第16話「池の事件の真相!? アリア姫の秘密とリリア姫の決意!」
第16話「池の事件の真相!? アリア姫の秘密とリリア姫の決意!」
「アリアちゃん、どうして……?」
池の事件から一夜が明けた、王宮の朝。
窓からやわらかな朝日が差し込む部屋で、リリアはエレナの腕の中に抱かれていた。
いつもなら、目を覚ますとすぐに「あー!」「あしょぶぅ!」と元気いっぱいに動き回るリリア。
けれど、今日は違った。
「……ままぁ」
リリアは小さな手で、エレナの服をぎゅっと握っていた。
「どうしたの、リリア。まだ怖いのね……」
エレナは娘を優しく抱きしめ、背中をとんとんと撫でた。
「だいじょうぶよ。もう池には行かなくていいの。お母様がずっとそばにいるわ」
「ままぁ……だいしゅきぃ……」
リリアはエレナの胸に顔をうずめた。
その様子を見ていたポポとピピも、いつもの調子を少しだけ控えていた。
「ポポ……リリちゃん、まだ怖いのだな」
「うん……あんなにびっくりしたんだもん。こわかったよねぇ……」
ピピはリリアのそばに寄り、小さな前足でそっと手に触れた。
「リリちゃん、もうだいじょうぶだよぉ。ピピもポポも、そばにいるからねぇ」
「ぽぽぉ……ぴぴぃ……」
リリアはふたりを見て、小さく頷いた。
けれど、その心の中には、まだ池に落ちたときの恐怖が残っていた。
そして、もうひとつ。
大好きなアリアのことが、気になっていた。
(あうぅ……アリアちゃん、だいじょぶかなぁ……)
(アリアちゃんも、ちゃぷーん、したの……)
(こわかったよねぇ……)
リリアは小さな眉をきゅっと寄せた。
自分を池に落とそうとしたのは、アリアだった。
それでも、アリアは大切な友達。
リリアには、アリアがどうしてあんなことをしたのか、わからなかった。
「……あーりあ……」
リリアがぽつりと名前を呼ぶ。
エレナは娘の頭を優しく撫でた。
「アリアちゃんのことが気になるのね。あの子も昨日はとても驚いていたわ」
「……あいちゃ……かなちぃ?」
「そうね。きっと、アリアちゃんも怖かったでしょうね」
エレナはそう答えたが、池で何があったのか、まだ詳しいことはわかっていなかった。
アリアは幼く、事件のことをうまく説明できていない。
侍女たちも、ふたりが池に落ちた瞬間を見ていなかった。
ただ、リリアとアリアが一緒に池へ落ち、助け出された。
今わかっているのは、それだけだった。
しかし――。
王宮の誰も知らないところで、事件の真相を知る存在がいた。
それは、空の彼方にある神界。
◆◆◆ 神界――四柱の神々が見たもの
黄金の神殿にある大広間。
そこには、創造神ゼノ、知恵と魔法の女神アテナ、運命と予言の神オルフェ、生命と動物の女神フィオナが集まっていた。
中央に浮かぶ神鏡には、昨日の池の様子が映し出されている。
アリアがリリアを池へ誘ったこと。
リリアが嫌がったこと。
そして、ふたりが一緒に池へ落ちてしまったこと。
四柱の神々は、その一部始終を見ていた。
「……やはり、あの子は誰かの言葉を信じていたようですね」
アテナが眉を寄せた。
「アリアは、リリアが喜ぶと思っていたように見えました。けれど、池に落ちることが危険だとは、きちんと理解していなかったのでしょう」
「うむ……」
ゼノは重々しく頷いた。
「だが、リリアが水の中で魔法を使おうとしたとき、侍女たちが来たことで、すぐに力を引っ込めた」
