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第24話「リリア姫、アリア王女に会いたい! 皇帝陛下が見つけた新たな違和感」

第24話「リリア姫、アリア王女に会いたい! 皇帝陛下が見つけた新たな違和感」


◆◆◆会いたいアリア王女! リリアの小さな作戦


王宮の朝。


窓から差し込む柔らかな日差しの中、リリアは寝台の上で目を覚ました。


「んにゃ……あー!」


小さな両手をぐーっと伸ばし、隣にいるエレナを見上げる。


「ままぁ!」


「おはよう、リリア。よく眠れた?」


エレナが微笑んで頬を撫でると、リリアは嬉しそうに笑った。


「ままぁ、だいしゅきぃ!」


「私もリリアが大好きよ」


エレナはリリアを抱きしめ、額に優しく口づけた。


いつもなら、ここから朝食を食べて、庭園で遊んだり、ポポやピピといたずらをしたりする楽しい一日が始まる。


けれど、今日のリリアは少し違った。


エレナの肩越しに庭園を見つめ、小さな唇を尖らせた。


「……ありあ」


「アリア王女に会いたいの?」


「うん……ありあ、あしょぶぅ……」


リリアは寂しそうにエレナの服を握った。


アリアと会えなくなってから、もう何日も経っている。


いつも一緒に花を眺めたり、お菓子を食べたりしていたのに、今はそれさえできない。


「アリア王女は、まだお部屋で休んでいるそうよ。もう少し待ってあげましょうね」


「ありあ……いたいいたい?」


「お医師様のお話では、ゆっくり休む必要があるそうなの」


エレナはそう答えたものの、表情には心配が浮かんでいた。


アリアが本当に体調を崩しているのなら、もちろん無理をさせたくない。


しかし、ヴィクトリアからは詳しい説明がなく、アリアの様子も直接確認できていなかった。


エレナもまた、少しずつ不安を感じ始めていた。


「……ありあぁ」


リリアはエレナの胸に顔を埋めた。


(ありあ、あいたいのぉ……。いっちょに、おはな、みりゅのぉ……)


そのとき。


寝台の下から、白くてふわふわしたものが飛び出した。


「リリちゃん! 大変なのだ!」


ポポだった。


「アリアちゃんに会えないせいで、ポポのおやつまで減ってしまったのだ!」


続いて、ピピがひょこっと顔を出す。


「それはリリちゃんが寂しそうだから、ポポが勝手におやつを食べすぎてるだけでしょ!」


「な、なんなのだ! ポポは心配しているのだ!」


「お腹の心配でしょ!」


二匹が言い争う。


リリアは二匹を見て、くすっと笑った。


「ぽぽ! ぴぴ!」


その笑顔に、エレナもほっとしたように微笑んだ。


「ふふっ。二人とも、リリアを元気づけてくれているのね」


もちろん、エレナには二匹の言葉は聞こえていない。


ポポとピピは、リリアにだけ聞こえる声で話していた。


エレナが侍女ミレに朝食の準備を頼むために部屋を出ると、リリアはそっと二匹に顔を近づけた。


「ぽぽ……ありあ、どこぉ?」


ポポの耳がぴんと立つ。


「それなら、動物たちに聞いてみるのだ!」


「そうだね! 鳥さんなら、アリアちゃんのお部屋の近くまで行けるかもしれないよ!」


ピピが窓辺へ飛び跳ねた。


リリアは小さな手を伸ばす。


「ことりしゃん……きてぇ」


すると、開いた窓から一羽の小鳥が舞い降りてきた。


小鳥は窓辺に止まり、リリアを見つめる。


『リリアちゃん、呼んだ?』


「ことりしゃん! ありあ、どうちてりゅ?」


『アリアちゃんは元気そうだよ。でも、お部屋から出してもらえないみたい』


「……でないの?」


『うん。窓の外を見て、ずっと寂しそうにしていたよ』


リリアの小さな手が、ぎゅっと握られた。


「ありあ……かなちぃ?」


『うん。それからね、リリアちゃんにもらったお花を、大事に持っていたよ』


「おはな……!」


リリアはぱっと顔を輝かせた。


けれど、すぐに眉を下げる。


「ありあ、あいたいぃ……」


ポポが胸を張った。


「ならば、ポポがアリアちゃんのところへ突撃するのだ!」


「だめぇ!」


リリアは慌ててポポを抱きしめた。


「だめぇ、ぽぽ! びっくり、しちゃうのぉ!」


「むむっ! リリちゃんに止められたのなら仕方ないのだ……」


ピピが呆れたようにため息をついた。


「突撃じゃなくて、ちゃんと考えようよ。リリちゃんが会いたいって気持ちを、アリアちゃんに伝えられたらいいよね」


リリアは首を傾げた。


「つたえりゅ……?」


「そう。例えば、お手紙とか!」


「おてがみ!」


リリアは嬉しそうに両手を叩いた。


もちろん、まだ文字を自由に書くことはできない。


けれど、リリアには神の力がある。


(ありあにぃ……おはな、あげりゅのぉ!)


