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第109話 何度倒しても蘇る兵士たち! 不気味な敵の正体

第109話 何度倒しても蘇る兵士たち! 不気味な敵の正体


◆◆◆天界を揺るがす不吉な言葉


天界。


水晶の鏡には、地下牢に捕らえられたヴェルザーク帝国の三人の魔術師――ザルヴェイン、バルゼルド、クロウの姿が映し出されていた。


彼らは魔力を封じられ、厳重な結界の中に閉じ込められている。


それにもかかわらず、三人の表情には恐怖も焦りもなかった。


むしろ、アレクたちをあざ笑うような笑みを浮かべていた。


『我々の陛下は、神も恐れるお方だ』


『世界は、いずれ我々の皇帝陛下がお治めになる』


その言葉を聞いたゼノの表情が険しくなった。


「……神も恐れる、だと?」


アテナも水晶の鏡を見つめたまま、静かに口を開いた。


「まさか……そんなことがあるの?」


フィオナが不安そうにゼノを見た。


「ゼノ。あなたも、あの可能性を考えているの?」


ゼノはすぐには答えなかった。


やがて、重い声で言った。


「邪悪な神が、何者かを操っている可能性がある」


「邪悪な神……?」


フィオナの顔から笑みが消えた。


オルフェが水晶の鏡に手をかざした。


「かつて神界から追放された邪悪な神々の中には、転生して人間界に入り込むことができる者もいる。もし、その一柱が人間の姿で帝国を支配しているのなら……」


「ヴェルザーク帝国の皇帝が、転生した邪悪な神である可能性もあるということね」


アテナが言葉を引き継いだ。


ゼノは深くうなずいた。


「まだ断定はできぬ。だが、三人の魔術師の言葉は気になる。神を恐れぬどころか、神さえ恐れる存在だと言い切ったのだ」


「しかも、二つの大国を短期間で滅ぼしている。普通の人間の力だけで成し遂げられることではないわ」


アテナの声にも緊張が走っていた。


フィオナは両手を胸の前で握りしめた。


「もし本当に邪悪な神が関わっているのなら、リリアや人間界の人々にも危険が及ぶわ」


「だからこそ、慎重に動かねばならぬ」


ゼノは水晶の鏡を見つめた。


「これは、我々が考えていた以上に重大な事態だ。決して軽く見てはならぬ」


「まさか、人間界に転生した邪悪な神が、帝国を操っているなんて……」


フィオナは不安そうにつぶやいた。


神々は、これまでにない緊張に包まれていた。


神々でさえ正体をつかめない何者かが、人間界で動いている。


それは、とんでもない事態だった。


2 アレクの胸に広がる不安


一方、セレスティア帝国の宮殿。


アレクは騎士団長から戦況の報告を受けていた。


「陛下、各地の防衛線は維持されています。ガル、セレス、アルセリアをはじめ、魔術師たちも奮戦しております。現在のところ、こちらが優勢です」


「そうか。負傷者の治療と、町の避難状況はどうなっている?」


「治療所は混雑しておりますが、医師たちが懸命に対応しております。市民も地下の避難場所で保護されています」


アレクは報告を聞きながら、机の上に置かれた戦況図を見つめていた。


戦いは優勢。


それでも、彼の表情は晴れなかった。


「団長」


「はい、陛下」


「捕らえた三人の魔術師のことだ」


騎士団長は、地下牢にいるザルヴェインたちを思い出した。


「三人とも、いまだに口を割りません。皇帝の名も、侵攻の目的も明かそうとしません」


