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第14話「皇帝陛下のお誕生日! 第二夫人の黒い策略とリリア姫の贈り物」

第十四話「皇帝陛下のお誕生日! 第二夫人の黒い策略とリリア姫の贈り物」


### パパのお誕生日! リリア姫のひみちゅの贈り物


王宮に、朝から華やかな音楽が響いていた。


今日は、皇帝アレクの誕生日。


大広間には美しい花が飾られ、料理人たちは腕によりをかけた料理を用意している。貴族たちも次々と王宮を訪れ、皇帝の誕生日を祝うための準備が進められていた。


そんな華やかな王宮の一室では、小さな姫君が一生懸命に手を動かしていた。


「うー! あー!」


リリアは、机の上に並べた色とりどりの紙やリボンを前に、真剣な顔をしている。


今日の主役は、大好きなパパ。


だから、リリアもパパに贈り物を作りたいのだ。


「リリちゃん、なにを作っているのだ?」


ポポが机の端からのぞき込む。


「ぱぱ! あー!」


「なるほど! アレク陛下への贈り物なのだな! ポポにおまかせなのだ!」


ポポは自信満々に胸を張った。


「ポポ、なにするのぉ?」


ピピが首をかしげる。


「贈り物作りに決まっているのだ! まずは、このお菓子を食べて――」


「それ、ポポが食べたいだけでしょ〜!」


「ち、違うのだ! 味見なのだ!」


ポポが手を伸ばした瞬間、リリアは小さな手でお菓子の皿を自分のほうへ引き寄せた。


「あーっ!」


「な、なぜなのだ!?」


「ぽぽ、めっ!」


リリアがぷくっと頬をふくらませる。


「うぐっ……! リリちゃんに怒られたのだ……」


ピピはくすくす笑いながら、リリアの前に小さな木の板を置いた。


「リリちゃん、これにお絵かきしよ〜!」


リリアは色鉛筆を握ると、板の上に一生懸命、線を描き始めた。


ぐるぐる。


ぴょんぴょん。


最後に、真ん中へ大きな丸をひとつ。


リリアなりに描いたのは、パパとママと自分が手をつないでいる絵だった。


もちろん、本人以外には、丸と線が並んでいるようにしか見えない。


けれど、リリアは満足そうに両手をぱちぱちと叩いた。


「あいっ! ぱぱ!」


「おおっ! これは家族の絵なのだな!」


「ほんとにわかるの〜?」


「も、もちろん! ポポは賢いのだ!」


「さっきまで、お菓子しか見てなかったのに〜!」


「ピピ、余計なことを言うでない!」


リリアは二匹のやり取りを聞きながら、にこにこと笑った。


そして、絵の端に小さなリボンを結びつける。


その瞬間、リボンがふわりと浮き上がり、ちょうどよい位置に結ばれた。


リリアがこっそり魔法を使ったのだ。


もちろん、人間たちには気づかれていない。


「できちゃぁ!」


リリアは完成した贈り物を胸に抱きしめた。


(ぱぱ、よろこんでくれりゅかなぁ……?)


