熟女
バナナイカ王国とアイーダ国の国境の街サー・カイメー。
大魔王討伐のためアイーダ国を抜けて東のコクバル王国に向かっていた勇者ルートヴィッヒはこの街でひとりの少年と出会う。
その少年こそ、この街の領主であるカイメー家の子息、アルフレッド・カイメーである。
アルフレッドはルートヴィッヒに「自分を勇者のパーティーに入れてくれ」と懇願。
乗り気でないルートヴィッヒはアルフレッドの両親に彼を説得してもらおうとカイメー家を訪問することになった。
「なるほど、アルフレッドが無理を申したようでご迷惑をおかけしました。」
白に近い灰色の髪をオールバックにした男性、アルフレッドの父にしてこの街の領主であるジューゴ・カイメーが勇者ルートヴィッヒに頭を下げる。
下げた頭の灰色い髪の中に黒い毛が混じっているのが見える。
彼の頭は元々黒髪だったのが、ほとんどが白髪になっているようだ。
正面を向き直したその顔は深いしわが刻まれ、穏やかな顔をさらに柔らかく見せていた。
50歳手前くらいだろうか。
アルフレッドの父にしてはおかしくはないが、少し年齢が高いようだ。
「ほら、あなたも勇者様に謝りなさい、アル!」
アルフレッドを挟むようにジューゴの反対側に座っている女性が言う。
少年の母親、ジェーン・カイメーである。
夫であるジューゴに比べるとだいぶ若いように感じる。
30代と言われても驚かないだろう。
ゆったりとした上品な服に身を包み、手足に比べお腹周りだけが少し肉付きがよく見える。
(一昔前に流行った『美魔女』という奴だな。彼女となら新しい世界が開けそうだ。)
勇者ルートヴィッヒは夫と息子を前にしながらもジェーンの魅力に舌なめずりしてしまう。
18歳のルートヴィッヒは自分の女性のストライクゾーンは年齢で言えば上はせいぜい29歳までと思っていた。
しかし、夫の容姿から想像するにその上限を軽く超えているだろう目の前の淑女はそんな彼の心をも掴んだ。
(俺って熟女もイケるのかもしれない。)
***
しかし、あえて筆者は言いたい。
『美魔女が好き=熟女好き』という方程式が成り立っていいのかと。
―――――否。
例えばブラック・ウッド・アイという60歳くらいの架空の女優がいるとしよう。
彼女は美しい。
その美貌の虜にならない男はいないだろう。
だが、その美しさは熟女としての美しさなのか。
―――――否。断じて、否である。
それは美しいものが年を重ねたというだけに過ぎない。
ダイヤモンドの輝きが永遠に失われないのと変わらない。
そして、熟女の持つ魅力とはそういう類のものではないのだ。
彼女たちが人生の中で感じてきた喜怒哀楽。
積み重ねた幸と不幸。
つまり人生そのものが作り上げたその人自身という存在から生まれる包容力こそが熟女の魅力なのではないだろうか。
『熟女は抱くものではなく、抱かれるものである。』
熟女を欲望のままに抱きたいなどと思っている時点でルートヴィッヒは紛い物である。
勇者としてはまだ見込みはあるかもしれないが、熟女好きとしては失格である。
少なくとも筆者は彼を認めないだろう。
あと、最後にこれだけは言わせていただきたい。
筆者は別に熟女好きではありません。
***
ジェーンに勇者ルートヴィッヒへの謝罪を促されたアルフレッドだが、彼の口から飛び出した言葉は母の思いとは別のものだった。
「勇者様、僕の両親を説得してください!僕は勇者様のパーティーに必要な人材だと!」
「はあ?」
勇者から思わず間抜けな声が出る。
「さあ、勇者様!僕がどれほど期待されているのか、両親に説明してやってください!」
「いやいや、俺はお前の両親にお前を諦めさせるようにお願いしにきたんだぞ。」
「えええええええ!」
「お前がそうやって驚いていることに俺は驚かされているよ。先ほどお前の前で両親にそのように説明したつもりだったんだが、聞いていなかったのか?」
「勇者様!僕の何が不満なんですか!?」
「不満も何も、パーティーに迎えられるほどお前のことよく知らないし。」
「言いましたね!?聞きましたよ!!僕の実力を知らないから許可できないと。ならば今から僕と魔獣狩りに行きましょう!ちょうど近くの森に大魔王の影響か最近、魔獣が出るようになりましてね。僕が魔獣を退治するところを見ていただいて、実力が足りないか判断してください!」
人が変わったように一気にまくし立てるアルフレッドに呆気に取られる勇者ルートヴィッヒ。
あまりの勢いに思わず頷いてしまう。
「あ、ああ。分かった。」
「すみません、勇者様。この子ったら幼い頃から夢中になると周りが全く見えなくなってしまうことがあって。」
ジェーンがお腹に手を当てて、深々と頭を下げる。
「アルフレッド、善は急げとも言うが、さすがに今から出掛けては帰りが夜になってしまう。勇者様たちには今日はここにお泊りいただいて、明日の朝から出掛けなさい。」
ジューゴの言葉にアルフレッドは渋々といった風に頷く。
(そもそも俺にとって『善』かどうかも分からんことだからな。)
余計なことばかり書くから話が進まない。




