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第23話「四人の宮廷医師! 第二夫人の嘘に迫る小さな疑問」

第23話「四人の宮廷医師! 第二夫人の嘘に迫る小さな疑問」


◆◆◆皇帝陛下の再診察命令と、信頼される宮廷医師


皇帝アレクは、執務室で一通の診察報告書を見つめていた。


そこには、第二夫人ヴィクトリアの娘、アリア王女についての診断が記されている。


『アリア王女は、疲労が見られるため、しばらく安静にすることが望ましい』


しかし、報告書には熱があるとも、食欲が落ちているとも書かれていなかった。


「……体調を崩しているというのに、具体的な症状がほとんどないな」


アレクは眉をひそめた。


アリアが本当に具合を悪くしているのなら、もちろん無理をさせるつもりはない。


だが、医師の診察記録が十分に確認できないことや、突然アリアとリリアを会わせなくなったことが、どうにも気になっていた。


「騎士団長。宮廷医師四人を、ここへ呼んでくれ」


「かしこまりました、陛下」


しばらくして、四人の宮廷医師が執務室に集まった。


その中には、アリアを診察したローデン医師の姿もあった。


ローデンは落ち着いた表情で一礼する。


「陛下、お呼びでしょうか」


「アリア王女のことだ。もう一度、きちんと診察してもらいたい」


アレクは四人を見渡した。


「体調が悪いという報告を受けたが、具体的な症状がはっきりしない。王女の健康に関わることだ。念のため、改めて確認しておきたい」


四人の医師は顔を見合わせた。


最初に口を開いたのは、年配の宮廷医師だった。


「陛下のお考えはもっともでございます。ただ……」


「ただ、何だ?」


「アリア王女を診察したローデン医師は、これまで数多くの患者を診てきた、優秀な医師でございます。私どもも、その判断を信頼しております」


別の医師も頷いた。


「ええ。ローデン医師は、幼い子どもの体調の変化にも詳しく、診察も慎重です。今回も、王女に無理をさせないために休養を勧めたのでしょう」


「目立った症状がない場合でも、疲労が原因で元気を失うことはございます。すぐに何度も診察するより、しばらく様子を見て、変化があれば改めて診るという方法もございます」


