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第112話 皇帝夫妻失踪! 崩壊へ向かう帝国とリリアの決意

第112話 皇帝夫妻失踪! 崩壊へ向かう帝国とリリアの決意


◆◆◆宮殿に届いた最悪の報告


アレクとエレナが黒い霧に包まれ、姿を消した直後。


宮殿へ向かっていた護衛たちは、馬を急がせていた。


「急げ! 一刻も早く陛下に関する報告を届けるんだ!」


「陛下とエレナ様が行方不明になったなど……いったい、誰がこんなことを!」


護衛たちの顔には、焦りと恐怖が浮かんでいた。


やがて宮殿に到着すると、彼らは息を切らしながら謁見の間へ駆け込んだ。


「ご報告申し上げます!」


騎士団長と魔術兵士隊長たちが、すぐに振り返る。


「何事だ。陛下はどうされた?」


護衛は震える声で答えた。


「アレク陛下とエレナ様が……行方不明になられました!」


「何だと!?」


その場にいた兵士たちが、一斉に息をのんだ。


「陛下とエレナ様が行方不明だと……?」


「いったい、何が起きたんだ!」


護衛は必死に説明を続けた。


「陛下とエレナ様が町にいらしたところ、突然、周囲が黒い霧に包まれました。そして、霧が晴れたときには、お二人のお姿がどこにもなかったのです!」


「周囲をくまなく捜しましたが、手がかりは見つかりませんでした!」


謁見の間は、騒然となった。


皇帝と皇后が同時に姿を消した。


それは、単なる失踪事件ではない。


敵に連れ去られたのなら、帝国の指導者を失ったことになる。


国を守る中心が奪われたのだ。


兵士たちの胸に、言いようのない不安が広がった。


「そんな……陛下がいなくなったら、この国はどうなるんだ……」


「エレナ様まで……!」


「まさか、ヴェルザーク帝国の仕業なのか?」


誰もが動揺し、すぐには次の行動を決められなかった。


そのとき――。


「黙れ!!」


騎士団長の怒声が、謁見の間に響き渡った。


兵士たちは一斉に口を閉じた。


騎士団長は、強く拳を握り締めていた。


「陛下とエレナ様がどこかで助けを待っておられるかもしれない! 我々がここで取り乱してどうする!」


続いて、魔術兵士隊長も前に出た。


「何としてでも陛下たちをお救いする! 全兵士に捜索を命じろ! 黒い霧の痕跡も、邪悪な魔力の残りも、見逃すな!」


「はっ!」


兵士たちは、すぐに動き始めた。


騎士団長は、さらに強い声で命じた。


「どんなことがあっても、陛下とエレナ様をお救いしろ! これは帝国の存亡に関わる事態だ!」


「おおっ!」


兵士たちの返事が、宮殿中に響いた。


しかし、誰もが分かっていた。


皇帝夫妻を失った今、この国は崩壊の危機に立たされている。


それでも、彼らは諦めるわけにはいかなかった。


◆◆◆魔術封じの牢獄での尋問


そのころ、宮殿の地下深く。


魔術封じの牢獄には、ヴェルザーク帝国の上級魔術兵士、ザルヴェイン、バルゼルド、クロウの三人が収監されていた。


三人の魔力は封じられたままだったが、彼らの表情には恐怖も焦りもない。


むしろ、何かを待ち望んでいるような余裕さえあった。


そこへ、騎士団長と魔術兵士隊長、そして数名の兵士がやって来た。


「お前たちに聞きたいことがある」


騎士団長が、牢獄の前に立った。


ザルヴェインは、ゆっくりと顔を上げた。


「ほう。何の用だ?」


「アレク陛下とエレナ様が、何者かに連れ去られた。お前たちは何か知っているはずだ」


バルゼルドが、口元をゆがめた。


「皇帝夫妻がいなくなったのか?」


クロウも、低い声で笑った。


「それはそれは……大変なことになったな」


「ふざけるな!」


魔術兵士隊長が牢獄の柵を強く握った。


「陛下たちはどこへ連れ去られた! 答えろ!」


しかし、三人は顔を見合わせると、突然、高笑いを始めた。


「ははははは!」


「もう、そんなことを気にする必要はないだろう」


ザルヴェインは、楽しそうに言った。


「お前たちは、そろそろ理解した方がいい。自分たちの力では、どうにもならないということをな」


「何を言っている!」


騎士団長が鋭く問い返す。


バルゼルドは、ゆっくりと立ち上がった。


「皇帝夫妻がいなくなった。国をまとめる者もいない。これから先、お前たちにできることは何だ?」


クロウが続けた。


「素直に我々の支配下になるしかないな」


「誰が貴様らに従うものか!」


魔術兵士隊長が怒鳴った。


ザルヴェインは、さらに笑みを深めた。


「強がりは今のうちだ。お前たちの帝国がどうなるか、すぐに分かる」


騎士団長は、拳を強く握り締めた。


爪が手のひらに食い込むほどだった。


「貴様ら……!」


だが、三人はまったく動じない。