リリアが小さな指を動かすと、窓辺に飾られていた花瓶から、一輪の小さな花がふわりと浮かび上がった。


花は淡い光をまとい、ゆっくりとリリアの手元へ降りてくる。


「おはなぁ!」


「わあ、きれい!」


ピピが声を上げる。


「リリちゃん、これをアリアちゃんに届けるの?」


「うんっ!」


リリアは花を両手で包み込んだ。


その花に、ほんの少しだけ温かな神の力を込める。


アリアが手に取れば、花びらが一度だけ、優しく揺れるように。


それは、リリアがアリアを大切に思っている気持ちを伝える、小さな魔法だった。


ただし、人間には魔法だと分からない。


花が揺れても、風が吹いたのだと思うだろう。


「これなら、アリアちゃんも喜んでくれるね!」


ピピが微笑む。


「よし! ポポが届けてくるのだ!」


「ぽぽ、しーっ!」


リリアはポポの口を小さな手で押さえた。


「しーっ、なのぉ!」


「むぐっ! ポポは静かにするのだ!」


その直後、部屋の扉が開いた。


「リリア、朝食の時間よ」


エレナとミレが戻ってきたのだ。


リリアは慌てて花を胸元に隠した。


「あー! うー!」


「まあ、今日はご機嫌ね」


エレナは微笑みながらリリアを椅子に座らせた。


朝食には、柔らかくすりつぶした果物と野菜、それに温かなミルクが用意されていた。


リリアは果物をぱくぱく食べ、ミルクもごくごく飲む。


「まんま! おいちぃ!」


「たくさん食べて偉いわね」


エレナが口元を拭いてあげる。


その間、ポポとピピはテーブルの下で小声の相談を続けていた。


「どうやって花を届けるのだ?」


「ミレさんにお願いしたら?」


「でも、ヴィクトリア様が受け取らせてくれなかったら?」


二匹は同時に黙り込んだ。


そう。


花を届けるだけでも、今は簡単ではない。


ヴィクトリアがアリアを部屋から出さず、贈り物まで制限しているのなら、花を渡すことさえ拒まれるかもしれない。


リリアは二匹の会話を聞き、スプーンを握ったまま考え込んだ。


(ありあ……おはな、うけとってくれりゅ?)


それでも、リリアは諦めなかった。


「ありあ……おはなぁ……」


小さな声で呟き、胸元の花を大事そうに抱きしめた。


その頃、アリアの部屋では――。


アリアが窓辺に座り、庭園を眺めていた。


「リリちゃん……」


小さな指で、以前もらった花をそっと撫でる。


「リリちゃん、あいたいよぉ……」


その様子を、ヴィクトリアは扉の外から見つめていた。


アリアがリリアを恋しがっていることは分かっている。


しかし、二人を会わせるわけにはいかなかった。


アリアが池の事件について口を滑らせれば、自分の計画が崩れる恐れがあるからだ。


「……まだ、会わせるわけにはいかないわ」


ヴィクトリアは表情を引き締めた。


「もう少しだけ、我慢してちょうだいね。アリア」


部屋の中で、アリアは小さな花を抱きしめた。


「リリちゃん……だいしゅきぃ……」


その声は、誰にも届かない。


けれど、二人の王女の友情は、離れていても消えてはいなかった。


◆◆◆ポポの大変身!? 第二夫人になってアリア王女へお花をお届け!


