親 その2
森のフォレストを退けた勇者ルートヴィッヒのもとに村人たちが集まってくる。
皆、思い思いに感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございました、勇者様。おかげでこの村も救われました。」
その中に村長もいたようだ。
前回の魔王討伐の旅の時にもこの村を通ったこともあり、ルートヴィッヒは村長と面識があった。
「よろしければ、今夜は私の家にお泊りください。せめてもの感謝の気持ちでございます。」
「いや、宿に泊まる。その方が何かあった時に動きやすいからな。森のフォレストと言ったが、奴の口ぶりだとまた仕掛けてくるかもしれない。それが今夜ではないという確証はないんだ。」
「おお、さすが勇者様でございます。では、せめて宿代だけでも私に出させてください。」
(ふん。この村長の家にはこいつとババアしかいないからな。若い娘でもいれば世話になるのもやぶさかではないが。)
「いちばんいいホテルのスイートを2つ、だぞ!」
「かしこまりました。すぐに手配しましょう。そういえば、今回はおふたりで?前回のメンバーとはだいぶ違うようですが?」
「ふん。あいつらは置いてきた。ハッキリいってこの闘いにはついていけない……。」
「そうですか。新しく現れた大魔王とはそれほどまでに厳しい闘いになると。」
(本当は勇者くんが見限られたんだぞ)
ボソッと冒険者ピーチが呟くが、村長の耳には届かなかったようだ。
勇者ルートヴィッヒは「余計なことを言うな」とばかりにピーチの足を踏もうとしたが、それを察した彼女に鼻毛を無詠唱魔法で燃やされて悶絶することになったのだった。
「この村で最高級と言っても、まあこの程度か。」
村長に用意させたホテルのレストランで食事を取りながら勇者がため息をつく。
美食家気取りをしているが、まだ鼻の中に毛の焼ける独特の不快な臭いが残っていて料理の味も分からない。
「私は好きだぞ。下手に特産品がない分、近隣から美味しいものを寄せ集めていてどの料理も外れがないぞ。」
「まあ、確かに場所によっては特産品を何にでもぶち込んできたりするからな。イチゴをご飯と炊いたり、吸い物にしたりする地域もあるらしい。」
「うん、お吸い物は実際にはイチゴじゃなくてウニが入ってるんだと思うぞ。」
ブルーフォレスト地域の『いちご煮』という郷土料理である。
「さっきの森のフォレストとかいう奴だけど、あれくらいなら勇者くんだけでも倒せそうだぞ。」
「そうだな。大魔王の四天王と四将軍とやらとは戦うのは2度目だが、俺の敵ではないな。」
「まあ、雑魚を倒すくらいは手伝ってあげるけど、戦いのカンを取り戻すのにも私の支援魔法なしでやってみるといいと思うぞ。」
「なんだ、俺にばかり仕事をさせるつもりか?」
「勇者くんのステータスはすでに最高値に達しているけど、戦い方の幅を広げればさらに強くなれるぞ。だから、強敵ともなるべく私の支援魔法に頼らないで戦うんだぞ。」
「そうか。俺はまだまだ強くなれるのか。大魔王より、そしてラルクより!」
(う~ん、ラルクくんは別格かな。神様よりも強いからなあ。)
自分の過ちを思い出し、冷や汗をかく冒険者ピーチこと天使モモエルであった。
「ふっふっふ。森のフォレスト!お前は俺の経験値にしてやるぜ!」
勇者ルートヴィッヒはいつになくやる気に満ち溢れていた。
翌朝。
『テスト、テスト。うん、聞こえていそうんだね。あー、僕は大魔王様の配下で四将軍のひとり森のフォレスト。ジミーナ村の皆さん、昨日はどうも。』
ジミーナ村の空に不気味な声が響いた。
ルートヴィッヒとピーチはちょうど宿を出たところでその声を聞いた。
「これは、声を遠くに届ける魔法だぞ!」
「そんな魔法があるのか。」
「魔王や魔族は声や考えを遠くに届ける魔法を得意にしている奴が多いんだぞ。」
『勇者ルートヴィッヒ、聞いているかな?』
「これって返事した方がいいのか?」
「たぶん、だぞ。」
「でも、空に向かって大声で話しかけるのって恥ずかしくないか?」
「じゃあ、ちょっと黙っているんだぞ。」
「……。」
『勇者ルートヴィッヒ、聞いているかな?』
「……。」
『あれ?おーい、勇者ルートヴィッヒ、聞いてる?』
「……」
『う~ん、聞こえてないのかな?それともまだ寝てたりするのかな?』
「……。」
『フォレストちゃん、ご飯ができたわよー!』
『ちょっと、ママ!勝手に部屋に入ってこないでって言ってるでしょ!』
『あら、息子の部屋に入るくらいいいじゃないの。朝なんだし。まあ、夜だったらこの前にみたいにフォレストちゃんがひとりでアレしてるところに出くわしちゃうかもしれないから入らないけどね。あ、大丈夫よ。誰にも言ってないから。フォレストちゃんが魔界アイドルでひとりエッ……』
『うわああああ!ジョージトコロ!!』
空にドカーンという大きな爆発音が響き渡る。
同時に遠くの森に大きな火の柱が見えた。
男たちは察した。
森のフォレストはデリカシーのない母親の犠牲になったのだと。
ジミーナ村にいた全ての男性が森のフォレストの死に心を痛めていた。
ありがとう森のフォレスト。
さようなら森のフォレスト。
ボクたちはキミのことを忘れない!
「自己犠牲自爆呪文使うくらいなら、声を届ける魔法を自分で解除できたはずだぞ?」
「お、俺のやる気はどこにぶつければ……。」
こうして、勇者ルートヴィッヒは大魔王からの2人目の刺客も見事に退けたのだった!
森のフォレストくんのママは隠したエロ本を机の上に並べるタイプの母親。
(そんな人、本当にいるのだろうか?)




