特訓
謎の冒険者ピーチとパーティーを組んだ勇者ルートヴィッヒ。
自称15歳の少女、ピーチがルートヴィッヒの方を向いて人差し指を立てる。
「あくまで魔王と戦うのは勇者くんなんだぞ。私は雑魚を片付けたり、支援魔法を使ったりの手伝いはするだけだぞ。」
「ああ、もちろんだ。俺の手で大魔王を倒して、今度こそ本当の勇者になるんだ。」
ルートヴィッヒの言葉には前回の魔王を倒したのが自分でないことを言外に含んでいた。
前回の魔王を倒したのがラルクであることは勇者パーティーやバナナイカ国王、黒騎士団などごく一部の者だけのはずだが、どうやらこの少女は知っているらしい。
そして、先ほどの魔法の威力。
ルートヴィッヒも目の前の少女が普通ではないことは十分に理解できていたが、そんな彼女だからこそ自分が大魔王を倒すために必要であることも分かっていた。
また、大魔王を倒し、勇者としての自信を取り戻すためにはルートヴィッヒ自身がもっと強くならなくてはならないことも。
2時間後。
「それじゃあ、落とすんだぞ!」
崖のような斜面の上から自分の身長よりも大きな丸い岩をピーチが次々に落としていく。
ゴロゴロゴロゴロ……!!
「1つ目右!次は左!そのあとは順番に右、上、左だぞ!」
ルートヴィッヒはピーチが指示した方向に転がってくる岩をかわす。
「怪我してもすぐに回復魔法で治すから問題ないぞ!(ちなみに、死んでもすぐなら生き返させられるぞ!)」
ルートヴィッヒが避けて、坂の下まで落ちた岩はピーチが見たこともない魔法で坂の上まで持ち上げて再利用する。
そのため、この特訓は全ての岩が砕けて小さくなるまで続いたのだった。
「これで俺は強くなれたのか?」
全ての岩が砕けて小石になるまで半日の間、勇者ルートヴィッヒは避け続けた。
最後の方は日が暮れてしまい、ほとんど岩が見えない中で特訓は行われた。
何度か岩にぶつかったり、押しつぶされたりして満身創痍だし、疲労も困憊だった。
そのため、地面に倒れ込み、肩で息をしている。
「う~ん、前の魔王と戦った時と同じだけのステータスにはなったと思うぞ。この半年で怠けていたからステータスが下がっていたんだぞ。」
「え、今のは大魔王に勝つための特訓じゃないのか?」
「ただのダイエットだぞ。」
「それなら岩を避けるような危険なことしなくてもよかったんじゃないか?」
「そうだぞ。私がやってみたかったからやっただけだぞ。」
勇者ルートヴィッヒは内心でイラッとしながらも、怒るだけの体力もなくただその場に突っ伏すことしかできなかった。
そのルートヴィッヒのステータスをピーチが『鑑定名人』の能力で確認する。
ルートヴィッヒ・ファン・ダイク
攻撃力 592.478
耐久力 528.552
素早さ 530.991
魔 力 544.730
精神力 571.819
幸 運 600.001
「今の勇者くんのステータスは生まれた時に決められた最高値にすでに達しているからこれ以上は強くはなれないんだぞ。」
「そうなのか!?」
自分の強さの限界がすでに来ていることを知り、ルートヴィッヒはうなだれる。
「じゃあ、俺は大魔王にも、ラルクにも勝てないのか?」
「大魔王には私の支援魔法と、秘策を使えば勇者くんなら勝てると思うぞ。」
「ふむ。」
秘策という単語も気にはなったが、まずは自分が大魔王に勝てる算段があるということに安心する。
「しかし、それでもラルクには勝てないというのか?大魔王のステータスは全て1001と言っていたらしいが。ラルクはそれ以上だというのか?」
「あ~、秘策っていうのは対魔王用のものなんだぞ!うんうん、だからラルクくんには効果がないんだぞ!」
「ちなみにラルクのステータスはどれくらいなんだ?」
「じゅ、じゅうご(ごにょごにょ)」
「さすがに15ってことはないだろ……前に『簡易鑑定』のスキルで見てもらったことがあるんだが、鑑定した瞬間に見た人の目が破裂してな。聖女の回復魔法で失明には至らなかったが、あとから聞いたらラルクのステータスは全て150だったと言っていた。」
(それ、150.000と勘違いしてるけど、実際は150,000だから!目が破裂したのはこの世界の人類が鑑定するには耐えられないステータスだったからなの!)
「ラルクが、まああり得ないが全てのステータスを10倍するスキルを持っていたとして、聖女のスキルと重ねがけすれば全ステータスが1800になる。それなら魔王と戦えたのも納得できる。実際にはステータスを10倍にするスキルなんてぶっ飛んだスキルはさすがに存在しないだろうがな。」
「うんうん、そんなスキルはないと思うぞ。(素のステータスが150,000っていう方があり得ないんだけどね。)」
「ならどうしてラルクはあれほどまでに強いんだろうな。」
「うーん、人類のステータスを決める可愛い天使ちゃんが桁を間違えちゃったのかもね、あはははは……。」
主人公、全然出てこないな。




