菫色
大魔王を名乗る存在が人類に宣戦布告をして1ヵ月が過ぎた。
大魔王は宣言通りに前回の魔王が城を建てた場所に新しい城を作った。
バナナイカ王国やリナート帝国を含むこのデカイ大陸は、瓢箪を横にしたような形をしており、西の中央に位置する大きな国がバナナイカ王国である。
一方、東側で位置的にも政治的にも中心的な存在なのがコクバル帝国。
そのコクバル王国の中に大魔王の城はあった。
大魔王の城が完成すると、城の中から多数の魔獣が出てくるようになった。
以前の魔王の時も同じで、魔王城の中で魔獣や魔族は生まれているらしい。
凶暴だが知能の低い魔獣は成長が早く、生まれてすぐに城から出て人や動物を襲う。
知能と魔力の高い魔族は魔獣に比べると成長が遅く、人を襲うようになるまでに時間がかかるようだった。
また、魔王城以外にも彼らの拠点があり、大魔王が魔界から連れてきた幹部と呼ばれる実力者たちがそこを守っており、そこからも魔獣が生まれていた。
そのため、デカイ大陸のいたるところで魔獣が人や動物を襲い始めたのだった。
―――1ヵ月前。
魔王がバナナイカ国王に宣戦布告し、勇者が大魔王を討つために旅立った直後のこと。
「勇者ルートヴィッヒ様でございますね?」
聖女と大魔導士に協力を仰ぐため、街の間を移動していた勇者ルートヴィッヒに声をかける者がいた。
ルートヴィッヒが声の方に視線を向けるとそこには黒いフードに身を包んだ背の低い痩せた男が立っていた。
しかし、体格からは想像できないほどの威圧感を放っており、只者でないことがすぐに分かる。
フードから僅かに覗く顔は紫色に染まっており彼が人類ではないこと、つまり魔族であることを示していた。
「魔族か。」
「大魔王様を支える四天王のひとり。紫のバイオレットでございます。大魔王様はあなたを見くびっているようですが私は油断をいたしません。あなたが仲間と合流する前に、ここで殺して差し上げましょう。」
「四天王……だと?」
「冥途の土産に教えてあげましょう。青のブルー、黄色のイエロー、紫のパープル、そして私、紫のバイオレット。これが四天王でございます。」
「紫が2人いるー!?」
「そこに気付くとはさすが勇者といったところでしょうか……。ですが、あなたは私を怒らせました。死んで償いなさい!」
「なんでキレるの!?」
「菫色の奥義『君は夢か幻』!」
「知的な敵キャラ風に出てきておいて情緒不安定すぎるだろ!!」
突然、ヒステリックに叫び出したバイオレットが『君は夢か幻』と唱えると、彼の足元から無数の紫色の小さな花びらが現れる。
そして、バイオレットの体を覆い隠すようにうねりながら舞い上がる。
紫色の小さな竜巻のようである。
「ふっふっふ、この技を受けて生きていた者は105人しかいません。」
「結構いるな!」
「ただし、ニンゲンではゼロですよ。」
「……ちなみに何人中?」
「0人ですよ!……温厚な私を二度も怒らせるとはあなたも馬鹿ですね!」
「もうやだ。」
バイオレットの周りで待っていた紫の花びらが一斉に勇者ルートヴィッヒに襲いかかる。
この花びらの半数はバイオレットの幻術で生み出した幻であるが、もう半数は遅効性の毒が塗られた本物の刃である。
「まとめて吹き飛ばせ『テンペスト』!」
勇者ルートヴィッヒが聖剣を高々と掲げると聖剣から竜巻が発生し、バイオレットの紫色の竜巻とぶつかる。
『テンペスト』はルートヴィッヒが持つスキルのひとつであり、聖剣を通して発動することで天変地異レベルの威力となる。
「こ、これがニンゲンの聖剣の力か!?」
『テンペスト』は紫色の花びらを全て吹き飛ばし、そのままバイオレットを呑み込む。
聖なる風がバイオレットの体を切り刻む。
「とどめだ、『悲愴』!」
「ぐはっ!!」
どこからともなく現れた数十本の槍がバイオレットの体を貫く。
「……やはり、私は間違っていなかった。あなたは大魔王様にとって危険な存在です。早めに殺しておくべきでした。私は負けました。しかし、四天王は他に3人います。彼らの内の誰かがきっとあなたを殺すでしょう。いいですk!?」
「長い!」
最後の一言と話を聞いていた勇者ルートヴィッヒだったが、あまりの長さに思わずバイオレットを刺し殺してしまったのだった。
バイオレットの体が粉々に砕け散り、そこには紫色の魔石と呼ばれる宝石だけが残った。
魔王によって生み出された魔族や魔獣は死ぬと魔石になる。
これは魔石から魔王が魔族や魔獣を生み出しているからと言われている。
「お、久しぶりにスキル使ったら腹回りが1センチくらい細くなった気がするな。」
魔石を拾うと、上機嫌で勇者は意気揚々と歩き出す。
「俺ってつええじゃん!今度こそ俺が大魔王を倒して見せるぜ!」
バイオレットが弱かっただけという説もある。




