第101話 黒雷襲来! ヴェルザーク帝国の魔術師たち
第101話 黒雷襲来! ヴェルザーク帝国の魔術師たち
◆◆◆船の中を探る遠視幻映魔術
昼過ぎ。
ガルとセレスは宮殿を出発し、海を見渡せる高台へと向かっていた。
遠くには、ヴェルザーク帝国の黒い船が見える。
二人は船をじっと見つめた。
「ここからなら、船の様子を調べられるはずだ」
ガルが言うと、セレスは水晶を取り出した。
「うん。ちょっと難しい魔術だけど、やってみるね」
セレスは水晶を両手で包み込み、船の姿を思い浮かべながら呪文を唱え始めた。
「遥か彼方に浮かぶ黒き船よ、
深き海原を渡る闇の船よ。
幾重の波も、幾重の霧も、
我が魔力の目を遮ることなかれ。
閉ざされた船室を映し出し、
隠された姿と秘密の言葉を照らせ。
神秘の瞳よ、真実を見抜け!」
「遠視幻映魔術!」
水晶が青白く輝いた。
この魔術は、遠く離れた場所にある船や建物の内部を、水晶に映し出すことができる。
やがて、水晶の表面に黒い船の内部が浮かび上がった。
「あっ、映った! あれ、あれ……!」
セレスが声を上げた。
「なんだよ、どうした?」
ガルが水晶をのぞき込む。
「映ったのはいいんだけど、結界が強いみたい。映像が乱れて、すごく見にくいよ~」
水晶の映像は、何度も揺らぎ、ぼやけていた。
「乱れて、まったく見えないのか?」
「ううん。かすかに見える感じかな!」
「かすかに見えるなら、集中して視てくれ!」
「うわっ、分かった。集中、集中っと……」
セレスは目を閉じ、意識を水晶へ集中させた。
映像の乱れが少しずつ収まっていく。
「あっ!」
「何か見えたのか?」
「えーっと……一人、二人……三人! 三人いるよ!」
「三人だと?」
ガルの表情が変わった。
「やはり、預言者の言うとおりだったか……」
「アルセリア、ショックだろうね。失敗したって分かったら……」
セレスが心配そうにつぶやく。
「アルセリアの心配は後だ! 急いで陛下に知らせないと。行くぞ、セレス!」
「わーっ、待ってよ、ガル~!」
二人は水晶をしまい、急いで宮殿へ向かって走り出した。
しかし――。
そのときだった。
ゴロゴロゴロ……!
空の向こうから、不気味な雷鳴が響いた。
二人が足を止めて空を見上げる。
「え……?」
次の瞬間、宮殿の方向に真っ黒な雷が落ちた。
ドオオオオオン!!
黒い光が空を切り裂き、宮殿の周囲を覆うように広がっていった。
「まさか……!」
ガルの顔から血の気が引いた。
「ガル、あれって……!」
「急ぐぞ! もう攻撃が始まったんだ!」
2 黒い船で動き出す三人
そのころ、ヴェルザーク帝国の船の中では――。
船室にいたザルヴェインが、ゆっくりと立ち上がった。
「さて……そろそろ楽しいパーティーでも始めますか」
その顔には、冷たい笑みが浮かんでいた。
バルゼルドも楽しそうに笑う。
「ようやくか。ずいぶん待たされたものだな」
ザルヴェインは両手を広げ、船室の天井を見上げた。
そして、ゆっくりと呪文を唱え始めた。
「天を覆いし漆黒の雲よ、我が命令に従え。
暗黒の雷を呼び覚まし、
王宮の空を闇に染めよ。
黒き雷の姿を幾千にも増やし、
恐怖を刻み込め!」
「黒雷滅宮!」
その瞬間、船の周囲から黒い魔力が噴き上がった。
空に黒雲が広がり、あっという間に王宮の上空を覆い尽くしていく。
そして――。
ドオオオオオン!!
