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第18話「皇帝陛下の疑念! 池の事件と第二夫人の秘密」

第18話「皇帝陛下の疑念! 池の事件と第二夫人の秘密」


◆◆◆皇帝陛下の疑念と、揺れ始めた第二夫人


王宮の朝。


大きな窓から差し込む柔らかな光の中、リリアはエレナの膝の上で積み木を並べていた。


「うー! こっちぃ!」


小さな手で積み木を重ね、三つ目を乗せようとした瞬間――。


ころんっ。


積み木の塔が崩れた。


「あうぅ……!」


リリアは頬をぷくっと膨らませた。


その隣では、ポポが積み木を頭に乗せて得意げに胸を張っている。


「ポポにおまかせなのだ! ポポなら、もっと高い塔を作れるのだ!」


「ぽぽ、だめぇ!」


リリアが小さな手を伸ばすと、ポポの頭の積み木がぽとんと落ちた。


「な、なぜなのだーっ!?」


「ピピもいっしょにやる〜! ポポ、あたまにのせちゃ、だめだよ〜!」


「ポポ流の高度な建築技術なのだ!」


ピピの呆れた声に、リリアはきゃっきゃっと笑った。


しかし、リリアの心の奥には、まだ消えない不安があった。


池に落ちた日のこと。


アリアと一緒に水の中へ落ちた、あの怖い瞬間。


そして、泣きそうな顔で何かを言いかけたアリアのこと。


(あうぅ……ありあ、かなちぃの……?)


リリアは積み木をぎゅっと握った。


(ありあ、だいじょぶ? また、いっちょにあしょびたいの……)


その頃、皇帝アレクは執務室で騎士団長から報告を受けていた。


「陛下。池の事件について、当日の状況を改めて確認いたしました」


「続けろ」


「侍女たちが駆けつけた際、二人の王女はすでに池の中に落ちていました。リリア王女はアリア王女を離さず、二人とも強く怯えていたとのことです」


アレクは眉を寄せた。


「二人とも、まだ幼い。遊んでいるうちに足を滑らせた可能性もあるだろう」


「はい。ただ、アリア王女は事件のあと、何かを話そうとしては口を閉ざす様子が見られたそうです」


「……何かを隠している、と?」


「断定はできません。しかし、偶然の事故だったのか、もう少し詳しく調べる必要があるかと」


アレクは椅子の背に身を預け、静かに考え込んだ。


リリアが池に落ちたと聞いたとき、胸が凍りつくような思いがした。


大切な娘が、ほんの少しの間に命の危険にさらされたのだ。


そして、アリアもまた、幼い子どもにすぎない。


「アリア王女を責めるような調査はするな。あの子も怖い思いをしたはずだ」


「承知いたしました」


「だが、何があったのかは知りたい。リリアもアリアも、二度とあのような目に遭わせるわけにはいかない」


アレクの声には、父親としての強い決意がこもっていた。


騎士団長が退出すると、アレクは窓の外へ目を向けた。


「……あの池で、本当は何があったのだ?」


誰もいない執務室に、その呟きだけが静かに響いた。


一方、王宮の別の一室では、ヴィクトリアが侍女から報告を受けていた。


「陛下が、池の事件について改めて調査を命じられたのですか?」


「はい。騎士団が当日の状況を確認しているようです」


ヴィクトリアの指先が、持っていた扇をぎゅっと握りしめた。


「……そう」


侍女が退室したあと、ヴィクトリアは笑顔を消した。


(まさか、アレク陛下がここまで調べるなんて……)