パパが笑ってくれたら、リリアもうれしい。


それだけで、今日という日は最高の日になるはずだった。


――しかし。


王宮の外では、すでに恐ろしい計画が動き始めていた。


### 第二夫人の策略――誕生日に仕掛けられた罠


王宮の奥にある一室。


第二夫人ヴィクトリアは、窓の外を眺めながら、静かに微笑んでいた。


そのそばには、皇帝の弟セドリックが立っている。


「準備は整ったのか?」


セドリックが低い声で尋ねる。


「ええ。盗賊たちは、もう町へ向かっているわ」


ヴィクトリアは、まるで何でもないことのように答えた。


今回の計画は単純だった。


皇帝の誕生日に合わせて、町で騒ぎを起こす。


商店を襲わせ、食料を奪わせ、住民たちを恐怖に陥れる。


そして、その混乱の最中に、皇帝が王宮で盛大な誕生日の宴を開いているという噂を広めるのだ。


「町の人々が困っているときに、陛下は自分の誕生日を祝っている……。そう思わせるのね」


「その通りよ」


ヴィクトリアは扇子を広げ、口元を隠した。


「陛下がすぐに救援を命じたとしても、最初に広まった噂は簡単には消えないわ。『町が襲われているのに、皇帝は宴を楽しんでいた』とね」


「民の信頼が揺らげば、陛下の統治責任が問われる。王宮の中にも、不満を抱く者が出てくるだろう」


「そうなれば、リリア姫の立場も少しずつ弱くなるわ」


ヴィクトリアの笑みが深くなった。


リリアは皇帝と第一夫人エレナの一人娘。


皇位継承の筆頭であり、皇帝からも家族からも深く愛されている。


その存在が、ヴィクトリアにとっては目障りだった。


「もちろん、アリアには何も知らせていないわ。あの子は、何も知らずにリリア姫と遊んでいればいいの」


アリアはヴィクトリアとセドリックの陰謀など知らない、無邪気な赤ちゃんだ。


母の計画に関わらせるつもりはなかった。


セドリックは窓の外へ視線を向けた。


「失敗は許されないぞ」


「わかっているわ」


ヴィクトリアは静かに答えた。


「今回は、陛下ご自身の責任を問わせるのよ。誰か一人の失敗で終わるような計画ではないわ」


そのころ、町へ向かう道では、盗賊たちが武器を手に進んでいた。


彼らはすでに金を受け取り、指定された時刻に襲撃を始めるよう命じられていた。


ただし、彼ら自身も依頼主の正体を知らない。


ヴィクトリアは、自分へつながる証拠を残さないよう、細心の注意を払っていた。


### 町を襲う盗賊たち――平和な町を襲った悲劇


皇都の町は、いつもと変わらない朝を迎えていた。


果物屋の店先には、赤いリンゴや黄色い梨が並んでいる。


パン屋からは焼きたてのパンの香りが漂い、広場では住民たちが楽しそうに話していた。


「今日は陛下のお誕生日だってねえ」


「王宮では盛大な宴があるらしいよ」


そんな会話が交わされていた、そのときだった。


「おい! そこをどけ!」


怒鳴り声とともに、武装した盗賊たちが通りへなだれ込んできた。


「きゃあああっ!」


住民たちの悲鳴が上がる。


盗賊たちは店先の商品を乱暴に奪い、抵抗する店主を突き飛ばした。


果物屋の台が倒れ、リンゴや梨が石畳の上を転がっていく。


踏みつけられた果物はつぶれ、甘い果汁が地面に広がった。


「や、やめてくれ! それは商売道具なんだ!」


果物屋の店主が必死に訴える。


しかし、盗賊の一人は店主の胸を乱暴に押した。


「うるせえ!」


店主は背後の木箱にぶつかり、苦しそうにうずくまった。


「おじさん!」


近くにいた少年が駆け寄ろうとする。


「来るな! 逃げろ!」


店主は痛みに顔をしかめながらも、少年を遠ざけようとした。


そのすぐ隣では、パン屋の棚が蹴り倒されていた。


焼きたてのパンが床へ散らばり、袋に入った小麦粉が破れて白い粉をまき散らす。


盗賊たちはパンを袋に詰め、残ったものを乱暴に踏みつけた。


「やめてください! 明日の分まであるんです!」


パン屋の主人が止めようとするが、盗賊に肩を突かれ、壁にぶつかった。


店の窓ガラスが割れ、破片が床に散った。


悲鳴を聞きつけた住民たちは、家の中へ逃げ込んだ。


