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第21話 皇帝陛下の追及! 第二夫人の嘘と引き離された二人の王女


第二十一話 皇帝陛下の追及! 第二夫人の嘘と引き離された二人の王女


◆◆◆「アリア王女は病気です」――第二夫人の新たな計画


 朝の王宮。


 窓から差し込む柔らかな日差しの中、リリアは寝台の上で、ポポとピピを相手に遊んでいた。


「ぽぽぉ! ぴぴぃ! あしょぼぉ!」


「もちろん、ポポにおまかせなのだ!」


 ポポは胸を張り、テーブルに置かれた積み木を器用に積み上げようとした。


 しかし、三つ目を乗せたところで、積み木はぐらりと揺れた。


「あっ!」


 がしゃん!


 積み木が一気に崩れ、ポポの頭にひとつ乗っかった。


「……なぜなのだ?」


「ポポ、へたっぴぃ!」


「な、なんですとーっ!?」


 ピピはころころと笑い、リリアも手をぱちぱちと叩いた。


「きゃははっ! ぽぽ、おもしろぉい!」


「笑っている場合ではないのだ! もう一度なのだ!」


 ポポが再挑戦しようとした、そのときだった。


「リリア、楽しそうね」


 エレナが部屋に入ってきた。


「ままぁ!」


 リリアは両手を伸ばし、エレナに抱き上げてもらう。


「今日はアリア王女と庭園で遊ぶお約束をしているでしょう? 楽しみね」


「ありあぁ!」


 リリアの顔がぱっと明るくなった。


「ありあ、あしょぶぅ! おはな、みりゅぅ!」


「そうね。きっと喜ぶわ」


 エレナは微笑みながら、リリアの頬にそっと口づけた。


 リリアはアリアと一緒に遊ぶのが大好きだった。


 花を眺めたり、柔らかな芝生の上をよちよち歩いたり、おやつを食べたり。


 二人でいるだけで、いつも笑顔が絶えない。


 けれど――。


 その約束が、突然なくなってしまうことになるとは、リリアはまだ知らなかった。


     *


 一方、第二夫人ヴィクトリアの私室。


「……アリアが、またリリアに会いたがっているですって?」


 侍女から報告を受けたヴィクトリアは、手にしていたカップを静かに置いた。


「はい。アリア王女は今朝も、リリア王女と遊びたいとおっしゃっていました」


「そう……」


 ヴィクトリアは微笑んだ。


 だが、その目は少しも笑っていなかった。


 池の事件から、すでに何日も経っている。


 アリアは事件の詳しい事情を理解していない。


 それでも、リリアに会うたびに何かを言いかけては、口を閉ざしてしまう。


 ヴィクトリアには、それが何よりも恐ろしかった。


 アリアは幼い。


 秘密を守ることの意味も、口にしてはいけない言葉が何なのかも、十分に理解できていない。


 いつか、リリアに何もかも話してしまうかもしれない。


 そして、その話がエレナやアレクの耳に入れば――。


「……絶対に、そうさせるわけにはいかない」


 ヴィクトリアは扇を閉じた。


 リリアとアリアを仲良くさせておくのは、危険だった。


 リリアはアリアの小さな変化によく気づく。


 泣いていれば心配し、元気がなければそばに寄り添う。


 アリアが何かを言いかければ、きっと優しく尋ねるだろう。


 そうなれば、アリアが秘密を口にしてしまう可能性は高くなる。


「会わせなければいいのよ」


 ヴィクトリアは小さくつぶやいた。


「けれど、理由もなく会わせなくなれば、エレナや陛下に怪しまれる……」


 無理に引き離せば、かえって疑念を招いてしまう。


 必要なのは、誰もが納得する理由だった。


 ヴィクトリアはしばらく考え込んだあと、ふと顔を上げた。


「そうだわ」


 口元に、薄い笑みが浮かぶ。


「アリアを病気ということにすればいいのよ」


 もちろん、アリアは病気ではない。


 今朝も元気に朝食を食べ、リリアと遊びたいと話していた。


 けれど、王女が体調を崩したと聞けば、面会を控えるのは自然なことだ。


 誰も、無理に会わせろとは言わないだろう。


「しばらくの間、アリアは体調が優れないことにするの。人に会わせず、部屋で静養していると伝えなさい」


「ですが、第二夫人様。アリア王女はお元気ですが……」


 侍女が不安そうに尋ねた。


「だからこそ、余計なことを言わないでちょうだい」


 ヴィクトリアの声が冷たくなる。


「医師には、疲れが出ているため安静が必要だと説明してもらいます。食事も部屋で取らせるの。外出も、庭園での遊びも、すべて取りやめよ」


