第22話 会えないアリア王女! リリア姫の小さな決意と皇帝陛下の調査
第22話 会えないアリア王女! リリア姫の小さな決意と皇帝陛下の調査
◆◆◆四人の宮廷医師と、第二夫人に協力する謎の医師
朝の王宮。
柔らかな日差しが庭園を照らし、小鳥たちが楽しそうにさえずっていた。
いつもなら、この時間には二人の小さな王女の笑い声が聞こえてくる。
けれど、今日の庭園にはリリアしかいなかった。
「ありあぁ……」
リリアは庭園の入り口で、回廊の向こうをじっと見つめていた。
昨日も、アリア王女は来なかった。
そして今日も、まだ姿が見えない。
「りりちゃん、アリア王女に会えなくて寂しいねぇ」
ピピが、リリアの頬にふわふわの体を寄せた。
「うん……ありあ、くるぅ?」
リリアは小さな手を伸ばし、誰もいない回廊を指さした。
「ありあ、あしょぶぅ……」
ポポは腕を組んで、うーんとうなった。
「ポポ、どうにも気になるのだ」
「何が気になるの?」
「昨日まで元気だったアリア王女が、急に病気になったというのだ。それなのに、詳しい話が何も聞こえてこないのだ」
「本当に具合が悪いのかもしれないよ?」
「そうなのだ。だからこそ、きちんと確かめる必要があるのだ!」
ポポは自信満々に胸を張った。
「ポポにおまかせなのだ!」
「ポポ、何をするつもりなの?」
「まずは朝ごはんを食べて、じっくり考えるのだ!」
「それ、いつもと同じじゃない!」
ピピのツッコミに、リリアは「きゃはっ!」と笑った。
けれど、すぐにアリアのことを思い出し、またしょんぼりとうつむいてしまう。
「ありあ……いたい、いたい?」
小さな声には、心配がにじんでいた。
リリアはアリアが大好きだった。
一緒に花を見て、一緒におやつを食べて、手をつないで歩く。
それができないだけで、こんなにも寂しい。
「りりちゃん。アリア王女に、お花の絵を描いてあげましょうか?」
そばにいたミレが、優しく提案した。
「おはなぁ?」
「ええ。リリア王女が心配していると伝えれば、アリア王女も嬉しいと思いますよ」
「ありあ、よろこぶぅ!」
リリアはぱっと顔を明るくした。
「おはな、かくぅ!」
ミレが紙と色鉛筆を用意すると、リリアは小さな手で一生懸命に絵を描き始めた。
赤い丸に、黄色い丸。
緑色の線を何本も引いて、最後に紙の端へ小さな丸を描いた。
「できたぁ!」
リリアは絵を持ち上げた。
「ありあ、おはなぁ! だいしゅきぃ!」
「まあ、素敵ですね」
ミレが微笑む。
ポポも絵をのぞき込んだ。
「これは見事な芸術なのだ!」
「ポポ、さっき何の絵か分かってなかったでしょ?」
「芸術とは、心で感じるものなのだ!」
「ほんとかなぁ?」
ピピが笑い、リリアも楽しそうに手を叩いた。
しかし、絵をアリアの部屋へ届けようとしたとき、思いがけない返事が返ってきた。
*
アリアの部屋から戻ってきた侍女は、ミレに丁寧に頭を下げた。
「申し訳ございません。第二夫人様から、アリア王女は静養中のため、贈り物も後日受け取るとのお話がございました」
「贈り物も受け取れないのですか?」
ミレは驚いた。
「はい。アリア王女は今、人と会わずに休む必要があるとのことです」
リリアは二人のやり取りをじっと聞いていた。
「……ありあ、あえないのぉ?」
ミレはしゃがみ込み、リリアの目線に合わせた。
「ごめんなさいね。今日はお届けできないそうです」
「……やぁ」
リリアの顔から笑顔が消えた。
せっかく描いたお花。
アリアが喜んでくれると思ったのに。
「ありあ……おはな、ないない……」
リリアは絵を胸に抱きしめた。
ピピが心配そうに寄り添い、ポポもいつもの調子を引っ込めた。
「リリちゃん……」
やがて、リリアの目に涙が浮かんだ。
「ありあぁ……あいたいぃ……」
ミレはリリアを抱き上げ、優しく背中をなでた。
「大丈夫ですよ。きっと、また会えますからね」
リリアはミレの肩に顔を埋めた。
――ありあ、ひとり、いやぁ……。
――りりちゃん、ここにいるよぉ……。
小さな心の中で、リリアは何度もアリアの名前を呼んでいた。
*
一方、第二夫人ヴィクトリアの私室。
ヴィクトリアは侍女からの報告を聞き、静かにうなずいた。
