第2話「二人の王女、誕生! 神様の約束と王宮の陰謀」
第2話「二人の王女、誕生! 神様の約束と王宮の陰謀」
◆神界――下界へ行く前の約束
神界の最も高い場所にある、黄金の神殿。
その中央では、創造神ゼノをはじめとする四柱の神々が、下界へ旅立つリリアを囲んでいた。
リリアは、ふわふわのクッションの上にちょこんと座っている。
その隣には、ポポとピピ。
「リリア。人間界へ行く前に、いくつか約束してもらいたいことがある」
ゼノが厳しい顔で告げた。
「やくそく?」
「そうだ。人間界では、お前は人間の赤ちゃんとして生きることになる」
「うん!」
「まず一つ目。人間界で神の力をむやみに使ってはいけない」
「むやみって、どのくらい?」
「壁を虹色に染めたり、雲をお菓子に変えたり、王宮をひっくり返したりすることだ!」
「えーっ! おしろ、ひっくりかえしちゃだめなの?」
「当然だ!!」
ゼノの叫びが神殿中に響き渡った。
アテナがこめかみを押さえながら、二つ目の約束を告げる。
「人間の心を勝手に読んだり、未来をのぞいたりすることも禁止です。必要なときだけ、正しく使うのですよ」
「はーい!」
「本当に分かっていますか?」
「わかってるもーん!」
リリアはニコニコと笑った。
オルフェが静かに口を開く。
「三つ目。お前は人間界で、自分の家族を大切にすること。家族が危険にさらされたときは、その力で守ってやるのだ」
「かぞく……」
リリアは小さな手を胸に当てた。
「リリ、おとうしゃまとおかあしゃまを、まもる!」
「そうだ。それがお前の修行でもある」
フィオナが優しく微笑み、リリアの頭をなでた。
「そして、最後の約束。いたずらをしてもいいけれど、誰かを悲しませたり、傷つけたりしてはいけないわ」
「いたずらは、ちょっとならいいの?」
「相手が笑ってくれるいたずらなら、ほどほどにね」
「わかった!」
リリアは元気よく手を挙げた。
その横で、ポポが胸を張る。
「ポポにおまかせなのだ! リリアのいたずらは、ポポが全部見張るのだ!」
「ポポ、食べ物につられて一緒にいたずらしないでね?」
ピピがすかさず突っ込んだ。
「そ、そんなことはないのだ!」
「昨日、神殿のお菓子を全部食べたのは誰?」
「……ポポなのだ」
「認めるんだ!?」
神々はそろってため息をついた。
ゼノはリリアの前にしゃがみ、真剣な眼差しで告げる。
「リリア。お前は強大な力を持っている。だが、その力は人を支配するためではなく、大切なものを守るためにもある。それを忘れるな」
リリアはゼノの顔をじっと見つめた。
そして、小さな手でゼノの指を握った。
「うん! リリ、いいこにする!」
「……本当だな?」
「たぶん!」
「たぶんでは困る!!」
神殿に、ゼノの悲鳴が響き渡った。
こうして、リリアは神々との約束を胸に、人間界へ旅立つことになった。
ただし――。
本人はまだ、これから始まる王宮生活がどれほど大騒ぎになるのか、まったく分かっていなかった。
* * *
### ◆人間界――王宮に渦巻く悪意
同じころ。
人間界にある大帝国の王宮では、華やかな宴の準備が進められていた。
皇帝アレクの第一夫人、エレナ。
そして第二夫人、ヴィクトリア。
二人は、ともに身ごもっていた。
エレナのお腹には、皇帝が心待ちにしている第一夫人の子ども。
ヴィクトリアのお腹にも、もうすぐ生まれる子どもがいた。