それどころか、ザルヴェインは牢獄の天井を見上げ、意味ありげにつぶやいた。


「さて……そろそろ、ここから出られる頃かもしれないな」


「ふふふ……」


「楽しみだな」


三人の不気味な笑い声が、地下牢に響いた。


騎士団長たちは、互いに顔を見合わせた。


彼らは、まだ知らなかった。


三人がこれほど余裕を見せている理由も、彼らが待っているものの正体も。


ただ一つ確かなのは、敵の計画がまだ終わっていないということだった。



◆◆◆黒い霧を追う守護兵士たち


宮殿では、騎士団長たちが捜索の準備を進めていた。


守護兵士たちは、アレクとエレナの行方を突き止めるため、町や周辺地域へと散っていった。


「陛下たちが消えた場所を中心に調べろ!」


「黒い霧の痕跡を見つけたら、すぐに報告しろ!」


「邪悪なエネルギーが残っている可能性もある。魔力の反応を見逃すな!」


兵士たちは、それぞれ魔力探知の道具を手に、周辺の捜索を始めた。


黒い霧が現れた場所には、まだ不気味な気配が残っていた。


「ここだ……」


一人の守護兵士が、地面に手をかざした。


「確かに、普通の魔力とは違う反応がある」


「何か分かったのか?」


「まだはっきりとは分からない。ただ、この邪悪なエネルギーは、これまで戦ってきたヴェルザーク帝国の魔術とは違うように感じる」


別の兵士も、周囲を警戒しながらうなずいた。


「陛下たちが連れ去られた場所に、何か手がかりが残っているはずだ。慎重に調べよう」


兵士たちは、黒い霧の痕跡を追いながら、町の外へと捜索範囲を広げていった。


しかし、黒い霧の気配は途中で途切れていた。


まるで、最初から何もなかったかのように。


「くそっ……。これでは行き先が分からない」


「諦めるな。必ず手がかりを見つけるんだ!」


守護兵士たちは、何度も探知を繰り返した。


アレクとエレナを救い出すために。


◆◆◆別荘を守る四匹


一方、リリアたちがいる別荘では――。


ポポ、ピピ、リュリュ、ノクスの四匹が、建物の周囲を警戒していた。


リリアとアリア王女がいるこの場所まで、敵の邪悪な力が届くことだけは避けなければならない。


ポポが、いつもより真剣な顔で言った。


「ポポたちが、ここを絶対に守るのだ!」


ピピも、窓の外を見ながらうなずいた。


「うん! リリちゃんとアリアちゃんを、これ以上怖い目に遭わせないよ!」


リュリュは小さな翼を広げ、別荘の周囲に虹色の光を浮かべた。


ノクスは黒い霧の残り香を探るように、静かに目を細める。


「敵の力が、どこから来るか分からない。今の結界では足りない」


「じゃあ、もっと強くするのだ!」


ポポが大きくうなずいた。


四匹は力を合わせ、別荘を包む結界を張り直した。


リュリュが虹色の光を広げ、ピピがその光に守護の魔力を重ねる。


ポポは結界の外側に防御の力を加え、ノクスは邪悪な魔力を打ち消す力を結界全体に巡らせた。


やがて、別荘の周囲に強い光が広がった。


「これで、前よりずっと強い結界になったよ!」


ピピが、ほっと息をついた。


「うむ。簡単には破られないはずなのだ!」


しかし、ノクスはまだ警戒を解かなかった。


「油断するな。あの黒い霧の力は、普通の魔術とは違う」


四匹は、改めて別荘の周囲を確認した。


リリアとアリアを守るために、少しの隙も作るわけにはいかなかった。


◆◆◆神々が感じ取った邪悪な気配


そのころ、天界では――。


ゼノ、アテナ、オルフェ、フィオナの四柱の神々が、水晶の鏡を囲んでいた。


鏡には、黒い霧が消えた場所と、そこに残された邪悪なエネルギーが映し出されている。


ゼノは、険しい表情でその光景を見つめていた。


「この力……。ただの魔術ではない」


アテナも、慎重に分析していた。


「ヴェルザーク帝国の魔術兵士たちが使っていた魔力とは、性質が異なるわ。もっと深く、暗いところから生まれた力のようね」


オルフェは、未来を映す水晶に手をかざした。


「運命の流れが乱れている。アレクとエレナが連れ去られたことで、地上の未来が大きく変わり始めた」


フィオナは、不安そうにリリアのいる別荘を見つめた。


「リリアは、きっと悲しんでいるわ。あの子がどれほど両親を大切にしているか、私たちは知っているもの」


ゼノは、しばらく考え込んだあと、守護兵士たちに神託を送った。


「守護兵士たちよ。黒い霧に残された邪悪なエネルギーを調べるのだ」


その声は、遠く離れた場所で捜索を続ける兵士たちにも届いた。


「この力を生み出している者が誰なのか。そして、その背後に邪悪な神が存在するのか。必ず調査せよ」


アテナも続けた。


「ただし、決して無理をしてはなりません。相手の力も正体も、まだ分かっていないのです。手がかりを集め、慎重に行動してください」


守護兵士たちは、神託を受けて一斉に返事をした。


「承知いたしました!」