神鏡には、水の中で淡い金色の光が広がりかけた瞬間が映っていた。
その光は、侍女たちが駆けつけた直後、すっと消えていた。
「人間たちに力を知られないようにしたのですね……」
フィオナは胸に手を当てた。
「まだ小さな赤ちゃんなのに。怖かったでしょうに……」
「リリアは、約束を覚えているのだろう」
オルフェが静かに告げた。
「力を使えば、自分たちが助かる可能性は高かった。それでも、人間たちが来たと気づいた瞬間に魔法をやめた」
ゼノは神鏡の中のリリアを見つめた。
「……あの子は、守るべき秘密と、大切な人たちの両方を守ろうとしたのだな」
しばらく、誰も口を開かなかった。
やがて、アテナが神鏡に映るアリアを見た。
「ただし、アリアを悪い子だと決めつけることはできません。あの子はまだ幼い。誰かに教えられたことを、そのまま信じてしまった可能性があります」
「その誰かが誰なのか……」
オルフェの目が細くなった。
「今は、まだ確かなことはわかりません」
ゼノは頷いた。
「リリアの家族を守るためにも、慎重に見守ろう。何もわからぬまま、アリアを責めることはできん」
フィオナは小さく息を吐いた。
「リリちゃん……どうか、もう悲しい思いをしませんように」
神鏡の中では、リリアがエレナの胸に頬を寄せていた。
その小さな手は、まだ母親の服を離さなかった。
## アリアの部屋――小さな胸に残った秘密
そのころ、アリアも自分の部屋で目を覚ましていた。
「……ままぁ?」
ヴィクトリアは、ベッドのそばに座っていた。
「アリア、目が覚めたのね。大丈夫? どこか痛くない?」
「……いたく、ない……」
アリアは小さく首を振った。
けれど、その顔には不安が残っていた。
「ままぁ……リリちゃん……?」
「リリアちゃんは大丈夫よ。あなたも無事だったでしょう?」
「……うん……」
アリアは母親の胸に飛び込んだ。
「こわかったぁ……」
「そうね。怖かったわね」
ヴィクトリアは娘を抱きしめながら、周囲に人がいないことを確かめた。
そして、声をひそめた。
「アリア。昨日のお話、覚えている?」
アリアは母親の顔を見上げた。
「……おはなし?」
「リリアちゃんを池に連れていったことよ」
アリアの小さな肩が、ぴくりと動いた。
「……あいちゃ、いっしょ……ぽちゃん、したぁ……」
「ええ。ふたりとも池に落ちてしまったわね」
ヴィクトリアは娘の頬を撫でた。
「でも、アリア。あのお話は、誰にもしてはいけない秘密なのよ」
「……ひみちゅ?」
「そう。パパにも、侍女たちにも、リリアちゃんにも言ってはいけないの」
アリアは不思議そうに瞬きをした。
「……なんでぇ?」
その問いに、ヴィクトリアは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
けれど、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「みんなにお話ししたら、困ってしまうでしょう? だから、アリアとお母様だけの秘密にするの」
「……ひみちゅ……」
アリアは、意味をすべて理解しているわけではなかった。
ただ、母親がそう言うのだから、守らなければいけない。
幼いアリアは、そう信じていた。
「……ままぁ、アリア、いいこ?」
「ええ。いい子よ」
ヴィクトリアは娘を抱きしめた。
「とてもいい子。お母様のお話を、ちゃんと聞けるものね」
「……えへへぇ……」
