第10話 宮廷医師の報告! リリア姫が守ったお母様と、第二夫人の焦り!
第十話 宮廷医師の報告! リリア姫が守ったお母様と、第二夫人の焦り!
「みりゅく、のんだらだめぇ!」
王宮の朝。
柔らかな日差しがカーテンの隙間から差し込み、小鳥たちのさえずりがリリアの部屋に響いていた。
ふかふかのベッドの上では、リリアが小さな手でお気に入りのぬいぐるみを抱きしめている。
「うー! あう!」
リリアはぬいぐるみを高く持ち上げると、ぽすん、と自分のおなかに落とした。
「きゃはっ!」
自分でやって、自分で大喜び。
その隣では、ポポが朝のおやつを頬張っていた。
「朝のおやつは最高なのだ!」
「ポポ、朝ごはんも食べたでしょう?」
ピピが呆れた顔をする。
「おやつは別腹なのだ!」
「ポポのおなかって、いくつおなかがあるの?」
「いっぱいなのだ!」
ポポは自信満々におなかをぽんぽん叩いた。
リリアはその様子を見て、声を上げて笑った。
「あはっ! ぽぽ、おっきい!」
「な、なんと! リリちゃんにおなかの大きさを褒められたのだ!」
「褒めてないと思うわよ……」
ピピがため息をつく。
いつもどおりの、のんびりした朝。
けれど、リリアの目は、ときどき部屋の隅に置かれた小さな箱へと向いていた。
その箱の中には、昨日ヴィクトリアから贈られたミルクの瓶が入っている。
リリアには、あのミルクが危険だとわかっていた。
瓶の周りにまとわりつく、いやな気配。
赤ちゃんの体では説明できない、不思議な感覚だった。
けれど、ママにはまだ、どうして危険なのか伝えられていない。
昨日は、首を振ったり、瓶を指さしたりすることしかできなかった。
もっと、ちゃんと伝えたい。
ママが間違えて飲ませてしまわないように。
リリアは、ぎゅっと両手を握った。
(まま、みりゅく、のんだら、だめぇ……)
いつもなら、心の中で思うだけ。
でも、今日は違った。
リリアはベッドから身を乗り出し、箱を指さした。
「……あうぅ!」
「リリちゃん? どうしたのだ?」
ポポが近づく。
リリアは箱を指さしながら、何度も首を横に振った。
「これぇ……だめぇ……」
「ミルクのこと?」
ピピが尋ねると、リリアは大きくうなずいた。
「うんっ! だめぇ!」
そして、小さな口を一生懸命に動かした。
「みりゅく……」
そこで、いったん言葉が止まる。
うまく言えない。
伝えたいことは、いっぱいあるのに。
リリアは眉をきゅっと寄せ、もう一度、声を振り絞った。
「みりゅく、のんだら、だめぇ!」
ポポが、ぱかんと口を開けた。
ピピも目をまんまるにする。
「い、今……!」
「リリちゃん、ちゃんとおしゃべりしたのだ!?」
リリアは、二匹の反応に驚きながらも、必死に続けた。
「わるい……!」
少し考えて、もう一度。
「わ……わらるい!」
発音は、まだたどたどしい。
けれど、リリアは諦めなかった。
「わらるい、みりゅく! のんだら、だめぇ!」
ピピは思わず、両手で口を押さえた。
「すごい……! リリちゃん、危ないって伝えようとしてるのね!」
「リリちゃん、天才なのだ!」
ポポが感動している横で、リリアはさらに箱を指さした。
「まま! まま、だめぇ!」
「うんうん! ママに伝えるのだ!」
ポポは勢いよくうなずいた。
しかし、リリアは首をぶんぶん振った。
「ぽぽ、ちがうぅ! まま、だめぇ!」
「えっ、ポポがだめなのだ!?」
「ポポじゃないわよ! ミルクをママに飲ませちゃだめってことでしょ!」
「そ、そうなのだ! 危なかったのだ!」
ポポは慌てて箱から距離を取った。
そのとき、部屋の扉が開いた。
「リリア、おはよう。いい子にしていたかしら?」
入ってきたのは、エレナだった。
リリアは母の姿を見るなり、両手をいっぱいに伸ばした。