「それだけではない」


アレクは低い声で続けた。


「あの三人は、我々が優勢だと聞いても、まるで動揺していなかった。むしろ、何かを待っているようだった」


「確かに……不気味な余裕がありました」


「敵の船を失い、魔力も封じられた。それでも、あの態度だ。何か切り札を持っているのかもしれない」


アレクは騎士団長をまっすぐ見た。


「戦況が優勢だからといって、油断するな。敵の動きを少しでも不審に感じたら、すぐに報告しろ」


「承知いたしました。警戒を強めます」


「兵士たちにも伝えておけ。目の前の敵だけを見るな。戦場全体に注意を払うように」


「かしこまりました」


騎士団長が退室すると、アレクは窓の外を見つめた。


遠くから、爆発音が響いてくる。


「いったい、ヴェルザーク帝国の皇帝は何者なのだ……」


アレクの胸には、言いようのない不安が広がっていた。


3 次々と現れる敵兵


そのころ、町と宮殿の周辺では、戦いがさらに激しさを増していた。


「黒炎魔術――黒焔弾!」


ヴェルザーク帝国の兵士が、黒い炎の塊を放った。


炎は地面をえぐりながら、セレスティア帝国の兵士たちに迫る。


「全員、伏せろ!」


ガルが叫ぶ。


直後、セレスが杖を振り上げた。


「風壁魔術――旋風防壁!」


巨大な風の壁が立ち上がり、黒い炎を横へと吹き飛ばす。


しかし、煙が晴れるより早く、その向こうから新たな敵兵が姿を現した。


「まだ来るの!?」


セレスが驚きの声を上げた。


アルセリアは光の矢を何本も放つ。


「光槍連射――一斉掃射!」


光の矢が敵兵の武器を弾き飛ばし、数人を地面へと倒した。


ガルも両手を広げる。


「大地封鎖魔術!」


地面から無数の岩の鎖が伸び、敵兵の足を絡め取った。


「今だ! 動きを封じた敵を拘束しろ!」


味方の兵士たちが一斉に駆け寄る。


だが、その直後だった。


倒れていた敵兵の一人が、ゆっくりと起き上がった。


「……え?」


兵士が目を見開く。


その敵兵は、先ほどまで胸を押さえて倒れていたはずだった。


それなのに、今は傷一つない。


破れたはずの鎧も元に戻り、血の跡さえ消えていた。


「そんな……確かに倒したはずだ!」


敵兵は何事もなかったかのように剣を構えた。


その目には、感情らしいものが見えなかった。


まるで命令を受けた人形のように、ただ前を見つめている。


そして、再び襲いかかってきた。


「危ない!」


ガルが兵士を引き寄せ、岩の壁で攻撃を防いだ。


「どうなっているんだ……!」


セレスも息をのんだ。


戦場では、同じような異変が次々と起き始めていた。


倒したはずの敵兵が、再び立ち上がる。


負傷して後退した兵士が、傷一つない姿で戻ってくる。


そして、戦いの中で命を落としたはずの兵士までもが、何事もなかったように歩き出していた。


ヴェルザーク帝国の兵士たちは、まるで死というものを知らないかのようだった。


戦場に、得体の知れない恐怖が広がっていった。



◆◆◆何度倒しても蘇る敵兵


「戦っても、戦っても、次々に兵士が現れるよー! どうなってるの!?」


セレスは息を切らしながら叫んだ。


目の前には、倒したはずのヴェルザーク帝国兵が再び立ち上がっていた。


その兵士の胸当てには、先ほどガルの魔術で貫かれた穴があったはずだ。