三人の医師は、ローデンの診断を疑っていなかった。


宮廷に仕えるようになってから、ローデンは多くの患者を診察し、優れた腕を持つ医師として信頼を得ていたからだ。


その評価は、決して一朝一夕に築かれたものではない。


アレクはローデンを見た。


「ローデン医師。アリア王女に、熱や食欲不振はなかったのだな?」


「はい、陛下。診察した際、目立った異常はございませんでした。ただ、幼い王女でございますから、疲労が表に出ている可能性を考え、休養を勧めました」


ローデンは、少しも動揺せずに答えた。


「今すぐ再診察をする必要はないと?」


「現時点では、安静にして様子を見ることが妥当かと存じます。もちろん、症状が現れた場合には、すぐに対応いたします」


その言葉を聞き、アレクは考え込んだ。


医師たちはローデンの判断を支持している。


彼らが信頼している医師の診断を、具体的な反証もないまま否定するわけにはいかなかった。


「……分かった。ひとまず、様子を見ることにしよう」


四人の医師が一礼する。


「ただし、アリア王女に少しでも異変があれば、すぐに報告すること。休養中であっても、健康状態の確認は怠るな」


「承知いたしました、陛下」


医師たちが退室したあと、アレクは椅子の背にもたれた。


「ローデン医師は、確かに優秀だ。ほかの医師たちも、彼を信頼している……」


それは事実だった。


だからこそ、簡単には疑えない。


しかし、アレクの胸には、まだ小さな引っかかりが残っていた。


「それでも……なぜ、アリアとリリアを急に会わせなくなった?」


医師たちの判断に従うことと、疑問を捨てることは違う。


アレクは騎士団長を呼び戻した。


「表立った調査は続けなくていい。だが、アリア王女の生活に不自然な制限が加えられていないか、静かに確認してくれ」


「承知いたしました」


「アリアを責めたり、無理に問いただしたりすることは許さん。あの子はまだ幼い。守られるべき子どもだ」


「かしこまりました」


騎士団長が退室すると、アレクは再び報告書に目を落とした。


今は、医師たちの判断を尊重しよう。


だが、調べることまでやめるつもりはなかった。


その頃――。


王宮の別の一室では、ヴィクトリアが落ち着かない様子で窓の外を眺めていた。


「……再診察を命じたと聞いたときは、どうなることかと思ったわ」


そこへローデン医師が、目立たぬように訪れた。


「ご心配には及びません、ヴィクトリア様。ほかの医師たちは、私の診断を信頼しております」


「本当に、誰も疑わなかったの?」


「はい。私がこれまで築いてきた医師としての評価が、役に立ちました」


ローデンは静かに微笑んだ。


「陛下は、ひとまず様子を見ることにされたようです」


ヴィクトリアは安堵の息をついた。


「よかった……。あの子がリリアと会ってしまったら、何を話すか分からないもの」


「引き続き、アリア王女には休養が必要だと伝えておきます」


「お願いするわ。陛下に余計な疑いを持たせないでちょうだい」


「承知しております」


ローデンが去ったあと、ヴィクトリアは窓辺でひとり呟いた。


「もう少しだけ……もう少しだけ、時間を稼げばいいのよ」


しかし、彼女は知らなかった。


皇帝が調査そのものをやめたわけではないことを。


そして、王宮のどこかで、小さな鳥が二人の会話を聞いていたことも――。


その鳥は、誰にも気づかれぬまま、リリアのいる部屋へと飛び立っていった。

◆◆◆会いたいアリア王女! リリアの小さな決意


一方、リリアはエレナの部屋で、積み木を並べて遊んでいた。


「うー! あっ、あっ!」


積み木を三つ重ねて、得意げに両手をぱたぱたさせる。


けれど、すぐに隣を振り返った。


そこには、いつも一緒に遊んでいるアリアの姿がない。


「……ありあ?」


リリアは首を傾げた。


「ありあ、いにゃい……」


その声を聞いたエレナは、リリアを優しく抱き上げた。


「そうね。最近、アリア王女と会えていないものね」


「ありあ……あしょぶぅ……」


リリアはエレナの胸に頬を寄せた。


「ありあ、いっしょ……」


「リリアも、アリア王女と遊びたいのね」


「うんっ!」


リリアは大きく頷いた。


その目には、寂しさが浮かんでいる。


エレナもアリアのことを心配していたが、医師の報告では休養が必要とのことだった。


「もう少ししたら、きっと会えるわ。今はアリア王女がゆっくり休めるようにしましょうね」


「……ありあ、いたいいたい?」


リリアは心配そうに尋ねた。


「それは、まだよく分からないの。でも、きっと大丈夫。陛下も気にかけていらっしゃるわ」


「ありあ……だいじょぶ?」


「ええ。私たちも、アリア王女が元気になるように願いましょう」


エレナはリリアの頭を撫でた。


リリアはこくんと頷いたものの、胸の奥には小さな不安が残った。


(ありあ……げんき、なのにぃ……?)


赤ちゃんのリリアには、複雑な事情は分からない。


けれど、大好きなアリアに会えないことが、どうしても寂しかった。


そのとき、窓の外から小鳥が一羽、ちょこんと枝に止まった。


人の気配がなくなった隙に、リリアはそっと窓辺へ目を向ける。


「ことりしゃん……?」


小鳥は、リリアにだけ聞こえる小さな声で囁いた。


『リリアちゃん。アリアちゃんのところへ行ってきたよ』


「ありあ?」


『うん。アリアちゃんは元気そうだった。でも、ずっと寂しそうにしていたよ』


リリアの目が大きく開いた。


「ありあ、げんき?」


『うん。ご飯も食べていたし、熱もなさそうだった。でも、リリアちゃんに会いたがっていたよ』


「……ありあぁ……」


リリアは小さな手を胸の前でぎゅっと握った。


(ありあ、げんきなのにぃ……。どうちて、あしょべないのぉ……?)