「ままーっ!」
「まあ、リリア。今日も元気ね」
エレナが抱き上げると、リリアはその胸にぎゅっとしがみついた。
そして、箱のほうを指さしながら、一生懸命に話し始めた。
「まま! みりゅく、のんだら、だめぇ!」
「え……?」
エレナは驚いて、娘の顔を見つめた。
「リリア、今、ミルクを飲んではだめって言ったの?」
「うんっ!」
リリアは大きくうなずく。
「わるい! わらるい、みりゅく!」
エレナの表情が変わった。
リリアは、まだ赤ちゃんだ。
言葉を覚えるのは早いほうだと思っていたけれど、こんなにはっきりと、意味のある言葉を伝えようとするなんて。
しかも、ただ新しい言葉を覚えたのではない。
ミルクが危険だと、必死に知らせている。
「リリア……」
エレナは娘を抱く腕に、そっと力を込めた。
「あなた、昨日からこのミルクを嫌がっていたわね」
「うんっ! だめぇ!」
「そう……。わかったわ」
エレナはリリアの頬を優しく撫でた。
「ママは、あなたの言うことをちゃんと聞くわね」
「まま……!」
リリアは、ほっとしたように笑った。
(まま、わかってくれたぁ……!)
でも、まだ不安は消えない。
リリアはエレナの服をぎゅっと握り、何度も繰り返した。
「のんだら、だめぇ……。わらるい、みりゅく……」
「大丈夫よ。もう飲ませないわ」
エレナはミレを呼び、ミルクの箱を確認するように伝えた。
「ミレ。このミルクの件だけれど、昨日お願いした宮廷医師の検査はどうなっているかしら?」
「ただいま確認してまいります」
「お願いね。検査結果が出るまでは、誰もこのミルクを口にしないようにしてちょうだい」
「かしこまりました」
ミレは箱を慎重に扱い、部屋を出ていった。
リリアは、その背中をじっと見送った。
「あう……」
ポポが小さな声で話しかける。
「リリちゃん、ちゃんと伝えられたのだ。偉いのだ!」
「えへへ……」
ピピもリリアの手をそっと握った。
「でも、まだ検査結果が出たわけじゃないわ。先生にちゃんと調べてもらいましょうね」
「せんせぇ……」
リリアは小さくうなずいた。
発音は幼くても、言葉の意味は少しずつ伝わり始めている。
そして、リリアは誰よりも強く願っていた。
大好きなママに、何も起きませんように。
* * *
一方、天界では。
神々が水晶を通して、リリアの姿を見守っていた。
「今の言葉、聞いたか!?」
創造神ゼノが、思わず立ち上がった。
「ええ。『ミルクを飲んだらだめ』と、はっきり伝えましたね」
アテナは感心したようにうなずく。
「普通の子どもより、言葉の成長がずいぶん早いわ。発音はまだ赤ちゃんらしいけれど、伝えたいことを自分で言葉にし始めている」
フィオナは胸の前で手を組み、嬉しそうに微笑んだ。
「リリアちゃん、ママを守りたかったのね……」
オルフェは水晶の向こうを見つめながら、静かに言った。
「神力が影響している可能性もある。だが、あの子自身が必死に伝えようとしていることも確かだ」
「そうだな」
ゼノはうなずいた。
「リリアの言葉が、家族を危険から守る助けになるのなら、それは喜ばしいことだ」
そのとき、水晶の向こうでポポが胸を張った。
『ゼノ様! リリちゃんがおしゃべりできた記念に、お祝いのおやつを送ってほしいのだ!』
「なぜそうなる!?」
ゼノの怒声が、天界の神殿に響き渡った。
『おしゃべり記念には、おやつが必要なのだ!』
「必要ない!」
『じゃあ、ピピの分だけでも!』
「おまえの分も送らん!!」
フィオナは、とうとう笑い出した。
アテナは苦笑しながらも、水晶の映像を真剣に見つめ続けた。
「ゼノ様。今は、宮廷医師の報告を待ちましょう。リリアが感じ取った危険の正体を、確かめる必要があります」