「かしこまりました……」


「それから、リリア王女が会いに来ても、面会はできないと伝えるのよ。エレナ様には、アリアの体調を心配していると、こちらから丁寧に説明します」


 ヴィクトリアは、もう一度カップを手に取った。


「誰も疑わないわ。娘を休ませる母親として振る舞えばいいのだから」


 しかし、その胸の内には、別の思いが渦巻いていた。


 アリアを守りたいからではない。


 アリアの口から秘密が漏れることを、何よりも恐れていたのだ。


     *


 その日の昼前。


 アリアの部屋では、侍女たちがいつもより慌ただしく動いていた。


「アリア王女、今日はお部屋でゆっくり過ごしましょうね」


 クララが優しく声をかける。


「……?」


 アリアは首をかしげた。


「おにわ、いかないのぉ?」


「今日はお休みですよ」


「りりちゃん……くるぅ?」


 アリアは、扉のほうを見つめた。


 いつもなら、もうすぐリリアが迎えに来てくれる時間だった。


「りりちゃんと、あしょぶぅ……」


 アリアはお気に入りの小さな花飾りを手に取り、クララに差し出した。


「これぇ、りりちゃん……あげりゅのぉ」


「まあ、リリア王女への贈り物ですか?」


「うんっ!」


 アリアは嬉しそうにうなずいた。


 その様子を見たヴィクトリアは、一瞬だけ目を伏せた。


 アリアは何も知らない。


 ただ、大好きな友達に会いたいだけなのだ。


 それでも、ヴィクトリアは決めた計画を変えるつもりはなかった。


「アリア」


 母親らしい優しい声で、娘に近づく。


「しばらくは、お部屋でゆっくりしていましょうね」


「えぇ……? なんでぇ?」


「少し疲れているからよ。お外で遊ぶと、もっと疲れてしまうわ」


「ありあ、げんきぃ!」


 アリアは小さな腕を伸ばして、元気なことを伝えようとした。


「おにわ、いきたいぃ……。りりちゃん、あしょぶぅ……」


 ヴィクトリアはアリアを抱きしめた。


「ごめんなさいね。でも、今日はだめなの」


「うぅ……」


 アリアの瞳に涙が浮かぶ。


 どうして遊んではいけないのか、分からない。


 どうしてリリアに会ってはいけないのかも、分からない。


 それでも、母親にそう言われると、逆らうことができなかった。


「……りりちゃん……」


 アリアは花飾りをぎゅっと握りしめた。


 ヴィクトリアはその小さな手を見つめ、心の中で言い聞かせた。


 ――会わせてはいけない。


 ――あの子が話してしまう前に、何とかしなければ。


 窓の外では、春の風が庭園の花を揺らしていた。


 本来なら、二人の王女が一緒に遊んでいるはずの庭園。


 けれど今日、そこにアリアの姿はなかった。


     *


 その頃、リリアは庭園の入り口で、そわそわしながら待っていた。


「ありあぁ……?」


 ミレに抱っこされながら、リリアは何度も回廊のほうを振り返る。


「アリア王女は、まだいらっしゃらないようですね」


 ミレは優しく声をかけた。


「もう少し待ってみましょうね」


「うん……」


 リリアは小さくうなずいた。


 ポポとピピも、リリアの肩越しに回廊を眺めている。


「アリア王女、遅いのだ」


「何かあったのかなぁ?」


 そのとき、アリアの侍女クララが庭園へやってきた。


「リリア王女、申し訳ございません」


 クララは丁寧に頭を下げた。


「アリア王女は少し体調を崩されたため、本日はお部屋でお休みになるそうです」


「……え?」


 ミレが心配そうに尋ねる。


「アリア王女がお具合を? お熱があるのですか?」


「詳しいことは伺っておりません。ただ、第二夫人様から、しばらく静養させるようにとのお話がございました」


「そうですか……。それは心配ですね」


 ミレは眉を下げた。


 けれど、リリアはクララの顔をじっと見つめていた。


「ありあ……いたい、いたい?」


 小さな声で尋ねる。


「りりちゃん……あえないのぉ?」


 クララは困ったように微笑んだ。


「申し訳ございません。今日はお会いできないのです」


「……やぁ」


 リリアの唇が、きゅっと下がった。


「ありあぁ……」


 いつも一緒に遊んでいるアリア。


 今日は一緒に花を見て、おやつを食べて、いっぱい笑うはずだった。


 なのに、会えない。


 リリアは胸の前で、小さな手をぎゅっと握りしめた。


 ――ありあ、かなちぃの?


