天使モモエル
勇者ルートヴィッヒと謎の冒険者ピーチは大魔王が待つ東のコクバル帝国に向かっていた。
「今日はここジミーナ村に泊まることにしよう。」
ルートヴィッヒがピーチに声をかける。
「ジミーナ村はこれといった特産品も名所もない地味な村なんだぞ。」
「誰に説明しているのか知らんが、不満ならこのまんま東に向かって、途中で野宿するか?」
「いやいや!何もない分、静かで休むには最高の環境だと思うぞ!うん、今日はここに泊まりたいぞ!」
「ふん、最初からそう言え。」
(こいつが勇者じゃなければ……私がミスったせいで歴史が大きく変わったことでのいちばんの被害者じゃなければ分子レベルまで粉々にしてやるのに!)
***
数日前の天界。
「モモエル、モモエルはいるかしら?」
生まれてくる人類の様々な事柄を管理する生命管理庁人類管理部誕生管理課にひとりの天使がやってきた。
ちょっとチャーミングな雰囲気を漂わせた小柄なオジサンのような見た目の天使だ。
彼の姿を確認した誕生管理課の天使たちが驚きの声を上げる。
「カトーティー様だ!」
「え、あの伝説の六大天使の!?初めて拝見した!!」
「生命管理庁長官がなぜこんな末端に足をお運びになられたんだ!?」
(((ってか、モモエル何をしたんだ!?)))
普通のニンゲンのオジサンのような見た目の天使カトーティー。
しかし、彼は見かけによらず天使として大きな能力と神より授けられた多くの権限を持っており、ここ生命管理庁の最高権力者だった。
「は、はい!モモエルはここにおります!」
組織的には確かに上司ではあるが、立場的にも物理的な意味でも雲の上の存在過ぎて意識したこともなかった生命管理庁長官が自分を訪ねてきたという事実に困惑しながらもモモエルが辛うじて返事をする。
「あなたがモモエルね。」
返事をした人物を確認すると、カトーティーはモモエルのところに近づいていく。
「モモエル、あなたはここに配属されて何年になるかしら?」
「18年です。」
「その18年前に、あなたはとんでもないことをしてくれちゃったのよ。自分で分かっているのかしら?」
いわゆるオネエ口調でカトーティーがモモエルを問い詰める。
「身に覚えがありませんが、何のことでしょう……?」
「まあ、身に覚えがないですって!?……いえ、そうでしょうね。身に覚えがあったら恥ずかしくてこんなところでのうのうと仕事なんてしていられないはずですもの。」
ふうとわざとらしく息を吐き、カトーティーはモモエルの失敗について説明を始める。
「18年前、ここ誕生管理課に配属されたモモエルは生まれてくる子供たちのステータスを確認する係を任された。本来なら装置が自動的に割り振ってくれるステータスだけれども、ひとりの子供のステータスをモモエルは自分で記入したのよね。それは覚えているかしら?」
「は、はい!確かに全ステータス150と記入しました。それが悪ふざけと取られたのでしょうか?」
配属されてすぐのことで、モモエルもそのことはよく覚えていた。
全てのステータスを常人の平均である150.000と割り振ったことがカトーティーには悪ふざけと取られたようだとモモエルは判断した。
(でも、そんなことでわざわざここまでやってくるなんて意外とヒマなのね、長官も。)
「ひゃ~く~ご~じゅ~う~?」
カトーティーの広がった額が真っ赤に染まり、無数の青筋が浮かび上がる。
「モモエル、あなたが150とステータスを振ったと言うラルク・モルツィンのデータを出してもらえるかしら?」
「はい、ただいま!」
言われるがままにモモエルはデータベースにアクセスし、ラルクのステータを目の前の空間に表示させる。
ラルク・モルツィン
攻撃力 150,000
耐久力 150,000
素早さ 150,000
