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人獣見聞録 猿の転生Ⅸ Side-B:ルシファー・イン・ザ・ブラッディナイフ  作者: 蓑谷 春泥
第3章 フラトリサイド・ラブストーリーズ
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第22話 合体

 聳え立つ赤い鉄摩天楼を見上げて、後(のち)原(はら)羊(らむ)は白い息を吐き出した。

 旧総合電波塔・東京タワー。300年前、この日本のラジオ・テレビ電波の中心地点を成していたかつてのシンボルである。蜘蛛の巣を張り巡らせたような赤い鉄骨の城は、今は広大な柵に覆われ閉鎖されている。

「後原さん」

 地上に待機した十数名の兵の中から、のまえが後ろ手にマスクのベルトを結わえながら進み出た。「これで良いかな?」

「ああ、充分だ。最後にこいつをとりつけろ」

 のまえの顔を覆うガスマスクがしっかりと取り付けられていることを確認してから、後原は酸素ボトルを手渡した。「お前は私やここに居るICPOのエージェントと違って、肉体は一般人だ。メインデッキまで約600段続くタワーの階段を走って上り切るには装置による酸素供給の助けがいる。その脚力補助装置と一緒にな」

 のまえの膝にサポーターのように巻き付けられた装置を指さす。民間でも使用される歩行補助装置、鍛え抜かれたエージェントや後原のスピードについてくるための脚力を与える米国製の最新式である。ICPOの持ち込んだ装備の一つであった。後原は隊員たちに、向き直って檄を飛ばす。

「我々は地下の侵攻部隊と対を成して作戦を行う地上班だ! この旧電波塔は旧エデン製薬の拠点となっていた疑いで、公安による封鎖・調査が長年行われてきた。その結果ついに判明した事実として……、この電波塔は超強力な能力拡散装置として、大規模な改造を施されていた!」

 一度聞かされていた説明だが、隊員たちが改めて反応する。

「最大効果域は日本全土! 兵器と呼んで差し支えないレベルだ。幸いこの装置は未完成! 解体も協議されていたようだが、エデンの横槍の入らないこの機に完成まで持ち込み、エデンへのとどめを刺す一手と成す! 狂花帯を接続し地下全域を攻撃対象領域とする。のまえにはその為に来てもらった」

 のまえが顔を上げる。

「装置のコントロールパネルは展望デッキにある。既に設計図を基に完成までの手順は導き出されている。後はICPOの技術班による改修を残すだけだ」

 捜査員らは肯き、展望デッキへ続く階段を一斉に駆け上がり始めた。


〇


「摩天楼内部の隊員たちの信号が突然移動しました! 雪隊員が地下に、他の部隊も分断されています!」

 見の叫びに、幣原たちはディスプレイを睨んだ。摩天楼の断面図と、そこに表示される隊員たちのマークが緑に光っている。

「配置換えを強制的に行われた……。5号の空間系能力者ですか」

「隊員たちの報告によりますと、壁や床、部屋ごと移動して別の場所へ移されたそうです」

「摩天楼自体の構造……。加えて何らかの能力やろな。スライドパズルみたいに部屋の位置を動かして妨害してくる。これじゃ指令室に辿り着くどころか……」言いかけて木葉下は表情を奇妙に歪めた。

「まさか……‼」

 まるで巨大な超合金(ロボ)のように、『大本営』の街が変形し動き出した。両側面のビルが腕のように振り上げられ、粉塵と共に門前に集まった伏魔兵たちの頭上に鉄槌を下す。

 多数のカメラの映像が砂嵐に途絶えた。一撃で数百単位の隊員が蹴散らされたのである。依然として巨大な機械城は剛腕を振るっている。

「内部だけやのうて摩天楼そのものが変形……⁉ 男の子の夢過ぎるやろ……」

『技術的に、建築物のここまでの可変は不可能なはずだ。やはり能力者が絡んでいると見て間違いない。それも、ここまで広範囲に作用できる強力な贋作。やはり切り札を隠していたか……。エデン』

 地上から、ICPO長官が唸る。このままでは外の部隊が全滅させられかねない。

「大丈夫です。奥の手を温存しているのはこちらも同じ」

 幣原が片手を挙げた。「木葉下君。瓦礫は充分に溜まっています。君の出番です」

 やれやれと首を慣らしながら木葉下は立ち上がった。態度とは裏腹に表情はどこか嬉しげである。

「幣原さんも人使い荒いわ……。あれを止めろっちゅーことですね?」

「可能なら、破壊まで。できますか?」

 微笑みを残し木葉下は席を後にした。「ご心配なく。そっちの方が得意ですわ」


〇


 死屍累々、集まった15以上の小隊の屍が並ぶ中で、瓦礫の上に腰を下ろした伊舎那は、インカムの呼びかけに応じた。

「阿舎利ちゃんか。こっちは片付けたよ」

 大した骨を折った風もなく答える。「配置転換できない? おいおい、君は何のために『大本営』と融合して……。……ああ……、副局長の能力か。磁力操作で固定されてるんだ。……うん、捌光さんはどうにか……。そうか。なら良い」

 不意に途絶えた電球の明かりが、部屋を暗く静寂にさせた。

予備電源……、に、切り替わってすぐにまた消えた。伊舎那は通信を切り立ち上がる。窓の外を見る限り、このフロアだけではない。建物全域にわたって明かりが落ちている。電力系統の独立したいくつかの主要設備以外は。

 まずいな、と判断する間もなく伊舎那の頭部を轟音と共に衝撃が襲った。勢いよく折れた首で、伊舎那は180度回転した景色を捉えた。閃光と共に駆け抜けた女が、振り返る。「……と、今のでもダメか。頭飛ばすつもりで殴ったんだけどな」

 白い指先に隠した、刃こぼれしたナイフを向ける。「まあ良いや。次は刎ねる」

「ウルフギャング=エジソン……!」

ごきりと首を戻し、伊舎那が唇を歪める。10号と6号。相対した二人の『12人』の間に、火花が散って弾けた。


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