アリアは少しだけ笑った。
けれど、その笑顔はすぐに消えた。
「……リリちゃん、ないてたぁ……」
ヴィクトリアの腕が、一瞬だけ強くなった。
「アリア?」
「リリちゃん……こわい、こわい、してたぁ……」
アリアは小さな手で目元をこすった。
「……アリアも、こわかったぁ……」
ヴィクトリアは娘の顔をじっと見つめた。
アリアは、母親の計画を理解していたわけではない。
ただ、リリアが喜ぶと聞かされて、その言葉を信じただけだった。
それでも、実際にリリアが泣いている姿を見たことは、幼いアリアの心に残っていた。
「もういいのよ。今はゆっくり休みなさい」
ヴィクトリアはアリアを寝かせ、毛布をかけた。
「お母様がついているからね」
「……ままぁ……」
アリアは母親の手を握り、目を閉じた。
その小さな手が眠りの中でも離れないのを見て、ヴィクトリアは静かに立ち上がった。
そして、扉の外へ出ると、笑みを消した。
(あの子が余計なことを話さなければ、まだ問題にはならない……)
(けれど、リリアは私の思いどおりにはならない子ね)
ヴィクトリアは廊下の奥を見つめた。
(あの子が何を感じ取ったのか、確かめる必要があるわ……)
◆◆◆ リリアの決意
その日の午後。
リリアは、少し落ち着きを取り戻していた。
エレナの膝の上で、柔らかい積み木を並べている。
ポポは積み木の横に座り、胸を張った。
「ポポにおまかせなのだ! 今日はリリちゃんを笑顔にする大作戦なのだ!」
「どんな大作戦なの?」
ピピが尋ねると、ポポは得意げに答えた。
「積み木をいっぱい積んで、王宮でいちばん高い塔を作るのだ!」
「それ、倒れたら大変だよぉ!」
「だいじょうぶなのだ! ポポは天才なのだ!」
そう言いながら、ポポが積み木を一つ置いた瞬間――。
ぐらぐら、ぐらぐら。
塔は傾き、ポポの頭の上に崩れ落ちた。
「ぽぽぉぉぉっ!? なぜなのだぁぁぁ!」
ピピは思わず吹き出した。
「ポポ、ぜんぜん天才じゃないよぉ!」
リリアも、くすくすと笑った。
「きゃはっ!」
「おおっ! リリちゃんが笑ったのだ!」
ポポは積み木を頭に乗せたまま、誇らしげに胸を張った。
「これぞポポの作戦成功なのだ!」
「たまたまだよぉ!」
いつもの賑やかなやりとり。
その声を聞きながら、エレナもほっとしたように微笑んだ。
けれど、リリアは積み木を一つ手に取ると、ふと動きを止めた。
「……あいちゃ……」
ポポとピピが顔を見合わせた。
「リリちゃん、アリアちゃんのことが気になるの?」
ピピが優しく尋ねる。
リリアはこくんと頷いた。
「……あいちゃ、しょぼん……?」
(あうぅ……アリアちゃん、どうちて、あんなこと、ちたのぉ……)
(でも、アリアちゃん、だいしゅきぃ……)
(いっしょに、えへへ、したいのぉ……)
リリアは積み木をぎゅっと抱きしめた。
怖かった。
悲しかった。
それでも、アリアを嫌いにはなれなかった。
アリアは、リリアにとって初めてできた、大切な同い年の友達だったから。
「リリちゃん……」
ピピがそっと寄り添った。
ポポも、今度はふざけずに頷いた。
「アリアちゃんが何を考えていたのか、ちゃんとわかるといいのだな」
リリアは小さな手を握りしめた。
「……あいちゃ……だいしゅきぃ……」
そして、もう一度、こくんと頷いた。
(リリ、アリアちゃんと、なかなおり、ちたいのぉ……)
(でも……ひみちゅ、なんでちゅかぁ……?)
