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第25話「第二夫人の新たな嘘! ローレン医師が皇帝に伝える秘密」

第25話「第二夫人の新たな嘘! ローレン医師が皇帝に伝える秘密」


◆◆◆第二夫人の焦りと、仕組まれた診断理由


王宮、第二夫人ヴィクトリアの私室。


ヴィクトリアは窓辺に立ち、庭園を見下ろしていた。


庭園では、侍女たちが花壇の手入れをしている。


いつもなら、リリアとアリアが仲良く遊んでいる姿が見られる場所だった。


しかし、今はリリアひとりの姿しかない。


「……このままでは、いつまでもアリアを部屋に閉じ込めておくことはできないわね」


ヴィクトリアは小さく呟いた。


最初は、アリアが体調を崩しているという理由で部屋に留めておけば、誰も不審には思わないと考えていた。


ローレン医師にも協力させ、休養が必要だという診断を出させている。


ほかの宮廷医師たちも、ローレンが優秀で信頼されていることから、その判断を尊重してくれた。


だが、問題が起きた。


リリアからの花が、アリアのもとへ届いてしまったのだ。


その花を抱きしめ、嬉しそうに笑うアリア。


あの様子を見れば、アリアがリリアを嫌っているなどとは、誰にも思えないだろう。


そして、皇帝アレクも調査を続けている。


このまま何の説明もせずにアリアを閉じ込め続ければ、かえって疑いを招くことになる。


「アリアがリリアに会いたがっているのは、隠しようがないわ……」


ヴィクトリアは唇を噛んだ。


「ならば、会わせられない理由を作ればいい」


彼女の目に、冷たい光が宿った。


アリアがリリアを嫌っているという話にするつもりはない。


それでは、アリア本人の気持ちと食い違ってしまう。


むしろ、リリアを好きだからこそ、時々怖がってしまう。


そう説明すれば、アリアを思いやって面会を控えているのだと、周囲に思わせることができる。


もちろん、池の事件によってアリアが精神的に不安定になったという話は、ヴィクトリアにとって都合のよい作り話だった。


アリアが本当にリリアを怖がっているわけではない。


ヴィクトリアは、それを誰よりもよく知っていた。


「……ローレン医師を呼んでちょうだい」


侍女が一礼する。


「かしこまりました」


侍女が出ていくと、ヴィクトリアは机の上に置かれた小さな箱を開けた。


中には金貨が並んでいる。


彼女は一枚を指先で弾き、静かに笑った。


「あなたには、もう少し働いてもらわなければね」


---


しばらくして、ローレン医師がヴィクトリアの私室を訪れた。


「お呼びでしょうか、ヴィクトリア様」


「ええ。少し相談したいことがあるの」


ヴィクトリアは椅子を勧めた。


ローレンは着席し、彼女の話を待つ。


「皇帝陛下は、アリアのことをまだ気にかけていらっしゃるわ。今のままでは、もう一度診察を命じられるかもしれない」


「確かに、陛下は慎重に調べておられるようです」


「だから、こちらから説明する必要があるのよ」


ヴィクトリアは、ゆっくりと言葉を選んだ。


「あなたから陛下に、こう伝えてちょうだい」


ローレンは姿勢を正した。


「池に落ちてから、アリア王女は精神的に不安定になっている。リリア王女のことは好きだが、時々、怖がる様子を見せることがある。だから、今は無理に会わせず、心が落ち着くまで見守った方がよい、と」


「……精神的な不安定さ、でございますか」


「そうよ」


ヴィクトリアは、悲しげな表情を作った。


「アリアはまだ幼い子どもですもの。池に落ちた恐怖が、心に残っているのかもしれないわ。リリアを嫌っているわけではないの。ただ、あの事件を思い出すと、時々怖くなってしまう……そういうことにするのよ」


ローレンは一瞬だけ沈黙した。


アリアがリリアを怖がっているという話は、ヴィクトリアが作り上げたものだ。


だが、ローレンは彼女の計画に協力する立場にあった。


「陛下から、なぜ今まで報告しなかったのかと尋ねられたら?」


「こう答えるのよ」


ヴィクトリアは、あらかじめ用意していた言葉を告げた。


「『第二夫人から、陛下にはまだお伝えしないよう口止めされておりました。しかし、リリア王女を傷つけてはいけないというご配慮から、アリア王女の状態を伏せておられたのです』と」