通りに並んでいた露店は次々と倒され、布地や食器が踏み荒らされていく。


小さな子どもが母親とはぐれ、泣きながら人混みをさまよった。


「ままぁ! ままぁ!」


「どこなの!? 誰か、うちの子を見なかったかい!?」


母親は必死に子どもの名前を呼びながら、人々の間を探し回る。


その声を聞いた近くの女性が、子どもを安全な建物の中へ連れていこうとした。


だが、別の通りからも盗賊が現れ、住民たちの逃げ道をふさいでしまう。


町の混乱は、さらに大きくなっていった。


そして盗賊たちは、町の共同食料倉庫にも押し入った。


そこには、住民たちへ配るための穀物や豆、保存食が保管されていた。


倉庫番の老人が、入口に立ちはだかる。


「待て! ここにあるのは、町のみんなの食料だ!」


「邪魔だ!」


盗賊の一人が老人を突き飛ばした。


老人は床に倒れ、痛みにうめいた。


盗賊たちは倉庫の扉を壊し、袋を次々と運び出していく。


袋が破れ、穀物が床にこぼれた。


逃げる盗賊たちは、それを踏みつけながら走り去る。


大切な食料が、土とほこりにまみれていった。


「そんな……。これじゃ、みんなに配る分が……」


倉庫番の老人は、震える手で床の穀物を拾おうとした。


だが、痛めた身体は思うように動かなかった。


町のあちこちで、けが人が出ていた。


倒れた露店の下敷きになった男性。


割れた窓の近くで腕を切った女性。


盗賊に押されて転んだ老人。


助けを求める声が重なり、救護所には次々と人が運び込まれていく。


「こちらにけが人を!」


「子どもが一人、まだ見つかっていません!」


「食料倉庫が襲われた! 倉庫の中も確認してくれ!」


町の人々は必死に助け合っていた。


しかし、被害は大きかった。


壊された店先。


散乱した食料。


泣き続ける子どもたち。


そして、いつもなら穏やかな笑い声が響く通りを包み込む、不安と恐怖。


そこへ、誰かが叫んだ。


「今日は陛下のお誕生日だろう!?」


別の住民が、怒りをにじませて答える。


「王宮では、今ごろ盛大な宴を開いているんじゃないのか!?」


「こっちはこんな目に遭っているのに!?」


その言葉に、周囲の人々が顔を見合わせた。


もちろん、この時点では、皇帝が襲撃の報告を受けているかどうかさえ、町の人々にはわからない。


だが、誰かが口にした疑念は、瞬く間に広がっていった。


「陛下は町のことなど気にしていないのかもしれない」


「自分の誕生日のほうが大事なんだろう」


「私たちが苦しんでいても、王宮ではごちそうを食べて笑っているのか……」


それは、確かな情報ではなかった。


けれど、家族がけがをし、店が壊され、明日の食料さえ失った人々にとって、その噂は不安と怒りを膨らませるものだった。


盗賊たちは混乱に乗じて逃走した。


そして町には、壊れた店と傷ついた人々、失われた食料、そして皇帝への疑念が残された。


### 王宮に届いた緊急報告――皇帝の決断


そのころ、王宮では誕生日の宴に向けた準備が進んでいた。


アレクは、貴族たちを迎える前に、側近から今日の予定を確認していた。


そこへ、扉が勢いよく開く。


「陛下! 緊急のご報告です!」


駆け込んできた騎士の顔は青ざめていた。


「皇都の町で盗賊の集団が暴れております! 商店が襲われ、共同食料倉庫にも侵入されたとのことです! 負傷者も多数出ております!」


アレクの表情が一変した。


「何だと……!」


「現在、町は大混乱に陥っております。さらに、陛下が誕生日の宴を優先し、町を顧みていないという噂まで広がり始めているそうです」


一瞬、室内が静まり返った。


アレクは怒りを押し殺すように、深く息を吸った。


町の人々が傷ついている。


店を失った者も、食料を奪われた者もいる。


そのうえ、皇帝が自分たちを見捨てたと思い始めているという。


「騎士団を直ちに派遣しろ!」


アレクは迷わず命じた。


「まず住民の安全を確保すること。負傷者の救護を最優先とし、医師と治療薬を現地へ送れ。壊された食料倉庫の確認も急げ。食料が不足するようなら、王宮の備蓄から必要な分を回せ!」