アリアには、事件について誰にも話してはいけないと何度も言い聞かせている。


あの子は素直だ。


自分の言いつけを守ろうとするだろう。


けれど、まだ幼い子どもだ。泣きながら、うっかり口を滑らせる可能性もある。


しかも、リリアはアリアの様子を気にかけている。


二人が仲良くなればなるほど、アリアが秘密を打ち明けてしまう危険は高くなる。


「……あの子が、余計なことを話さなければいいのよ」


ヴィクトリアは小さく呟いた。


そのとき、扉が静かに開いた。


入ってきたのは、皇帝アレクの弟、セドリックだった。


彼は部屋の外に人影がないことを確かめ、扉を閉めた。


「調査が始まったそうだな」


「ええ。陛下は、池の事件を簡単には済ませないおつもりよ」


ヴィクトリアは声を潜めた。


セドリックは険しい表情を浮かべた。


「アリアが何か話してしまえば、計画に影響が出る」


「分かっているわ。だから、あの子には何も話させない」


「だが、無理に黙らせれば、かえって不自然になる。アリアはまだ幼い。怯えさせすぎるな」


ヴィクトリアは一瞬、苛立ったように目を細めた。


「あなたに言われなくても分かっているわ」


二人の間に、冷たい沈黙が落ちた。


セドリックは声をさらに低くした。


「陛下が疑い始めれば、これまでのことまで調べ直されるかもしれない。そうなれば、厄介だ」


「だからこそ、何事もなかったように振る舞うのよ。私はアリアを心配する母親。あなたは姪を気遣う叔父。それだけよ」


「……分かっている」


二人は互いの目を見た。


この秘密を知る者は、今のところ限られている。


そして、二人とも理解していた。


リリアという存在が、自分たちの思惑にとって大きな障害になりつつあることを。


ヴィクトリアは窓の外を見つめた。


庭では、侍女たちが花壇の手入れをしている。


その向こうに、幼い王女たちが遊んでいた場所があった。


「今度こそ、余計なことが起こらないようにしなければ……」


その呟きは、誰にも聞かれることなく消えていった。




◆◆◆小さな王女の決意と、神界からの警告


その日の午後。


リリアはエレナに抱っこされながら、窓の外の庭を眺めていた。


庭の花壇には、色とりどりの花が咲いている。


風が吹くたび、花びらがふわりと揺れた。


「おはなぁ……!」


リリアは嬉しそうに手を伸ばした。


「そうね、リリア。きれいなお花ね」


エレナが微笑む。


「今度、アリアと一緒に見に行きましょうか」


その言葉に、リリアの顔がぱっと明るくなった。


「あー! ありあ!」


「ふふ。アリアと遊びたいのね」


「うん! あしょぶぅ!」


リリアはエレナの胸に頬を寄せた。


けれど、すぐに小さな眉を下げる。


「あうぅ……」


「どうしたの、リリア?」


「ありあ……かなちぃ?」


エレナは少し驚いたあと、娘の頭を優しく撫でた。


「アリアも、まだ怖い思いをしているのかもしれないわね。でも、きっと少しずつ元気になるわ」


「……ありあ、だいじょぶ?」


「ええ。あなたが心配していることは、きっと伝わるわ」


リリアは小さな手をぎゅっと握った。


(ありあ、こわいの、いやぁ……)


(リリ、ありあ、まもりゅの……!)