ローレンは目を細めた。


「つまり、ヴィクトリア様はリリア王女を思いやり、あえて事情を伏せていたということにするのですね」


「そうよ。リリアが、自分のせいでアリアが怖がっていると知ったら、きっと悲しむでしょう?」


ヴィクトリアは、まるで本当に心配しているかのように胸元へ手を添えた。


「私は、あの子たちを傷つけたくないだけなの」


その言葉を口にしながら、彼女の胸中にあるのは、自分の計画が崩れることへの恐れだった。


ローレンは静かに頷いた。


「承知いたしました。陛下には、そのようにご説明いたします」


「頼んだわ」


ヴィクトリアは机の引き出しから金貨の入った袋を取り出し、彼に渡した。


ローレンはそれを受け取る。


「今後も、アリア王女の診断については、私の指示に従ってちょうだい」


「かしこまりました」


ローレンが立ち上がる。


扉へ向かう彼の背中を見ながら、ヴィクトリアは静かに言った。


「ローレン医師。あなたは、私たちがどこから来た人間なのか、忘れてはいないわね?」


ローレンの足が一瞬だけ止まった。


「……もちろんでございます」


彼は振り返らずに答え、部屋を出ていった。


ヴィクトリアは扉が閉まるのを確認すると、深く息を吐いた。


「これで、もう少し時間が稼げるはず……」


しかし、彼女の知らないところで、皇帝アレクの疑念は少しずつ大きくなっていた。


◆◆◆皇帝陛下への報告! アリア王女の心に隠された真実


翌日の午後。


皇帝アレクは、執務室で書類に目を通していた。


そこへ、ローレン医師が訪れた。


「陛下。アリア王女について、ご報告したいことがございます」


「アリアのことか。話してくれ」


アレクは書類を置き、ローレンに向き直った。


ローレンは一礼してから、落ち着いた口調で話し始めた。


「池に落ちた事件以来、アリア王女は精神的に不安定になっている可能性がございます」


「精神的に?」


「はい。身体には目立った異常はございません。しかし、あの事件の恐怖が心に残っているのかもしれません」


アレクは眉をひそめた。


「それで、アリアはどうしている?」


「リリア王女のことは大変お好きなようです。ただ、時折、リリア王女に会うことを怖がるような様子を見せることがあると聞いております」


アレクは黙って話を聞いていた。


「リリアを怖がっている、というのか?」


「いつも怖がっているわけではございません。会いたいという気持ちもあるのでしょう。ただ、池の事件を思い出したときに、複雑な感情が生まれている可能性がございます」


ローレンは、さらに言葉を続けた。


「実は、第二夫人からは、陛下にはまだお伝えしないよう口止めされておりました」


アレクの表情が変わった。


「ヴィクトリアが?」


「はい。リリア王女が傷ついてはいけないというご配慮から、事情を伏せておきたいとお考えだったようです。リリア王女が、自分のせいでアリア王女が怖がっていると知れば、悲しまれるのではないかと……」


ローレンは、ヴィクトリアから指示されたとおりに説明した。


アレクはしばらく考え込んだ。


確かに、リリアはアリアを大切にしている。


もしアリアがリリアに会うことを怖がっているのなら、リリアが傷つく可能性はあるだろう。


しかし――。


「……アリア本人から、そのような話を聞いたのか?」


ローレンは一瞬、言葉を詰まらせた。


「直接、私がそのような発言を聞いたわけではございません。侍女たちから聞いた話と、池の事件後の様子を踏まえた判断でございます」


「そうか」


アレクは椅子の背にもたれた。


ローレンは宮廷医師として優秀であり、ほかの医師たちからも信頼されている。


彼の説明を、根拠もなく否定することはできない。


だが、アレクはひとつの疑問を抱いた。


「それなら、なぜヴィクトリアは、私に直接説明しなかったのだろうな」


ローレンは表情を崩さずに答えた。


「第二夫人は、リリア王女のお気持ちを心配されていたのでしょう」


「……そうかもしれないな」


アレクは頷いた。


しかし、納得しきったわけではなかった。


アリアが本当にリリアを怖がっているのなら、本人の気持ちを確かめることが大切だ。


幼い子どもの心は、大人の都合だけで決めつけてよいものではない。


「ローレン医師。アリアの心の状態については、慎重に見守ってくれ。無理にリリアと会わせる必要はないが、アリア本人が何を望んでいるのかも、きちんと確かめるように」


「承知いたしました」


「それから、アリアが元気になっているのなら、いつまでも部屋に留めておく必要はない。少しずつ、普段の生活に戻れるようにしてやってくれ」


ローレンは深く頭を下げた。


「かしこまりました、陛下」


執務室を出たローレンは、廊下の角を曲がったところで、ようやく小さく息を吐いた。


(陛下は、すべてを信じたわけではない……)