「はっ!」


「逃走した盗賊の追跡も行え。ただし、住民の救助を妨げるな。捕らえた者は尋問し、襲撃の背後に誰がいるのか調べるのだ!」


騎士たちは一斉に動き出した。


アレクは誕生日の宴の予定表へ目を落とした。


今日は自分の誕生日だ。


だが、そんなことは今、何の意味もなかった。


「宴の開始を遅らせる。必要なら中止しても構わん。町の状況を確認するまで、祝宴どころではない」


側近が深く頭を下げる。


「陛下、ご英断でございます」


「英断などではない。皇帝として当然のことだ」


アレクは厳しい声で言った。


「民が苦しんでいるときに、私だけが何事もなかったかのように祝っていられるものか」


その言葉を、扉の外にいた者が聞いていた。


しかし、町ではすでに噂が広がっている。


騎士団が派遣されたことも、救護所へ医師が送られることも、まだ十分には伝わっていなかった。


最初に広がったのは、皇帝が宴を開いているという話だった。


そして、その噂を広めることこそ、ヴィクトリアの狙いだった。


### 第二夫人の笑みと、小さな姫の決意


ヴィクトリアの部屋には、町の騒ぎについての報告が届いていた。


「計画どおり、盗賊たちは町を襲いました。商店や食料倉庫にも被害が出ているようです」


報告を聞いたヴィクトリアは、悲しげに眉を寄せた。


「まあ……なんて恐ろしいことでしょう」


声だけを聞けば、町の人々を心から心配しているようだった。


「陛下は、さぞお心を痛めていらっしゃるでしょうね」


そう言いながら、彼女は扇子の陰で口元を隠した。


――もう、噂は広がり始めている。


町の人々が怒りを募らせれば、皇帝の信頼は揺らぐ。


たとえアレクが救援を命じても、最初に抱いた疑念を完全に消すことは難しいだろう。


「陛下がどれほど立派な命令を出しても、民の心までは簡単に戻らないわ」


ヴィクトリアは、誰にも聞こえない声でつぶやいた。


そのころ、別の部屋では、リリアが完成した贈り物を抱えていた。


「あー! ぱぱ!」


「リリちゃん、パパに見せるのは、もう少しあとにするのだ!」


ポポが得意げに言う。


「そうそう! お誕生日のお楽しみだよ〜!」


ピピも笑った。


リリアは、贈り物をぎゅっと抱きしめる。


(ぱぱ、よろこんでくれりゅ?)


そのとき、廊下の向こうから、慌ただしい足音が聞こえてきた。


侍女たちが小声で話している。


「町で大変なことが起きたそうよ」


「盗賊が出て、けが人もたくさんいるんですって……」


リリアは、ぴたりと動きを止めた。


「う……?」


小さな胸が、きゅっと締めつけられる。


町の人たちが泣いている。


けがをしている人がいる。


ごはんを食べられなくなる人もいるかもしれない。


リリアには、まだ難しい事情はわからない。


けれど、悲しいことが起きているのはわかった。


(みんな……いたい、いたい?)


リリアは贈り物を抱えたまま、窓の外を見つめた。


「りりちゃん……?」


ピピが心配そうに顔をのぞき込む。


リリアは、ぎゅっと小さな手を握った。


「……あうぅ」


そして、いつもより少しだけ真剣な顔でつぶやく。


「みんな……だいじょぶ?」


ポポとピピは顔を見合わせた。


リリアは、パパを喜ばせたい。


でも、それ以上に、悲しんでいる人たちを放っておきたくなかった。


人間たちには秘密にしなければならない力がある。


それでも、その力で誰かを助けられるのなら――。


(リリ……おてちゅだい、ちたい)