「そう。リリアからの贈り物も受け取らせなかったのね?」
「はい、第二夫人様。ご指示どおりにいたしました」
「よろしいわ」
ヴィクトリアは微笑んだ。
だが、その目には冷たい光が宿っていた。
リリアとアリアを会わせない。
それが、今の彼女にとって最も重要なことだった。
池の事件以来、アリアは何度も何かを言いかけている。
まだ幼いアリアは、秘密を守ることの意味を理解していない。
大好きなリリアに優しく尋ねられれば、いつか何もかも話してしまうかもしれない。
「……あの子が口を滑らせる前に、手を打たなければ」
ヴィクトリアは扇を閉じた。
「ところで、医師たちの準備は?」
「宮廷医師四名のうち、現在、第二夫人様のお話を聞いている者は一名でございます」
「そう。彼なら、こちらの事情を理解してくれるでしょう」
ヴィクトリアの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。
宮廷には、四人の医師がいる。
そのうちの一人は、すでにヴィクトリアから金を受け取っていた。
彼女の指示に従い、必要であれば診察結果さえ都合よく伝えるつもりだった。
だが、残る三人は違う。
彼らは王宮に仕える医師として、患者の状態を正確に報告する責任がある。
もし、その三人のうち誰かがアリアを診察すれば、嘘が露見する可能性があった。
「アリアは元気ですものね。普通に診察されれば、すぐに分かってしまうわ」
ヴィクトリアは窓の外を見た。
「だから、診察を受ける前に、こちらから話を整えておく必要があるのよ」
侍女は不安そうにうつむいた。
「しかし、陛下が医師に直接お尋ねになった場合は……」
「そのときは、疲労による体調不良だったと説明すればいいわ。幼い王女には、静養が必要なこともあるでしょう?」
ヴィクトリアは優雅にカップを持ち上げた。
「それに、協力してくれる医師もいるのだから、心配はいらないわ」
その言葉の裏には、別の思惑が隠されていた。
金を渡された医師は、ヴィクトリアにとって都合のよい報告をする。
しかし、その医師が誰から指示を受け、どのような目的で彼女に協力しているのか。
ヴィクトリア以外に、その全容を知る者はいなかった。
そして、彼女自身も、自分の背後にある大きな思惑のすべてを理解しているわけではなかった。
ただ、今は自分の秘密を守ることだけを考えていた。
*
その日の昼過ぎ。
皇帝執務室には、アレクと騎士団長、そして宮廷医師の一人が集まっていた。
アレクは机の上に置かれた報告書を見つめていた。
「アリア王女の体調について確認したい」
「承知いたしました、陛下」
医師は深々と頭を下げた。
「第二夫人からは、アリア王女が体調を崩され、静養されていると報告を受けている。しかし、私のもとには正式な診察結果が届いていない」
医師は慎重に言葉を選んだ。
「現在、宮廷医師四名の間でも、アリア王女の診察について正式な報告は共有されておりません」
「四人の誰も、診察をしていないということか?」
「少なくとも、私が確認できる記録にはございません」
アレクの眉が動いた。
「体調を崩したというのに、診察の記録がないのは妙だな」
「はい。第二夫人が、まずは静養させたいとお考えになった可能性もございます。しかし、症状が続いているのであれば、診察を受けるのが望ましいと考えます」
アレクはうなずいた。
「分かった。アリア王女の様子を確認してくれ。ただし、本人を怖がらせるようなことはするな。必要な診察を、いつもどおりに行えばいい」
「かしこまりました」
医師が退室したあと、アレクは騎士団長へ向き直った。
「アリア王女の周囲についても確認してくれ。侍女たちの話を聞き、いつから体調不良とされたのか、誰がその判断をしたのかを調べるのだ」
「第二夫人様についても調査いたしますか?」
「今は、誰かを疑うための調査ではない。まず事実を確かめるのだ」
アレクは、机の上の報告書を閉じた。
「アリアはまだ幼い。何かを話せずにいるようにも見える。無理に聞き出すことはせず、安心して過ごせるようにしてやってくれ」
「承知いたしました」