しかし、ヴィクトリアの胸の内には、誰にも見せない黒い野心が渦巻いていた。
(第一夫人の子どもさえいなければ……)
ヴィクトリアは窓辺に立ち、エレナのいる部屋を見つめた。
(あの子が生まれれば、皇位継承にも影響する。陛下の寵愛も、すべてあの親子に奪われてしまうわ)
彼女は侍女を呼び寄せると、小さな小瓶を取り出した。
「これを、お茶に混ぜなさい」
「ヴィクトリア様……これは?」
「余計なことは聞かなくていいわ」
ヴィクトリアの声は冷たかった。
「エレナ様に飲ませるのよ。あの方も、お腹の子も……二度と私の邪魔ができないようにね」
侍女の顔から血の気が引いた。
「し、しかし……もし陛下に知られたら……」
「知られなければいいのよ」
ヴィクトリアは微笑んだ。
その笑みには、温かさなど欠片もなかった。
ほどなくして、エレナの部屋に一杯のお茶が運ばれることになった。
* * *
### ◆運命を変える光
エレナは窓辺の椅子に座り、大きなお腹を優しくなでていた。
「もうすぐ会えるわね……私のかわいい子」
お腹の赤ちゃんに語りかける声は、とても穏やかだった。
「どんな子なのかしら。元気な子? それとも、おとなしい子?」
エレナはくすりと笑った。
「あなたに会える日が、待ち遠しいわ」
そこへ、侍女が紅茶を運んできた。
「エレナ様、お茶をお持ちしました」
「ありがとう」
エレナがカップに手を伸ばした、その瞬間だった。
――ピカッ!
「きゃっ!?」
突然、エレナのお腹がまばゆい金色の光を放った。
部屋全体が黄金色に染まり、窓の外まで明るく照らされる。
侍女は驚いて、持っていた盆を落としそうになった。
「エ、エレナ様! お腹が……!」
エレナ自身も、何が起きているのか分からなかった。
「これは……いったい……?」
光は、まるで赤ちゃんが母親を守ろうとしているかのように、エレナのお腹を優しく包み込んでいた。
その直後――。
「うっ……!」
エレナが突然、お腹を押さえた。
「エレナ様!?」
「お、お腹が……痛いわ……!」
侍女が慌てて医師を呼びに走る。
エレナはベッドに横たわり、苦しそうに息を吐いた。
「まさか……もう、この子が……?」
出産には、まだ早いはずだった。
しかし、陣痛は次第に強くなっていく。
そして、王宮の別の場所でも、同じ異変が起きていた。
* * *
### ◆第二夫人にも訪れた陣痛
「ヴィクトリア様、大変です!」
侍女が血相を変えて駆け込んできた。
「何事なの?」
「エレナ様のお部屋が、突然、金色の光に包まれたそうです! それに、エレナ様が陣痛を迎えられたと……!」
「何ですって!?」
ヴィクトリアの顔がこわばった。
まだ生まれる時期ではないはず。
それなのに、なぜ?
ヴィクトリアは嫌な予感を振り払うように、お茶のカップを手に取った。
だが、その瞬間――。
「うっ……!」
彼女も突然、お腹を押さえた。
「ヴィクトリア様!?」
「い、痛い……!」
ヴィクトリアの顔から血の気が引いていく。
次の瞬間、強い痛みが彼女を襲った。
「まさか……私まで……!?」
侍女たちが一斉に動き出した。
「医師を! 早く医師を呼んで!」
「出産の準備を急いで!」
王宮中が大騒ぎになった。
ヴィクトリアは、目の前のお茶を睨みつけた。
毒入りのお茶は、まだ一口も飲まれていない。
エレナが飲むはずだったお茶も、手つかずのままだ。
(どうして……! なぜ、こんなことに……!)