リリアは、胸元に抱えた小さな花をじっと見つめていた。


「ありあ……おはなぁ……」


アリアに会いたい。


一緒に遊びたい。


そして、寂しそうにしているアリアに、元気になってほしい。


そんなリリアの気持ちを知ったポポは、ふわふわの胸をぽんっと叩いた。


「リリちゃん! ポポにおまかせなのだ!」


ピピが嫌な予感を覚え、すぐに振り返った。


「……ポポ。何をするつもり?」


「決まっているのだ! ポポがヴィクトリア様に変身して、アリアちゃんにお花を届けるのだ!」


「ええええっ!?」


ピピの声が裏返った。


「ちょっと待って! どうしてそうなるの!?」


「ヴィクトリア様がお部屋にいない間なら、アリアちゃんに会えるのだ! しかも、ポポがヴィクトリア様になれば、誰も疑わないのだ!」


「いやいやいや! ポポがヴィクトリア様になったら、絶対に何か起きるよ!」


「失礼なのだ! ポポは変身魔法の天才なのだ!」


ポポは胸を張った。


リリアは二匹のやり取りを聞きながら、小さく首を傾げた。


「ぽぽ……へんちん?」


「そうなのだ! ポポが変身して、アリアちゃんにお花を届けるのだ!」


「ありあ……おはな!」


リリアの顔がぱっと明るくなった。


「ぽぽ、がんばりゅ!」


「もちろん! ポポにおまかせなのだ!」


ピピは額に前足を当てた。


「……もう。こうなったら、私もついていくからね!」


「ピピも来るのだ?」


「当たり前でしょ! ポポひとりに任せたら、絶対に失敗するもん!」


「失敗なんかしないのだ!」


「この前、自分を巨大な桃に変身させて、廊下を転がっていたのは誰?」


「……あれは、桃の気持ちを理解するための研究なのだ!」


「そんな研究、聞いたことないよ!」


リリアは二匹を見て、くすくす笑った。


「ぽぽ、ぴぴ、だいしゅきぃ!」


その一言で、ポポは感激したように胸を押さえた。


「リリちゃん……! ポポ、絶対に成功させるのだ!」


ピピも優しく頷いた。


「うん。アリアちゃんに、ちゃんと届けようね」


こうして、ポポの無謀な作戦が始まった。


***


しばらくして、ヴィクトリアは侍女に呼ばれ、アリアの部屋を離れることになった。


「すぐに戻ります。アリアをひとりにしないよう、廊下で待機していてちょうだい」


「かしこまりました」


侍女は扉の外で待つことになった。


ヴィクトリアは廊下を進みながら、心の中で考えていた。


(アリアも、そろそろ落ち着いてくれるといいのだけれど……。リリアに会いたいと泣かれるのは困るわ)


やがて、ヴィクトリアの姿が角の向こうへ消えた。


その瞬間。


部屋の近くに置かれていた大きな花瓶の陰から、白くてふわふわした影が飛び出した。


「今なのだ!」


ポポだった。


ピピも続いて飛び出す。


「急いで! ヴィクトリア様が戻ってきちゃうよ!」


「分かっているのだ!」


ポポは目を閉じ、魔法を唱えた。


「ふわふわ変身魔法! ヴィクトリア様に、へーんしんなのだ!」


ぽんっ!


白い煙が小さく弾けた。


煙が晴れると、そこにはヴィクトリアそっくりの姿をした人物が立っていた。


髪型も、服装も、表情までそっくり。


ただし――。


「……どうなのだ? 似ているのだ?」


ポポが自分の声を聞いた瞬間、ピピは青ざめた。


「声! 声がポポのままだよ!」


「な、なんなのだ!?」


ポポは慌てて喉を押さえ、もう一度魔法を使った。


「声も変身なのだ!」


ぽんっ!


「……これで完璧なのだ」


今度はヴィクトリアそっくりの声になった。


ピピはポポの周りをぐるりと回り、細かく確認する。


「うーん……見た目はそっくり。声も大丈夫。でも、絶対に変なことを言わないでね!」


「変なことなんて言わないのだ!」


「それと、いつものポポみたいに胸を張って歩かない!」


「ポポはいつも堂々としているのだ!」


「それが怪しいんだってば!」


ポポは咳払いをひとつした。


「……こほん。わたくしはヴィクトリアですわ」


ピピはしばらく黙り込んだ。


「……うん。今のは、ちょっとだけそれっぽかった」


「ちょっとだけでは困るのだ!」


「もう! 早く行くよ!」


ピピは小さな姿のまま、ポポの服の陰に隠れた。


二匹はアリアの部屋へ向かった。


***


アリアは、部屋の中でひとり、窓の外を眺めていた。


「リリちゃん……」


小さな手には、以前リリアからもらった花が握られている。


「リリちゃん、あしょびたいよぉ……」


そのとき、扉が開いた。


「アリア」


ヴィクトリアの姿をしたポポが、部屋に入ってきた。


アリアは振り返り、ぱっと顔を明るくした。


「まま!」


「え、ええ。アリア……」


ポポは慌てて口調を整えた。


(あぶないのだ! つい、いつものポポの声が出そうになったのだ!)