騎士団長が退室すると、アレクはひとり窓の外を見つめた。
リリアとアリアは、いつも仲良く遊んでいた。
その二人が、突然会えなくなった。
アリアが本当に体調を崩しているのなら、休ませることに問題はない。
しかし、診察の記録もなく、詳しい症状も分からないまま面会だけが禁じられている。
「……何かがおかしい」
アレクは小さくつぶやいた。
まだ、ヴィクトリアが嘘をついていると断定することはできない。
金を受け取った医師がいることも、隣国から送り込まれた人間が王宮に潜んでいることも、彼は知らなかった。
ただ、王宮の中で何かが隠されている。
その予感だけが、少しずつ確かなものになり始めていた。
*
夕方。
アリアの部屋では、ヴィクトリアが娘の髪を優しくなでていた。
「アリア、今日もいい子にしていたわね」
「ままぁ……」
アリアは母親を見上げた。
「ありあ、おにわ、いきたいぃ……」
「もう少しだけ、お部屋で休みましょうね」
「……りりちゃん、あいたいぃ」
ヴィクトリアの手が一瞬止まった。
アリアは、花飾りをぎゅっと握りしめていた。
「りりちゃん……ごめぇ……」
「アリア?」
「りりちゃん、あいたい……。おはな、あげりゅ……」
アリアは小さな手を差し出した。
その手には、リリアへ渡そうとしていた花飾りがあった。
ヴィクトリアはそれを見つめ、心の中で焦りを募らせた。
――まだ、あの子はリリアのことばかり考えている。
――このままでは、いつか秘密を話してしまう。
ヴィクトリアは娘を抱きしめた。
「大丈夫よ。今は、何も心配しなくていいの」
「……ままぁ?」
「お母様が、ちゃんと守ってあげるから」
その言葉は優しかった。
けれど、ヴィクトリアが守ろうとしていたのは、アリアの心ではなかった。
自分自身の秘密だった。
窓の外では、夕日がゆっくりと沈んでいく。
リリアは今日もアリアに会えず、寂しい思いをしている。
アレクは、不自然な報告の裏に何があるのかを調べ始めた。
そして王宮の中には、金で買われた医師が一人。
その医師は、ヴィクトリアのために嘘をつく準備を進めていた。
誰もまだ、その裏切りに気づいていない。
王宮を取り巻く陰謀は、静かに次の段階へと進もうとしていた。
◆◆◆四人の医師の診察! 明らかになる不自然な報告
翌朝。
アリア王女の部屋には、宮廷医師の一人が訪れていた。
王宮には四人の宮廷医師が仕えている。
それぞれが王族や宮廷の人々の健康を守る大切な役目を担っていた。
今回、アリア王女の診察を担当することになったのは、そのうちの一人、ローデン医師だった。
「アリア王女、お加減はいかがですか?」
ローデンは、穏やかな笑みを浮かべて尋ねた。
「げんきぃ!」
アリアは元気よく両手を上げた。
「おなか、しゅいたぁ!」
その様子を見て、侍女のクララは思わず微笑んだ。
「アリア王女は、今朝も朝食をたくさん召し上がりました」
「そうですか。それはよかった」
ローデンは脈を確認し、体温を測り、呼吸や顔色も丁寧に確かめた。
診察の結果、アリアに目立った異常は見つからなかった。
熱もない。
食欲もある。
体調不良を示すような症状も見当たらない。
しかし、ローデンは診察記録に向かうと、筆を止めた。
「……ふむ。少し疲れがあるようですね」
クララが不思議そうに首をかしげる。
「疲れ、ですか? アリア王女は、ずっとお部屋でお過ごしですが……」
「幼いお子様ですからね。念のため、しばらく静養を続けるのがよいでしょう」
ローデンは、あらかじめ決められていたかのような口調で答えた。
診察結果には、体調に大きな問題がないことを記す一方で、静養を続けるようにとの所見を添えた。
そして診察を終えると、ヴィクトリアのもとへ向かった。
*
ヴィクトリアの私室。
「診察はどうだったの?」
ローデンが入室すると、ヴィクトリアはすぐに尋ねた。
「アリア王女に、目立った異常はございませんでした」
「そう。では、報告は?」
「第二夫人様のお話に沿って、疲労による静養が必要と記録いたしました」
ヴィクトリアは満足そうにうなずいた。
「よろしいわ」
彼女は机の引き出しから、小さな袋を取り出した。
中には金貨が入っていた。