 ――ひとり、いやぁ……。


 ポポとピピは、リリアの顔を見て心配そうに寄り添った。


「リリちゃん、今日は会えないみたいなのだ……」


「でも、アリア王女が本当に具合が悪いなら、ゆっくり休んでほしいねぇ」


「うん……」


 リリアはうつむいた。


「ありあ……おだいじ、だいじぃ……」


 そして、アリアのいる部屋のほうを、じっと見つめた。


 リリアはまだ知らない。


 アリアが病気だという話が、ヴィクトリアによって仕組まれた嘘であることを。


 そして、その嘘の裏には、アリアが秘密を話してしまうことへの恐怖が隠されていることを――。


 ただ、ひとつだけ分かっていた。


 大好きなアリアに、会いたい。


 その小さな願いが、今、第二夫人の計画によって阻まれようとしていた。


◆◆◆会いたいのに会えない! リリア姫の涙と皇帝陛下の疑念


 アリア王女が体調を崩したと聞いたリリアは、庭園でしょんぼりとうつむいていた。


「ありあぁ……」


 いつもなら、もう隣で笑っているはずのアリア。


 花を見つければ一緒に喜び、おやつを食べれば顔を見合わせて笑う。


 そんな大好きな友達が、今日は来てくれない。


「りりちゃん、元気を出してくださいね」


 侍女のミレが、リリアの背中を優しくなでた。


「アリア王女も、きっと元気になったら会いに来てくださいますよ」


「……ありあ、いたい、いたい?」


 リリアは心配そうに尋ねた。


「おねちゅ、あるぅ?」


「そこまでは分かりませんが、ゆっくり休んでいらっしゃるそうですよ」


「……ありあぁ」


 リリアは小さな唇をとがらせた。


 会いたい。


 今すぐ、アリアに会いたい。


 けれど、病気なら無理をさせてはいけない。


 リリアはまだ幼いながらも、大好きな友達を心配していた。


 その足元では、ポポが腕を組んでうなっていた。


「むむむ……。ポポには、どうも妙なのだ」


「何が妙なの?」


 ピピが小声で尋ねる。


「昨日まで元気だったアリア王女が、急にお外で遊べなくなったのだ。しかも、病気の詳しい話が誰にも伝わっていないのだ」


「でも、本当に体調が悪いのかもしれないよ?」


「それはそうなのだ。だからこそ、勝手に決めつけてはいけないのだ!」


 ポポは珍しく真面目な顔をした。


「まずは、アリア王女が元気なのかどうか、確かめたいのだ」


「うん……」


 リリアは小さくうなずいた。


「ありあ……だいじょぶ?」


 その瞳には、不安がいっぱいに浮かんでいた。


     *


 一方、アリアの部屋。


「ありあ、つまんないぃ……」


 アリアは寝台の上に座り、手元の花飾りをじっと見つめていた。


 部屋の中には、柔らかな日差しが差し込んでいる。


 食欲もあるし、熱もない。


 体のどこも痛くなかった。


 それなのに、今日は外へ出てはいけないと言われてしまった。


「くららぁ……」


「はい、アリア王女」


「おにわ、いきたいぃ……」


 クララは困ったような顔をした。


「申し訳ございません。今日はお部屋でお休みになってくださいね」


「……りりちゃん、くるぅ?」


「本日は、リリア王女もお会いになれないそうです」


「……えぇ?」


 アリアの目が大きく開いた。


「りりちゃん……こないのぉ?」


「はい……」


「やぁ……」


 アリアの顔がくしゃりとゆがんだ。