だが、今すぐ嘘が暴かれたわけでもない。


ローレンは表情を整え、そのまま歩き去った。


---


その頃、リリアは庭園でポポとピピと一緒に遊んでいた。


「ぽぽ! こっちぃ!」


「待つのだ、リリちゃん! ポポは今、華麗な走りを披露しているのだ!」


ポポは勢いよく駆け出した。


ところが、途中で自分の足につまずき、ころんと転がった。


「ぽぎゃっ!」


「ポポ、また転んだの!?」


ピピが呆れた声を上げる。


リリアは大笑いした。


「あははっ! ぽぽ、ころん!」


「ち、違うのだ! これは地面の硬さを確認するための研究なのだ!」


「また研究!?」


ピピが突っ込む。


リリアは笑いながら、庭園の花壇に目を向けた。


「おはなぁ……」


小さな指先が動く。


すると、花びらがふわりと舞い上がり、リリアの頭の上で小さな輪を作った。


「わぁ!」


リリアは嬉しそうに手を伸ばした。


花びらは、風に乗ったようにゆっくりと庭園を漂う。


人間たちから見れば、ただの自然な風のいたずらにしか見えない。


しかし、リリアの心には、アリアの笑顔が浮かんでいた。


(ありあ……おはな、よろこんでくれたのぉ……)


ポポがリリアの隣に座った。


「リリちゃん。アリアちゃんは、きっとまた一緒に遊べるのだ」


「ありあ……あしょぶぅ?」


「そうなのだ!」


ピピも頷いた。


「焦らなくても大丈夫。アリアちゃんが元気なら、きっとまた会えるよ」


リリアは小さく頷いた。


「うん……ありあ、しゅきぃ」


その笑顔を、庭園の回廊から見つめている人物がいた。


ヴィクトリアだった。


彼女は、リリアが花びらを追いかける姿を眺めながら、胸の奥に焦りを感じていた。


ローレン医師は、皇帝への説明を済ませたはずだ。


だが、それで十分なのだろうか。


アレクがアリア本人に会い、直接話を聞こうとすれば、計画は簡単に崩れてしまう。


「……もう少し、慎重に動かなければ」


ヴィクトリアは回廊を離れた。


その表情は、いつもの優しい第二夫人のものに戻っていた。


しかし、アレクの疑念も、リリアとアリアの友情も、彼女の思いどおりにはならなかった。


---


その夜。


アレクは執務室で、アリアに関する報告書をもう一度読み返していた。


池の事件。


突然の休養。


面会の制限。


そして、ヴィクトリアが自分に直接説明せず、ローレン医師を通じて事情を伝えてきたこと。


ひとつひとつは、説明できることかもしれない。


しかし、重ねて考えると、不自然な点が残る。


「……アリアは、本当にリリアを怖がっているのだろうか」


アレクは呟いた。


アリアは、リリアと一緒にいるとき、いつも嬉しそうに笑っていた。


二人の間に何かあったのなら、確かめなければならない。


ただし、アリアを責めるつもりはない。


彼女はまだ幼い。


大人の事情に巻き込まれたのだとしても、守られるべき子どもだ。


「騎士団長を呼べ」


しばらくして、騎士団長が執務室に入ってきた。


「お呼びでしょうか、陛下」


「アリア王女の様子を、引き続き確認してくれ。それから、池の事件の前後で、アリアの生活に何か変化がなかったかも調べてほしい」


「承知いたしました」


「ローレン医師の話だけで判断するつもりはない。だが、彼を疑っているわけでもない。事実を確かめたいだけだ」


「かしこまりました」


騎士団長が退室したあと、アレクは窓の外を見つめた。


月明かりに照らされた庭園は、静まり返っていた。


「ヴィクトリア……お前は、いったい何を隠している?」


答えは、まだ見つからない。


けれど、アレクは確実に、真実へと近づき始めていた。


一方、ヴィクトリアは自室でセドリックと密かに連絡を取る準備をしていた。


「このままでは、いずれ陛下がアリアに直接会おうとするわ」


彼女は小さく呟いた。


「それまでに、次の手を考えなければ……」


王宮の夜は静かだった。


しかし、その静けさの下では、それぞれの思惑が少しずつ動き始めていた。




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