黒い雷が、宮殿へ向かって次々と落ち始めた。
「ハハハハ! 始まったぞ!」
バルゼルドが窓の外を眺めながら笑った。
「パーティーの開始の合図には、まあまあだな!」
その大きな声に、船室の奥で眠っていたクロウが目を覚ました。
「ん……もう始めたのか~」
クロウは眠そうに目をこすりながら、ゆっくりと起き上がった。
「せっかく気持ちよく寝ていたのに……」
「いつまで寝ているつもりだ、クロウ!」
バルゼルドが笑いながら声をかける。
クロウは小さくあくびをした。
「分かったよ。まったく、騒がしい連中だな」
三人の魔術師たちは、ついに王国への攻撃を開始したのだった。
◆◆◆宮殿を襲う黒い雷
宮殿では、突然の黒い雷に人々がパニックになっていた。
ドオオオオオン!!
「きゃあああっ!」
「な、何が起きているんだ!」
「黒い雷が宮殿に落ちているぞ!」
空はすっかり黒雲に覆われ、昼間だというのに夜のように暗くなっていた。
次々と黒い雷が宮殿の建物や庭に落ちる。
そのたびに、激しい雷鳴が響き、大地が地震のように揺れた。
「陛下! 危険です! 地下室へお逃げください!」
騎士たちがアレクのもとへ駆け寄った。
「いったい何が起きている!」
「敵の魔術による攻撃と思われます! このままでは宮殿が危険です!」
「負傷者はどうなっている!」
「雷に当たって倒れた者がいます! 医師たちが救護に向かっています!」
宮殿の廊下では、逃げ惑う人々の悲鳴が響いていた。
「こちらへ! 急いで避難してください!」
「子どもたちを先に!」
「誰か、医師を呼んでくれ!」
黒い雷が落ちるたびに、建物の一部が崩れ、煙が立ち上る。
アレクは騎士たちに支えられながらも、周囲の状況を確認していた。
「負傷者を最優先で救助しろ! 医師たちは安全な場所で治療にあたれ! 騎士団は宮殿内の避難誘導を急ぐんだ!」
「はっ!」
「陛下もお逃げください!」
「分かっている。だが、皆を避難させるのが先だ!」
そのとき、また大きな黒い雷が宮殿の近くに落ちた。
ドガガガガン!!
激しい揺れに、アレクも思わずよろめいた。
「陛下!」
騎士がアレクの体を支える。
「くっ……ついに来たか。あの預言者の警告は本当だったのだな……」
アレクは空を見上げた。
黒雲の向こうには、敵の姿すら見えない。
だが、この攻撃を仕掛けている者がいることは間違いなかった。
◆◆◆間に合わなかった二人
そのころ、高台から宮殿へ向かっていたガルとセレスは、黒い雷が次々と落ちる光景を目の当たりにしていた。
「そんな……!」
セレスは立ち止まり、宮殿を見つめた。
「間に合わなかったのか……!」
ガルは拳を握りしめた。
「くそっ! 預言者の警告をもっと早く伝えられていれば……!」
「ガル、どうするの?」
「決まっている! 急ぐぞ!」
ガルは走りながら叫んだ。
「戦闘開始だ! 俺たちも迎え撃つ!」
「うん!」
セレスも必死に後を追った。
二人は敵の魔術師が動き出したことを確認した。
そして、宮殿に残る魔術兵士たちと合流するため、全速力で走り続けた。
◆◆◆天界の神々
その様子を、天界の神々も水晶の鏡で見守っていた。
宮殿を覆う黒雲。
次々と降り注ぐ黒い雷。
逃げ惑う人々。
アテナは険しい表情でつぶやいた。
「とうとう始まってしまったわね……」
オルフェも静かにうなずいた。
「残された三人が、ついに動いた。しかも、最初からこれほど強力な魔術を使うとは……」
フィオナは心配そうに別荘の方向を見た。
「リリアたちは大丈夫かしら……」
ゼノは水晶の鏡を見つめたまま、重々しく答えた。
「守護者たちがそばにいる。だが、これからの戦いは簡単には終わらぬだろう」
神々は、再び水晶の鏡に視線を戻した。
人間界では、ついに本格的な戦闘が始まった。
そして、別荘にいるリリアたちにも、その異変は確実に近づいていた。
王国の運命を左右する戦いが、今、幕を開けたのだった。