しかし、今はその穴さえ消えている。


「確かに、兵士が増えているように感じるな」


ガルは周囲を見渡した。


彼らが戦っている場所には、数え切れないほどの敵兵が押し寄せていた。


前方の敵を倒せば、後方から新たな兵士が現れる。


敵の数が減るどころか、時間がたつほど増えているようにさえ見えた。


「何なの、もうー!」


アルセリアが怒りを込めて杖を振った。


「さっき私が倒した兵士なのに! 傷ひとつなく戦っているじゃない!」


「アルセリア、無理に前へ出るな! 周囲を確認しろ!」


「分かっているわよ!」


アルセリアは光の魔力を集中させた。


「聖光封魔術――光牢!」


まばゆい光の檻が敵兵を包み込む。


しかし、捕らえられた敵兵は、檻の中で不気味に顔を上げた。


その目には、痛みも恐怖もない。


ただ、薄暗い光が宿っていた。


「……何なのよ、その目は」


アルセリアが思わず後ずさった。


そのとき、別の場所から兵士の叫び声が響いた。


「隊長! 大変です!」


「どうした!?」


「倒した敵兵が、数時間後には傷もなくなって、また現れています!」


「何だと?」


「それだけではありません! 息絶えたはずの兵士まで、再び動き出したんです!」


報告に来た兵士の顔は青ざめていた。


「死んだはずの者まで……?」


ガルは眉を寄せた。


「生き返っているのか? いや、そんなことがあるはずがない」


セレスは敵兵の姿を見つめた。


「原因は分からないけど、戦うしかないわね!」


「そうだな。敵をここから先へ進ませるわけにはいかない!」


ガルが叫ぶと、三人は再び魔力を高めた。


「セレス、右側を頼む!」


「任せて!」


「アルセリア、左側の敵を封じろ!」


「言われなくても!」


セレスが風の刃を放ち、敵兵の武器を吹き飛ばす。


アルセリアは地面に魔法陣を展開し、光の鎖で敵兵の動きを封じた。


ガルはその隙を逃さず、巨大な封印陣を発動させる。


「魔力拘束――多重封印!」


地面から現れた鎖が敵兵たちを次々と縛り上げた。


しかし、封印された兵士たちの体から、黒い霧のようなものが立ち上り始めた。


「何だ、あの黒い霧は!?」


ガルが叫ぶ。


黒い霧は兵士たちを包み込むと、封印陣の光を少しずつ侵食していった。


やがて、鎖が一本、また一本と砕け始める。


「そんな……封印が破られている!?」


セレスが驚いた。


黒い霧が消えたとき、そこにいた敵兵たちは再び立ち上がっていた。


「まさか、封印まで……?」


アルセリアは歯を食いしばった。


「何度でも封じてやるわ!」


三人は再び魔術を放った。


けれど、敵兵たちは倒れても、封じられても、何度も戻ってくる。


彼らの戦い方には、兵士としての判断や恐怖さえ感じられなかった。


ただ命令された場所へ進み、目の前の敵を攻撃する。


まるで、誰かに操られているかのようだった。


◆◆◆隠された別荘にも響く爆発音


一方、宮殿から離れた場所にある、リュリュの虹色の結界で隠された別荘。


ここは外から見ることも、場所を特定することもできない。


本来なら、戦場の騒音が届くはずもない場所だった。


しかし――。


ドォォォン!!


突然、大きな爆発音が響いた。


「きゃっ!」


リリアはびくっと体を震わせた。


少し遅れて、もう一度、遠くから爆発音が聞こえてくる。


ドォン! ドォォン!!