ピピは服の陰で、必死に笑いをこらえていた。


アリアは不思議そうに首を傾げた。


「まま、どうちたのぉ?」


「い、いいえ。ちょっと、アリアに渡したいものがあって来たのよ」


ポポは、リリアから預かった花をそっと差し出した。


淡い色の、小さな花。


アリアは目を大きく見開いた。


「……おはな?」


「そうよ。リリアからよ」


その言葉を聞いた瞬間、アリアの顔がぱあっと輝いた。


「リリちゃん!?」


ポポは、優しく頷いた。


「リリアが、アリアに届けてほしいって」


アリアは両手を伸ばし、花を大切に受け取った。


「リリちゃん……!」


その目に、涙が浮かんだ。


「リリちゃん、ありあに、おはな……くれたのぉ?」


「そうよ。リリアは、アリアとまた遊びたいと思っているの」


アリアは花を胸にぎゅっと抱きしめた。


「リリちゃん……しゅきぃ……!」


小さな涙が頬を伝った。


「ありあも、リリちゃん、だいしゅきぃ……!」


ポポはその姿を見て、胸の奥が温かくなった。


(リリちゃんの気持ち、ちゃんと届いたのだ……)


そのとき、花びらがふわりと揺れた。


リリアが込めた小さな神の力が、アリアの手の中で優しく輝いたのだ。


アリアは驚いて花を見つめた。


「わぁ……おはな、きらきらぁ……」


ピピが服の陰からそっと顔を出した。


『リリちゃんの魔法だね。アリアちゃん、喜んでくれてよかった』


もちろん、アリアにはピピの言葉は聞こえない。


花びらの揺れも、窓から入った風のせいだと思った。


「おはな、きれぇ……」


アリアは笑顔になった。


「リリちゃん……また、あしょぼぉ……」


その言葉を聞いて、ポポは思わず頷いた。


「ええ。きっと、また遊べるわ」


そして、はっとした。


(いけないのだ! ポポはヴィクトリア様なのだ! 余計なことを言ってはいけないのだ!)


ポポは慌てて姿勢を正した。


「そ、それでは、わたくしは戻るわね」


「まま、ありがとぉ!」


アリアは笑顔で手を振った。


ポポは振り返らないように気をつけながら、部屋を出た。


扉が閉まる。


廊下を少し進んだところで、ピピが飛び出した。


「はあああっ! 緊張したぁ!」


「大成功なのだ!」


ポポは胸を張った。


「アリアちゃん、喜んでくれたのだ! これでポポも立派な使者なのだ!」


「うん、そこは偉かったよ。でも、変なことを言わなくてよかったね……」


「ポポは完璧だったのだ!」


「さっき、アリアちゃんに『ポポにおまかせなのだ』って言いそうになってたよ!」


「……気のせいなのだ!」


二匹は急いでその場を離れた。


しかし、まだ安心はできなかった。


廊下の向こうから、ヴィクトリア本人が戻ってきていたのだ。


「あら……?」


ヴィクトリアは、廊下の端に見慣れない白い毛を見つけた。


「何かしら、これは……」


それは、変身魔法の影響でポポの体から抜け落ちた、ふわふわの毛だった。


ヴィクトリアは不審そうに拾い上げた。


「……動物の毛?」


彼女は眉をひそめたが、すぐに首を振った。


(今は、そんなことを気にしている場合ではないわ)


そして、アリアの部屋へ入った。


「アリア、ただいま。何か変わったことはなかった?」


アリアは花を胸に抱きしめ、嬉しそうに笑った。


「まま! リリちゃん、おはな、くれたのぉ!」


ヴィクトリアの表情が一瞬で凍りついた。


「……え?」


「リリちゃん、おはなぁ! きれぇ!」


アリアは嬉しそうに花を見せた。


「リリちゃん、ありあ、しゅきぃ!」


ヴィクトリアは花を見つめた。


どうしてリリアからの花が、ここにあるのだろう。


自分は、アリアへの贈り物をすべて断るように指示していたはずだ。


「……誰が持ってきたの?」


「ままぁ!」


アリアは無邪気に笑った。


「まま、くれたのぉ!」


ヴィクトリアは言葉を失った。


自分が渡した覚えはない。


しかし、アリアは確かに「母親からもらった」と思っている。


ヴィクトリアは花を取り上げようとした。


けれど、アリアが花をぎゅっと抱きしめた。


「だめぇ! リリちゃん、おはなぁ!」


その声に、ヴィクトリアは手を止めた。


アリアがこんなに嬉しそうに笑ったのは、久しぶりだった。


無理に取り上げれば、また泣き出してしまうだろう。


「……そう。大切にするのよ」


ヴィクトリアは、無理に笑顔を作った。


「なくさないようにね」


「うんっ!」


アリアは嬉しそうに頷いた。


ヴィクトリアはその頭を撫でながら、心の中で考えていた。


(いったい、誰が……?)