「うむ。あの子が守ろうとしたものを、我々も見届けよう」
水晶の中では、リリアがエレナに抱かれながら、眠そうに目をこすっていた。
「まま……すきぃ……」
エレナは微笑み、娘の額にキスをした。
「ママも大好きよ、リリア」
小さな姫は、安心したように母の胸に頬を寄せた。
けれど、ミルクの検査結果は、まだ届いていなかった。
そして王宮のどこかでは、その報告を恐れている人物がいた。
ヴィクトリアである。
彼女はすでに、エレナが宮廷医師にミルクを調べさせていると知っていた。
今は、ただ結果を待つしかない。
だが、彼女にはひとつだけ、どうしても理解できないことがあった。
なぜ、あんなに幼いリリアが、あのミルクをあれほど嫌がったのか。
その疑問は、ヴィクトリアの胸の奥に、消えない不安として残っていた。
――そして翌朝。
宮廷医師から、ついに検査結果が届けられることになる。
◆◆◆
翌朝。
王宮の空気は、いつもより少しだけ張り詰めていた。
皇帝アレクの執務室には、第一夫人エレナと、宮廷医師が呼ばれていた。
机の上には、昨日ヴィクトリアから贈られたミルクの瓶が置かれている。
その瓶は、すでに厳重に保管されていた。
「検査結果が出たのだな?」
アレクが尋ねる。
宮廷医師は深く頭を下げた。
「はい、陛下。慎重に調べた結果、このミルクには、乳幼児に深刻な健康被害をもたらすおそれのある有害な成分が含まれていることがわかりました」
「なんだと……!」
アレクの顔から笑みが消えた。
隣に座っていたエレナも、思わず口元を押さえた。
「では……リリアが飲んでいたら……」
「危険な状態になっていた可能性があります。幸い、姫様は一口も飲んでおられません」
「よかった……本当によかったわ……」
エレナは胸に手を当て、安堵の息を吐いた。
昨日、リリアが必死に訴えてくれたことを思い出す。
『みりゅく、のんだら、だめぇ!』
『わるい! わらるい、みりゅく!』
あの小さな声がなければ、エレナは贈り物を信じて、娘にミルクを飲ませていたかもしれない。
「リリアが教えてくれたのね……」
エレナの目に涙が浮かんだ。
アレクは拳を握りしめた。
「いったい、誰がこんなことを……」
「陛下。現段階では、混入した経緯までは特定できておりません。製造元から王宮へ届くまでの過程を、詳しく調べる必要があります」
医師は慎重に続けた。
「また、検査では通常の製品とは異なる、わずかな魔力の痕跡も確認されました。ただし、それだけで誰かが意図的に混入させたと断定することはできません」
「魔力の痕跡だと?」
「はい。詳しい分析には、もう少し時間が必要です」
アレクはしばらく考えたあと、静かに命じた。
「ミルクの瓶と箱は、そのまま保管しろ。製造元、納入経路、贈り物に関わった者たちを調べるのだ。ただし、証拠がそろうまでは誰も犯人と決めつけてはならん」
「かしこまりました」
「それから、この件を不用意に広めるな。王宮を混乱させる必要はない。調査は秘密裏に進めるのだ」
「承知いたしました」
宮廷医師が退出すると、執務室は静かになった。
エレナは両手を握りしめたまま、ぽつりとつぶやいた。
「どうして、こんなことが……」
アレクは妻の肩をそっと抱いた。
「まだ何もわかっていない。だが、必ず原因を突き止める。リリアにも、おまえにも、二度と危険が及ばないようにする」
「陛下……」
「そして、リリアの言葉を信じてくれてありがとう」
エレナは驚いて顔を上げた。
「私、最初はただミルクが嫌いなのかと思いかけていたの。でも、あんなに一生懸命に伝えようとする姿を見て……この子は何かを知らせようとしているのだと感じたわ」
「それでいいのだ。小さな子どもの言葉だからと、軽く扱ってはいけない」