計画は、失敗した。
エレナのお腹から放たれた謎の光。
そして、予想外に始まった出産。
それらによって、暗殺は未遂に終わったのだった。
* * *
### ◆二人の王女、誕生
王宮の廊下を、皇帝アレクが必死に駆けていた。
「エレナは!? エレナは無事なのか!?」
「陛下、どうか落ち着いてください!」
「落ち着いていられるものか! 妻と子どもが苦しんでいるのだぞ!」
普段は威厳に満ちた皇帝も、このときばかりは取り乱していた。
そして、ついに――。
「おぎゃああああっ!」
元気な産声が、王宮に響き渡った。
「お生まれになりました! エレナ様がお産みになったのは、元気な女の子です!」
「……女の子?」
アレクの目に、涙が浮かんだ。
「エレナ……よく頑張ってくれた……!」
彼が部屋に入ると、エレナは疲れ切った顔でありながら、幸せそうに微笑んでいた。
その腕の中には、小さな赤ちゃんがいる。
淡い金色の髪。
ふっくらした頬。
そして、どこか不思議な輝きを秘めた瞳。
その赤ちゃんこそ、神界から転生してきたリリアだった。
「陛下……この子を見てください」
エレナが優しく声をかける。
アレクは、震える手で赤ちゃんの小さな指に触れた。
「……なんてかわいいんだ」
リリアは目を開け、父親の顔を見つめた。
(ここが、にんげんかい……!)
リリアは心の中で叫んだ。
(このひとが、おとうしゃま! このひとがおかあしゃま!)
アレクは娘の小さな手を握りしめ、優しく微笑んだ。
「リリア……お前は、私たちの大切な宝物だ」
エレナも、涙を浮かべながらうなずいた。
「生まれてきてくれて、ありがとう……」
リリアは、二人に向かってにっこりと笑った。
その笑顔を見た瞬間、部屋の中に、ふわりと金色の光が舞った。
まるで、神界の神々が誕生を祝福しているかのようだった。
* * *
だが、その喜びも束の間。
「陛下! ヴィクトリア様も、女の子をご出産されました!」
侍従が駆け込んできた。
「何だと!?」
アレクは驚いて顔を上げた。
ヴィクトリアもまた、元気な女の子を出産したという。
王宮では、二人の王女の誕生に祝いの鐘が鳴り響いた。
第一夫人エレナの娘――リリア。
第二夫人ヴィクトリアの娘――アリア。
二人は、同じ日に生まれた王女となった。
アレクは二人の娘が生まれたことを喜び、王宮中に祝福を命じた。
「二人とも、私の大切な娘だ。健やかに育ち、幸せになってくれることを願おう」
エレナも、アリアの誕生を心から喜んでいた。
「アリア様も、どうか健やかにお育ちになりますように……」
彼女はまだ知らない。
第二夫人が、自分とお腹の子を暗殺しようとしていたことを。
そして、ヴィクトリアもまだ知らなかった。
自分が消そうとした赤ちゃんこそ、やがて王宮の運命を大きく変える存在になるということを。
* * *
### ◆小さな王女の胸の中
その夜。
リリアは柔らかな布に包まれ、ベビーベッドの中で眠っていた。
……ように見えた。
(ふわぁ……にんげんかい、ついたぁ……)
リリアは心の中であくびをした。
(おとうしゃま、おかあしゃま、やさしそう!)
そのとき、神界でゼノに言われた約束を思い出した。
(そうだ! リリ、おかあしゃまとおとうしゃまを、まもるんだった!)
小さな手を、ぎゅっと握る。
(わるいひとがきたら、リリがやっつける!)
そして、ふと隣の部屋に意識を向けた。
そこには、同じ日に生まれた小さな王女アリアが眠っていた。
(あっ、もうひとり、あかちゃんがいる!)
リリアは興味津々で目を輝かせた。
(いつか、いっしょにあそべるかなぁ?)
そのとき、ベビーベッドの陰から、ふわふわの毛玉が二匹、こっそり顔を出した。
「ポポにおまかせなのだ……!」
「しーっ! リリちゃん、今は赤ちゃんなんだから静かにしなきゃ〜!」
ポポとピピも、無事に人間界へやってきていたのだ。
リリアは二匹を見つけると、嬉しそうに笑った。
(これから、たのしくなりそう!)
こうして、神界最強のいたずらっ子は、王宮での新しい人生を始めた。
しかし、その誕生の裏では、すでに恐ろしい陰謀が動き始めていた。
そして、エレナのお腹を包んだ金色の光の秘密も、まだ誰にも分からない。
――二人の王女が、同じ日に生まれた。
それは偶然なのか。
それとも、神々が仕組んだ運命なのか。
答えを知る者は、まだいなかった。