窓の向こうには、遠くの空が赤く染まっているのが見えた。


煙が空へと立ち上り、夜空には何度も光が走っている。


「……まま?」


リリアはエレナの服をぎゅっと握った。


エレナも窓の外を見つめ、表情を曇らせた。


「大丈夫よ、リリア。ここにいれば安全だからね」


けれど、爆発音は止まらなかった。


宮殿の方角から、何度も大きな音が響いてくる。


別荘の窓が小さく揺れるほどだった。


リリアは小さな手で耳を押さえた。


「おと、こわい……」


その隣にいたアリアも、エレナの服にしがみついた。


「ままぁ……こわいの……」


「大丈夫よ、アリア。ママはここにいるわ」


エレナは二人をそっと抱き寄せた。


しかし、リリアの目には涙が浮かんでいた。


「ぱぱぁ……?」


リリアは窓の外を見つめた。


遠くに見える煙と、何度も響く爆発音。


幼いリリアにも、町や宮殿で大変なことが起きているのだと分かっていた。


「ぱぱ、だいじょぶ……?」


「きっと大丈夫よ。パパは強い人だから」


エレナは優しく答えた。


だが、リリアは不安そうに首を横に振った。


「ぱぱぁ……ままぁ……」


アリアもリリアの手を握った。


「りりちゃ……こわいねぇ……」


「うん……こわいの……」


二人は互いに身を寄せ合った。


6 四匹の仲間たちの励まし


その様子を見ていた四匹は、リリアたちを安心させようと近くに集まった。


人間の前では、ただのぬいぐるみや小さな黒猫に見える姿を保っている。


エレナが少し離れたところへ移動したのを確認すると、ポポが小さな声で話しかけた。


「リリちゃん、心配しなくていいのだ。パパはきっと大丈夫なのだ!」


ピピもリリアのそばに寄り添う。


「そうだよぉ。エレナ様もアリアちゃんも、ここにいるみんなも、ピピたちが守るからねぇ」


リュリュは小さな翼を広げた。


「この別荘には、ボクの虹色の結界があるよ! どんな攻撃が来ても、簡単には破れないんだから!」


ノクスも落ち着いた声で言った。


「外の戦いがどれほど激しくなっても、この場所を敵に見つけさせるつもりはない。安心しろ」


リリアは涙を浮かべたまま、四匹を見つめた。


「ほんとぉ……?」


「本当なのだ!」


ポポは胸を張った。


「ポポにおまかせなのだ!」


「ピピもいっしょに守るよぉ!」


ピピも元気よく答えた。


リュリュはリリアの頬にそっと鼻先を寄せた。


「だから、泣かないで。リリちゃん」


ノクスも静かにうなずいた。


「パパとママを信じて待とう」


リリアは小さくうなずいた。


「……ぱぱ、がんばってぇ」


アリアもリリアの手を握ったまま、つたない言葉でつぶやいた。


「ぱぱぁ……がんばれぇ……」


二人の小さな声が、静かな部屋に響いた。


四匹は顔を見合わせた。


リリアを安心させるために優しく振る舞っていたが、彼ら自身も戦場の異変を心配していた。


特にノクスは、遠くから漂ってくる黒い魔力の気配を感じ取っていた。


「……ただの戦争ではないな」


ノクスが小さくつぶやく。


リュリュも表情を引き締めた。


「うん。あの黒い魔力、普通じゃないよ」


ポポとピピも、いつもの明るさを少し失っていた。


それでも、今はリリアとアリアを怖がらせるわけにはいかない。


四匹は二人のそばを離れず、優しく見守り続けた。


7 広がっていく不気味な戦場


そのころ、町と宮殿の周辺では、戦闘がさらに激しくなっていた。


ヴェルザーク帝国の兵士たちは、何度倒されても立ち上がる。


剣で斬られて倒れた者も、魔術で吹き飛ばされた者も、しばらくすると何事もなかったように戻ってくる。


ある兵士は、体を深く傷つけられて動かなくなった。


しかし、数時間後――。


その兵士は傷一つない姿で、再び戦場に現れた。


「うそだろ……!」


セレスティア帝国の兵士が叫んだ。


「確かに、あいつは倒したはずだ!」


「後ろだ! 敵が来るぞ!」


別の兵士が叫ぶ。


振り返ると、倒したはずの敵兵が列を作って進んできていた。


その顔には、勝利への喜びも、怒りも、恐怖もない。


ただ、冷たい目で前を見つめている。


そして、同じ歩幅で一歩ずつ近づいてくる。


まるで、命令を受けた人形の行進だった。


「何なんだ、こいつらは……」


兵士の一人が震える声でつぶやいた。


その直後、敵兵たちが一斉に武器を構えた。


「黒炎連撃!」


無数の黒い炎が空を覆う。


「防御陣を張れ!」


セレスティア帝国の魔術師たちが一斉に結界を展開した。


ドォォォン!!


黒い炎が結界に激突し、強烈な衝撃が広がった。


結界の表面にひびが走る。


「まだだ! 魔力を注ぎ込め!」


ガルが叫ぶ。


セレスは杖を握りしめた。


「風よ、光よ! みんなを守って!」


アルセリアも魔力を集中させる。


「絶対に突破させないわ!」


三人の魔術師と兵士たちは、力を合わせて敵の攻撃を押し返した。


だが、煙の向こうには、すでに次の敵兵たちが並んでいた。


倒しても、倒しても、終わらない。


敵は何度でも現れる。


その不気味な光景に、戦場の誰もが気づき始めていた。


これは、普通の戦争ではない。


ヴェルザーク帝国の兵士たちは、いったい何者なのか。


そして、彼らを何度も蘇らせている力は、どこから来ているのか。


その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。


天界の神々も、アレクも、そして戦場で戦う魔術師たちも――。


不気味な敵の正体を知らないまま、激しい戦いは続いていくのだった。


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