リリアはまだ知らない。
アリアが母親から、誰にも話してはいけない秘密を教えられていたことを。
そして、その秘密の向こう側に、王宮を揺るがす大きな陰謀が隠れていることを――。
そのころ、庭の窓辺に一羽の小鳥がとまっていた。
小鳥は昨日の池の出来事を、すべて見ていた。
そして、小さく鳴くと、空へ向かって飛び立った。
まるで、誰かに真実を知らせようとするかのように。
◆◆◆「小鳥が見た真実! リリア姫、アリアちゃんを守る!」
池の事件から二日目の朝。
リリアは、エレナの膝の上で小さな絵本を眺めていた。
「おはなぁ……にゃんにゃん……」
ページに描かれた花や猫を指さして、楽しそうに声を上げる。
けれど、ふと窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえると、リリアは顔を上げた。
「……ぴぃ?」
窓辺に、一羽の小鳥がとまっていた。
小鳥は、リリアの姿を見つけると、羽をぱたぱたさせた。
『リリアちゃん、リリアちゃん! お話があるんだ!』
リリアはエレナの顔を見上げた。
「ままぁ、あっちぃ!」
「あら? お外の小鳥さんが気になるの?」
エレナは微笑みながら、リリアを窓辺へ連れていった。
「ほら、かわいい小鳥さんね」
「ぴぃぴぃ!」
リリアは嬉しそうに手を振った。
エレナが侍女に呼ばれて部屋を離れると、ポポとピピがそっと小鳥のそばに寄った。
「それで、何を見たのだ?」
ポポが小声で尋ねる。
『池の事件のことだよ。ぼく、あの日、庭の木にとまっていたんだ』
小鳥は、あの日の出来事を話し始めた。
アリアがリリアを池のそばへ連れていったこと。
リリアが嫌がっていたのに、アリアが近づいたこと。
そして、ふたりが一緒に池へ落ちてしまったこと。
リリアは小さな手を胸の前で握った。
「……あいちゃ……」
『でもね、アリアちゃんは、リリアちゃんが本当に喜ぶと思っていたみたいだったよ』
「……えっ?」
リリアは首をかしげた。
『アリアちゃん、悪いことをしているって、わかっていなかったように見えたんだ』
ポポは難しい顔をした。
「つまり、アリアちゃんは誰かに教えられたことを、そのまま信じていた可能性があるのだな」
ピピも心配そうに頷いた。
「でも、誰がそんなことを教えたんだろう……?」
小鳥は少し考え込んだ。
『そこまでは、ぼくにもわからないよ。でも、池のあと、アリアちゃんはとても怖がっていた。リリアちゃんが泣いていたことも、気にしていたみたいだった』
リリアはじっと小鳥を見つめた。
(あうぅ……アリアちゃん、わざと、いじわるしたんじゃ、ないのぉ……?)
(でも、どうちて、ぽちゃん、ちたのぉ……?)
リリアには、まだすべてがわからなかった。
それでも、アリアが怖い思いをしていたことは、少しだけわかった気がした。
「……あいちゃ……」
リリアは小鳥へ手を伸ばした。
「ありあとぉ……」
『どういたしまして!』
小鳥は嬉しそうに鳴くと、空へ飛び立った。
ポポは腕を組み、うんうんと頷いた。
「ポポの推理によれば、これは大事件なのだ!」
「ポポ、まだ何もわかってないでしょぉ!」
「な、なんと! 名探偵ポポの推理がぁ!」
ふたりのやりとりに、リリアは小さく笑った。
「きゃはっ!」
けれど、その笑顔の奥には、小さな決意が芽生え始めていた。
(リリ、アリアちゃんと、おはなし、ちたいのぉ……)
(アリアちゃん、かなちぃの、いやぁ……)
◆◆◆ アリアの部屋――言えない秘密
そのころ、アリアは自分の部屋で、ぬいぐるみを抱きしめていた。
「……リリちゃん……」
池に落ちたときのことを思い出すと、胸がきゅっと苦しくなる。
リリアが泣いていた顔。
自分も水の中で怖くなったこと。
そして、母親に言われた言葉。