「約束の報酬よ」
ローデンは周囲を確認してから、袋を受け取った。
「ありがとうございます、第二夫人様」
「これからも、私の話をよく聞いてちょうだい。あなたの報告ひとつで、物事の流れは大きく変わるのだから」
「承知しております」
ローデンは深々と頭を下げた。
彼は、ヴィクトリアの陰謀に協力する立場にあった。
その理由は金銭だけではない。
ローデンは、隣国から王宮へ送り込まれた人間だった。
表向きは宮廷医師。
しかし、その裏ではヴィクトリアの計画を助け、王宮の情報を集めている。
彼が誰の命令で送り込まれたのか。
そして、隣国で何を目的としているのか。
その全貌は、まだ誰にも知られていなかった。
「アレク陛下が、ほかの医師にも確認を取る可能性はあるわ」
ヴィクトリアは声を落とした。
「もしそうなったら?」
「診察結果に大きな異常がなかったことは事実です。静養を勧めたことも、医師として不自然ではございません」
「そうね。けれど、余計なことは話さないことよ」
「かしこまりました」
ローデンが退室したあと、ヴィクトリアは窓辺に立った。
「これで、少しは時間を稼げるわね……」
しかし、彼女の不安は消えなかった。
アレクが調査を進めれば、ローデンだけでは説明できない問題が出てくるかもしれない。
だからこそ、アリアをリリアに会わせるわけにはいかなかった。
秘密が漏れる前に、何としても二人の接触を防がなければならない。
*
一方、皇帝執務室。
「陛下。アリア王女の診察報告が届きました」
騎士団長が書類を差し出した。
アレクは受け取り、目を通した。
「体温に異常なし。食欲もあり、目立った症状もなし……」
読み進めるにつれて、アレクの眉が寄っていく。
「それなのに、静養を続ける必要があると?」
「はい。診察したローデン医師は、疲労によるものと判断したようです」
アレクは書類を机に置いた。
「アリアが疲れているというのなら、休ませることに異論はない。だが、体調に大きな問題がないのなら、リリアとの面会まで禁じる必要があるのだろうか」
「その点については、医師の報告には詳しく記されておりません」
「……そうか」
アレクはしばらく考え込んだ。
診察結果そのものに、明らかな嘘があるとは言い切れない。
だが、報告の内容と、ヴィクトリアが取っている行動には、どこか食い違いがある。
「騎士団長。ほかの宮廷医師にも確認してくれ」
「四人全員に、でしょうか?」
「そうだ。ローデン医師の報告だけで判断する必要はない。ほかの医師の意見も聞きたい」
「承知いたしました」
「それから、アリア王女が実際にどのように過ごしているのかも確認してくれ。無理に話を聞き出す必要はない。食事や睡眠の様子を確かめるだけでよい」
「かしこまりました」
騎士団長が退室すると、アレクは深く息を吐いた。
アリアは大切な王女だ。
リリアにとっても、かけがえのない友達である。
その二人を、理由もはっきりしないまま引き離すことには、どうしても納得できなかった。
「……何かを隠しているのか。それとも、私が疑いすぎているだけなのか」
アレクはまだ答えを出せなかった。
だが、調査をやめるつもりはなかった。
*
その頃、リリアの寝室では――。
「ありあぁ……」
リリアは、昨日描いた花の絵を胸に抱いていた。
アリアに渡せなかった絵。
リリアは何度もそれを見つめては、小さな指で花の形をなぞっていた。
「りりちゃん、またアリア王女にお手紙を書いているの?」
ピピが尋ねると、リリアはこくんとうなずいた。
「ありあ、おはな、あげりゅ……」
「そうだねぇ。きっと喜ぶよ」
「でも、また受け取ってもらえなかったらどうするのだ?」
ポポが首をかしげた。
「ぽぽぉ……」
リリアは困ったようにポポを見つめた。
それから、絵をぎゅっと抱きしめる。
「ありあ……あいたいぃ」
その小さな声を聞き、ポポもピピも黙ってしまった。
いつも元気いっぱいのリリアが、こんなに寂しそうにしている。
二匹は何とかしてあげたいと思った。
「ねえ、ポポ。小鳥さんたちに、アリア王女が元気かどうか聞いてみるのはどうかな?」
「それはいい考えなのだ!」