リリアは小さな手で贈り物をそっと置いた。


誕生日の王宮に、町を救うための動きが広がっていく。


そして、誰も知らないところで、小さな姫君もまた、動き始めようとしていた。


一方、ヴィクトリアは窓辺に立ち、遠くの町を見つめていた。


「さあ、陛下……あなたは民の信頼を守りきれるかしら?」


その微笑みの奥にある黒い企みを、まだ誰も知らない。


### お誕生日の宴よりも、大切なこと


王宮の中は、いつもとは違う緊張に包まれていた。


皇帝アレクの命令を受け、騎士団や医師たちが次々と町へ向かっている。王宮の備蓄庫からは、住民へ配るための食料も運び出され始めていた。


アレクは出発する騎士たちを見送りながら、厳しい表情で指示を出していた。


「負傷者を最優先に救助しろ。家を失った者には、今夜休める場所を確保するのだ。食料を奪われた家庭にも、必ず支援を届けよ」


「はっ、陛下!」


「それから、町の者たちに伝えてくれ。私は町を見捨ててなどいない。必要な支援は惜しまないとな」


「承知いたしました!」


騎士たちは一礼し、馬に乗って町へ向かった。


アレクは、華やかに飾られた大広間を振り返った。


そこには、誕生日の宴のために用意された料理や花々が並んでいる。


けれど、今の彼には、それらがひどく場違いなものに思えた。


「陛下、貴族の皆様がお待ちでございます。宴をどうなさいますか?」


側近が尋ねる。


アレクは少し考えたあと、静かに答えた。


「予定していた宴は中止する。町の復旧と救援を優先するのだ」


「かしこまりました」


「祝ってくれる気持ちはありがたい。だが、民が苦しんでいるときに、私だけが笑っているわけにはいかない」


その言葉に、側近は深く頭を下げた。


アレクは皇帝として、何を優先すべきかを迷っていなかった。


しかし、町に広がった噂が、すぐに消えるわけではない。


救援に向かう騎士たちの姿を見て、安堵する者もいた。


一方で、家族がけがをした住民や、店を壊された商人たちの怒りは大きかった。


「今になって助けに来たって、壊れた店は戻らない!」


「陛下は本当に、私たちの暮らしを知っているのだろうか……」


悲しみと不安が入り混じった声が、町のあちこちで聞こえていた。


アレクはその報告を受けても、住民たちを責めなかった。


「当然だ。大切なものを失ったばかりなのだからな」


彼は拳を握りしめた。


「まずは、一人でも多くの者を助ける。それが先だ」


### 町へ行きたいリリア姫


そのころ、リリアは部屋の中で、ポポとピピに囲まれていた。


机の上には、パパのために作った贈り物が置かれている。


「ぱぱ……?」


リリアは廊下のほうを見つめた。


いつもなら、誕生日にはパパがにこにこしながら会いに来てくれるはずだった。


でも今日は、忙しそうな足音ばかりが聞こえてくる。


「陛下は町の救援に向けて、いろいろ指示を出しているみたいだよ〜」


ピピが小さな声で説明した。


「町のみんな、大変なのだ。食べ物もなくなった人がいるらしいのだ」


ポポも、いつになく真剣な顔をしている。


リリアは二匹を見上げた。


「みんな……ないない?」


「そうなのだ。食べ物を盗まれたり、お店を壊されたりした人がいるのだ」


「いたい、いたい……?」


「けがをした人もいるみたいだよ」


リリアの顔が、しゅんと曇った。


(みんな、かなちぃの……?)


