道のほうを何度も振り返っている。


だが、まだ小さなリリアには、その仕草の意味はわからなかった。


「……?」


リリアは首を傾げたあと、もう一度花をぎゅっと抱きしめた。


「ありあ……また、あしょぼぉねぇ……」


その願いが届く日は、まだ遠い。


そして、アリアが向かった先で何が待っているのか――。


ヴィクトリアも、セドリックも、まだすべてを見通せてはいなかった。


ただひとつ確かなのは、アレク皇帝が、もはや不自然な出来事を見過ごすつもりはないということだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。