ゼノは水晶の鏡を見つめたまま、低くつぶやいた。


「もし、本当に邪悪な神が関わっているのなら……これは人間たちだけの戦いでは済まぬ」


神々の間に、重い沈黙が流れた。


◆◆◆リリア、自分の力でパパとママを助ける決意


別荘の一室。


リリアは、ベッドの上に座り込んでいた。


小さな手には、ペンダントが握られている。


そこには、先ほどまでパパとママの姿が映っていた。


けれど、今は何も映らない。


「ぱぱぁ……ままぁ……」


リリアの目には、涙が浮かんでいた。


「どこにいっちゃったのぉ……。リリ、ぱぱとままに、あいたいよぉ……」


ポポたちは、リリアのそばに集まった。


「リリちゃん……」


ピピが、そっとリリアの手に触れた。


「だいじょうぶだよ。ポポたちが、絶対にパパとママを探すからね」


「そうなのだ! ポポにおまかせなのだ!」


ポポは胸を張ったが、その声にはいつもの元気が少し足りなかった。


リュリュも、リリアの顔をのぞき込んだ。


「リリ、ぼくたちも一緒に探すよ」


ノクスは静かに言った。


「だが、相手は強い。今のところ、あの黒い霧の中に隠された場所を見つけられていない」


リリアは、涙をぬぐった。


「……リリのまほう、きかなかったの」


四匹は何も言えなかった。


両親が黒い霧に包まれたとき、リリアは必死に魔法を使った。


霧を消そうとした。


パパとママを助けようとした。


それなのに、二人は目の前から消えてしまった。


「リリ……もう一度、神様たちにも相談してみよう?」


ピピが優しく声をかけた。


しかし、リリアはゆっくりと首を横に振った。


「ううん……」


小さな手でペンダントを握り直す。


「リリが、たすけりゅの」


「リリちゃん……?」


「ぱぱとまま、リリがたすけるの!」


その声には、幼いながらも強い決意がこもっていた。


「リリ、もうないちゃわないの。ぱぱとまま、まってるもん」


ポポたちは、驚いたようにリリアを見つめた。


リリアは、四匹の顔を一匹ずつ見た。


「リリが、まほうつかえるの、みんなにしられちゃってもいいの」


「えっ……?」


ピピが目を見開いた。


「リリちゃん、それは……」


「だって、ぱぱとままをたすけたいんだもん!」


リリアは、胸の前で小さな拳をぎゅっと握った。


「リリのちから、ぜんぶつかうの。ぜったい、ぱぱとままをたすけりゅ!」


その言葉を聞いて、四匹は顔を見合わせた。


これまでリリアは、人間たちに自分の力を知られないように気をつけてきた。


預言者としての正体も、神の力を持つことも、決して明かしてはならなかった。


けれど今、リリアはその秘密を守ることよりも、両親を救うことを選ぼうとしている。


ノクスが、静かに口を開いた。


「分かった。お前がそう決めたのなら、俺たちも全力で協力する」


リュリュも、小さな翼を広げた。


「ぼくも一緒に行くよ。どんな結界でも壊してみせる!」


「ポポも行くのだ! パパとママを助けるためなら、どんな敵にも負けないのだ!」


「ピピもいっしょにやる〜! リリちゃんを一人にはしないよ!」


四匹の言葉に、リリアは小さくうなずいた。


「みんなぁ……ありがとぉ」


そのとき、リリアのペンダントが、ほんのわずかに光った。


四匹は一斉にペンダントを見つめた。


「今の光は……?」


ノクスが警戒するように目を細める。


リリアも、ペンダントを両手で包み込んだ。


「ぱぱとままのこと、みえりゅかなぁ……」


しかし、映像は現れなかった。


代わりに、ペンダントの奥から、冷たい邪悪な気配が一瞬だけ伝わってきた。


リリアの表情が変わる。


「……こわいかみしゃまの、においがしゅる」


四匹の空気も、一気に張り詰めた。


リリアはもう泣いていなかった。


小さな瞳には、両親を救うという強い決意が宿っていた。


「まっててね、ぱぱぁ、ままぁ……。リリが、かならずたすけにいくからねぇ!」


その決意を、天界の神々も水晶の鏡を通して見守っていた。


ゼノは、静かに目を閉じた。


「リリアよ……。今度の敵は、これまでとは違うぞ」


アテナは心配そうに続けた。


「それでも、あの子は進むでしょうね」


オルフェは、まだ見えない未来を見つめた。


「運命が、大きく動き始めた」


フィオナは、祈るように両手を合わせた。


「どうか、あの子と家族を守って……」


リリアの決意によって、物語は新たな局面へと進もうとしていた。


アレクとエレナは、いったいどこへ連れ去られたのか。


黒い霧を操る邪悪な力の正体は何なのか。


そして、魔術封じの牢獄にいる三人が待ち望んでいるものとは――。


まだ誰も、その答えを知らなかった。


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