『あのお話は、誰にもしてはいけない秘密なのよ』
アリアはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
「……ひみちゅ……」
そこへ、ヴィクトリアがやってきた。
「アリア、どうしたの? 元気がないわね」
「……ままぁ」
アリアは母親に抱きついた。
「リリちゃん……あいたい……」
ヴィクトリアの笑顔が、ほんの一瞬だけ固まった。
「リリアちゃんに会いたいの?」
「……うん。リリちゃん、しゅきぃ……」
アリアは素直に答えた。
「……いっしょに、あしょびたいのぉ……」
ヴィクトリアは娘の頭を撫でた。
「そうね。でも、今は少し待ちましょうね」
「……どうちてぇ?」
「リリアちゃんも、まだ驚いているでしょう? もう少ししたら、また会えるわ」
アリアは寂しそうに俯いた。
「……アリア、わるいこ?」
その問いに、ヴィクトリアは一瞬だけ黙った。
「そんなことはないわ。アリアはお母様の大切な子よ」
「……ほんとぉ?」
「ええ。だから、昨日のお話は秘密にしておくのよ。約束したでしょう?」
アリアは小さく頷いた。
「……ひみちゅ……」
ヴィクトリアは娘を抱きしめながら、心の中で考えた。
(アリアが余計なことを話さなければ、問題は大きくならない……)
(あの子はまだ幼い。秘密を守るように言い聞かせておけばいいわ)
しかし、ヴィクトリアは気づいていなかった。
アリアの心には、秘密を守ることへの不安と、リリアに会いたい気持ちが、少しずつ積み重なっていたことに。
そして、その小さな不安が、いつか真実へつながるかもしれないことにも――。
◆◆◆ リリア、アリアに会いに行く!
その日の午後。
リリアは、エレナと一緒に庭を散歩していた。
花壇には色とりどりの花が咲き、風が吹くたびに花びらが揺れている。
「おはなぁ!」
リリアは花を指さし、嬉しそうに声を上げた。
「きれぇねぇ」
「そうね。きれいなお花ね」
エレナが微笑む。
そのとき、リリアは庭の向こうに、アリアの姿を見つけた。
アリアもまた、侍女のクララと一緒に庭へ出てきたところだった。
「あ……!」
リリアは両手をいっぱいに伸ばした。
「あいちゃぁぁ!」
アリアもリリアに気づいた。
「……リリちゃん!」
ふたりは、それぞれの侍女に見守られながら、ゆっくりと近づいた。
「リリちゃん、しゅきぃ!」
「アリア、だいしゅきぃ!」
ふたりは小さな腕を伸ばし、ぎゅっと抱き合った。
エレナはほっとしたように微笑んだ。
「ふふっ。やっぱり、ふたりは仲良しね」
クララも頷いた。
「ええ。アリア様は、リリア様にお会いしたかったのでしょうね」
ふたりの大人は、池の事件のことをまだ詳しく知らない。
だからこそ、いつものように仲良くしているふたりの姿を見て、安心していた。
リリアはアリアの顔をじっと見つめた。
「……あいちゃ、こわい?」
アリアはきょとんとした。
「……こわい……?」
リリアは小さな手で、自分の胸をとんとんと叩いた。
「こわい、こわい……ないない?」
アリアは、池に落ちたときのことを思い出した。
「……こわかったぁ……」
そして、少しだけ目を伏せた。
「……リリちゃん、ごめ……」
そこまで言いかけたとき、ヴィクトリアに教えられた「秘密」が頭をよぎった。
アリアは言葉を止めた。
「……ううん……」
リリアは首をかしげた。
「……あいちゃ?」
アリアは何も言えなかった。
ただ、リリアの手をぎゅっと握った。
リリアは、その小さな手を握り返した。
「……いっしょ、あしょぼぉ?」
アリアは顔を上げた。
「……うん!」
その笑顔を見て、リリアもにっこり笑った。
「きゃはっ!」
けれど、リリアの心の中では、ひとつの思いが強くなっていた。
(アリアちゃん、なにか、こまってるのぉ……?)