ポポがテーブルの下から顔を出した。


「ポポにおまかせなのだ! アリアちゃんのところへ行って、原因を調べてくるのだ!」


「ポポ、声がおっきいよぉ……」


ピピが慌ててポポの口を前足で塞いだ。


「しーっ! 人間さんに聞こえちゃうでしょ!」


「むぐぐっ! ポポは小声なのだ!」


「ぜんぜん小声じゃないよぉ!」


二匹が小声で言い争う横で、リリアは小鳥を見つめていた。


「ありあ……かなちぃ?」


『うん。リリアちゃんからもらったお花を、大事に持っていたよ』


リリアは、以前アリアに渡した小さな花を思い出した。


アリアが嬉しそうに受け取ってくれた、あのお花。


「……ありあ、だいしゅきぃ」


リリアの瞳が潤んだ。


「ありあ、なかないでぇ……」


ピピはリリアの頬にそっと寄り添った。


「ピピも、アリアちゃんに会いたいよぉ」


ポポも珍しく真面目な顔になった。


「アリアちゃんが元気なら、ずっとお部屋にいなきゃいけない理由は何なのだ?」


「……うー?」


リリアには答えが分からない。


それでも、ひとつだけ決めたことがあった。


「ありあ……あしょぶぅ」


小さな声だったが、その瞳には強い気持ちが宿っていた。


アリアと、もう一度一緒に遊びたい。


寂しそうなアリアを、ひとりぼっちにしたくない。


その気持ちだけは、誰にも変えられなかった。


その頃、アリアは自分の部屋で、リリアからもらった花を両手で抱えていた。


「リリちゃん……」


小さな唇が震える。


「リリちゃん、あいたいよぉ……」


そばにいたヴィクトリアは、娘の頭を撫でながら優しく微笑んだ。


「アリア、今はお部屋で休んでいましょうね」


「……おそと、いきたいぃ」


「だめよ。まだ休んでいなければいけないの」


「リリちゃん……あしょぶぅ……」


アリアの目に涙が浮かんだ。


ヴィクトリアは一瞬だけ表情を硬くしたが、すぐに優しい母親の顔へ戻った。


「もう少しだけ、いい子にしていてね」


「……うん」


アリアは頷いた。


けれど、どうしてリリアに会ってはいけないのか、アリアには分からない。


ただ、母親に言われたとおりにするしかなかった。


その夜――。


皇帝アレクは、騎士団長から届いた短い報告に目を通していた。


アリア王女の部屋から、体調が急変したという知らせはない。


それどころか、侍女たちの話では、食事も普段どおりに取っているらしい。


「……やはり、妙だな」


アレクは呟いた。


医師たちは、ローデンの診断を信頼している。


だから、今すぐ再診察を強行することはしない。


しかし、アリアが元気であるにもかかわらず、面会まで制限されているのなら、話は別だった。


「引き続き、慎重に調べてくれ。医師たちの判断を軽んじるつもりはない。だが、王女の生活については、きちんと確かめる必要がある」


「承知いたしました、陛下」


騎士団長が退室する。


アレクは窓の外を見つめた。


「アリア……お前に何が起きている?」


その答えは、まだ誰にも分からなかった。


そして、ローデン医師は自室で、調査に関する記録を一枚ずつ確認していた。


アレクが再診察を強く命じなかったことに、ひとまず安堵している。


だが、調査が続いている以上、油断はできない。


ローデンは記録を引き出しにしまい、鍵をかけた。


「……予定を早める必要があるかもしれないな」


その呟きは、誰にも聞かれなかった。


王宮の外では、遠い隣国から吹く風が、静かに夜の木々を揺らしていた。


その風の向こうに誰がいるのか、まだ誰も知らない。


一方、リリアはエレナの腕の中で眠りにつこうとしていた。


「ままぁ……ありあ……」


「アリア王女に会いたいのね」


「うん……ありあ、しゅきぃ……」


エレナはリリアを優しく抱きしめた。


「きっと、また会えるわ」


「……うん」


リリアは小さな手でエレナの服を握った。


(ありあ……まっててねぇ……。リリ、あいたいのぉ……)


小さな王女の胸に芽生えた決意は、まだ誰にも知られていない。


けれど、その小さな一歩が、やがて王宮に隠された嘘を明らかにしていくことになる。






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