「りりちゃん、あしょぶぅ……。ありあ、げんきぃ……」


 クララは胸が痛くなった。


 目の前のアリア王女は、どう見ても元気だった。


 それなのに、第二夫人からは部屋で静養させるようにと命じられている。


 なぜなのだろう。


 クララには、その理由が分からなかった。


 アリアは花飾りを胸に抱きしめた。


「りりちゃん……しゅきぃ……」


 小さな頬を、涙がつたった。


     *


 その日の午後。


 アレクは執務室で、池の事件に関する報告を読んでいた。


 リリアとアリア王女が池に落ちたあの日から、アリアは何かを言いかけては口を閉ざしている。


 騎士団長の報告でも、侍女たちの証言でも、その様子は共通していた。


「……アリアは、何かを隠しているのだろうか」


 アレクは書類を置いた。


 いや、正確には、何かを隠しているというより――。


「誰かに、話してはいけないと言われているのかもしれないな」


 その考えが浮かんだ瞬間、アレクの表情が険しくなった。


 アリアはまだ幼い。


 池の事件の危険性を理解していたとは思えない。


 それなのに、あの日から何かを言いかけては、まるで言葉を飲み込むように黙ってしまう。


 そして今日、突然、体調不良を理由にリリアとの面会が取りやめになった。


「騎士団長を呼んでくれ」


 アレクは侍従に命じた。


 ほどなくして、騎士団長が執務室へ入ってきた。


「陛下、お呼びでしょうか」


「アリア王女の体調について、何か報告はあったか?」


「第二夫人様から、アリア王女が体調を崩されたため、しばらく静養されると伺っております」


「医師の診察は?」


「詳しい診察結果については、まだ報告を受けておりません」


 アレクは眉をひそめた。


「病気なら、医師の診察を受けているはずだ。もちろん、休ませること自体に異論はない。だが、体調不良の程度も分からず、急に面会まで取りやめるというのは気になる」


「私も、確認したほうがよろしいかと存じます」


「そうしてくれ。ただし、アリアを問い詰めるようなことはするな。あの子に罪があると決まったわけではない」


「承知いたしました」


 アレクは窓の外へ目を向けた。


 庭園には、リリアがいるはずだった。


 いつもなら、アリアと一緒に笑っている時間だ。


「……二人を引き離すことが、誰かの都合によるものだとしたら」


 アレクは静かにつぶやいた。


「私は、その理由を確かめなければならない」


     *


 夕方。


 ヴィクトリアの私室では、セドリックが彼女と向かい合っていた。


「アリアを部屋に閉じ込めたそうだな」


 セドリックが低い声で尋ねる。


「閉じ込めたのではないわ。体調が優れないということにして、静養させているだけよ」


「……本当に病気なのか?」


「違うわ。あの子は元気よ」


 ヴィクトリアは即座に答えた。


「けれど、リリアに会わせ続けるわけにはいかないの」


 セドリックは黙って彼女を見つめた。


「アリアは、リリアに何か話そうとしているのだろう?」


「ええ。池の事件以来、何度もね」


 ヴィクトリアは苛立ちを隠せず、扇を握りしめた。


「何をどこまで覚えているのか、本人にも分かっていないのでしょう。けれど、あの子はリリアが大好きなの。リリアに優しく声をかけられれば、いつか口を滑らせるかもしれないわ」