(リリ、アリアちゃんのこと、まもりたいのぉ……)
◆◆◆ 天界――神々の見守り
神界では、四柱の神々が神鏡を通して、ふたりの様子を見守っていた。
「リリアは、アリアを責めようとはしていませんね」
アテナが静かに言った。
「むしろ、あの子のことを心配しているようです」
フィオナは胸に手を当てた。
「リリちゃんは本当に優しい子……。自分も怖い思いをしたのに、アリアちゃんのことを考えているのね」
「しかし、優しさだけでは解決できないこともある」
ゼノは厳しい表情を浮かべた。
「アリアが秘密を抱えたままなら、また何かが起きるかもしれん」
オルフェは神鏡に映るヴィクトリアの姿を見つめた。
「池の事件の背後には、まだ明らかになっていない事情があります。焦って動けば、真実を見失うでしょう」
「では、どうするのですか?」
アテナが尋ねる。
ゼノはゆっくりと答えた。
「リリアを見守る。あの子が自分の力で真実に近づこうとするなら、必要以上に邪魔はしない。ただし、命に関わる危険が迫ったときは別だ」
四柱の神々は、再び神鏡を見つめた。
そこには、手をつないで花を眺めるリリアとアリアが映っていた。
今はまだ、ふたりとも幼い。
母親の言葉を信じることしかできないアリア。
そして、大切な友達を守りたいと願うリリア。
その小さな友情の先に、どんな未来が待っているのか。
神々にも、まだわからなかった。
◆◆◆ 夜――小さな約束
その夜。
リリアはエレナの腕の中で、眠る前のミルクを飲んでいた。
「ごく、ごく……」
飲み終えると、満足そうに息を吐く。
「ぷはぁ!」
「ふふっ。おいしかった?」
「おいちぃ!」
エレナはリリアの口元を拭いて、額にキスをした。
「今日はアリアちゃんと遊べてよかったわね」
「……うん!」
リリアはにっこり笑った。
そして、少し考えるように目を伏せた。
「……ままぁ」
「なあに?」
「……あいちゃ、かなちぃ……?」
エレナは、娘の頭を優しく撫でた。
「どうしてそう思うの?」
リリアはうまく説明できなかった。
アリアが何かを言いかけて、やめたこと。
笑っているのに、どこか悲しそうだったこと。
その理由を、まだ知らない。
「……わかんにゃい……」
リリアは小さな手を握った。
「……でも、あいちゃ、だいしゅきぃ……」
エレナは優しく微笑んだ。
「そうね。大切なお友達だものね」
「……うん!」
リリアはエレナにぎゅっと抱きついた。
「まま、だいしゅきぃ!」
「お母様も、リリアが大好きよ」
やがてリリアは、安心したように目を閉じた。
ポポとピピはベッドのそばで、小さな声で話していた。
「リリちゃん、アリアちゃんのことを守ろうとしているのだな」
「うん。でも、アリアちゃんが秘密を抱えているなら、ちゃんと理由を知りたいねぇ」
ポポは少し考えてから、胸を張った。
「よし! 明日からポポも調査を始めるのだ!」
「ポポ、何を調査するの?」
「まずは、おやつの在庫なのだ!」
「それ、事件と関係ないよぉ!」
ピピの声に、リリアは眠りながら小さく笑った。
「……えへへぇ……」
窓の外では、一羽の小鳥が枝にとまっていた。
小鳥は王宮の灯りを見つめ、小さく鳴いた。
その鳴き声は、夜空へと消えていく。
池の事件の真相は、まだ明らかになっていない。
けれど、リリアは決めた。
大切な友達を、ひとりで悲しませない。
そして、もしアリアが何かに困っているのなら――。
今度こそ、助けてあげるのだと。
小さな姫の胸に芽生えた決意は、やがて王宮を揺るがす秘密へとつながっていく。
その秘密を握るヴィクトリアは、まだ自分の計画が崩れ始めていることに気づいていなかった。




