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人獣見聞録 猿の転生Ⅸ Side-B:ルシファー・イン・ザ・ブラッディナイフ  作者: 蓑谷 春泥
第2章 ノッキン・オン・ザ・ヘヴンズ・ドア
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第17話 戦隊

 摩天楼内部の第三層、奥深くまで最速で到達した雪は作戦指令室を目指した。

 作戦目標はエデンの壊滅、しかし特に重要なのはその中核メンバーを排除することだ。現行の『12人』、和喰邇凝博士、その助手にしてアンタイエデンのメンバー、ドクター・カフカ。加えて戦闘部隊(クロックワーク・オレンジ)参謀・阿舎利(あじゃり)吉留(よしる)。枢機卿を確保した今、彼らを抑えればエデン復興の目は確実に潰せる。捌光はウルフィーに任せるとして……、残りの標的を探し出して倒したい。非戦闘員で重要な人物は、作戦指令室かその周辺にいる可能性が高い。ウルフィーの情報で指令室は把握できているが、問題は……。

 塔と塔の結節部である広いホールにでる。巨大な茨が壁、天井を突き破ってゆく手を塞いだ。重力の波のようなものが横から飛んできて雪は壁に叩きつけられる。壁が炎のトラップと化して赤く燃える。

「こっから先へは進めないぜェ」

 周囲、上階の通路からわらわらとエデン兵たちがやってくる。油断なく雪を見下ろす。

「もうここまで登って来るとはなァ。やっぱ外の連中じゃ相手にならねェか、真白雪」

「……そう簡単に通らせちゃもらえないか。やっぱりいるな、伏魔殿侵攻に参加しなかった猛者たち」

 雪は煙の中から立ち上がり、服の煤を払った。ダメージの気配は見られない。赤い衣装を身に纏った女は長い舌を出してせせら笑った。

「さすがこの程度じゃ殺れねェか。だが退屈するにはまだ早いぜェ? これから全員でお前ェをもてなすんだからよォ」

 舌なめずりとともに女は手を広げた。他の敵兵も能力を発動して狙いをつける。「アタシたちは守護天戦隊エデンジャー‼ 伏魔殿侵攻時も『大本営』の守衛を任された、海土(みど)路(ろ)戦闘連隊長直選のスーパーエリートだ‼」

 名乗りと共に全員が雪に襲い掛かる。長舌が異形化した腕を振り下ろす。

「アタシたち全員が贋作殺しに特化した尖鋭型の能力使い……。テメエの視る最後の未来は、テメエ自身の死に様だァ!!!」


 〇


「真白雪……、『Q』相手に勝負になるかね、エデンジャーは」

 指令室の中央のテーブルで、机上に足をのせて手を頭の後ろに組んで座る最後のアンタイ・エデン、ドクター・カフカがパイプをふかし気味に伊舎那に尋ねた。指令室の隅には総合オペレーションを優れた手際でこなすエリザ=ケイクブレッドと、戦況を俯瞰しながら涙目で戦力配置を計算する阿舎利の姿があった。伊舎那は隔壁の作動箇所を調整するキーを叩きながら、壁一面に並ぶモニターの一つをちらりと眺めて答えた。

「まあ、足止めくらいにはなるんじゃないですか? ……5分くらいは」

「ずいぶん過小評価だねェ。彼らを調整したのはこの私だよ? 不完全とはいえ二段階改造を施した者もいる」

 ドクター・カフカは長すぎる白衣の袖でパイプを持ち上げて抗議した。エデンにおいて邇凝博士を覗き贋作手術を執刀できる唯一の博士。苦竹葎がかつて邇凝博士の右腕だったとするならば、彼女はその左腕と呼べた。なんとなれば、自身にすら狂花帯を植え付け贋作化した彼女の実験能力は、既に葎の技術を凌駕しているとすら言えるかもしれなかった。

「それにあの海土路君が本部防衛のために育てた部隊だしね。腕の一本や耳の片方くらい持ってきてくれなければ、困るよ」

「名前が終わってるんですよ、名前が。で、雪君の狂花帯の欠片はどうなってます? 真虫に心臓を削らせてまで持ち帰ったんだ。ものになっていることを願いますが」

「任せたまえ、ちゃんと培養してあるよ」モニターの一つに実験室のカメラを映してドクターが答える。

「Q・寿(コトブキ)……、12号の悪魔の力。過覚醒状態の彼の狂花帯の一部を削り取って保存することに成功した……。彼の細胞はクローン技術に適合しているからね、これがあれば量子器官の奥義・時間移動も可能になる。……もっとも、素体の体を離れた狂花帯本体だから、一度切りしか使えないけど」