「だから、会わせないというわけか」


「そうよ。しばらく距離を置かせれば、あの子も余計なことを考えなくなる」


 セドリックは小さく息を吐いた。


「だが、アレクに不審に思われれば逆効果だ。アリアが突然病気になったという話を、陛下が簡単に信じるとは限らない」


「分かっているわ」


 ヴィクトリアの声が強くなる。


「だからこそ、慎重に進めるのよ。医師には、疲れが出ているため静養が必要だと説明してもらう。面会を断る理由も、それで十分でしょう」


「医師が不自然だと感じたらどうする?」


「そのときは、別の理由を考えるわ」


 ヴィクトリアは立ち上がり、窓辺へ歩いた。


「今は、アリアに余計なことを話させないことが最優先よ」


 セドリックも立ち上がった。


「無理をするな。疑われれば、これまでの計画まで調べ直される」


「分かっているわ、セドリック」


 二人は互いの顔を見つめた。


 彼らの間には、誰にも知られてはならない秘密がある。


 そして、その秘密を守ろうとするほど、二人の行動は少しずつ不自然になっていくのだった。


     *


 夜。


 リリアの寝室では、エレナが娘を寝かしつけていた。


「ありあ……」


 リリアは、エレナの胸に頬を寄せながらつぶやいた。


「ありあ、こないのぉ……」


「今日は少しお休みするそうよ。きっと、また会えるわ」


「……ありあ、かなちぃ?」


「どうかしら。でも、リリアが心配していることは、きっと伝わるわ」


 エレナはリリアの小さな手を包み込んだ。


「今は、ゆっくり休ませてあげましょうね」


「……うん」


 リリアはうなずいたものの、どこか寂しそうだった。


 エレナが寝室を出たあと、ポポとピピがそっとベッドのそばへやってきた。


「リリちゃん、元気がないのだ……」


「アリア王女に会えなくて、寂しいんだねぇ」


「ぽぽぉ……」


 リリアは二匹を見つめた。


「ありあ……あいたいぃ」


 ポポはリリアの手に、小さな前足を重ねた。


「ポポたちも、アリア王女がどうしているのか気になるのだ。でも、今は慌てずに確かめるのだ」


「うん……」


 リリアは目をこすった。


 そして、胸の中で小さく願った。


 ――ありあ、げんき、げんきぃ。


 ――また、いっしょに、あしょぼぉ……。


 その願いに応えるように、窓の外で一羽の小鳥が鳴いた。


 小鳥はアリアの部屋の窓辺にも立ち寄り、明かりのついた室内をのぞいていた。


 アリアは寝台の上で、リリアに渡すつもりだった花飾りを握りしめている。


「りりちゃん……また、あしょぼぉ……」


 小さな声は、夜の静けさに溶けていった。


     *


 同じ夜、皇帝執務室。


 アレクは、騎士団長から届いた追加報告に目を通していた。


 アリア王女の体調について、医師からの正式な診察報告はまだ届いていない。


 それなのに、面会の取りやめだけが先に決められている。


「……偶然にしては、妙だな」


 アレクは椅子の背にもたれた。


 毒入りミルクの件。


 池の事件。


 そして、アリアの突然の静養。


 まだ、それぞれを結びつける証拠はない。


 ヴィクトリアが関わっていると断定することもできない。


 それでも、見過ごすことはできなかった。


「アリアを守るためにも、真実を確かめなければ」


 アレクは窓の外を見つめた。


 彼はまだ知らない。


 アリアが自分の実の娘ではない可能性も、その出生に関わる秘密も。


 そしてヴィクトリアが、真実が明らかになることを恐れ、次の手を考え始めていることも――。


 王宮の夜は、静かに更けていった。


 けれど、その静けさの下で、隠された秘密は確実に動き始めていた。





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