そのとき、窓辺に一羽の小鳥がとまった。


「チュン、チュン!」


リリアの耳には、小鳥の声が言葉として届く。


『リリアちゃん、こんにちは。今日はお庭が静かだね』


リリアはきょろきょろと周囲を見た。


エレナは侍女に声をかけるため、少し離れたところにいる。


人間に聞かれないと分かると、リリアは赤ちゃんらしい声で小鳥に話しかけた。


「ちゅんちゅん……ありあ、かなちぃ?」


小鳥は首を傾げた。


『アリアちゃんは、今日も少し元気がないみたい。でも、リリアちゃんからもらったお花を大事そうに持っていたよ』


「おはなぁ……?」


リリアは目を丸くした。


先日、アリアが送ってくれた小さな手作りの花。


リリアはそれを思い出し、胸の前で両手を合わせた。


「ありあ……しゅきぃ……」


『きっと、アリアちゃんもリリアちゃんが好きだよ』


「えへへ……!」


リリアは嬉しそうに笑った。


その様子を、テーブルの下に隠れていたポポとピピが見ていた。


「ポポも、リリアのことが大好きなのだ!」


「はいはい、ポポも大好きだよ〜」


「なぜ、そんなに軽い返事なのだ!?」


「だってポポ、さっきリリアのおやつを三つも食べたでしょ〜!」


「味見なのだ! 安全確認なのだ!」


リリアは二匹のやり取りに、きゃっきゃっと笑った。


「ぽぽ! ぴぴ!」


「ポポにおまかせなのだ!」


「ピピもいっしょにやる〜!」


二匹は胸を張った。


だが、リリアが笑っている間も、四柱の神々は神界から水晶鏡を通して王宮を見守っていた。


創造神ゼノは腕を組み、難しい顔をしている。


「皇帝も、ようやく池の事件を本格的に調べ始めたか」


知恵と魔法の女神アテナが頷いた。


「ええ。ただし、まだ決定的な証拠はありません。アリア王女が何を知っているのかも、はっきりしていません」


運命と予言の神オルフェは、水晶鏡に映るアリアの姿を見つめた。


「このまま秘密を抱え続ければ、あの子の心が苦しくなるでしょう」


生命と動物の女神フィオナは、悲しそうに目を伏せた。


「アリアはまだ小さな子どもよ。何が正しくて、何が危険なのか、十分に分からないのだもの」


ゼノは深く息を吐いた。


「リリアは、アリアを疑うどころか、守ろうとしている。あの子らしいと言えば、あの子らしいが……」


「だからこそ、心配なのです」


アテナは水晶鏡の中のリリアを見つめた。


「リリアは大切な友達を守るためなら、力を使おうとするでしょう。でも、人間たちに知られるわけにはいきません」


フィオナは優しく微笑んだ。


「それでも、リリアは少しずつ学んでいるわ。自分の力だけではなく、相手の気持ちも大切にしようとしている」


オルフェは静かに告げた。


「問題は、秘密を抱えている大人たちが、これから何をするかです」


四柱の神々の表情が引き締まった。


一方、王宮の別の場所では、アリアが自分の部屋の椅子に座っていた。


小さな手には、リリアに贈ったものと同じ花の絵が握られている。


「りりちゃん……」


アリアの目に涙が浮かんだ。


「いっちょに……あしょびたい……」


そこへヴィクトリアがやってきた。


「アリア、どうしたの?」


「ままぁ……りりちゃん……」


アリアは母親に抱きついた。


ヴィクトリアは娘を抱きしめながら、優しい声を作った。


「リリアとは、また遊べるわ。だから、あの池のことは誰にも話してはいけないわよ」


「……あうぅ」


「約束でしょう?」


アリアは不安そうに母親を見上げた。


「ないちょ……?」


「そう。秘密よ」


アリアは小さく頷いた。


「……うん……」


けれど、その目からは涙がこぼれ落ちた。


アリア自身にも、なぜ話してはいけないのか、よく分かっていなかった。


ただ、母親に言われたことを守らなければいけない。


そう思っているだけだった。


その夜。


リリアはエレナの腕の中で、眠る前のミルクを飲んでいた。


「ごく、ごく……」


飲み終えると、満足そうに笑う。


「まま、だいしゅきぃ……」


「私も大好きよ、リリア」


エレナは娘の額にキスをした。


リリアは安心したように目を閉じかけたが、ふと思い出したように小さく呟いた。


「あいあ……」


「アリアのこと?」


「うん……ありあ……だいしゅきぃ……」


エレナは優しく微笑んだ。


「ええ。アリアも、きっとあなたのことが大好きよ」


リリアは母親の胸に顔を埋めた。


(ありあ、ないちゃ、だめぇ……)


(リリ、いっちょに、あしょぶの……)


小さな胸に、友達を守りたいという気持ちが膨らんでいく。


けれど、そのために何をすればいいのか、今のリリアにはまだ分からなかった。


ただ、ひとつだけ決めていた。


アリアをひとりぼっちにはしない。


そして、池で何があったのかも、いつかきっと分かるはずだ。


その頃、王宮の奥深くでは、アレクが調査報告書に目を通していた。


まだ、事件の全貌は見えない。


しかし、アレクの疑念は確実に深まり始めていた。


「……真実を明らかにする。リリアもアリアも、必ず守る」


皇帝の静かな決意が、夜の執務室に響いた。


そして、誰も知らないところで、ヴィクトリアとセドリックの計画にも、少しずつ綻びが生じ始めていた。





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