魔 力 150,000
精神力 150,000
幸 運 150,000
「よぉ~く、ご覧なさい?なんて書いてあるぅ?」
ねちっこい口調でカトーティーがモモエルに質問する。
「ひゃくごじゅってんぜろぜろぜろ、です。」
「馬鹿おっしゃい!ちゃんと見なさいよ!ここよ、こーこ!」
カトーティーが空間に浮かび上がったラルクのステータスを表す数字の中の「,」を指さす。
「これ、小数点じゃないわよねえ?こういうのは桁区切りっていうの!」
「あっ!?」
ついにモモエルも気付いた。
自分が18年前に犯したミスに。
「ようやく気付いてくれたようね。さあ、モモエルちゃん。ここに書かれている数字をもう一度読んでちょうだい?」
「……じゅ、じゅうごまん、です。」
「そう、正解!よくできました。」
初めてつかまり立ちが出来た赤ん坊を褒める親のようにカトーティーはモモエルに笑顔を向ける。
しかし、その一瞬あとには真顔になってモモエルに詰め寄る。
「ステータス15万なんてニンゲンがいていいはずねえだろ!どう落とし前つけんだ、コラァ!?」
天使のステータスの上限が9999、神ですら99999である。
ラルクの強さは神の1.5倍ということになる。
「わ、私……どうすれば……。」
事の重大さを理解してモモエルは震えることしかできなかった。
大人しくなったモモエルを見て溜飲が下がったのか、カトーティーはまたオネエ口調に戻る。
「でも、あなたは運が良かったわね。ここ数か月の調査の結果によると、ステータス15万のラルクちゃんは、この強さを悪いことに使うつもりはなさそうなの。だから、天界が脅かされるような事態は避けられるし、私たちが彼を始末する必要もなさそうよ。」
そもそもステータス15万のラルクには天使が束なっても敵わないのだが。
モモエルもそれを聞いて安堵する。
「でもね、ひとつだけ問題が起こっちゃったの。ニンゲンの世界に現れた魔王を勇者が倒すはずだったのに、それをラルクちゃんが倒しちゃったのよね。しかも、ラルクちゃんの活躍でずいぶんと早いタイミングでね。そのせいでニンゲンが魔王を倒すために生み出すはずだった魔法や技術の一部が失われてしまったの。」
魔法や技術の創造、発展は魔法庁や文化技術庁の管轄である。
どのタイミングでどのような魔法や技術が世界に誕生するかを決めている。
「魔法庁長官のタカギヴンちゃんにね、言われちゃったのよ。『おたくのところのミスで我々の仕事が滅茶苦茶だ』ってね。ホント、豚さんみたいにブーブー、ブーブー文句を言われちゃったわよ。でも、そうよね。自分たちが長年計画してきたプロジェクトが別の部署のミスで台無しにされちゃったんだもの。」
モモエルは必死に謝ろうと思った。
しかし、謝って済む問題ではないことも理解しており、言葉を出すことが出来なかった。
(タカギヴン様のお名前まで!?それに文化技術庁のコージー様もお怒りになられているはず……)
「もちろん、コージーちゃんもお・い・か・り・や!」
「なぜ、そこだけ関西弁なんですか?」
「なんとなく、よっ!優し~い私はあなたに名誉挽回のチャンスを与えてあげる。ニンゲンの世界にはまた魔王がやってくるわ。その魔王を勇者が倒すのをあなたがサポートするの。でも、あなたが全力で戦ったらダメよ。あくまで勇者のサポートに徹しなさい。そして、勇者が魔王を倒すために必要な魔法や技術を人間界に誕生させなさい。そうすればニンゲンの世界は予定通りになるわ。」
モモエルに拒否権はなかった。
「はい、必ず目的を達成してみせます!」
***
こうして、天使モモエルは冒険者ピーチとしてニンゲンの世界にやってきたのだった。
カトーティーのしゃべり方は半〇直樹の黒〇検査官の口調を想像してもらえればOKです。