アレクは窓の外を見つめた。
「リリアは、私たちに危険を知らせてくれた。その小さな声を、私たちは守らなければならない」
* * *
その頃、リリアの部屋では――。
「うー! あー!」
リリアが両手をぱたぱたさせていた。
目の前には、ふわふわのポポとピピ。
そして、朝のおやつ。
「リリちゃん、今日は特別なおやつなのだ!」
ポポが小さなお皿を持ち上げる。
「特別って、何?」
「ポポが大切に取っておいたクッキーなのだ!」
「昨日も同じことを言って、全部食べてたじゃない!」
「き、昨日の分とは別なのだ!」
ポポは慌ててクッキーを背中に隠した。
リリアは目をきらきらさせた。
「くっきぃ!」
「そうなのだ! リリちゃんのために……」
「ぽぽの!」
「な、なぜわかったのだ!?」
ピピが吹き出した。
「ポポ、背中からクッキーが見えてるわよ!」
「あっ!」
リリアは、きゃっきゃっと笑った。
そんな平和なやり取りをしていたところへ、エレナが戻ってきた。
「リリア!」
「ままーっ!」
リリアは両手を伸ばした。
エレナが抱き上げると、リリアはすぐに母の頬をぺたぺた触った。
「まま、にこにこぉ?」
エレナは、はっとした。
自分が心配していることを、リリアも感じ取っているのかもしれない。
「ええ。ママは大丈夫よ」
「ほんとぉ?」
「本当よ。リリアが教えてくれたおかげで、危ないミルクを飲まずにすんだの」
エレナは娘の額にキスをした。
「ありがとうね、リリア」
リリアは、少し照れたように笑った。
「えへへ……」
そして、思い出したように、ミルクの瓶があった方向を指さした。
「みりゅく……」
「うん。お医者様が調べてくれたわ」
「わるい?」
たどたどしいながらも、リリアははっきりと尋ねた。
エレナは驚き、娘を見つめた。
昨日よりも、また少し言葉が増えている。
「ええ。リリアが心配していたとおり、飲んではいけないミルクだったのよ」
「だめぇ!」
リリアは両手で大きくバツを作った。
「みりゅく、のんだら、だめぇ!」
「そうね。もう飲まないわ」
「まま、だめぇ!」
「ええ。ママも飲まないわ。約束する」
エレナが小指を差し出すと、リリアは不思議そうにその指を見た。
「これぇ?」
「約束の指よ」
「ゆびぃ!」
リリアは小さな指を伸ばし、エレナの小指にちょこんと絡めた。
「やくしょく!」
エレナは、思わず笑った。
「まあ……もうそんな言葉まで覚えたの?」
「やくしょく! まま、すきぃ!」
「ママも大好きよ」
二人は、ぎゅっと抱き合った。
その様子を見ていたピピは、目を潤ませた。
「リリちゃん、本当に頑張ったわね……」
「ポポも感動したのだ!」
ポポは鼻をすすった。
「リリちゃんは、みんなを守る小さな姫なのだ!」
「ポポ……」
ピピが感心したように振り返る。
「たまにはいいことを言うのね」
「たまにはとは何なのだ! ポポはいつだって立派なのだ!」
そう言いながら、ポポは隠していたクッキーを口に放り込んだ。
「ぽぽ! それ、リリちゃんのおやつじゃないの!?」
「……あっ」
リリアはポポを見つめた。
そして、にこっと笑った。
「ぽぽ、だめぇ!」
「うわあああっ! リリちゃんに叱られたのだー!」
ピピの笑い声と、ポポの悲鳴が部屋中に響いた。
エレナも、久しぶりに心から笑った。
* * *
一方、王宮の別棟。
第二夫人ヴィクトリアは、侍女から宮廷医師の報告について聞いていた。
「……有害な成分が見つかったですって?」
「はい。陛下は、ミルクの製造元や納入経路を調査するよう命じられたそうです」
ヴィクトリアの顔がこわばった。
彼女は、すでに昨日の時点で、エレナが宮廷医師に検査を依頼したことを知っていた。
