親 その5
「勇者様、僕の見事な戦いぶりは見てくれましたよね!?」
「自分で見事っていうのはどうかと思うんだぞ」
「そもそも全く見事ではないしな。」
魔獣マッスルラビットを追い払ったことで自信を漲らせたアルフレッドの言葉に冒険者ピーチと勇者ルートヴィッヒが冷静にツッコむ。
そもそも追い払ったというよりも、1時間半に及ぶ低レベルな泥仕合にマッスルラビットが飽きて去っていったというのが正しい。
「僕の戦いぶりは何点ですか!?」
「6点。」
「6点満点で、ですか?」
「6点満点という事柄を俺は見たことがないぞ。当然、100点満点で、だ。」
「ど、どこが……。」
そこでアルフレッドの言葉が詰まる。
「どこが悪かったのか」そう尋ねられるだろうが、悪いところばかりで何から伝えればいいのかとルートヴィッヒは頭を抱えそうになる。
しかし、そんな勇者の斜め上を行く精神力の持ち主がこのアルフレッドである。
「どこが評価のポイントですか!?」
「はぁ?」
「僕のどこを見て6点くださったんですか?勇者様から見て僕の長所ってどこでした?」
「はぁ……。」
先ほどの「はぁ」は疑問、今度のはため息だ。
「この子、想像以上に手強いんだぞ。頭の中がお花畑を超えて果樹園レベルまで進化しているんだぞ。」
「年齢で言えば3歳くらいしか変わらないはずなんだが、なぜここまで話が通じないんだ。」
キラキラと瞳を輝かせて勇者からの言葉を待つアルフレッド少年の姿にルートヴィッヒは頭痛がしてくる。
「勇者様、僕の6点はどこが評価されたのですか!?」
「お前のいいところ、6点は『諦めない心』だ。うん、それだ、それしかない。お前はその諦めない心を武器にこれからも頑張ってくれ。(そう、俺の知らないところで)」
本心を言えば0点も6点もそう変わらないと思って適当につけた点数だったが、あまりにアルフレッド少年が純真な瞳で見つけてくるのでついつい評価のポイントを見つけようとした勇者ルートヴィッヒは無理矢理捻りだしてそう答えた。
「ありがとうございます!僕はこれからアルフレッド・諦めない心・カイメーと名乗ることにします!」
「さすがにやめておけ。」
「最早この子が恐いとすら思い始めたんだぞ。」
「ということで、僕は合格ってことでいいんですよね?」
「ダメに決まっているだろ。百点満点で6点しか取れなかったんだぞ。」
「でも、何点で合格とは言ってませんでしたよね?」
「さすがに諦めろよ、6点だぞ、ろ・く・て・ん!」
「諦めませんよ!だって、僕の『諦めない心』を評価してくれたのも勇者様じゃないですか!」
「ああ、もう!2分前の自分をぶん殴りてえ!」
「で、そもそもお前はなんで俺のパーティーに入りたいと思ったんだ?」
どうしてもついていくと言って聞かないアルフレッド少年に、少し話を聞いてみようと言う冒険者ピーチの言葉に従い、勇者ルートヴィッヒが質問する。
「実は、お母様のお腹には赤ん坊がいるのです。」
ルートヴィッヒは屋敷で見たアルフレッドの母、ジェーンのことを思い出す。
夫ジューゴに比べて若く見えたが、実際に若かったようだ。
そして、お腹が膨らんでいた理由は妊娠だったことも理解した。
「それはめでたいことだな。尚更、俺と魔王退治に行ってる場合じゃないだろう。」
「母は再婚して父と結ばれたんです。僕は母の連れ子でして、新しい家族には僕は不要なんです。」
「そんなことはないだろう。それともそう思うようなことが何かあったのか?」
「いいえ。父は僕のことを本当の子供のように接してくれます。ひとりで出ていくと言ったらきっと心配して許してくれません。だから、勇者様のパーティーに入ると言って、安心して送り出してほしいんです!」
勇者ルートヴィッヒは大きなため息をひとつ吐くとアルフレッド少年の方を見て言った。
「お前自身はどうなんだ。家族と離れたいと思っているのか?血の繋がっていない父を家族と思っていないのか?」
「僕は父のことは本当の父のように思っています。母の最初の結婚相手である実の父は僕が物心つく前に死んでしまい、よく知りませんし。」
「お前は、赤ん坊が生まれた時に父や母に自分が否定されることが恐くて、現実から目を逸らそうとしているだけだ。自分自身を守るために家を出る理由を作ろうとしているに過ぎない。」
(勇者くんが珍しくまともなことを言っているんだぞ。)
「お前がジューゴのことを父と思っているように、ジューゴもお前のことを本当の子供のように考えているんじゃないか。血が繋がっているから家族なんじゃない。心が繋がっているから家族なんじゃないか。」
「そう……なのかもしれません。」
「俺はお前の『諦めない心』を評価した。それを俺のパーティーに入ることに向けるんじゃなく、本当に大切な家族のために向けるべきだ。」
勇者ルートヴィッヒは優しい声でそう言うと、いつの間にか泣きじゃくっていたアルフレッド少年の頭を撫でる。
こうして、アルフレッド少年はカイメー家の屋敷に残ることとなった。
アルフレッド少年を屋敷まで送り、勇者ルートヴィッヒと冒険者ピーチの二人旅が再開した。
「ふう、なんとかあのお荷物を追い払うことができたな。」
「なんだか、家族云々の話はアルフレッドくんを追い払うための方便だったみたいな言い方だぞ。」
「当たり前だ。そうでもなけりゃあんなクサいセリフを俺が言う訳ないだろ。」
「ふ~ん、本心だと思ったんだぞ。」
「考えてみろ。お前も俺の性格はよく知っているだろ。」
「あー、確かにらしくないのかもしれないんだぞ。」
「そうだろ。」
そう言いながらも、ルートヴィッヒは血の繋がらない弟ラルクと過ごした幼少期のことを思い出していたのだった。
11月に入りましたが、我が家のアイコー(カブトムシ・オス)はまだ生きています。