彼女はまだ知らない。


自分そっくりに変身した、ふわふわの使者がいたことを。


そして、リリアの小さな気持ちが、今もアリアに届いていることを。


***


その頃、リリアの部屋では――。


「ぽぽ! ぴぴ!」


リリアは二匹が戻ってくるなり、両手を伸ばした。


「ありあ、おはなぁ?」


「もちろん、届けてきたのだ!」


ポポは得意げに胸を張った。


「アリアちゃん、とっても喜んでいたよ!」


ピピも笑顔で報告した。


「泣きそうなくらい嬉しそうだった!」


「ありあ……よろこんだぁ!」


リリアは満面の笑みを浮かべた。


「やったぁ!」


小さな手をぱたぱたさせ、嬉しそうに声を上げる。


「ありあ、しゅきぃ!」


ポポは感激したように頷いた。


「そうなのだ! リリちゃんとアリアちゃんは大親友なのだ!」


「でもポポ、変身中に変なことを言わなかった?」


ピピが尋ねた。


「言っていないのだ!」


「本当に?」


「……ちょっとだけ、言いそうになったのだ」


「やっぱり!」


ピピが叫び、リリアはけらけらと笑った。


その笑い声を聞きつけ、エレナが部屋に戻ってきた。


「まあ、楽しそうね。何かいいことがあったの?」


リリアはエレナに抱きついた。


「ままぁ! ありあ、だいしゅきぃ!」


「ふふっ。アリア王女が大好きなのね」


「うんっ!」


リリアは笑顔で頷いた。


エレナは、リリアがアリアを思っていることを知り、優しく抱きしめた。


「また一緒に遊べるといいわね」


「……うん!」


リリアは、心の中でそっと願った。


(ありあ……また、いっちょに、あしょぼぉねぇ……)


その願いは、まだ小さな花のようなものだった。


けれど、確かに二人の心をつないでいた。


***


その日の夕方。


皇帝アレクは、騎士団長から新たな報告を受けていた。


「陛下。アリア王女は、食事を普段どおりに召し上がっているとのことです。また、侍女たちの話では、熱がある様子もないそうです」


「そうか……」


アレクは考え込んだ。


医師たちは、ローデンの診断を信頼している。


アレク自身も、今はその判断を尊重することにした。


だが、元気に食事をしているアリアが、なぜ長期間部屋に閉じこもらなければならないのか。


「騎士団長。アリア王女の部屋に、贈り物や手紙が届いていないかも確認してくれ」


「贈り物や手紙、でございますか?」


「ああ。体調を崩しているのなら、無理に面会させる必要はない。だが、家族や友人からの便りまで制限されているのなら、不自然だ」


「承知いたしました」


騎士団長は深く頭を下げた。


アレクは窓の外を見つめる。


(ヴィクトリア……お前は、アリアを守るために休ませているのか。それとも……)


まだ確かな証拠はない。


だからこそ、慎重に調べる必要があった。


一方、ヴィクトリアはアリアの部屋で、花を大切そうに抱える娘を見つめていた。


「リリちゃん……」


アリアは花びらを撫でながら、何度もその名前を口にする。


ヴィクトリアの胸に、焦りが広がった。


リリアとアリアの絆は、自分が思っていた以上に強い。


そして、離れ離れにしておけば、いずれアリアは何かを話してしまうかもしれない。


「……このままでは、いけないわ」


ヴィクトリアは小さく呟いた。


彼女は、再びセドリックと相談する必要があると考え始めていた。


だが、その二人の計画を、遠い隣国から静かに見守っている者がいることは、まだ誰も知らない。


その夜。


リリアはエレナの腕の中で、幸せそうに眠りについた。


「ままぁ……ありあ……しゅきぃ……」


エレナは微笑み、リリアの額に口づけた。


「ええ。きっと、また会えるわ」


リリアは小さな手をぎゅっと握った。


その手の中には、もう花はなかった。


けれど、アリアへ届けた気持ちは、ちゃんとそこに残っていた。


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