冒険者ピーチ
「くそっ!どいつもこいつもラルクラルク言いやがって!」
勇者ルートヴィッヒは街はずれにある大魔導士ジキルの研究所を出ると、そのまま街を離れ森の中に入っていく。
適当な木に八つ当たりをするためだ。
しかし、邪悪のみを斬り裂く聖剣では森の中の木1本斬ることはできない。
そのため、八つ当たりには予備で持っているショートソードを使う。
「ラルクのアホ!ラルクのボケ!」
子供のような悪口を言いながら大人の男が2人で抱えられるかという太さの大木に向かって剣を振るう。
「ラルクのバカ!ラルクのでべそ!」
どうしょうもない悪口を叫びつつ、ルートヴィッヒの剣が木の幹を斬って精巧なラルクの彫刻を作り上げる。
幼い頃から剣が得意で手先も器用だったルートヴィッヒは弟分であるラルクの誕生日には毎年、こうして木彫りのラルク人形を作ってやっていたのだった。
成長するにつれて木彫りのラルク人形は作られなくなっていたが、体は覚えているようだ。
自ら作り上げたラルク像の出来の良さに、一層怒りがこみ上げてくる。
「ラルク!お前はどこまで俺の邪魔をするんだ!お前が近くにいたせいで俺は勇者としての自信を持てず、苦しみ、そして仲間からも認めてもらえないんだ!!」
ラルクに対する怒りが頂点に達し、勇者ルートヴィッヒの闘気が体から溢れ出す。
この状態で剣を振れば、ただのショートソードですら簡単に大木を切断できてしまう。
なんの手応えもなくラルクの木像を斬ってしまうのはストレスの発散にはならないので、ルートヴィッヒは剣を放り投げ、拳を振りかぶる。
「告別パーンチ!」
ルートヴィッヒの右の拳が木に彫られたラルクの顔面をえぐり取る。
拳に適度な衝撃が加わり、それを通じてルートヴィッヒのストレスが押し出される。
「ふう……。」
ストレスを発散し、少しだけ落ち着きを取り戻したルートヴィッヒが木の幹から右手を抜き取る。
ミシミシ……バキバキバキッ!
大木が倒れる。
「すごいパンチだぞ!」
「誰だ!?」
勇者ルートヴィッヒは突然声をかけられたことに驚いた。
(いくら俺が冷静さを欠いていたとはいえ、接近されていることに気付かないとは。)
声の主はルートヴィッヒのすぐ隣にいた。
いつの間にここまで近づいてきていたのだろうか。
「いやあ、さすが勇者くんだぞ。全ステータス500オーバーは伊達じゃないぞ!」
声の主は少女だった。
ピンク色の髪の毛をツインテールにまとめ、身長は150センチメートルより少し高いくらい。
顔はまるで天使のように愛くるしい。
「何者だ、貴様?」
勇者ルートヴィッヒは鋭い眼光で少女を睨みつける。
「こらこら、こんな幼気な少女にガンつけたらダメだぞ!普通の女の子だったらおもらししちゃうところだぞ。もしかして、そういうのが趣味なわけじゃないよね?」
「おもらしプレイも興味がないわけではないが、俺の守備範囲は成人女性だけだ。」
「さらっと前半でヘンタイな告白してるぞ。さすがにちょっと引いたぞ?」
「お前のようなガキに興味はない。引くなり、ここから消えるなり勝手にしろ。」
(……本当は勇者くんの10倍くらい生きているのよねー。)
「うん?何か言ったか?」
「なんでもないぞ。それよりも、私のことをもっと大切に扱った方がいいぞ。例えるなら天使のように崇め奉るといいぞ。」
「なんだと?」
「私は、勇者くんのコンプレックスを解消してあげられるぞ。勇者くんが抱いている凡人く……ラルクくんへの劣等感を消し去るために、大魔王を倒すお手伝いをして、勇者くんを本当の勇者くんにしてあげるんだぞ。」
「お前のようなガキに何ができるというんだ?」
「ガキって言うけど(この世界では)15歳の立派なレディーなんだぞ。だから、勇者くんの守備範囲内だけど手を出そうとしちゃダメだぞ。性欲を抱いた時点でパパに焼き殺されちゃうぞ☆」
「俺は胸の大きさで女性を認識している。俺が貴様を成人女性と認めることはありえない。」
セクハラとかフェミニズムとかいう単語を知らない勇者ルートヴィッヒは、目の前の少女の絶壁のような胸を指さして高らかに宣言する。
(コ〇してー。この勇者とかいう生き物、コ〇してー。でも、自分のミスでこの現状を作っちゃったし、こいつと協力して大魔王を倒さないと天界に戻れないのよね。ウルウル。)
思わず本性が出そうになるのを抑え、少女は勇者に自分が何をできるか教える。
「私は勇者くんがフラれた大聖女よりも回復魔法や支援魔法が上手いんだぞ。」
「ありえん。」
「それに、大魔導士よりも強い攻撃魔法が使えるぞ。」
「寝言は寝て言え。」
「じゃあ、証拠を見せてあげるぞ。『エンジェル・ウインク』!」
少女がそう言って片目を閉じると、魔力を伴うまぶたの開閉で衝撃波が起こる。
スパッ!
「……なっ!?」
衝撃波によって勇者ルートヴィッヒの左腕が肩から切り落とされる。
「『再生』!」
しかし、痛みを感じるよりも先に切られた肩口から新しい腕が生えてくる。
「これで信じてくれたかな?」
「あ、ああ……。」
目の前の少女の目的は不明だったが、実力は本物だった。
彼女の言っているとおり、大聖女マリアンよりも回復魔法が上手く、大魔導士ジキルよりも攻撃魔法が強い。
公表していない自分のステータスや、ラルクのことを知っているという怪しさはあるが、彼女にすがるしか道はないとルートヴィッヒは理解していた。
(そうだ。この女が何を企んでいようと、どうせこのままでは破滅しかない。腕は切られたが害意はなさそうだし、信じてみるか。)
「どう、私とパーティーを組んでみる?」
「ああ、頼む。知っているかもしれないが、俺はルートヴィッヒ。ルートヴィッヒ・ファン・ダイクだ。」
「私はピーチ。冒険者ピーチ・エルだぞ。よろしくね、勇者くん。」
謎の冒険者ピーチ……彼女は何者なんだ!?(棒読み)