ポポはぱっと顔を明るくした。
「ポポにおまかせなのだ!」
「ぽぽ、しーっ!」
ピピが慌てて口を押さえる。
人間たちに聞かれてはいけない。
二匹はリリアのそばへ寄り、こっそり相談を始めた。
やがて、窓辺に一羽の小鳥が舞い降りた。
ピピが小さな声で尋ねる。
「ねえ、小鳥さん。アリア王女は元気にしている?」
小鳥は、こくこくと首を動かした。
『元気そうだったよ。窓から見たけれど、泣いていたんだ』
「ないてたぁ?」
リリアの目が大きく開いた。
『小さなお花を握りしめて、リリアに会いたいって言っていたよ』
「ありあぁ……!」
リリアは目に涙を浮かべた。
「ありあ、かなちぃ……」
小鳥は心配そうにリリアを見つめた。
『でも、どうして会えないのかは分からないんだ』
「……うぅ」
リリアは小さな手をぎゅっと握った。
アリアは元気なのに、会えない。
アリアも、リリアに会いたがっている。
それなのに、誰かが二人を会わせてくれない。
幼いリリアには、難しいことは分からなかった。
けれど、大好きな友達が泣いていることだけは分かった。
「ありあ……まっててぇ」
リリアは顔を上げた。
「りりちゃん……ありあ、あいたいぃ」
ポポとピピは、そんなリリアを見つめた。
いつもなら、いたずらを思いついては神様たちを困らせていたリリア。
けれど今は、大好きな友達を心配する気持ちでいっぱいだった。
「リリちゃん、どうするの?」
ピピが優しく尋ねる。
リリアは少し考えてから、小さな声で答えた。
「ありあ……げんき、みりゅ」
ポポは大きくうなずいた。
「よし! ポポたちも協力するのだ!」
「ピピもいっしょにやる〜!」
二匹は小さな手を重ねた。
ただし、人間たちに魔法のことを知られるわけにはいかない。
リリアもそれを理解している。
だから、今はこっそりと、アリアの様子を確かめることにした。
*
夜。
王宮の一室で、ローデン医師は小さな紙片を広げていた。
そこには、王宮内での動きについて、簡潔な報告が記されていた。
アレクが四人の宮廷医師すべてに確認を取ろうとしていること。
アリア王女の診察記録を、改めて調べようとしていること。
ローデンは紙片を見つめ、顔をしかめた。
「……思ったより、動きが早い」
彼は紙片を火にくべた。
小さな炎が文字を飲み込み、灰だけが残る。
「第二夫人に、知らせなければ」
ローデンは窓の外を見つめた。
自分がこの王宮へ送り込まれた理由。
ヴィクトリアに協力することになった経緯。
そのすべてを、彼は誰にも明かすつもりはなかった。
今はただ、与えられた役目を果たすだけだ。
ローデンは外套を手に取り、部屋を出た。
王宮の廊下は静まり返っていた。
しかし、誰も知らないところで、陰謀は少しずつ動いている。
*
翌朝。
アレクの机には、四人の宮廷医師に関する資料が並んでいた。
彼はそれらを順番に確認していたが、まだ決定的な問題は見つかっていない。
ローデンの診察記録も、一見すれば不自然なものではなかった。
けれど、アレクは胸の奥に残る違和感を無視できなかった。
「……焦る必要はない」
彼は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「一つずつ確かめていけばいい」
アリア王女の体調。
池の事件。
毒入りミルク。
そして、過去の記録に残された不自然な点。
それらがつながるのかどうかは、まだ分からない。
ただ、誰かが何かを隠しているのなら、いつか必ず矛盾が現れるはずだった。
アレクは窓の外を見た。
庭園では、リリアが小鳥を眺めていた。
その小さな背中は、いつもより少し寂しそうだった。
「リリア……お前も、アリアに会いたいのだな」
アレクは静かに目を伏せた。
娘たちが再び笑顔で遊べる日が来るように。
そして、王宮に潜む不自然な動きの正体を確かめるために。
彼は調査を続けることを決意した。
その一方で、ヴィクトリアはまだ知らない。
自分の嘘を隠すために協力させている医師の存在が、いずれ彼女自身の計画を揺るがすことになるかもしれないということを。
そして、リリアの小さな願いが、少しずつ真実へ近づいていることも――。