リリアは自分の贈り物を見つめた。


パパに喜んでほしくて、一生懸命に作ったもの。


でも、町には泣いている人がいる。


ごはんがなくて困っている人もいる。


リリアは小さな手を、ぎゅっと握った。


「あうぅ……」


「リリちゃん?」


ピピがそっと近づく。


リリアは窓の外を指さした。


「まち……いくぅ」


「えっ!? 町に行きたいのだ!?」


ポポが目を丸くした。


「でも、今は危ないかもしれないよ〜。盗賊がまだ捕まっていないんだから」


リリアは、ぷくっと頬をふくらませた。


「たしゅけりゅ……!」


その言葉を聞き、ポポとピピは顔を見合わせた。


リリアはまだ小さな赤ちゃんだ。


人間たちの前で、大きな魔法を使うわけにはいかない。


それに、両親を心配させることもできない。


けれど、リリアには、リリアにしかできないことがある。


「わかったのだ。ポポたちも一緒に考えるのだ!」


「でも、こっそりだよ〜。人間さんたちに不思議な力を見られたら、困っちゃうからね」


「う!」


リリアは元気よくうなずいた。


もっとも、そのうなずきが「わかった」の意味なのか、「早く行こう」の意味なのかは、二匹にもよくわからなかった。


### 3.小さな姫の、ひみちゅのお手伝い


しばらくして、侍女のミレが部屋へ戻ってきた。


「リリア様、陛下は大変お忙しいご様子です。少しの間、こちらでお待ちくださいね」


「うー……」


リリアはいい子にしているように見せながら、ミレの顔をじっと見つめた。


ミレが荷物を整えている間に、リリアはポポとピピへ小さく目配せをする。


二匹はこっそりうなずいた。


ミレが別の部屋へ向かった、そのとき。


窓辺にいた小鳥が、ちゅんちゅんと鳴いた。


リリアは小さな声で呼びかける。


「ちゅんちゅん……おいでぇ」


小鳥は窓の近くへ降りてきた。


人間には、ただ赤ちゃんが鳥を眺めているようにしか見えない。


けれど、リリアには小鳥の言葉がわかった。


町には、まだ助けを必要としている人がいる。


崩れた荷物のそばで動けなくなった人。


逃げる途中ではぐれた子ども。


食料倉庫の裏手で、倒れた棚に道をふさがれた人。


小鳥は、見てきたことをリリアに伝えた。


(あうぅ……こまっちゃったぁ)


リリアの目が、きゅっと細くなる。


「たしゅけりゅ……」


リリアはそっと手を伸ばした。


その指先から、ごく淡い光がこぼれる。


光は小鳥の羽に触れると、すぐに消えた。


そして、小鳥は再び空へ飛び立った。


リリアが頼んだのは、騎士たちの近くへ飛んで、助けを必要としている場所を知らせること。


もちろん、人間たちは小鳥が自然に鳴いているとしか思わない。


小鳥は町へ向かい、騎士たちの目の前で何度も鳴いた。


その鳴き声に気づいた騎士が、指さされたように見えた方向へ進んでいく。


「こちらに人がいるぞ!」


倒れた棚の陰から、負傷した男性が救出された。


「子どもがいた! 無事だ!」


建物の裏に隠れていた子どもも、騎士たちに保護された。


食料倉庫では、倒れた荷物の下敷きになりかけていた倉庫番の老人が助け出された。


「よかった……。本当に、よかった……」


老人は涙を浮かべ、騎士たちに何度も礼を言った。


リリアは王宮の窓辺で、その知らせを聞きながら、ほっと胸をなで下ろした。


「よかったぁ……」


ポポは胸を張った。


「さすがリリちゃん! 動物たちの力を借りれば、町の人々を助けられるのだ!」


「ポポも何かしたの〜?」


「もちろん! ポポは作戦を考えたのだ!」


「さっきから、ここでお菓子食べてただけじゃな〜い!」


「そ、それも大事な作戦の一部なのだ!」


リリアは二匹の言い合いに、くすっと笑った。


けれど、まだ安心はできない。


壊れた店は元に戻っていない。


奪われた食料も、すべて見つかったわけではない。


リリアは窓の外を見つめ、小さな手をぎゅっと握った。


(みんな、はやく、にこにこになぁれ……)


