筋肉
バナナイカ王国とアイーダ国の国境に位置する『サー・カイメー』の街。
そこからほど近い森の中に勇者ルートヴィッヒと冒険者ピーチは来ていた。
『サー・カイメー』の街で知り合ったアルフレッド・カイメーの実力を見るためだ。
「見ていてくださいよ、勇者様!僕が魔獣をバッサバッサと斬り倒して勇者様のパーティーに相応しいと認めさせてあげますからね!」
「大きな怪我だけはしないでくれよ。お前の親に説明するのが面倒ください。」
「ありがとうございます!僕のことをこんなにも心配してくれるなんて、やっぱり勇者様は優しいんですね!」
ため息交じりに応えたルートヴィッヒの言葉に、さらに瞳を輝かせるアルフレッド。
そんな2人のやり取りを見て、ピーチが苦笑いする。
「アルフレッドくんって、性格は真っすぐだし、瞳はキラキラしていてまるで本物の勇者みたいなんだぞ。」
「あ~ん?誰の性格がひねくれていて、瞳が澱んでいる偽勇者だって?」
「べ、別に勇者くんが勇者らしくないとは言ってないぞ!思っているだけだぞ!」
そもそもルートヴィッヒの絡み方がすでにピーチの発言を肯定してしまっている。
しかし、ルートヴィッヒとピーチの会話を聞いて、アルフレッドは羨ましそうに呟く。
「やっぱり、パーティーのメンバーになるとそういう腹を割った会話ができるんですね。僕も早く認められたいです!」
「ふん、コイツはただのビジネスパートナーだ。」
「そうそう、お互いの利害が一致しているだけなんだぞ。」
ルートヴィッヒは、今度こそラルクという規格外のステータスを持った仲間の手を借りずに、自身の力で大魔王を倒し真の勇者になるためにピーチの持つ補助魔法が必要だった。
一方、本当は人類のステータスを司る天使であるピーチは、自身のミスによりラルクという規格外の能力を持った人間を誕生させたことで人類の文明の発展を大きく妨げてしまった責任を取り、勇者ルートヴィッヒを正しく導くことで文明史を修正するという使命があった。
「だから、仕方なく行動を共にしているのだ」と声を揃えてアルフレッド少年に訴えたのだが……。
「パートナーというだけあって息もぴったりですね!」
一層、瞳を輝かせるばかりだった。
「俺は『ビジネス』パートナーと言ったんだが。都合の悪いことは聞こえないのか、コイツ……。」
「頭の中がお花畑すぎて性格悪い奴より疲れるんだぞ。」
心の汚れてしまった大人たちには、純真な少年が眩しすぎるのだった。
がさがさがさと茂みから音がする。
「おっと、魔獣か?」
勇者ルートヴィッヒが聖剣に手を伸ばす。
「ここは僕に任せてください!」
アルフレッド少年が自分の見せ場とばかりにルートヴィッヒとピーチの前に出る。
その手には黄金色に輝く両手剣が握られている。
(そりゃ、飾り用だろ。)
無駄に装飾が施された、明らかに観賞用といった見た目の剣に勇者ルートヴィッヒはため息をつく。
(おそらく、自分の家にあるいちばん立派な剣を持ってきたつもりなんだろうが、そりゃあ戦闘用としてはナマクラだ。)
構えからして、おそらくそれなりに剣術の教育は受けているのだろう。
しかし、得物の選び方が実践では素人なことを雄弁に表していた。
「ピョーン!」
茂みから出てきたのはウサギの頭と小型のイノシシのような体を持ったマッスルラビットと呼ばれる魔獣だった。
ウサギの体が、筋肉が発達しすぎて小さなイノシシくらいの大きさになってしまったアンバランスな見た目をした不気味な生き物である。
もはやウサギ本来の可愛らしさは一切残っていないが、それでも自分がウサギであることをアピールするためか「ピョーン」と鳴く。
まあ、本物のウサギはそんな風に鳴かないのだが。
(まあ、マッスルラビットが相手なら、武器が悪くて倒せなくてもある程度の訓練を受けている人間なら死にはしないだろう。)
マッスルラビットは好戦的ではあるが、ツノや牙はない。
それなりに重量のある体で突進してくるが、鍛えている人間であれば例え直撃を受けてもいきなり致命傷に至ることはない。
ある意味では初心者が実力を測るのに最も適した魔獣と言える。
「現れたな、魔獣!勇者様の仲間として名を遺すこのアルフレッド・カイメーの伝説の第一歩として、キミの名前は永遠に語り継がれるだろう!」
「完全に自己陶酔しているんだぞ。」
「大怪我さえしなけりゃなんでもいいよ、俺は。」
呆れ顔のルートヴィッヒとピーチを尻目に、アルフレッド少年は勢いよくマッスルラビットに向かっていく。
30分後。
「な、なかなかやるじゃないか!」
アルフレッド少年はまだマッスルラビットと戦っていた。
何度かアルフレッド少年の剣が魔獣をとらえることもあったが、刃の潰れた観賞用の剣ではたんこぶを作るのが精いっぱいだった。
一方、マッスルラビットの体当たりがアルフレッド少年を吹き飛ばすことも数回あったが致命傷には至らなかった。
そんなこんなでレベルの低い、まさに泥仕合といった争いが続いていた。
「体力はなかなかあるんだぞ。」
「だが、タンクとして使えるかと言えばノーだろ。タンクは攻撃を受けながらも誰よりも冷静に状況判断しなければならない。アイツにそんな頭はない。」
「それは否定できないんだぞ。」
その泥仕合はさらに1時間後、好戦的なマッスルラビットすら戦いに飽きるまで続いたのだった。
アルフレッドはハートが強い!(スベリ倒す芸人的な意味で)