「……それで十分じゃないか」

 特定のコードを入力しなければ開錠されない、指令室の隠し扉が開かれる。蒼ざめた顔でシャツに汗を滲ませた枢機卿が入ってきた。部屋に居た三人は立ち上がる。「猊下……!」

 呰部はスーツを着た青年に支えられて杖を突きながら入室した。右の足は膝より下が無く、剝ぎとられたズボンの裾できつく止血がしてあった。傍らで支える男は呰部の個人秘書で、呰部副総理としての表の顔に仕える執事兼警護でもあった。駆け寄ってこようとするエリザや伊舎那を押しとどめ指揮を続けるよう告げる。

「ご無事で何よりです、猊下。方々手を尽くして探したのですが……」

「この際救出が遅れたことは不問にしよう。カフカ博士、ここで右足の処置とバイタルの回復作業を頼む。……伊舎那、現状は?」

 慌てて部屋を出ていったカフカを見送りながら、伊舎那がモニターを操作する。

「御覧の通り伏魔殿に攻め込まれている状況です。敵兵の規模からして伏魔殿の全軍、持てる限りの全ての戦力をぶつけるつもりです。加えて米国製の装備が目立つ……」

「アメリカが手を貸したな。あるいは国連あたりか……。この状況で打って出るとは幣原さんも大したお人だ。公安を任されるだけはある」

 座に付き肘で体を支えながら枢機卿はモニターを睨む。「ウルフギャング=エジソン……、生きていたか。彼女が米国との橋渡しをしたな」

 阿舎利がモニターを向きながら、枢機卿の方をちらちらと見て伊舎那に耳打ちする。

「伊舎那くん、『猊下』って、あの人が枢機卿……?」

「ん、そういえば阿舎利さんは知らなかったか……。まあここまで来たら隠すつもりもないんだろう。あれが枢機卿の素顔だよ」

「ニュースで見たことあるんですが……」

「そうだよ。副総裁」伊舎那はけろりとして言った。「ついでに僕の父(パパ)でもある」

 理解が追い付かないという風に阿舎利は涙目をぐるぐるさせる。

「エリザ、『九州連合』の女の子たちを正面の突破口に配置。伊舎那、お前はオペレーターブロックに侵入した敵を一掃しろ。以降の指揮は私が引き継ぐ。阿舎利君は引き続きオペレーション統括と、『城内混合(キャスリング)』の準備だ」

「平気ですか。その傷を負った状態で」

「かまわない。カフカ君の処置は一級だ」

 呰部は脂汗の浮かんだ白い顔で答える。伊舎那は立ち上がり、椅子に掛けた上着を羽織った。「なら行ってきますよ。制圧に」


 〇


「お前ら、遅れんなよ!」

 並みいる敵を撲り倒して、馬飼は後続の部隊に叫んだ。摩天楼東側、外部の防御軍を突破して、馬飼たちは雪の陣に次ぐスピードで城内に突入した。内部まで食い込んだところで敵の増援部隊が階段を駆け下りてくる。

「掃射だ! 撃ち負けんな!!」

 上下に弾丸の雨がぶつかりあって閃光を散らす。馬飼は壁を蹴って駆け上がり、頭上から敵兵に打撃を加えた。『大切断(ダイ・バイ・ザ・ソード)』。馬飼の与えた衝撃が斬撃に変換され、敵軍ごと階段を墜とす。落下した敵兵たちを伏魔兵が囲い込んで殲滅する。

「っし、てめえら終わったら上ってこい!」

「無理っすよ、俺ら壁走れねえんだから」

 なにぃ? やわな奴らだな。馬飼は腰に手を当てる。

「しゃあねえ、じゃあ一本先の階段で合流だ。俺は先に……」

「壁が走れねえならよ」

 するりと冷たい音がして、馬飼の前に鉄の鎖が垂れ下がる。「これ使って上れよ」

 さらに上階からの声。馬飼は身を伏せた。回転した鎖が宙を刻む。

 そのまま鎖は頭上の支柱に巻き付く。逆の端を手に巻きつけた真虫散什郎が、哄笑と共に、振り子のように遠心力で襲い掛かった。


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