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魔素

その頃、ラルクは……


「目的地はもうすぐだ。」


メスのカブトムシのような姿の霊獣アイコー(オス)がラルクとアカシヤにそう告げる。

3人は魔界の門が現れたという場所を目指して山中を歩いていた。


「確かに濃度の高い魔素の気配を感じるな。」


「なんや、オレの二番煎じやないか。」


昨日、魔界の門とは関係のない場所で似た発言をして恥をかいたサンマに似た霊獣アカシヤがラルクにツッコミを入れる。


「いや、アタシも確かに魔素の存在を感じる。」


アイコーがラルクに同意する。

ちなみに魔素とは魔界の空気に含まれる成分で、魔族や魔獣のエネルギー源のひとつと言われている。

こちら側の世界の空気には魔素が含まらないため、魔族や魔獣は本来の力が出せないと考えられている。


「オレが魔素を感じないのに、お前らが感じられるわけないやろ。オレみたいに前菜な男おらんで……って、繊細やろ!サンマは前菜やなくてメインでお願いします!まったく、ふたりでオレを担ごう思っても引っかからんで!……って、何やアレ!?」


アカシヤが指をさした先には地面に倒れている熊の姿があった。

異常なのはその熊を数匹のリスが食らっていることだ。


「なんでリスが熊を食ってるんや!?」


「おそらく、魔素の影響だ。」


「なんやて!?」


「この程度の魔素ならアタシたちや熊みたいな大きさの動物なら影響は少ないが、リスみたいな小動物には毒なんだろう。体に溜まった魔素のせいで凶暴化しているんだ。」


そういうとアイコーは右手を前に出し、呪文のような言葉を唱える。

熊をむさぼるリスたちの背後から鋭い木の根のようなものが飛び出し、その体を貫く。

木の根に突き上げられたリスの体はしばらく痙攣したあとで動かなくなった。


「悲しいけど、山の生態系を守るのもアタシの仕事からだから。」


熊の死体は他の動物が食べるだろうとそのままにし、魔素に毒されたリスの死体だけを地中深くに埋めることにした。

穴を掘るのはラルクだ。

ステータスが常人の千倍である15万のラルクが掘ったので一瞬でかなりの深さになった。


「これだけ深ければ大丈夫だろう。燃やすことも考えたけど、このまま埋めてやろう。」


ラルクとアカシヤがゆっくりとリスの死体に土をかけている間、アイコーは祈りの言葉を繰り返していた。




そして、ついに魔界の門があったという場所に辿り着いた。


「ここがそうなのか?」


ラルクがアイコーに確認する。


「精霊たちに聞いたけど間違いないって。」


「なんや、予想はしてたけど何も残ってないんやな。」


「いや、そうでもないぞ。」


ラルクがしゃがんで足元を観察する。


「9……いや、10か?足跡が残っている。魔界から10人、この世界にやってきているらしい。」


「間違いないのか?」


アイコーがラルクに尋ねる。


「ああ。あのあたりからいきなり足跡が現れている。おそらく、あの場所に魔界の門があり、そこから出てきたからだろう。」


「この前の魔王みたいな奴らがまたこっちの世界にやってきたっちゅうことか。」


「いやですわ。あんな小物と大魔王様を一緒にしないでくださるかしら?でないと、あなたたちのこと粉々に切り刻みたくなってしまいますわ。」


「誰や!?」


アカシヤがそう叫ぶと、彼らの前の地面から大量の水が噴き出した。

空中に飛び出した500リットルほどの水が地面に降り注ぐといつの間にかそこにはひとりの女性が立っていた。

緩やかにウェーブがかかった長くて青い髪。

大きな胸とくびれたウエストを強調するような革製の面積の少ない服。

何より特徴的なのは水色の肌だ。


「なんや変な奴が現れたで!?」


「いや、待て。」


ラルクが言う。


「どう考えても見た目で言うならこっちの方が変だ。」


相手は肌が水色の露出狂。

こちらはサンマに手足が生えたバケモノと二足歩行のカブトムシ(フンコロガシ)である。

どちらがモンスターかと街頭でアンケートを取れば結果は火を見るより明らかだろう。


「だからと言って、見た目で判断するのも良くはないがな。」


自分で自分の発言を否定するとラルクはおもむろにズボンを脱ぎ出した。


「何をしとんのや!?」


「露出狂には露出狂で対抗する気か?」


アカシヤとアイコーが驚くのをよそに、ラルクは熱く語り始めた。


「俺が履いているこの派手なパンツ。パール・スメスというブランドのものだ。俺はこのカラフルなストライプ柄のパンツを初めて見たとき、自分には似合わないだろうと思った。そして、見た目が奇抜なだけで穿き心地も良くないだろうとも考えた。」


そこでぐっとためを作る。

ここからが自分の伝えたいことであると言わんばかりに。


「だが、穿いてみるとそんなイメージは一瞬で吹き飛んだ!このパンツの穿き心地は最高だ!ボクサータイプなのにまるで穿いていないと錯覚するような開放感!しかし、確かに守られていることを実感できる安心感!そんな相反する2つの特徴をこのパンツは持っているんだ!!」


ラルクはアカシヤとアイコーの目を見る。


「俺が何を言いたいか分かるか?」


「見た目だけで物事を判断するなっちゅうことやろ?」


「いや、このパンツはサイコーということだ!」


「ズコーッ!」


盛大にズッコケるサンマに似た霊獣アカシヤ。

そこに水で作られた3本の刃が降り注ぐ。


「危な!」


かろうじて2本をかわしたアカシヤ。

1本の刃は背中に刺さっている。

普段から背中の肉を切って人に振る舞っているアカシヤなので問題はない。


「いきなり何するんや!」


おそらく水色の肌をした女の仕業だろう。

アカシヤが抗議の声を上げる。


「それはこっちのセリフですわ!ワタクシのことを無視するわ、いきなりズボン脱ぎ出すわ。ワタクシを誰だと思ってていらっしゃいますの!?」


「誰なんや!?」


「ワタクシこそ大魔王様の配下にして、四将軍のひとり……水のアクアですわ。」


「水のアクアやと!?」


「頭痛で頭が痛いみたいな名前だな。」


アイコーが言う。


「豚肉をフライにした豚カツみたいな名前だな。」


ラルクが言う。


「例え下手か!」


アカシヤがツッコむ。


「大魔王様からこのリナート帝国を任されて、魔素の残るこの地に拠点を作ろうと戻ってきてみれば変な3人組がいるなんてどういうことでしょう?しかも、大魔王様からいただいた名前を馬鹿にされて……」


「ちょっと待ってくれ!」


ラルクが水のアクアに何かを必死に伝えようとする。


「変なのはアカシヤとアイコーだけだろ!俺は変じゃないはずだ!」


サンマ人間やカブトムシ人間と一緒にするなというラルクの叫び声がやまびこのようにこだました。

久しぶりに脱ぎました。

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