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第111話 皇帝夫妻、謎の黒い霧に包まれる!

第111話 皇帝夫妻、謎の黒い霧に包まれる!


◆◆◆別荘へ向かうアレク


そのころ、宮殿では激しい戦いが続いていた。


アレクは窓の外を見つめていた。


遠くには黒い煙が立ち上り、別荘のある方角にも赤い炎が見えている。


「まさか……別荘の近くまで火が広がっているのか!」


アレクは顔色を変えた。


別荘にはエレナとリリア、そしてアリアがいる。


「陛下! どうかお待ちください。まだ戦闘が続いております!」


騎士団長が引き止めた。


しかし、アレクは首を横に振った。


「家族がいる場所を、このまま放っておけるものか。地下通路を使って別荘へ向かう!」


「陛下、ご自身で向かわれるのですか?」


「そうだ。別荘の近くの状況を確かめる。護衛を連れていくぞ」


アレクは護衛たちを伴い、宮殿の地下通路へ向かった。


地下通路は、宮殿から離れた場所へ安全に移動するために造られた秘密の通路だった。


アレクたちは急いで通路を進み、別荘に近い出口へとたどり着いた。


出口を開けると、外には馬車が用意されていた。


「急げ! 別荘へ向かう!」


アレクが命じると、護衛の一人が馬車を走らせた。


馬車は街道を進んでいく。


途中、遠くに煙は見えるものの、別荘に近い町にはまだ敵兵の姿がなかった。


町の人々も、いつもどおり店を開けている。


「この町は、まだ戦場になっていないようだな……」


アレクは少しだけ安堵した。


「はい。今のところ、敵兵が侵入したという報告もございません」


「そうか。だが、いつ状況が変わるか分からない。警戒を怠るな」


「承知いたしました」


アレクは窓の外を見つめながら、家族の無事を祈っていた。


◆◆◆町でエレナを見つける


しばらく馬車を走らせていると、アレクは町の通りに見覚えのある姿を見つけた。


「あれは……エレナ?」


そこには、エレナが召し使いと一緒に買い物をしていた。


別荘から少し離れた店が並ぶ通りだった。


エレナは店先で商品を選び、召し使いと話している。


「こちらの品も、別荘に持って帰りましょうか」


「そうね。リリアが喜びそうなものも探してみましょう」


「リリア様は、おやつがお好きですものね」


「ふふっ。そうなの。きっと喜ぶわ」


エレナは穏やかに微笑んでいた。


アレクは馬車を止めさせ、急いで降りた。


「エレナ!」


「えっ? あなた!」


エレナは驚いて振り返った。


「どうして、あなたがここに?」


「宮殿から地下通路を通ってきた。別荘の近くで火が見えたので、心配になったのだ」


アレクはエレナのそばへ歩み寄った。


「あなたこそ、どうしてこんなところにいる? 戦争が始まっているのだぞ」


「別荘に必要なものを買いに来たのよ。この町はまだ襲われていないから、大丈夫だと思って……」


「今は安全に見えても、いつ敵が現れるか分からない。あまり出歩かないでくれ」


アレクは心配そうにエレナの手を取った。


「分かったわ。心配をかけてごめんなさい」


「いや、無事でよかった。すぐに別荘へ戻ろう」


アレクがそう言った、その瞬間だった。


◆◆◆町を包む黒い霧


ゴォォォォ……。


突然、町の空気が重くなった。


「な、何だ……?」


アレクが空を見上げる。


通りの向こうから、黒い霧がゆっくりと広がってきた。


