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大きな竹

メスのカブトムシに似た霊獣アイコーの案内でラルクとアカシヤは山道を登り始めてから5時間が経っていた。

アイコーが守護する山は全部で5つあって、それらが連なって山脈を形成していた。

ラルクが以前住んでいたバナナイカ王国と隣のリナート帝国はこの山脈を国境の一部としており、行き来するには山脈を避ける必要があった。


「確かこの辺のはずだが。」


アイコーが、目的地が近いことをラルクとサンマに似た霊獣アカシヤに伝える。


「確かにこの山に入った時には感じなかった嫌な気配をビンビンに感じるでえ。」


「分かるのか?」


ステータスが高すぎて危機感が足りないのか、特に何も感じなかったラルクがアカシヤに問う。


「俺くらいの霊獣になるとこういうのには敏感になるんや。せやないと自分の守るべき場所を守れんからな。まあ、そこにいるフンコロガシの霊獣アイコーは魔界の入り口が開いたことも気付かんかったようやけどな。」


勝ち誇った顔でアイコーを見下すアカシヤ。

アイコーは怒る様子もなく、逆にニヤリと笑う。


「あ、すまない。場所を間違えたようだ。目的の場所は2つ隣の山だった。」


アイコーは自分たちが来た方向のさらに奥にある山に向かって指をさす。


「なんやと!?」


「で、アカシヤは何の気配を感じたって?魔界の門があった場所からは最初よりもだいぶ離れてしまったんだけど。」


「お、お前!わざと間違えたな!」


「なんのことかな?」


サンマに似た霊獣アカシヤの指摘のとおり、アイコーはわざと見当違いの場所にラルクたちを案内した。

アカシヤの行動を読んでのことだ。

そのためだけに、山の中を逆方向に5時間も歩いたのである。


(霊獣って……暇なんだな。)


ラルクはひとつの真実に気付いてしまったのだった。




結局、この日はその場所で野宿をすることになった。

ここから本当の目的地までは10時間かかるらしく、夜中に山の中を歩くのは夜行性の動物たちを怖がらせてしまうというアイコーの判断だった。


「それに、ラルクもニンゲンにしては体力があるようだが、さすがに疲れたんじゃないか?」


「うん?まあ、そうだな。」


実際は体力が常人の千倍ある上に肉体の強さも千倍あるため、普通のニンゲンの100万分の1しか疲れを感じないラルクには一切の疲労がなかったが、アイコーの気遣いを無駄にするのも悪いと適当に相槌を打った。

意外なことにラルクも気を遣えるらしい。


「晩飯はどないしようか?俺の自慢の肉を食べたいっちゅうなら特別に振る舞ってもええで?」


自分の背中の肉を食べさせたいサンマに似た味の霊獣アカシヤが包丁を取り出しながら言う。


「おい、そこのサンマ!ふざけたこと言ってるとシノブーを呼ぶぞ!」


アカシヤが自分の背中の肉を料理するために切り落とせば、そのあとで回復魔法を使うということだ。

回復魔法を使えば、痛みをアイコーに押し付けることになる。

なので、アイコーとしては絶対に許可することはできない。


「シノブーさん呼んじゃ、ダメダメ!」


サンマに似た霊獣アカシヤが必死に指でバツ印を作る。


「シノブー?」


ラルクにとっては初めて聞く名前だ。

アカシヤにではなく、アイコーが答える。


「大きな竹、大竹の霊獣で、そこのサンマ(に似た霊獣アカシヤ)の元妻だ。あたしと一緒にこの辺りの山や森を守っている。」


「大竹の霊獣シノブーか。」


「ラルクに俺がバツイチやってバレてしもうた。いやん、恥ずかしい!」


「別に興味がないからそんなに恥ずかしがらんでもいいぞ。」


「それはそれで傷付く!分かるかしら、この微妙な乙女心……って誰が乙女やねん!」


「アイコー、この辺で適当に食べられそうな獣を捕まえてきても問題ないか?」


「って、無視!?」


ラルクはアカシヤを無視して、虫……アイコーに質問を投げかける。


「ああ、構わないぞ。あたしはこの山の守護者だが、別に狩猟を禁止している訳ではない。過度に取り過ぎれば何かしらの対応はするが、自分で食べる分くらいなら問題ない。」


「そうか。じゃあ、火を起こして待っていてくれ。イノシシでも捕まえてくる。」


「今から火を起こしたら早すぎるだろ。この山の中で獲物を見つけて帰ってくるのに何時間かかるか。まあ、期待せずに山菜でも集めてゆっくり待ってるよ……って消えた!?」


アイコーが言い終わると同時にラルクは高速で動き出した。




それからわずか12秒後に巨大なイノシシを抱えて帰ってきたラルクを見て、アイコーは腰を抜かすのだった。

「暇を持て余した」


「霊獣たちの」


「「遊び」」

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