だからこそ、結果が出るまで落ち着かずにいたのだ。
そして今、その結果が出た。
ミルクは危険なものだった。
しかも、アレクは調査を命じている。
「……そう」
ヴィクトリアは、どうにか平静を装った。
「報告、ご苦労さま。下がっていいわ」
侍女が退室すると、ヴィクトリアは机の縁を強く握った。
彼女の頭には、リリアの姿が浮かんでいた。
小さな赤ちゃん。
まだ、まともに言葉も話せないはずの幼い姫。
それなのに、あの子はミルクを拒み、母親に何かを伝えようとしていたという。
「どうして……?」
ヴィクトリアは、唇を噛んだ。
「どうして、あの子は危険を察知できたの……?」
まだ、彼女の関与を示す証拠はない。
ミルクが危険だったことはわかったが、それだけで誰が何をしたのかはわからない。
それでも、調査が進めば、思いもよらないところから手がかりが見つかる可能性がある。
ヴィクトリアは、深呼吸を繰り返した。
「落ち着くのよ……。今は、何も知らない顔をしていればいい……」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
やがて、彼女はいつもの穏やかな笑みを作った。
誰かに会えば、いつもどおり優しく振る舞う。
エレナにも、リリアにも。
何も心配していないように。
けれど、胸の奥に生まれた不安は消えなかった。
あの小さな姫は、これからも自分の計画を邪魔するのだろうか。
ヴィクトリアは窓の外を見つめた。
「……まだ、終わったわけではないわ」
その声は、誰にも聞かれないほど小さかった。
* * *
その夜。
リリアはエレナの腕の中で、眠る準備をしていた。
ポポとピピはベッドの脇に並んで座っている。
「リリちゃん、今日はいっぱい頑張ったのだ」
「うん。もう安心して眠っていいのよ」
リリアは、眠たそうに目をこすった。
「まま……ぱぱ……」
「パパも、もうすぐ来るわよ」
「ぱぱ、くりゅ?」
「ええ。きっと来るわ」
リリアは、にこっと笑った。
「みんにゃ、だいしゅきぃ……」
エレナは娘の髪を撫でた。
「ママも、パパも、みんなリリアが大好きよ」
リリアは母の胸に顔をうずめた。
(まま、ぱぱ、まもれたぁ……。よかったぁ……)
その小さな心にあったのは、ただ大切な人たちを守りたいという願いだけだった。
まだ幼いリリアは知らない。
今回の出来事が、王宮に隠された陰謀のほんの一端にすぎないことを。
そして、いつか成長した自分が、家族と離れて天界へ帰らなければならない日が来ることも。
今はまだ、ママに抱っこされていたい。
パパと遊びたい。
ポポとピピと、おやつを食べたい。
そんな小さな願いを胸に、リリアはすやすやと眠りについた。
* * *
天界では、四柱の神々が水晶を見つめていた。
「リリアは、自分の言葉で家族を守ることができたな」
ゼノが、穏やかに言った。
「ええ。まだ発音は幼いけれど、これからもっと言葉を覚えていくでしょう」
アテナはうなずいた。
「ただ、ミルクに混入していたものや、その経緯については、まだ調査の途中です。焦って答えを出すべきではありません」
「そのとおりだ」
オルフェは静かに目を閉じた。
「今は、リリアが無事だったことを喜ぼう」
フィオナも微笑んだ。
「リリアちゃんが、これからも元気に成長できますように」
水晶の中では、リリアが寝返りを打ち、毛布をぎゅっと握っていた。
その寝顔は、とても幸せそうだった。
しかし、王宮ではまだ、ミルクの調査が続いている。
誰が危険な贈り物に関わったのか。
なぜ、あのミルクが王宮へ届けられたのか。
答えは、まだ明らかになっていなかった。
リリアの小さな言葉が救った命。
その出来事は、やがて王宮の運命を大きく変えていくことになる。