それは普通の霧ではなかった。


地面を這うように広がり、建物も店も、人々の姿も、あっという間に覆い隠していく。


「陛下! 黒い霧です!」


護衛たちがアレクとエレナを囲んだ。


「エレナ、私のそばを離れるな!」


「あなた……!」


アレクはエレナを自分の背後にかばった。


護衛たちは剣を抜き、周囲を警戒する。


しかし、霧が濃くなるにつれて、互いの姿さえ見えなくなっていった。


「陛下! こちらです!」


「エレナ! 私の手を離すな!」


アレクはエレナの手を強く握った。


そのとき――。


黒い霧の中から、何かがアレクとエレナを包み込んだ。


「うっ……!」


「きゃあっ!」


一瞬、まばゆい光が走った。


そして、町を覆っていた黒い霧が、何事もなかったかのように消えていった。


通りには、再びいつもの景色が戻っていた。


だが――。


「陛下?」


護衛の一人が周囲を見回した。


「陛下! エレナ様!」


そこに、アレクとエレナの姿はなかった。


二人が立っていた場所には、何も残されていなかった。


「そんな……! 陛下がいない!」


「エレナ様もいらっしゃらないぞ!」


召し使いは顔面蒼白になった。


護衛たちは通りの隅々まで探し始めた。


「陛下! どちらにおられるのですか!」


「エレナ様! お返事を!」


しかし、どこを探しても二人の姿は見つからなかった。


そのとき、町の空気を震わせる不気味な声が響いた。


『皇帝とその妻は、私たちの捕虜となった』


護衛たちは一斉に空を見上げた。


『ハハハハハハハ……!』


不気味な高笑いが町中に響き渡る。


そして、その声は突然消えた。


残された人々は、恐怖で身動きもできなかった。




◆◆◆ペンダントに映った悲劇


そのころ、別荘では――。


リリアが胸元のペンダントを握りしめていた。


先ほどから、ペンダントが不規則に光っている。


「……ぱぱ?」


光の中に、町の通りが映し出された。


そこには、アレクとエレナの姿があった。


二人の周囲を、黒い霧が覆い始めている。


「ぱぱ! まま!」


リリアは映像に向かって手を伸ばした。


「だめぇ! くろいきり、こないでぇ!」


しかし、黒い霧は二人を包み込んでいく。


「エリシアしゃん! ルシェルしゃん! セラフィしゃん!」


リリアは急いで守護者たちに呼びかけた。


「ぱぱとままが、あぶないの! はやく、たしゅけてぇ!」


「リリア様! すぐに向かいます!」


三人はすぐにアレクとエレナのもとへ向かおうとした。


しかし、その瞬間――。


黒い霧が一気に膨れ上がり、アレクとエレナの姿を完全に覆い隠した。


次の瞬間、霧は消えた。


そこには、もう二人の姿はなかった。


「そんな……!」


リリアはペンダントを見つめたまま、動けなくなった。


「ぱぱ……まま……どこぉ?」


5 届かないリリアの魔法


「リリア様! 陛下とエレナ様の姿が見えません!」


守護者たちから連絡が届いた。


「ぱぱとまま、いなくなっちゃったのぉ!」


リリアは泣きそうな声で叫んだ。


「リリが、たしゅけるの! だから、まっててぇ!」


リリアは両手を前に出した。


小さな体から、まばゆい光があふれ出す。


「ひかりしゃん! ぱぱとままを、みちゅけてぇ!」


光はペンダントから広がり、アレクとエレナが消えた場所へ向かっていった。


しかし――。


バチンッ!