リリアは目立たないように、ごく小さな魔法を使った。


倒れかけた木箱が、風に押されたように安全な場所へ移る。


道をふさいでいた布が、そよ風に持ち上げられて端へ寄る。


散らばった小さな果物が、ころころと一か所へ集まる。


どれも、人間たちが偶然や風のせいだと思える程度のことだった。


リリアは誰にも知られないように、そっと町を助けていた。


娘を抱き上げた。



「ただいま。待たせてすまなかったな」


「ぱぱぁ! だいしゅきぃ!」


「私も大好きだよ、リリア」


アレクはリリアを抱きしめた。


そのとき、リリアは机の上を指さした。


「あっ! ぱぱ!」


「ん? あれは何かな?」


リリアは贈り物を両手で持ち上げようとした。


しかし、小さな手ではうまく持てず、木の板が少し傾いてしまう。


「あうぅ!」


「おっと、手伝おう」


アレクは片手でリリアを支えながら、もう片方の手で贈り物を受け取った。


そこには、色とりどりの線と丸が描かれていた。


端には小さなリボンが結ばれている。


「これは……私への贈り物なのか?」


「う! ぱぱ!」


リリアは満面の笑みを浮かべた。


アレクは絵をじっと見つめた。


何が描かれているのか、細かいところまではわからない。


けれど、娘が一生懸命に作ってくれたことは伝わってきた。


「ありがとう、リリア。これは大切な宝物だ」


「ぱぱ、にこにこぉ!」


「そうだな。パパはとてもうれしいよ」


アレクは笑顔を見せた。


リリアも、うれしそうに手をぱちぱちと叩く。


その様子を見て、ポポは鼻を高くした。


「ふふん! ポポの作戦が大成功なのだ!」


「ポポはお菓子を食べてただけでしょ〜!」


「なにを言うのだ! 精神的な支援なのだ!」


「ぽぽ、めっ!」


リリアに叱られ、ポポはしゅんとうなだれた。


アレクは思わず笑った。


今日という日は、町に大きな傷を残した。


皇帝として、果たさなければならない責任もある。


失われた信頼を取り戻すには、これから長い時間が必要になるかもしれない。


それでも、町の人々を助けることを諦めるつもりはなかった。


そして、腕の中には、自分をまっすぐに愛してくれる小さな娘がいる。


「リリア。パパは、これからもみんなを守るために頑張るよ」


「ぱぱ……?」


「だから、リリアも元気に大きくなるんだぞ」


「うんっ!」


リリアは、まだ幼い声で返事をした。


(ぱぱ、だいしゅきぃ……。みんなも、にこにこになぁれ……)


小さな姫君の願いは、誰にも知られないまま、静かに広がっていった。


###第二夫人の誤算


夜。


ヴィクトリアは、町から届いた報告書を読んでいた。


負傷者の救助は進んでいる。


皇帝は町へ赴き、住民たちと直接話をした。


食料の支援や、商店への補償も検討され始めている。


ヴィクトリアは報告書を机へ置いた。


「陛下は、思った以上に早く動いたわね……」


計画によって、皇帝への疑念を広げることはできた。


だが、アレクは民を見捨てなかった。


それどころか、被害を受けた住民たちの声を聞き、自ら責任を果たそうとしている。


「それでも、最初の噂は消えないわ」


ヴィクトリアは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


「町の人々が、すぐに陛下を信じ直すとは限らないもの」


しかし、彼女の心には、別の不安も生まれていた。


盗賊たちは本当に、依頼主の名を明かさずにいられるのだろうか。


逃走した者が捕まれば、金の流れをたどられるかもしれない。


そして、今回の襲撃に何か不自然な点があったと、皇帝が気づき始めている。


ヴィクトリアは窓の外を見つめた。


「まだ終わっていないわ……」


その声には、先ほどまでの余裕はなかった。


一方、リリアはパパの胸に抱かれ、うとうとしていた。


机の上には、リリアが作った小さな贈り物が大切に置かれている。


アレクは眠りかけた娘の額に、そっと口づけた。


「ありがとう、リリア。最高の誕生日になったよ」


リリアは目を閉じたまま、かすかに笑った。


「ぱぱ……しゅきぃ……」


王宮の外では、町の復旧が始まっていた。


壊れた店も、失われた食料も、すぐには元に戻らない。


皇帝への信頼もまた、これからの行動によって取り戻していかなければならない。


そして、今回の襲撃を仕組んだ者の正体は、まだ闇の中に隠されていた。


ただひとつ確かなことがある。


小さなリリアは、これからも大切な家族と、悲しんでいる人々を守ろうとしている。


その小さな手が、やがて王国の運命を大きく動かすことになるとは――まだ、誰も知らなかった。




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