見えない壁にぶつかったように、光が弾き返された。


「え……?」


リリアは驚いて目を見開いた。


もう一度、魔力を込める。


「おねがい……! ぱぱとままのところに、とどいてぇ!」


けれど、結果は同じだった。


光は黒い霧が残した空間に触れることさえできない。


「どうちてぇ……?」


リリアの小さな手が震えた。


「リリの魔法が、きかないのぉ……?」


何度試しても、魔法は届かなかった。


「ぱぱぁ! ままぁ!」


リリアはとうとう大声で泣き出した。


「いやぁぁ! ぱぱとままを、かえちてぇ!」


◆◆◆召し使いの慰め


しばらくして、別荘の扉が開いた。


町から戻ってきた召し使いが、急いで部屋へ入ってくる。


「リリア様! アリア王女!」


部屋の中では、召し使いの慌てた声に


アリアも不安そうにリリアのそばに座っている。


召し使いはリリアのそばに駆け寄った。


「アレク陛下とエレナ様が、、連れ去られました。」


リリアは心の中で、助けられなかったこと、パパとママがいなくなったことをリリアは自分を責めた。


リリアは泣きながら、召し使いの服をつかんだ。


「ぱぱ、まま!」


「リリア様……」


「突然、黒い霧が現れて、アレク陛下とエレナ様が消えてしまいました。」


そして、泣いている、リリアを優しく抱きしめた。


「陛下とエレナ様は、必ずお戻りになります。必ず、探し出します」


「でもぉ……ぱぱとまま、どこにいるのぉ?」


「私にも、まだ分かりません。ですが、騎士たちが必ずお探しします」


リリアは召し使いの胸に顔をうずめた。


「リリ、ぱぱとままに、あいたいよぉ……」


「ええ。きっとまた会えますよ」


召し使いはリリアの髪を優しくなで続けた。


アリアもリリアの手を握った。


「リリちゃ……ないない、しないでぇ……」


「アリアぁ……」


二人は寄り添うようにして、しばらく泣いていた。


やがて召し使いは、外の護衛たちに状況を確認するため、部屋を出ていった。


「すぐ戻りますからね。ここで待っていてください」


扉が閉まると、部屋にはリリアとアリアだけが残された。


◆◆◆四匹の仲間たちの捜索


召し使いの足音が遠ざかった。


すると、部屋の隅に置かれていたぬいぐるみたちが動き出した。


ポポ、ピピ、リュリュ、そして黒猫のノクスだった。


「ポポ、すぐに陛下とエレナ様を探すのだ!」


「うん! ピピも探すよ!」


リュリュは小さな翼を広げ、虹色の光を放った。


ノクスも目を細め、周囲の魔力を探り始める。


四匹はそれぞれの力を使い、アレクとエレナが消えた場所を調べた。


ポポは空間に残された魔力の痕跡をたどろうとする。


「この魔力……普通じゃないのだ!」


ピピも周囲を見回した。


「どこかにつながっているはずなのに、何も見えないよぉ!」


リュリュは空間をゆがめ、隠された通路や転移の跡を探した。


しかし、何も見つからなかった。


ノクスが険しい表情で告げた。


「強力な結界だ。外側から居場所を探れないようにしている」


「リュリュの力でも、結界を壊せないの?」


ピピが尋ねた。


「壊せる可能性はある。だが、無理に力をぶつければ、捕らわれている二人に危険が及ぶかもしれない」


ポポは悔しそうに拳を握った。


「くぅ……! ポポたちが、すぐに助けに行けないなんて!」


四匹は顔を見合わせた。


今までにないほど強力な結界だった。


◆◆◆神々の決断


天界では、神々が水晶の鏡を囲んでいた。


アレクとエレナがさらわれたことを知り、全員の表情が険しくなっている。


「黒い霧の中で二人の姿が消えた。リリアの魔法も弾かれたようだな」


ゼノが低い声で言った。


アテナは水晶の鏡を見つめた。


「敵は、私たちの探索さえ妨げるほど強力な結界を使っているのでしょう」


「すぐに二人の居場所を突き止めなければ!」


フィオナが心配そうに声を上げた。


しかし、オルフェは静かに口を開いた。


「焦ってはならない。敵の力も目的も、まだ分かっていない。むやみに動けば、二人をさらに危険にさらす可能性がある」


「では、どうすればいいのだ?」


ゼノが尋ねた。


アテナは水晶の鏡に映るリリアを見つめた。


「今、最も大切なのはリリアを守ることよ。皇帝夫妻をさらった敵が、次にリリアを狙う可能性もあるわ」


ゼノは深くうなずいた。


「エリシア、ルシェル、セラフィ。聞こえるか」


「はい、ゼノ様」


「アレクとエレナの捜索は続ける。しかし、今はリリアとアリアの安全を最優先にせよ。敵が別荘へ迫る可能性がある。決して二人から離れるな」


「承知しました」


三人の守護者は力強く答えた。


続いてゼノは、四匹の仲間たちにも語りかけた。


「ポポ、ピピ、リュリュ、ノクス。お前たちも同じだ。結界の調査は続けてよい。だが、リリアを一人にしてはならぬ」


「分かったのだ!」


「リリアちゃんはピピたちが守るよ!」


リュリュも力強くうなずき、ノクスも短く答えた。


「必ず守る」


ゼノは最後に、リリアの姿を見つめた。


「リリア……どうか無事でいてくれ」


別荘では、リリアがアリアを抱きしめたまま、まだ涙を流していた。


アレクとエレナは敵の捕虜となり、居場所も分からない。


そして、リリアの魔法さえ通じない謎の結界が存在している。


家族を守ろうとする小さな姫に、かつてない危機が迫っていた。

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